『AliceNightmare』(アリスナイトメア) 19世紀英国の貴族家を舞台にした恋愛SLG 感想

かーめるん

女性向け恋愛(?)SLG、『AliceNightmare』(アリスナイトメア)についての感想記事です。ネタバレを含みます。

制作サークルは.aihen様。作品の公式サイトはこちらです。 → 『AliceNightmare』



alicenightmare タイトル画面 スクショ



舞台は一九世紀の英国。伯爵家に生まれた少女、アリス・シャロット過酷な運命とその克服に焦点を当てた作品です。

全年齢対象ですが、猟奇的表現・鬱展開を含みます。


同じく.aihen様の作品である、『お茶会への招待状』は、『AliceNightmare』のあるエンディングから数十年後の物語です。『AliceNightmare』の登場人物のその後についても触れられています。

『お茶会への招待状』の感想記事も書きました。


『お茶会への招待状』 田舎育ちの女性が大都市ロンドンで暮らす恋愛SLG 感想

英国を舞台にした女性向け恋愛シミュレーションゲーム(乙女ゲーム)、『お茶会への招待状』の感想記事です。制作サークルは.aihen様。作品の公式サイトはこちらです。→ 『お茶会への招待状』田舎からロンドンへ来た女性が、亡き祖母の主催していたお茶会を通じ、都会育ちの男性たちに出会います。攻略キャラクターは、隠しキャラ一人とおまけキャラ一人を含めると7人です。『お茶会への招待状』は、同サークル様制作の『AliceNigh...




以下は、物語内容の詳細やキャラエンドについての感想です。下へ行くほど具体的なネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。



*****



この記事の内容は以下の通りです。



「キャラクター感想」には、キャラルートやエンディングのネタバレが含まれます。ご注意ください。






あらすじ



最初に『AliceNightmare』のあらすじについて説明します。ネタバレを含みます。


主人公の名は、アリス・シャロット。英国の伯爵家に生まれた、心優しく明るい性格の少女です。

しかしアリス・シャロットは、父である伯爵から「不義の子」と罵られ、夜な夜な酷い虐待を受けています。一方の母親は当の昔に狂気に囚われ、娘を見れば「悪魔の子」と叫んで錯乱する始末です。

アリス・シャロットを表立って庇うことができない伯爵家の住人(兄、執事、メイド、家庭教師その他)は、彼女の現状を憂える毎日を送っています。


ところが当のアリス・シャロットは、自分が虐待を受けていることを認識していません。

彼女にとって虐待を受けているのは双子の妹であるアリス・イヴリンであり、けして自分自身ではありません。
アリス・シャロットは父親から肉体的苦痛を受け続ける妹のアリス・イヴリンを案じ、常に心を痛めています。

もちろん、アリス・イヴリンなる人物は伯爵家に存在しません。彼女はアリス・シャロットの心の中だけに存在する、自己防衛のためのもう一つの人格です。


アリス・イヴリンが実在しないことに気づいていないのは、アリス・シャロットただ一人。いもしない妹に話しかけ、その影を追うアリス・シャロットを見るにつけ、伯爵家の住人の不安と危惧とは高まっていきます。

そしてアリス・シャロットの別人格であるアリス・イヴリンも、「アリス」が不幸のどん底にある世界に見切りをつけようとしていました。



alicenightmare スクショ1



はたしてアリス・シャロットは救われるのか。
あるいは、彼女自身が自己を救済することはできるのか。


プレイヤーの選択により、物語は12のエンディングに分岐します。






作品全体の感想



ダークかつ耽美な世界観と、ドロドロとした家庭内ドラマが楽しい作品でした。

一九世紀英国の貴族家というのは多くのプレイヤーにとって非現実的な世界でしょうが、この作品では一定のリアリティーを以て活写されています。
主人公と攻略キャラの個性の強さの釣り合いもあって、プレイ中はまるでドラマを観ているような気分で作品に没頭できました。

たしかに重苦しく閉鎖的な雰囲気は人を選ぶかもしれません。しかしシナリオ・イラスト・演出など、個々の要素の質の高さに唸らされること請け合いです。


攻略対象は男女含め5名、エンディングは全12個です。
内訳としては、トゥルーエンドが1つ、攻略キャラハッピーエンドが4つ、攻略キャラバッドエンドが5つ、正規エンドに未到達のバッドエンドが2つ。

