『ほろびのゆりかご』 感想 考察

かーめるん

未来選択型サスペンスADV、『ほろびのゆりかご』についての感想、考察です。

制作サークルはCHARON様。制作サークル様の公式サイトはこちらです。 → CHARON



ほろびのゆりかご スクショ タイトル画面



白い閉鎖空間の中で展開される、一人の少年の「選択」をめぐるお話です。

エンディングは8つ。クリアまでの所要時間は約3時間でした。


CHARON様のゲームはいくつかプレイさせていただいています。
『ほろびのゆりかご』は昨年末に公開された作品です。

プレイして感じたのは「これは紛れもない力作だ」ということでした。トゥルーエンドを見終えたとき、自分の中に湧き上がる感情の大きさにハッとしました。


けっこうフィーリングで物事を捉える人間なので、普段記事を書くときは理屈先行で書こうと努力することが多いです。しかし今回は、あえて感じたことを優先して書こうかなと思います。

『ほろびのゆりかご』は、気迫のこもった「希望」のあるゲームでした。


以下はストーリーやエンディングのネタバレを含む詳細な感想です。未見の方はご注意ください。



*****



この記事の内容は以下の通りです。








あらすじ



まず、『ほろびのゆりかご』のあらすじを書きます。


主人公の少年・ホタローは、「白い場所」に住んでいます。他の場所は知りません。

ホタローには優しくて頼もしいママがいます。ママの他に、年上の女の子たちも何人か一緒に暮らしています。
白い場所は平和で穏やかで、ホタローたちにとっての「楽園」でした。

しかしママが地下通路に食料を取りに行ったある日から、楽園の幻想は脆くも崩れ去っていくことになります。



ほろびのゆりかご スクショ1



人生は選択の連続で、後戻りすることはできない。


白い閉鎖空間の中で、ホタローは何度も究極の選択を突きつけられることになります。
つらく苦しい「現実」に直面しながら、選択を重ねた先にあるものとは何か。

ホタローの選び取るものによって、エンディングは6つのバッドエンドに分岐します。
すべてのエンドを見たのちに、ただ1つのトゥルーエンドへの道が開けます。






作品全体の感想



『ほろびのゆりかご』は見事な作品でした。
繰り返しになりますが力作であり、現時点ではCHARON様の傑作ではないかと思います。

プレイしていてひしひしと、「何かを伝えたい」という作り手としての執念を感じました。その執念が正のオーラをまとってゲームに宿り、プレイヤーに響いてくるような印象を受けました。
ストーリーがいいとかキャラクターがいいとかそういった要素に還元する必要もないくらい、『ほろびのゆりかご』には「訴えかける力」があった気がします。

これをなんと言い表せばいいのか……とあれこれ考えた結果、「凄み」という表現に落ち着きました。

覚悟、執念、気迫が三拍子揃っていたと思います。




「伝える」「見せる」ことへのこだわり



同制作者様の作品では、「選択」「未来」はいつも重要なテーマとして扱われていました。

そういう意味では、『ほろびのゆりかご』は今までの作品のテーマを踏襲していると言えます。
閉じた世界の中、魅力的でちょっと病んでいる女の子たちに翻弄されながら主人公が選択を繰り返す……という大枠も同じです。


しかし今作は今までの作品よりもずっと「外に開いて」いて、たとえ舞台が閉鎖空間であっても、展開されるストーリーや世界観が大きく広がっていくような印象を受けました。

ありていに言えば、「伝えること」「見せること」にとことんこだわっているような気がします。
プレイヤーと真摯に向き合った上で、何が何でも伝えたいことを練って練ってメッセージにしている……そんな風に感じました。


結果として『ほろびのゆりかご』は、「選択によって変わる未来、それに伴う責任と痛み」といった従来のテーマをあくまで推し進めつつ、より映像的な表現を採用し、複層的なストーリーを持ったゲームになっています。

ゲーム内で分岐を繰り返し、選択を積み重ねた末に、いつの間にか物語はプレイヤーの次元にまで引きつけられていきます。プレイし終えた後、「すごいな」と思わずつぶやいてしまうくらいにスケールの大きな話でした。


