『ダージュの調律』 感想

かーめるん

アンチヒロイック・ポエトリーRPG、『ダージュの調律』についての感想、思い出です。

制作者はローゼンクロイツ ◆Mvhdw.2dlc様。作品の紹介ページはこちらです。 → 『ダージュの調律』



ダージュの旋律 タイトル画面 スクショ



内気な少年ダージュの、「苦悩と足掻きと希望の軌跡」を描いた作品です。


ツールはツクール2000。ツール本体が同梱されていないので、他のフリゲ等からゲームフォルダ内にコピーして起動する必要があります。

クリアまでの所要時間は4~5時間ほど。コンプまでは5時間半かかりました。


『ダージュの調律』というタイトル通り、主人公の適性を「調律」し、幅広い戦略を楽しむことができます。

短編ですがストーリー面戦闘面ともに素晴らしく、非常に面白いRPGです。
プレイ当時はあまりに面白くて一気に最後まで進んでしまいました。

フォントの粗さを見て「そういえばツクール2000作品だった」と我に帰るくらいに、随所に創意工夫が凝らされたセンスの良い作品だと思います。


以下は、物語内容のネタバレや攻略情報を含む感想です。未見の方はご注意ください。



*****



この記事の内容は以下の通りです。








あらすじ



最初に、『ダージュの調律』のあらすじについて簡単に説明します。


主人公は、ダージュdirge:「葬送歌」)という名の内気な少年です。銀鉱山の経営者の長男ですが、これといった取り柄もなく本の虫になって書庫に閉じこもっています。

友達は元野生動物のペット、エレジットelegy:「哀歌」)だけです。

ダージュの鬱屈の大きな原因は一歳下の弟、セインツsaint:「殉教者」)の存在でした。

セインツは剣の達人であり、誰からも好かれる魅力的な少年です。
ダージュは才能溢れるセインツに引け目を感じ、近頃はセインツを避けてばかりいます。


平凡な人間がどれほど足掻こうと、天才は涼しい顔でその先を行き、世界は知らぬ顔で進み続けます。

では、苦悩と足掻きの果てにダージュが見つける希望とは何なのか……といったあたりが、ストーリーの見どころです。






ユニークな「調律」と戦闘システム



この項目では、作品の特色である「調律」システムを中心に、戦闘システムやその他の独自要素について書こうと思います。

戦闘面の特徴は、大きく分けて2つあります。




「調律」について


「調律」はタイトル名に使われていることからもわかるように、このゲームでもっともユニークかつ重要なシステムです。

このゲームには、「ギフト」と呼ばれる成長ポイントが存在します。

調律を行うことによって、このギフトを【体力】【知力】【敏捷】のいずれかに割り振り、主人公を自由に強化することができるのです。



ダージュ ギフト割り振り スクショ

お洒落なメニュー画面。左中央のPOWは体力、EXTは知力、SPDは敏捷



育成の自由度が高いゲームでは、ポイントを好きな能力に割り振って強化するというシステムは珍しくありません。

しかしこのゲームのユニークさは、敵や状況に応じてポイントの割り振りをいつでも変更できるという点にあります。

たとえば魔法耐性の高い敵が出てきた場合は、直前にギフトを組み直し、主人公をPOW特化の剣士にすればいいのです。

いわば好きな時に好きなジョブに転職できるようなもので、育成の自由度が高いというよりは、戦略性が高いと言うべきかもしれません。

いかに臨機応変に敵に合わせてギフトを割り振れるかどうかが攻略の鍵を握っています。

ギフトはストーリーを進めることで手に入る他、各エリアのサブイベントをこなしたり買い物をすることでも入手できます。




魔法スキルと装飾品


次にもう一つの特徴を挙げます。

それは、主人公の魔法スキルがほぼ完全に装飾品に左右されることです。

装備品には、以下の3種類が存在します。

「得物」:特殊スキルに関係する
「石」:耐性を備える
「装飾品」:魔法スキルを秘める

この中でもっとも重要なものが装飾品です。

装飾品は、「腕輪」「ボタン」の2つに大別されます。


装飾品にはそれぞれ最大3つの魔法が備わっています。
主人公を含む人間は、装飾品からインスピレーションを受けることでその魔法を使うことができます(ちなみにこの原理には裏設定があります)。