攻略キャラ1人につき、エンドはハッピーとバッドの2つ存在します。例外は主人公の兄であるクリストファーで、彼のエンドはバッドのみです。

※アリス・イヴリンの2つのエンドについては、アリス・シャロットが眠る(主体がイヴリンに変わる)方をバッド、そうではない方をハッピーとしてカウントしました。


また、一周目でトゥルーエンドに至るのは不可能です。二周目に選択肢が追加され、特殊なフラグ立てを経てトゥルーエンドに行けるようになります。

選択肢の選び方については、公式サイトにそのものズバリの答えが掲載されています。


SLG面の不満点を挙げるとすれば、ストーリーの共通部分が長すぎることでしょうか。既読スキップがあるのでそれほど気になったわけではありませんが。

伯爵の退場がストーリー進行上必須なので、どのルートでも、ある程度本筋を追わなければならないのだろうと思います。






主人公アリス・シャロットとシナリオの構造



この項目では、主人公アリス・シャロットと、彼女がシナリオ上どういった立ち位置にあるのかを考えてみました。ちょっと長くなったので、キャラ感想を見たい方はリンクから飛んでください。


ギャルゲーでも乙女ゲーでも、恋愛SLGは、プレイヤーによって楽しみ方がかなり異なってくるものだと思います。主人公に一人称で感情移入して楽しむ人もいれば、第三者視点で主人公と攻略キャラの恋愛模様を見守るのが楽しいという人もいるでしょう。

私の場合は後者です。そしてこの作品は、第三者視点での楽しみが大きいゲームだと個人的には思います。

というのも実際にプレイしてみて、主人公アリス・シャロットの精神的or物理的な行く末を様々に掘り下げた作品であるという印象を受けたからです。主人公の個性が強いせいでしょうか。


『AliceNightmare』の面白いところは、攻略キャラよりも主人公アリス・シャロットの方に焦点を当てている点だと思います(個人的な印象です)。
もっと的確に言うのなら、この作品では「主人公アリス・シャロットとその家族の行く末」に一番のスポットライトが当てられています。

大抵の恋愛SLGでは、攻略キャラクターの掘り下げが優先して行われることが多いと思います。
多くのプレイヤーは「攻略キャラクターとの恋愛」を求めてプレイを始めるわけですから、攻略キャラの描写をどんどんと増やし、彼/彼女の個性やアピールポイントを見せていくのはごく自然なことです。

一方、主人公個人についての言及は、相対的にひかえめになることが多いと思います。「主人公の性格と容姿は平凡」というのは恋愛SLGのスタンダードではないでしょうか(もちろん、男性向け/女性向けで傾向は違います)。

これは幅広い層のプレイヤーの感情移入を促すためという理由もありますが、もっと言うと、主人公に特別の個性は必要ないからではないかと思います。

主人公に求められる役割は、まず第一に「攻略キャラの一挙一動を映すカメラ」です。
もちろんただのカメラを好きになる人はいないので、癖のない良識的な言動と、諸々の不自由な制約を無くし話を作りやすくする理由づけ(お金持ちである、特殊な血筋の人間である)などが付加されます。

しかし主人公の掘り下げの優先度が攻略対象のそれに比べて低く、したがって主人公のパーソナリティーに割かれる描写が相対的に減少することは確かだと思います。


そういう観点からアリス・シャロットを見てみると、彼女はとても平凡とは言えない主人公です。

テーマ上その精神性は複雑であり、外見もシナリオの要請により、銀髪&オッドアイという非常に特殊なものとして設定されています。

そして性格や外見が非凡なだけではなく、作中におけるアリス・シャロットは常に物語の中心にいます。
ストーリー上、「攻略キャラとの恋愛模様」ではなく、「アリス・シャロットがどうするのか」に大きな比重が置かれている……とでも言えばいいでしょうか。


ともかく『AliceNightmare』は、アリス・シャロットとキャヴェンディッシュ伯爵家の有様を描くことを第一とした作品であるというのが個人的に強く感じたことでした。

主人公の兄クリストファー、両親の伯爵夫妻、執事のアルバート……という風に、アリス・シャロットに近しいキャラほどストーリーにおける重要度が高くなるあたりも顕著だと思います。


乙女ゲームには、カウンセリングゲーと揶揄されるタイプの作品がけっこう多いイメージです。

攻略キャラが何らかの問題を抱えていて、主人公との交流によってそれが解消され、愛情が芽生える……という構図の作品ですね。攻略キャラの個性を掘り下げつつドラマを描くには、そういう構図にするのが手っ取り早いです。