「人生は選択の連続である」というテーマは何度も繰り返され、最終的にはフィクションバレとの併せ技でストレートに昇華されます。

正直なところ、この格言を何度も出しすぎではないかと途中は思いました。しかし最後の最後までこうも真摯に追求されると、プレイヤーとしても感服してメッセージに向き合わざるを得ませんでした。





希望のあるフィクションバレ



『ほろびのゆりかご』はメタ発言とフィクションバレを含む作品でもあります(もっともフィクションバレといっても、ゲーム世界オチではなく夢落ち系のオチです)。

けっこう取り扱いに注意を要する要素だと思うのですが、それらの演出・組み込み方も巧みでした。

いくつかプレイした制作者様の他作品だと、メタ要素に直面したときに気まずくなってしまうことがありました。
理由は作品ごとに違うのですが、そのメタ要素がおおよそ直線的で負のオーラをまとっていたからかもしれません。

一方今作では、ラストのメタ発言は作中でもっとも希望に満ちて聞こえました。
「メギ→ホタローのメッセージ」という体裁をあくまで保っているおかげで、ワンクッションあってプレイヤーも受け止めやすかったのではないでしょうか。


ラストのラストに虚構バレを入れ、しかも作品の雰囲気を壊さずにテーマをより深化・拡大しているのが本当に見事だと思います。






ミクリについて



プレイ後にミクリへの好感度の高さに自分でも驚きました。

冷たい態度とぶっきらぼうな物言いに反して正義感に溢れ、いざとなれば自己犠牲も辞さないキャラでした。
外見的には全キャラで揃った時点で一番好みでしたが、表面と内面のギャップがこれほど良いキャラだとは思いませんでした。



ほろびのゆりかご スクショ ミクリ



最初にBルートに進んだのですが、デモニカの拷問ショーでのミクリの強さと優しさに色々と持っていかれました。

生贄にミクリを選んだときは、プレイヤーの心情としては思い切り罵ってもらった方がまだ気が楽でした。
しかしミクリは、お前は悪くない! とむしろホタローの罪悪感を必死で軽減しようとしてくれます。こんなに格好いい大人はめったにいないなと心底思いました。

また、たまに垣間見える可愛らしいところも好きです。
メギと腹を割って話す前の落ち着かない様子や、ツナにプレゼントをもらったときの動揺にはニヤニヤしました。




青色のイヤリング



ミクリは赤い髪/黒い服の女性で、他の女の子たちと同じく金色の装身具を身につけています。
しかし、もっとも目を引くのは右耳につけた大きな青い石のイヤリングではないでしょうか。

青色は主人公ホタローやホタローママ(とブルースター)、そしてCルートを象徴する色というイメージです。

もちろん単に差し色かもしれません。しかしミクリの青いイヤリングは、AルートとBルートにおいて惨劇に関与せずホタローに示唆する彼女の立ち位置を暗示しているのかもしれないと感じました(メギの青い目もホタローとの距離の近さを表している印象です)。




男性的な言動



ミクリの特徴の一つは、「俺」という一人称と男性的な言葉遣いです。

最初は戸惑いましたが、的確な言葉と強い意志で主人公を鼓舞する役回りにはハマっていたと思います。
かつ自らの意志を曲げてまでホタローたちを生かそうとする情の厚さも、意外性として際立つ結果になったのではないでしょうか。


ミクリは性別不詳と主人公から思われていますが、実際には女性のようです。本人も自身を女性だと認めています。

ただ、幼い頃から一人称=「僕」で男の子っぽい見た目をしていたらしいので、精神的に男性寄りな部分があるのかもしれません。

あるいはほぼ女性ばかりの閉鎖空間でバランスをとった結果、男性的な言動をするようになったのかもしれません。
同年代のメギとエンゼリカは、ホタロー視点でそれぞれ「ママ」「おばあちゃん」と思われている、かなり女性的なキャラです。一方ミクリはクールな一匹狼タイプで、肉体的にもメンバーの中でもっとも屈強そうなので(実際、Cルートで荷物持ちよろしくねとメギに言われていた記憶があります)。


