『deep-sea fishes in gloom』  感想

かーめるん

短編アドベンチャーゲーム、『deep-sea fishes in gloom』についての感想です。

制作サークルは言ノ葉迷宮様。制作者様のHPはこちらです。 → 言ノ葉迷宮



deep-sea fishes タイトル画面 スクショ



タイトルを訳すなら、「暗がりの深海魚たち」という感じでしょうか。

憧れの上司の付き添いでとある別荘を訪れた主人公が、ちょっとした事件に巻き込まれるお話です。


少し前に同サークル様のことを教えてもらい、フリーソフト形式の作品をすべてプレイさせていただきました。一つに手を出したら面白くて面白くて、次々にプレイしてしまった次第です。

ミステリアドベンチャーも好きなので、言ノ葉迷宮様のゲームはクリティカルヒットでした。

どの作品にも一定の論理が存在し、選択肢の積み重ねで分岐が変化したときの快感に病みつきになります。そんなの分かるわけない、とか結局どういうことだったのか、とプレイ後に思わされることはまず無かったです。よく考えることってこんなに楽しいんだなとプレイするたびに実感しました。

シナリオのドライすぎずウェットすぎず、知的で穏やかな空気感も好きです。
またSEやBGMのチョイスも素晴らしく、場面ごとの雰囲気に浸ってしまうこともしばしばでした。

とりわけ印象に残ったいくつかの作品について、今後簡単に感想を書こうと思います。


以下は、真相についてのネタバレを多分に含む感想です。ご注意ください。









ゲームの概要とあらすじ



まず、『deep-sea fishes in gloom』の概要について簡単に書きます。

『deep-sea fishes in gloom』は短編アドベンチャーです。推理要素が含まれます。1周は20~30分程度。

初回プレイ時は、「任意セーブ不可」「選択肢場面に制限時間あり」という縛りが存在します。
また、エンドを何度か迎えることで、以下の4つのお助け機能を解放できるようになります。


・任意セーブOK
・選択肢の制限時間設定を無くす
・『戻る』(一つ前の選択肢場面に戻る機能)の使用
黄色いモノ(推理ヒント)の提示*

*文章中の推理の手がかりになる箇所が黄色くなり、カーソルを合わせるとヒントコメントが表示されるようになります。



次に、あらすじについて簡単に書きます。

主人公の甲斐原と先輩の智形さんは、仕事で取引のある秦元氏に招待され、彼の別荘を訪れます。



deep-sea fishes スクショ

主人公の頼れる上司・智形さん。選択肢場面には時間制限が存在する



別荘には秦元氏の二人の娘も来ていましたが、父親である秦元氏とはなぜかぎこちない間柄の様子。

そんな中、ある事件が発生します。






ストーリーと推理面



制作者の方の作品群の中でも特に好きなゲームでした。言い回しと文章のテンポがよく、推理要素もさらっとしているようで質が高かったです。

私個人の話ですが、ミステリ要素を含むノベルゲームをプレイするとき、推理面の複雑さ・凝り具合よりも読者(プレイヤー)への見せ方の上手さに注目することが多いです。

そういう観点から見ると、この作品はとても良いなと思いました。ある視点から振り返ると、散りばめられたさり気ない描写群が一本の線となって浮き上がる構成になっています。

もっと言うと、そういったヒントとなる描写の中に、物語の核心を示唆するものが含まれていることも秀逸です。

人死にが出るような派手な展開なしに、人間心理の一面を鮮やかに切り取った話が描かれていることも素晴らしいです。

冒頭の世間話のように見えた深海魚の話の巧妙な回収といい、推理としても物語としても、一つの確固たるテーマに沿ってまとめ上げられていると感じられるつくりでした。


実際にプレイしたときの感想ですが、なかなか苦労しました。「分かる人には簡単」という説明がありましたが、悲しいことにすぐには分からなかったです。
犯人はなんとなく察しがついたのですが、証拠は曖昧、動機に至っては見当もつかないありさまでした。

黄色いモノを見ていて、「普通のハサミ」に引っ掛かったのが犯人を特定する証拠に気づいたきっかけでした。どうして「普通の」がつくんだろう、そういえば主人公にとっての「普通の」ハサミって……と。
一度気づくと、確かに全員分の「ある特徴」を確認できる場面が存在することにも思い当たりました。

それでも動機はまるで分からず、エンディング01での告白を聞いて「そういうことだったのか」としんみりした次第です。






犯人と「深海魚」について



※犯人の行動についてのネタバレを含みます。



普通に考えると、人が子供に用意したプレゼントを盗むのはアウトです。

ただ、自分なりの感傷にしたがって行動した犯人を殊更に非難する気にはなれませんでした。それが犯人にとって必要な行為であって、プレイヤーの私自身もその感傷に少なからず共感を覚えたからです。

「深海魚」が「深海」で不自由していたのか。これは答えが出ない問いだと思います。立場によって価値観は変化するものです。内部から見れば豊かでも、外部からすればそうではないと思う人もいることでしょう。

しかし「深海魚」がいて、それを気の毒に思って急激に引き上げようとしている人がいることは事実だった。
ひっそりと身を寄せ合って生きていた「深海魚」にとって、そういう存在が必要でもあった。

だったらせめて「深海」の豊かさとそこで育まれた「深海魚」の独特の精神性をよしとし、その浮上に伴う衝撃を和らげようとする人も居ていいんじゃないかな、と思いました。

少なくとも「深海魚」の片割れは、犯人のアドバイスに元気づけられた様子でした。


まあ犯人も自覚済みですが、プレゼント奪取は気休めに過ぎないんですよね。

ただ、その気休めを「深海魚」のためというより自分のためにやってしまう犯人の人間臭さはけっこう好きで、共感もできました。

もしもあそこで、「深海魚」のためにやったと告白されたら一気に白けていただろうと思います。

トイレに籠ってプレゼントを……と話す犯人の言葉は臨場感に溢れていて、そのときの複雑な感情や、もっと踏みこんでその過去を知りたいと思わされました。



*****


深海魚じゃないですが深いお話でした。血生臭い惨劇が起きなくても、これだけ人の心理を深く描けるものなのかと感動もしました。

短くまとまった心にすっと染み入る系の作品で、個人的には大好きです。


言ノ葉迷宮様の他の作品についても感想記事を書いています。

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