ところがこの作品において誰よりもカウンセリングを必要としているのは、主人公であるアリス・シャロットです。そして攻略キャラは、基本的にアリスを心配し彼女の問題を解決してやりたいと願っています。

そのせいでしょうか。攻略キャラとの恋愛は大事な要素ではありますが、あくまでアリス・シャロットの救済の一手段という印象が強いです。


恋愛要素よりも主人公の再起に重きが置かれているという点で、『AliceNightmare』は普通の恋愛SLGとは少し毛色の違う、独特の面白さがある作品だと思います。

アリス・シャロットは個性こそ強いですが、稀に見る善良な主人公です(その善良さにもちゃんとした理由がありますが)。
そして、この上なく不幸な主人公でもあります。伯爵家の住人(両親除く)がアリス・シャロットを心底愛しているのも納得であり、まっとうに好感の持てる主人公でした。

プレイヤーが寄りそう恋愛SLGの主人公は、好感の持てる人柄であることが何より大切(というより無難)だと私は思います。一人称で楽しむにしても、第三者視点で応援するにしても、一旦主人公に嫌悪感を抱いてしまうと気持ちよくプレイできないからです。

アリス・シャロットについては、プレイ中に彼女の言動が気に障ることはなく、物語が彼女の救済を目指して進むことに対し何の異議もありませんでした。






キャラクター感想



この項目では、印象に残った攻略キャラのルート&エンディングについて感想を書きます。すべてのキャラの感想はありません。また、派生のボイスドラマは未視聴です。

ルートやエンディングのネタバレを含みます。再三の注意になりますが、ネタバレにご注意ください。

ちなみに、好きなキャラはクライドアリス・イヴリンです。

また、好きというかついつい注目してしまったのはクリストファーでした。





アリス・イヴリン


もう一人のアリスです。伯爵家という鳥籠の中に囚われたアリス・シャロット、の心の中に閉じ込められているアリス・イヴリン……という関係性。哲学めいたことを言う達観したキャラクターです。



alicenightmare スクショ イヴリン



自己防衛のための人格であるアリス・イヴリンが、終盤に強い自我を持って湿っぽいことを言い始めたのにはやや違和感を覚えました。

しかし個の人物として見るなら、アリス・イヴリンはとても魅力的なキャラクターです。

言い回しがどこか詩的なので、彼女の含みのある台詞を見るのは楽しかったです。表の人格である良い子ちゃんのアリス・シャロットを少しだけ妬みつつ、それでも惹かれずにはいられないところも人間臭くて好きでした。

二人して狂気に囚われるアリス・イヴリンエンドは、イヴリン自身も狭い世界に閉じ込められている囚人であることが浮き彫りになる結末だったと思います。「アリス」の救済のために、アリス・イヴリン自身が取れるアクションは少なかったのだろうな、と。

もう一つの「計画通り」エンドは、アリス・シャロットの人格が眠った(消えた?)こともあり、あまり好きではないエンドです。

個人的には、圧倒的光属性のクライド闇属性のアリス・イヴリンを攻略したいと思ってしまいました。楽しそう。





クリストファー・アーネスト・キャヴェンディッシュ


アリス・シャロットの兄であり、伯爵家の長男です。シナリオにおけるバッドエンド要員であり、彼に近づくほどアリス・シャロットは死と狂気に誘われるという構造になっています。



alicenightmare クリストファー スクショ



ガチ近親だとは思いもよらず、言動が不穏だな、目つき怖いな、ちょっと愛が行き過ぎではないかな、と思っていました。
一周終わってみれば、ヤンデレるのもシスコンになるのもやむなし、不幸の星の下に生まれた兄貴だということが分かりました。


このゲームで一番驚いたのは、クリストファーは(ある意味)攻略キャラではないということを知ったときでした(制作スタッフ様のコメントより)。

どういうことかというと、クリストファーにはハッピーエンドがないんですね。
他の男性キャラを攻略すると、ほぼクリストファーは亡くなります。クリストファーを攻略しようとすると、アリスが殺されるバットエンドに行き着きます(おそらく、兄貴もその後を追って命を落とします)。