長く特定の装飾品を身につけていれば魔法スキルが習得できるわけでもなく、魔法スキルの構成は、ただ装飾品の組合せによって決定されます。



ダージュ 装飾品 スクショ

衝撃魔法特化のボタン、属性魔法のボタン、補助効果のボタンなど



このゲームは魔法による状態異常が攻略の要となることが多いです。
主人公ダージュ自身も魔術師タイプであるため、知力特化の魔術師として運用することを一定推奨されている感があります。

よって戦闘する上では、装飾品の構成はギフトの割り振り方に次いで臨機応変に考える必要のある項目です。
攻撃魔法特化の魔術師にするもよし、仲間がいる場合は回復魔法とバフ魔法を扱う補助役に回るのもいいと思います。

装飾品ありきで魔法スキルの構成が決まる分、方向性を見失うことなくより的確な強化ができ、制限の下戦略を練って切り抜ける楽しみも味わえるのは大きな魅力と言えるでしょう。




戦略性と自由度、戦闘の楽しさ



以上2つの特徴が、この作品の戦略性と自由度を高めているユニークな要素です。

その独自要素をプレイヤーに楽しんでもらうためでしょうか。
ギフトとスキルの切替えが必要になる場面が多く用意されていたことは印象的でした。

初期装備品が産廃になるといったRPGにありがちなこともなく、終盤になって初期装備固有のスキルが必要になるなど隅々まで工夫が凝らされているなあと感じました。

特に事前にルールを説明された上で挑むことができる特殊ボス戦は、戦略を考えるという点において一番楽しかったです。

ギフトを調整し装備品をあれこれといじった上で見事勝利したときなどは、他のRPGで漫然と強い装備で倒した場合とは達成感や喜びが段違いでした。


ツクール2000のコマンド制ターンバトルをこんなにも楽しめたのは久々でした。

ありきたりではないゲーム独自の要素が存在し、そのわかりやすさと独創性によって、戦闘を面白いものにすることに成功していると思います。

RPGの戦闘で「あーこれ楽しい」と純粋に思えるゲームはそう多くないですが、『ダージュの調律』は文句ナシに「戦闘が楽しい」と言える作品でした。






ストーリーとキャラクター



RPGと言えば、やはりストーリーの面白さが欠かせない要素ではないかと思います。

『ダージュの調律』はその点も抜かりない作品でした。




才能なき者の苦悩と希望


制作者様の説明通り、この作品は「無才能者の苦悩と足掻きと希望」を描くものです。

特徴的なのは、主人公の内省が多く差しはさまれることでしょう。

周囲の人々の物言いが下劣だからこそ、ダージュの詩情に満ちた情感豊かな語り口がことさらに際立っていました。

テーマ上、主人公が周囲に称賛されたり特別な力を得たりといった華々しい展開はありません。
ままならない非情な世界をじっと見据えながら話は展開します。


簡潔に言えば、この作品は主人公がままならない現実を認め、自分自身を認めてあげるまでの物語です。
つまりは、ダージュが現実に折り合いを付けて自分の居場所を見つけるまでのお話と言えます。

