『テオとセァラ』 「選択をやり直せない」ノベルゲーム 感想 考察 攻略

かーめるん

短編ノベルゲーム、『テオとセァラ』の感想、考察記事です。

制作サークルは言ノ葉迷宮様。制作サークル様のHPはこちらです。 → 言ノ葉迷宮

テオとセァラ スクショ 村娘セァラ

選択肢あり、プレイ時間は20分~30分。大人になってしまった青年が、もう戻れない少年時代を回想するお話です。

「選択のやり直しができない」というシステム上の制限が、隙のない形で実現されているゲームでした。

絶対に取り戻せないからこそ、過去の思い出はいっそう美しく、また心をかき乱します。エピローグを迎えた後、冒頭の主人公の語りが確かな意味を持って胸に迫ってくる作品でした。

言ノ葉迷宮様の作品の中でも、ひねりの効いた作品だと思います。所要プレイ時間こそ短いですが、一風変わったゲーム体験ができること請け合いです。

以下はゲーム内容についての詳細な感想です。未見の方はネタバレにご注意ください。

『テオとセァラの特異性』

『テオとセァラ』は、ごく明快なストーリーラインを持つ作品です。

貴族の嫡子である主人公テオが田舎に下り、村娘セァラと出会って友情を得るが、やがてつらい選択を迫られることになる。ざっくり説明するなら、そういうお話です。

このゲームの特異なところは先述した通り、「後戻りできない」ことにあると思います。物語的な意味ではなく、文字通りシステム的にやり直しができないゲームなのです。

※実は、ゲームをやり直す方法は一応存在します。しかしおおっぴらに言うべきことでもないので、記事の下に書きました(ゲームを「やり直す」方法)。

言ノ葉迷宮様の作品には、選択肢のトライアンドエラー分岐の積み重ねを楽しむものが多いです。『deep-sea fishes in gloom』などの推理モノは前者、『かげろうは涼風にゆれて』や『world rewinder』といった作品は後者の要素が強いと思います。

≪関連記事:『deep-sea fishes in gloom』 感想『かげろうは涼風にゆれて』 感想

そんな中、この『テオとセァラ』は異彩を放っています。というのもこの作品は、「選択をやり直せない」ゲームだからです。

テオとセァラ スクショ 選択肢

ゲーム中には選択肢がいくつか提示される場面があります。そこで1つの選択肢を選ぶと、他の選択肢を選ぶことは不可能になります。
最後の大きな分岐となる選択肢でさえも、どちらか1つを選べばもう1つを選んだ際の結果は見ることができません。そのままゲームは「終」わり、画面は暗転します。

リセット機能はなく、「最初から」という項目ももちろん存在しません。つまり、初見プレイで選んだ選択肢がすべてを決定するのです。

では、やり直しできないことに気づいたプレイヤーは何をするか。おそらく、ゲームフォルダ内のセーブデータ(save.dat)を消し、再度起動してやり直そうとするのではないでしょうか。実際私もセーブデータを消去し、もう一度ゲームを起動しました。

しかしプレイヤーの次の行動を見越したかのように、ゲームを再起動すると今度は「エピローグ」が始まります。

冒頭においても暗示されていましたが、この物語は主人公テオの回想です。つまり、『テオとセァラ』の本編は、すでに終わってしまった過去の物語なのです。選択を下すたびその一つ一つは過去の事実として固定され、覆すことは不可能になります。

すべては過去の思い出、やり直すことはできない。そのことがあらためて強調された上で、物語は完全に終「了」してしまいます。もう一度起動しても画面は暗転したままです。

後戻りができないということ

最初に提示される「終」は、「えっ、そこで終わるの?」と言いたくなる、モヤモヤとした気持ちになる結末です。だからこそプレイヤーは、ゲームをやり直そうとセーブデータを消してみたりする。

ところが制作者様はそこのところを織り込み済みで、プレイヤーに対して「やり直すことはできないよ」と「了」の結末を提示するんですよね。

それはある意味「終」以上にモヤモヤの晴れない悲しい結末で、プレイヤーは「もしかして、もう一つの選択肢を選んでいれば、こんなことには……」と思わざるを得ません。選択肢をやり直したいという欲求は更に強まりますが、やはり後戻りすることもリセットすることもできないのです。

セーブ&ロードが手軽にできる一般的なADVでは、選択の一つでキャラを死なせてしまったとして、深刻な罪悪感を覚えることはないと思います。なぜなら、簡単にやり直せるからです。そのキャラが死ぬ未来を、二、三の操作と少しの試行でなかったことにできるからです(まれにどうあがいても死を避けられないゲームはありますが)。