また、ミクリは同性のエンゼリカを愛しています。

Cルートの同行役には最初ミクリを選んだのですが、ミクリのエンゼリカへの語りかけには心を打たれました。
感情をあまり表に出さないミクリが打ち明けるからこそ、彼女の愛情の深さがいっそう伝わってくるような気がしました。






トイレと枕をくんかくんか



シリアスな『ほろびのゆりかご』ですが、けしてお遊び要素がないわけではありません。

シェルター内にはホタローと女の子4人の個室があります。
実はそれぞれの個室で、女の子たちの「トイレ」と「枕」のにおいを嗅ぐことができます。くんかくんか。

4人全員のトイレと枕をそれぞれ嗅ぎ終えると、称号が手に入ります。
どっちも面白いタイトルです。トイレの方は直球すぎて笑います。


しかし問題は女の子たちのにおいの方です。
我ながら変態くさくてアレですが、チェックポイントとして用意されている以上はすべて調べました。

メギは花や植物好きで調香もする彼女らしい香りです。
ツナは元気いっぱいで運動量の多そうな彼女らしい香りでした。

ミクリについては、「枕:懐かしい香り」の内容がとても気になりました。


そして問題はエンゼリカです。
枕の香りもツッコミどころだと思うのですが、それ以上にハッとしたポイントがあります。それは、

「トイレ:ミルヒオーレのようなにおい」


……でした。


ミルヒオーレと言えば、やはり『みっくすおれ』の彼女が思い浮かびます。


初プレイ時は、食堂に行くよりも前に全員の部屋を調べてトイレと枕をチェックしました。
そのときに上記のメッセージを見つけ、うっすらとですがエンゼリカに対して嫌な予感を抱きました。

そのままBルートに突入したのでデモニカが降臨
上記のメッセージのことを思い出し、あれはもしかして遠回しなヒントだったのか……とちょっと思いました。






3つのルート、8つのエンド



※全ルートとエンディングの完全なるネタバレを含みます。ご注意ください。



『ほろびのゆりかご』は、3つの世界線(A、B、Cルート)および6つのバッドエンド1つのトゥルーエンド(+アナザーエンド)が存在するゲームでした。

以下、各ルートとエンディングを簡単におさらいしてみました。




Aルート



Aルートでは、メギが行方不明になりません。
惨劇の黒幕と言えるのはメギです。食料不足問題が彼女の凶行のトリガーとなりました。

また、このルートのメギはおそらく人間です(バッドエンドの一つより)。

Aルート由来のバッドエンドは4つです。



BAD END「持たざる者の結末」


初日のメギの問いに対し、「間違ってると思う」を選択するとこのエンドです。

メギをはじめとする女の子たちが全員死に、少年ホタローも死んでしまいます。理由は不明。


初見で「?」状態になったエンドです。

「その日」に死亡ということは、この夜に死ぬはずだったエンゼリカ(デモニカ)が関わっているのでしょうか。メギがホタローの答えによってエンゼリカの殺害に踏み切れず、デモニカの方から何か事を起こしたのかもしれません。

Cルートのエンゼリカの「心の氷」に、「デモニカによって皆が殺され、唯一残ったメギがデモニカに理由を問う」というシーンがありました。あれがこのバッドエンドの内容なのかもしれません。

「持たざる者」が誰を指すのかについても気になります。
未熟なホタローのことなのか、それとも決意ができなかったメギを指すのか。




BAD END「優しいゆりかご」


エンジンルームでツナが落ちそうになったとき、「手をはなさない」を選ぶとこのエンドです。

間一髪でメギに助けられたホタローとツナは、言いつけを守るとあらためて約束します。
月日が流れ、ちっぽけな箱庭の中でホタローとツナの間に子供が生まれ……という結末です。


ホタローがツナの手をあくまで離さなければ、ホタローまで落ちて死んでしまいます。
だからこそメギはあのタイミングで姿を現したのでしょう。

このバッドエンドでは、食糧不足問題はそもそも発生していないか解決したようです。

デモニカという爆弾を抱えるエンゼリカが死亡済なので、案外平和なエンドかもしれません(だからホタローとツナが大人になるくらい長く平穏に暮らせたのか)。

ただ、外に焦がれていたミクリをどうやって諦めさせたのかは疑問でした。ミクリはエンゼリカの遺体の処理方法に気づいていた節もあるので尚更です。それもまた別の世界線ということなのでしょうか。