八割死に、一割妹を失い、一割悲惨な家庭生活に入り、ワンチャンまともに生きているかもしれない。それがクリストファーというキャラクターです。

そもそもアリス・シャロットは不幸、クリストファーも不幸なので、二人がくっつくと不幸×不幸の泥沼一直線救いようのない相乗効果が発生してしまいます。

もっと言うと兄と妹という関係上、倫理的あるいは社会的にクリストファーが報われてはならないという問題もあります。


とはいえ、他キャラクターを攻略する横でバタバタと倒れていくクリストファーを見ていると涙を禁じ得なかったです。

父親の命を奪った以上、一定仕方がないところはあると思います。しかし大体において悪いのは親の伯爵夫妻です。散々心身をすり減らした挙句、唯一の救いであるアリスにまで捨てられる兄貴はぶっちゃけ可哀想でした。

もっとも、そういった不幸が映えるキャラなのは確かです。私の場合、このキャラもしかしてバッドエンドしかないのだろうか……と気づいた瞬間、クリストファーのことが気になったので。


年の離れた妹を女性として好きになるクリストファーはちょっと歪んでいるとは思います。他の女性キャラに告白されて、本命のアリス・シャロットにペラペラと言い訳を並べ立てるシーンは面白かったですが。

アリスの歪みアリス・イヴリンという形で表出し、クリストファーの歪み妹への恋心という形で表れたのかなと思いました。つくづく伯爵夫妻は罪深いです。





クライド・レッドフォード


ピアニストを目指す学生であり、音楽の天才です。孤児院出身ですが、伯爵に才能を認められて援助を受けています。



alicenightmare スクショ クライド



1周目になんとなく「音楽室」を選択し、そのまま攻略したキャラクターです。

クライドは、光のアリスことアリス・シャロット並に性格のいい青年です。個人的にはこのゲームの良心じゃないかと思っています。

クライドがどのくらい善良な青年かと言うと、あのアリス・イヴリンにも好かれるくらいです。

辛辣な彼女が「クライドの曲が好き」と言うからもしや……と思っていましたが、本当にある程度好いていたと後で聞かされて驚きました(二人のアリスエンド手前の選択肢で、音楽室を訪ねると話を聞けます)。アリス・イヴリンの存在を真っ向から否定しなかったのはクライドだけなので、納得と言えば納得です。

アリス・シャロットと年が近いこともあり、クライドのルートはかなりの正統派純愛物語です。プレイ中はひたすら二人を応援してしまいました。

クライドの控えめながら芯の強い性格と、アリス・シャロットへの一途な想いは、一周回って新鮮な恋する青年像だったと思います。瑞々しい二人のやり取りは、重苦しい雰囲気を一時払ってくれる清涼剤でした。


要所要所で男前かつ大人びた態度を見せるクライドですが、クリストファーとの対決シーンは特に輝いて見えました。

クライドルートでは、アリス・シャロットにクリストファーを批判させる隙を与えないのが特に印象的です。

他キャラルートでは、最後の命綱である妹に批判されて大ダメージを受けるクリストファーが気の毒でならないところがあります。話の展開上どうあがいても自殺するのに、そこまで打ちのめさなくてもいいんじゃないかなと思ってしまうので。

その点クライドは兄としてのクリストファーを立て、必要以上にやり込めることなく言葉での説得に成功します。まだ若いのに、相手の気持ちを考えてしっかりとした対応ができるクライドの株が上がりました。


エンドでは、ちょっと擦れて暗い大人になったアリスのもとに迷わず帰ってきたクライドにほっとしました。ある意味でアリス・イヴリン要素の強いアリス・シャロットと結ばれたとも言えるのでしょうか。

また、おまけスチルの幸福感には思わず笑顔になりました。


アルバートとオスカーも素敵なキャラですが、少ししっくりこなかったので感想は省きます。



*****


世界の狭さと、それによる人間関係の濃さや重苦しい閉塞感が印象に残った作品でした。「鳥籠の鳥の話」という作品のキーワードから考えても、この閉鎖的な雰囲気は意図してのものなのだろうと思います。

もともと一つの家庭を舞台に展開する作品なので、物語世界の範囲は限定されます。ただ、作品世界の広さによって、その作品の豊かさや面白さが決定されるわけではありません。

『AliceNightmare』は、濃密な人間関係と複雑な人間心理を深く掘り下げた、とても面白い作品でした。


※『AliceNightmare』の後日譚にあたる、『お茶会への招待状』の感想記事も書いています。

関連記事:『お茶会への招待状』 田舎育ちの女性が大都市ロンドンで暮らす恋愛SLG 感想(舞台は20世紀初頭の英国。地方の大農園で育った女性が、亡き祖母の主催したお茶会を通じ、都会の男性たちと知り合う恋愛ゲーム)



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