だからこそ作品のラスボスを務めるのは、現実に存在するケモノである巨熊なのです。


平凡なダージュにとっての「ままならない非情な世界」を象徴するのは、弟のセインツです。

1歳下のセインツは才能と魅力に溢れた非凡な人間であり、そのことが余計にダージュを卑屈にしました。

たとえばダージュとその相棒が必死になって倒した魔物を、セインツは短時間で何匹も仕留めて涼しい顔をします。

もちろんセインツにはダージュを貶めようとする意図はありません。しかしそのことによって尚更、「凡人と天才の差」がくっきりと浮き彫りになるのです。



ダージュ セインツ スクショ

右端がダージュとエレジット、中央がセインツ。残酷な実力差



凡人がどれだけ足掻こうと卑屈になろうと、天才、ひいては世界はどこ吹く風で我が道を行きます。

だからこそ、終盤にダージュがセインツを受け入れることは、そのまま彼が自分を見つめ前に歩き出すことに繋がりました。

セインツのような天才にはなれない。
そして世界は誰かがどんな悲劇に見舞われようとも知らん顔で進んでいく。

ダージュにできるのは何かを諦めつつ、それでも自分が納得できる生き方を求めて足掻くことだけでした。

平凡な人間にはそれしかできません。しかし逆に言えば、それさえできれば自分なりの歩調で前へと歩き始めるのには充分だったのです。

自分を救って命を落としたセインツの仇を討つと決めたとき、ダージュは世界に居場所を得る資格を得たのだと思います。




背景設定や演出など


その他、物語上の役割を考えつつキャラが配置されていることがとても印象的でした。

セインツだけでなく、ダージュにとってのエレジットやオラクルにもきちんと役割を見出せます(エレジットは大人になる上での避けられない別れの象徴、オラクルはつらくとも現実を生きるしかないと諭す夢の案内人)。

また、世界全体の姿についても裏設定があり、作中の描写と合わせて考えると腑に落ちる部分が多かったです。
章仕立てでテンポよく進むので意識されませんが、全体の構成から細かい部分の整合性まできちんと練られている作品だと思います。


ストーリー中特に印象に残ったのは、セインツの日記を読んだダージュが無言ではらはらと落涙する場面と、セインツの敵討ちに向かう途中にダージュが朝日に輝く山岳を眺めて物思いに耽る場面でした。

叙情的で心揺さぶる演出がとにかく巧く、ハッと胸を突かれることが多かったです。


もっとも、セインツは最初からいい奴オーラが出過ぎだった気がします。
いざ対面しても物分かりが良すぎて1歳下の弟らしさはなかったです。

セインツもダージュに思うところはあったでしょうから、「馬鹿だなぁ、兄貴は」くらい面と向かって言ってくれるとスッキリしたかもしれません。

また、レクイムについてももう少し踏みこんだ描写が欲しかったところです。
たとえば夜会で誰を殺したのかを語ってくれていたら、もう少し感情移入できたかもしれません。


あとこれは不満ではないですが、モブキャラの口汚さと下品さに最初はびっくりしました。
物語世界のナジル川流域はならず者が多い無法地帯らしいと知って納得しましたが、毒が強いことに変わりはなく。

エログロお下劣な台詞が炸裂する一方、ダージュのモノローグはいつも詩的で美しいからギャップに戸惑いました。最終的にはそのアンバランスさがクセになりましたが。


分量としてはさほど長くないのにとても充実した内容でした。起承転結がきっちりとしていて、緩急の付け方や演出が上手いせいでしょうか。

メッセージ性の強い、諦念希望の交錯する印象的なストーリーだと思います。






グラフィック



ドットの美しさと可愛らしさに見入りました。
ちょっとした小物のつくりもユニークで、動きも細かく見ていて飽きませんでした。



ダージュ マップ スクショ



人間等をとして表し、ワンクッション置いて描写をまろやかにしようという発想が秀逸だと思います。

また、魔物やオブジェクトのデザインもぐっとくるものが多かったです。
たとえば銀鉱石のドットデザインは初見ですごいと思うばかりでした(実はあのUFO型に意味があるのも面白い)。

マップについてはコンパクトかつ様々な仕掛けが用意されたセンスの良いものばかりで、歩き回るのが楽しかったです。




*****



その他、ギフトや空き瓶、装備品など収集要素が充実しているのも嬉しい要素でした。

各章を更にチャプターで区切り、見直しやすくしてくれているのも有り難かったです。コンプが捗りました。

戦闘物語というRPGの二大要素をきっちりと押さえつつ、プレイヤーへの配慮も行き届いたクオリティーの高い作品だったと思います。

ゲームをクリアして、最初と最後で同じ場所にいながら一回りも二回りも成長したダージュを感慨深く見つめてしまいました。


制作者様のセンスやメッセージがダイレクトに反映されるのがフリーゲームの醍醐味だと個人的に考えています。

『ダージュの調律』は、その醍醐味を存分に味わえる作品でした。



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