BAD END「最後の晩餐」


白いシェルターを「楽園」と表現するメギと、「地獄」だと言い捨てるミクリ。
二人の対決時に「ミクリを撃つ」とこのエンドです。

ミクリはお前の選んだ道を行けと笑って事切れます。しかし白い箱の中に未来はありません。

最後までホタローに食料を譲りつつ、メギはママの死体を食べるようにと言い含めて亡くなります。
ホタローは後悔の念に苛まれつつ、涙ながらに言いつけを守るのでした。


このエンドは色々な意味でショッキングでした。

外の世界を知っているというメギの発言はどこまでが本当なのか。
それによってシェルター生活に病的に固執するメギの印象も変わる気がします。

餓死確定と知ってなお頑なに留まるのは相当だと思うので、外の世界の過酷さを知っていたか、シェルター生活に執着し過ぎて狂気に駆られていたかのいずれかでしょうか。仲間を殺すという選択肢を取った時点で後者に近い気はします。
ツナ死亡後のメギと会話すると、その精神状態がかなり悪化していることがわかります。

良い意味でも悪い意味でも母の愛は海よりも深いですね。
このエンドから、Aルートのメギは肉の身体を持つ人間らしいと推測しました。

ところでこのルートでもミクリは最期までカッコよかったです。
メギとやり合う一枚絵の目つきの悪さがツボです。

エンゼリカとツナが殺されたことを知りながら、犯人のメギをなだめて最善策を取ろうと動くところもリアリストな彼女らしいと思います。




BAD END「滅びゆく北の大地」


メギとミクリの対決時、「メギを撃つ」とこのエンドです。

メギはホタローに謝り、ミクリは事切れたメギに謝ります。
ホタローはミクリと外を目指すものの、地下通路のギミックは脱出に一人の犠牲を強いるものでした。
ミクリはホタローに先に進めと諭します。

ホタローはミクリの促しを受けてシェルターに別れを告げ、一人で北の大地・ホツカイドへ出ていくのでした。


Aルートの正規バッドエンドと言うべきエンディングです。
このエンドを経由する形でCルートへの分岐が発生します。

メギにしてもミクリにしても、ホタローをまったく責めないんですよね。
メギのホタローへの底なしの愛をあらためて実感しました。

どうして言ってくれなかったのかというホタローの言葉はCルートへの布石でしょうか。
仲間内の相談は大切(ひぐらしの罪滅ぼし編を思い出しました)。

とはいえ地下通路のギミックは若干無理やりな気がしました。たとえば人と同じ重さの荷物で代用はできなかったのか。もしかして生体反応センサーなんかがついているのでしょうか。
メギの遺体を使わせてもらえば……とも少し思ったのですが、ホタローの手前ミクリは思いとどまったのかもしれません。





Bルート



Bルートではメギが行方不明になります。
惨劇の黒幕は、エンゼリカのもう一つの人格・デモニカです。
デモニカについての種明かしはCルートを待つことになります。

このルートのメギはアンドロイドのようです。アンドロイドの記憶を持つ別の世界線のメギ(ベーシックバージョン、たとえばAルート)の前世に当たるのかもしれません。

Bルート由来のバッドエンドは2つです。




BAD END「箱庭の悪魔」


デモニカの殺戮ショーが開幕。ツナとミクリの二択を迫られ、生贄にツナを指定するとこのエンドです。

ツナは惨殺され、ホタローもその次に拷問されて死亡します。
幼い子供たちの死に絶望したミクリもやはり殺され、デモニカだけが生き残ります。


デモニカ一人勝ちエンドでした。
ツナを選んで「どうしてだホタロー」的な反応をするミクリは覚悟完了しすぎですね。

このエンドのデモニカはどことなくメタな発言をします。
神に祈っているのか、白い箱の外の傍観者たち(=プレイヤー)に語りかけているのか。

目を覚まして泣くホタローで締めくくられるので、夢落ちエンドっぽい印象もあります。




BAD END「希望の翼」


二択で「ミクリを殺す」とこのエンドです。

ミクリは足を切断されます。しかし間一髪で助けに来た壊れかけのメギがデモニカを殺害し、そのまま壊れてしまいます。歩けなくなったミクリはホタローとツナに思いを託し、二人にシェルターを出ていかせるのでした。