しかし、『テオとセァラ』はプレイヤーに逃げを許しません。あえて大きなことを言うなら、テオに寄り添ってプレイした場合、その選択は現実世界での選択に限りなく似通ってくると思います。結果として、プレイ後に込み上げる感情は生々しく苦しいものになるのです。

まさにプレイヤーの思考の先を読み切った、見事なゲーム構成だと思います。

プレイ時の選択について

以下は、実際にプレイしたときの感想です。エンディングの詳細なネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

実際にプレイしたとき、私は「セァラを信じる」選択肢を選びました。異性の友達ができてはしゃいでいるテオがとても楽しげで、彼にセァラを裏切らせたくなかったからです。

しかし、結果としてテオの親父は殺されます。その上大人になったテオは、領主としてセァラを処分せざるを得ない状況にあるらしいことがエピローグで語られました。

エピローグを読み終えたあとの感情は異様なものでした。胸の奥をかきむしられるような感覚とでも言えばいいのでしょうか。もともとのめり込みやすい性質ではありますが、それにしたって自分でも首を傾げるほど動揺していました。

居ても立っても居られず、どうにかしてもう一つの選択肢を見る方法はないものかと調べました。結果、もう一つの選択肢(セァラを信じない場合)の結末を見ることができました。しかし不思議なことに、あの異様なほどの感情の高ぶりは、その時点で消え失せていたのです。

選択肢を間違えたのか。それとも別の道を選べばよかったのか。絶望焦燥を味わったあの瞬間、私は制作者様の思惑通り、このゲームを最高に楽しんでいたのだと思います。

セァラの正体

セァラは九割がた敵のスパイなのでしょう。時たま挿入される謎の会話はおそらく、テオ自身も認識していない夢見の力ではないかと思いました。夢を見ない体質のせいで認識できなかったのか、目覚めると内容を忘れてしまう制限付きだったのかはわかりませんが。

もちろんあの会話がまったくのミスリードだという可能性はあります。あの会話はテオの夢見の力とは関係なく、指令を受けているのはセァラではないのかもしれません。

しかしチェーホフの銃ではないですが、意味深に夢見の力の詳細テオの祖母とオリバーの過去を描写しておいて、ストーリーに関係しないということはないでしょう。そしてテオが夢見の力を使用した場合、その対象になり得たのは友人になったセァラくらいだと思います。

最後の選択の意味

プレイ後、セァラを信じた方がよかったのか、信じない方がよかったのかと少し考えました。

テオとセァラ スクショ セァラを助けるか

結論は出ませんでしたが、「けして戻れない過去を懐かしむ」というテーマは、「セァラを信じた」場合により際立つのではないかと思いました。

セァラを信じない場合もやはり打ちひしがれた様子の彼女に深い罪悪感を覚えることになります。もしかして勘違いだったのだろうか、セァラを信じた方がよかったのだろうか、と。

しかしセァラを信じた場合、その選択は過去の出来事として終わらずに現在までテオを悩ませ続けることになるんですよね。だから、セァラを信じた場合の方が、より心を抉られる結末になっている気がしました。

セァラを見捨てる(セァラを信じない)という選択肢は、そのまま楽しく平穏な子供時代に見切りをつけることとイコールでした。しかし、セァラを信じた場合のテオは、子供時代を切り捨てることができなかったのです。

その結果、大人になったテオは今再び、セァラとの関係に蹴りをつけなければいけない状況に置かれています。しかもあの頃とは違い、より確実に彼女を自身の人生から排除しなければいけない状況に、です。

あのとき見捨ててさえいれば、とテオは何度か思ったのではないでしょうか。むろん、後悔は避けられないでしょう。しかしセァラを見捨てるという非情な決断をしていれば、現在に至るまで彼女への疑念を引きずることはなく、自ら友に手をかけねばならない状況に追い込まれることはなかったはずです。

テオは大人になり、傍に居続けてくれるセァラを信じられなくなりました。セァラの存在を過去の後悔にくくれないからこそ、「無邪気に笑い合えたあの頃には戻れない」という苦しみが際立つ結末だったと思います。

セァラは、「もう戻れないあの頃」の象徴なのだろうと思います。どちらの選択肢を選んだとしても、責任ある立場の人間であるテオは、いずれセァラを切り捨てなければならないのでしょう。ようは早いか遅いかの問題です。

ゲームを「やり直す」方法

PC内を「theo_and_sarah_save」で検索。該当フォルダ内の「雑記」を読むと、ゲームをやり直し、もう一つの選択肢の先を見る方法が分かります。

ただし、そこからは消化試合であり、現在が面白さのピークだろうと制作者様はコメントされています。

*****

『テオとセァラ』は、ADVの様式を逆手にとった面白い作品だと思います。いまだにプレイ時の感情を鮮明に思い出せる、思い入れの深いゲームです。

言ノ葉迷宮様の他の作品についても感想記事を書いています。


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