Bルートの正規バッドエンドっぽい気がします。ホタローが仲良しのツナを生贄に選ぶ感じもしないので。

上でも書きましたが、このエンドのミクリの献身と覚悟には心打たれました。
メギの思いを受け継ぎ、子供たちにすべてを託そうと決意する流れもいいですね。幼い頃の回想(父親の思い出)もしんみりとします。僕っ子可愛い。

また、メギ=アンドロイドにはびっくりしました。使った得物はAルートでも持っていた拳銃でしょうか。機械の内側が露わになっている一枚絵が凛々しくて好きです。

このエンドのツナの一枚絵は神々しいの一言でした。
ミクリ視点では見送るときにああいう風に見えていたのかもしれません。

シェルターを出た2人はどうなるのか。切なさと希望が良いバランスで、個人的には好きなエンドでした。



以上A、Bルートの6つのバッドエンドをクリアすると、Aルートのバッドエンド後のホタロー(おそらく)を見ることができます。シェルターを出たものの……というシナリオです。

ここからCルートへ派生します。





Cルート



Cルートの主人公は「周回者ホタロー」です。
スキルもバッチリ変化。

全ルートの記憶を持っているため、惨劇を回避するすべも知っています。



ほろびのゆりかご スクショ ホタロー



メギとミクリの和解。
ツナのエンジンルーム行きの阻止。
エンゼリカの説得。


すべてを平和裏に解決したホタローとメギたちは、シェルターを捨ててトウキョを目指すことを決定します。

Cルートには、トゥルーエンドおよびアナザーエンド2つが存在します。




TRUE END「胎児の夢」


最後の日、メギはホタローに衝撃的な真実を告げます。

この世界も私たちも現実には存在しない、ホタローは母親のお腹の中に居る胎児なのだ、と。『ほろびのゆりかご』は「胎児の夢」だったわけです。

メギの諭しを聞き入れ、夢の世界(=ゲーム世界)とお別れするとこのエンドです。

メギの最後の言葉に背中を押されるようにして、胎児は産声を上げます。
母親は生まれてきた我が子・ホタローを愛おしそうに抱きしめるのでした。


いきなりのメタ発言、そしてフィクション世界バレ
しかし希望に満ちた結末です。

ホタローの背中を押しその成長に涙を流すのが、Aルートで白い箱の世界にこだわったメギだというのがまた乙な話だと思います。
自分を含めすべての思い出が無に帰すことを知りながら、いつまでもホタローの味方だと言い切ってくれるメギの愛には感動の一言でした。

このエンドでのメギの言葉は一つ一つが印象深いです。
フィクションはリアルではない、しかし偽りのこの世界にも真実はあった……という語りと涙は特にグッときます。


トゥルーエンドで感じたのは、このゲームはさり気なくホタロー≠プレイヤーを前提としているのかなということでした。

メタ発言も内実はどうあれ形式的にはメギ→ホタローであり、プレイヤーは表面には出てきません。
アナザーエンドを見てもわかりますが、ホタローとプレイヤーは重なることはあっても同化はしません。アナザーエンドでホタローの未来を断ち切ったのは、ホタローではなくプレイヤーという扱いになっています。

自分=ホタローというよりは「ホタロー頑張れ」という目線でゲームをプレイしていたので、ホタロー≠プレイヤーはしっくりきました。複雑なルート分岐的にも、俯瞰的に眺めるタイプの作品だと思います。プレイヤーとホタローが同化しない方がゲームの寓話性が際立つ気もしました。


メギ→ホタローを通じ、このゲームは「勇気を持って選択し自らの人生を生きていけ」と語りかけてきます。メッセージは直球、しかしそれがいいという印象です。


アナザーエンドについては後述します。






トゥルーエンドについて



トゥルーエンドを見ると、ゲーム冒頭の「時計の音」「水音」の意味もわかってなるほどなーと思いました。

母の子宮という「ゆりかご」は、十月十日の間胎児を育みその役目を終えます。
だからこそ胎児をはらむ子宮も、その胎児が見る夢も、どのような形であってもいずれは終わりを迎える「ほろびのゆりかご」なのでしょう。

母親の見せる夢という点に注目すると、シェルター内のホタロー以外の人間がすべて女性であることも納得の一言です。

メギやミクリたちキャラクターは母親の性格の様々な側面と捉えることも可能かもしれません。
たとえばメギは母性の象徴、ミクリは男性的な一面の象徴……といった風に。




いくつものメッセージ



『ほろびのゆりかご』の優れた点は、その寓意性だと思います。
一つの世界から、いくつものイメージをリンクさせて考えを巡らせることができます。

「ほろびのゆりかご」は、直接にはいずれ生存者が全滅するシェルターを指しているのだと思います。
しかし同時にそれは、胎児の見る夢のことでもあります。

トゥルーエンドのラストでは、この地球自体が「ほろびのゆりかご」であることも示されます。
PC内の一つのゲームの世界から、宇宙規模にまでお話が広がってしまうという壮大さです。


また、「白い箱」という言葉は直接にはメギたちの住むシェルターを指す言葉です。

しかしプレイヤーには、すぐに白い箱=PCと連想できるのではないでしょうか(まあ最近は白い箱のようなPCに馴染みのない世代もいるかもしれませんが)。

「白い平穏な箱を出て厳しい外界へ行く」というゲームの大筋の流れから、「PCゲームに浸るのをやめて現実世界と向き合いなさい」というやんわりとしたメッセージを読み取ることもできると思います。
降り止まぬ雪の降るホツカイドという過酷な北の大地は、人の心を傷つける厳しい現実世界を投影したものと見ることもできるでしょう。

「夢から目覚めて現実世界に生を受けなさい」というトゥルーエンドのメギの諭しについても、やはり同じような解釈をすることは可能だと思います。





真・ホタローの行く末



そういったメタ的な話を離れると、トゥルーエンド後のホタローはどうなるんだろうとも思いました。

胎児のホタローが見た夢、シェルターで暮らす少女たちの夢は完全にフィクションなのでしょうか。
それとも生まれた後のホタローは、AルートやBルートで描かれたのと同じように悲惨な道をたどるのでしょうか。

Cルートのホタローは周回者であり、彼が導いた世界は奇跡と言ってもいいものです。
一番の爆弾であるエンゼリカの中のデモニカを封じ込めることに成功したのも、そもそもホタローが他の世界線の記憶を持っていたからです。


そうなると、まっさらな状態で生まれる真・ホタローは惨劇を回避できないのではないか……と思ってしまいます。



ほろびのゆりかご 世界線と構造



とはいえ、このゲームの中では世界線はいくつも存在するようです。
惨劇が起こる未来もあれば、ホタローママが死なない未来やデモニカ(生身)が死なない未来もあり、ホタローたちがハッピーになれる未来だってあるかもしれません。

結局のところ、ホタローの本当の人生はゲームが終わると同時に始まるのです。ルートは3つどころか無数に用意されていることでしょうし、エンディングだってそれこそ大量に存在することでしょう。

だからホタローがどのような道をたどるのかは彼の選択次第です。
メギの励まし(諦めないで、最後まで走って)がかすかにでも記憶に残っていれば、ホタローは少しでもよりよい方向へと自らを導くことができるかもしれません。





トゥルーエンドのメギの言葉



ところでトゥルーエンドでのメギの台詞の中で、とりわけ心を揺さぶられたものがありました。

たとえ偽りでも、この世界で過ごした記憶はきっと、本物なのね。

という一言です。

『ほろびのゆりかご』の世界は、ホタローにとって現実ではなく夢にすぎませんでした。
それはプレイヤーにとっても同じであり、『ほろびのゆりかご』はフィクションのゲームでしかありません。


私はゲームが好きです。面白い展開には笑い、悲しい展開には泣き、腹の立つ展開には怒り……とけっこう素直に感情移入しながらプレイするタイプです。
大好きなゲームを終えるときは寂しくもなります。

しかし、「こんなに感情移入しても結局はフィクションなんだよな」といった虚しい気持ちになったことはありません。ゲームと現実は当然ながら別物だからです。
ゲームは作りごとです。それは別にゲームに限った話ではなく、小説でもマンガでもアニメでもドラマでも映画でも何でもそうです。リアルとフィクションはもともと違うものです。

でもだからといって、フィクションの世界で感じた思いや感情がまやかしというわけではありません。
少なくとも私はそう思います。かつその思いや感情を大事にしたいとも思います。


私たちは物理的にも精神的にも多くの制約に縛られて生きています。
フィクションの世界は私たちに、違う人間に寄り添って生きる、あるいは違う人間となって生きる機会を提供してくれます。様々なシチュエーションを描き出し、それに応じた様々な感情を想起させてくれます。

だからフィクションに浸って感情を波立たせるのは特に恥ずべきことではなく、むしろ好ましいことではないかと私は思います(それを現実に引きずり過ぎるのはよくないですが)。
そこで感じた喜びも悲しみも怒りも、偽りではなく本物です。記憶を伴うその人だけの豊かな感情だと思います。


そういう意味で、上のメギの言葉は心に響きました。普段あまり意識しないことをこんなにつらつらと書いてしまうくらいには、メギが感動し涙した気持ちが分かる気がするなーと思いました。






アナザーエンドについて



Cルートには、トゥルーエンドだけでなくアナザーエンドという結末もあります。

メギの言葉を聞き入れず、あくまでゲーム世界に居残る(夢から醒めない)ことを選ぶと、アナザーエンドに行き着きます。

母親の心を理解しないホタローに、メギは失意と絶望の目を向けます。
プレイヤーはまたベッドで目覚めます。しかし世界は徐々に暗転。倉庫で出迎えた「ホタロー」は白い箱の夢に留まって胎児を殺したプレイヤーを恨み、そのままゲームは終了します。


6つもバッドエンドがあるのにこう言うのもアレですが、アナザーエンドは最悪のバッドエンドだと思います。

『ほろびのゆりかご』の世界は、母親の心の傷を反映した夢らしいです。
現実に傷つきつつも我が子が生まれてくることを待ち望み、強く生きてほしいと願う母の気持ちがこの世界を創り出したわけです。

しかしプレイヤーは、母親の気持ちを裏切って胎児が生まれる未来を消してしまいました。

Cルート手前の異空間に、一つだけ所有者の分からない心の氷があったと思います。我が子を失い悲嘆する母の心です。もしかするとあの心こそ、アナザーエンドにおける母親の心なのかもしれません。


このエンディングの中で一番動揺したのは、タイトルに戻って灰色一色の画面と対面したときでした。
セーブデータ画面もちょっとおかしい感じになります(ホタローのアイコンが消え、該当セーブデータが使い物にならなくなる)。


個人的に一番恐ろしいと思う事柄は「無」です。何の甲斐もなく何も残らず、すべてが断ち切られて消えてしまう……そういったことが何よりも恐ろしいと思います。


トゥルーエンドでメギは、この世界はそもそも存在しなかったことになると話します。
ホタローはこの世界を忘れ、まっさらな状態で生まれるのだ、と。

Aルート、Bルートの絶望やCルートの努力、そういったものがすべてなかったことになるわけです。


しかし、本当の意味ですべてが「無」に還るわけではないはずです。

ホタローとプレイヤーが一緒にたどった道筋は、虚構であるキャラクターの心にも、またそれを見ていたプレイヤーの心にも意味あるものを残すことができたと思います。
たとえなかったことになる世界であっても、ホタローの努力と足掻きにはきっと意味があったのです(ジョジョ5部のローリングストーンズみたいな話ですが)。


しかし、このアナザーエンドでは正真正銘何も残りません。

メギたちは消え、白い箱に残った「プレイヤー」は一人きりで暗い世界に取り残されます。タイトル画面も無を体現したような灰色になり、セーブデータからキャラアイコンは消え、すべてが無くなってしまいます。


虚脱感や絶望感は残るといった説明は、たぶんゲームのテーマ的に的を射たものではありません。

問題は、一つの終点を目指して紡がれてきた物語がバッサリと断ち切られてしまうことです。
3つのルートと6つのバッドエンドを経て進んできたゲームのストーリーすべてが、次に繋がることなく完全に、突然に崩壊してしまうことです。まるで美しい織物を剣で無残に断ち切るがごとく。

白い箱の世界を捨てて厳しい外の世界に出ようとしたキャラクターたちの心、あえてつらい夢を胎児に見せた母親の心、そしておそらくはこのゲームを制作した制作者の心

最後の選択によって、そういったものをすべて「なかったこと」にしたのがこのアナザーエンドです。


ホタローの言葉や暗転演出といった直接的な表現以上に、「すべてが無意味になった」という事実が、何よりの虚しさを突きつけてくるエンドだったと思います。




*****



イラストなど画面作りにも力が入ったゲームだったと思います。
相変わらず女の子は可愛いし、周回者ホタローはカッコいいです。一枚絵がたくさんあって眼福でした。

また、アニメーション的な表現が多かったことも印象的です。
「見せる」ことにこだわった結果のようにも感じました。進行補助のアイコンもユニークでした。

個人的にはやはりCルートのOPが好きです。AルートとBルートで判明した女の子たちのパーソナリティーが絵と言葉で簡潔に暗示されていて、Cルートへの期待が否応なしに高まります。
冒頭の気弱なママっ子ホタローが、最後に周回者ホタローに変化するという演出もワクワクします。


さらに印象に残ったのは、BGMのチョイスの良さです。作中では様々な楽曲が使われています。

使用楽曲が公式HPに記載されているのでいくつか聞いてみました。

OPに使われているものや『氷の世界の戦闘』『火山での戦闘』『エクラ』あたりがすごくいいなと思いました。
あとデモニカ専用のBGMも好きです。ゲレゲレゲレ。


記憶に残る、力のこもった作品でした。りどみを読むと制作者様のゲーム制作の集大成と言ってもいいのかもしれません(現時点で)。次の作品も楽しみです。



「選択重視」あるいは「メタ」要素を持つ作品について、いくつか感想記事を書いています。

関連記事:
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Comments 4

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あほ  
いつも読んでます。

お久しぶりです。大昔、かもかて考察記事のティントアのやつを早く上げろ!とコメントした者です。全記事楽しく読ませていただいてます。

ミクリは、恐らくホタローと父親が同じなんでしょうね。Cルートの最後に親父に似ているとのミクリの発言もありますし、それなら枕の懐かしい匂いの説明もつく気がします。青い水晶の回想だと、ホタローの母は男に逃げられたらしいですし。

2018/05/02 (Wed) 05:02 | EDIT | REPLY |   
かーめるん  
Re: いつも読んでます。

>あほさん

返信が遅くなってすみません!

こちらこそお久しぶりです。コメントありがとうございます。

> ミクリは、恐らくホタローと父親が同じなんでしょうね。

すごく面白いですねそれ。その発想はなかったです。
「懐かしい匂い」は確かに引っかかっていましたが、血縁説だとけっこうしっくりきますね。

その説だと、Cルートでミクリがホタローを鍛えようとしているのがなかなか胸熱ですよね。
父→ミクリ→ホタローと繋がるので。

あと、ゲーム本編=母親の見せる夢(フィクション)という視点から見たときのミクリの意味(役割)もまた変わってくる気がします。

記事を楽しく読んでいただけてとても嬉しいです。
また機会があれば、ゲームについて考えたこととかお気軽に教えてください。

貴重な考察をありがとうございました。

2018/05/06 (Sun) 01:12 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/16 (Sat) 00:53 | EDIT | REPLY |   
かーめるん  
Re: タイトルなし

> 6月16日にコメントをくださった方

コメントありがとうございます!

> 思い返してみると、「箱庭の悪魔」の~

たしかに本編のデモニカは、オリジナルデモニカとイコールではないっぽいですよね。
悪魔に魅入られたこと自体は、エンゼリカの優しさの裏返しでもあるんだろうなと個人的には思います。

> 別の時間軸とはいえ、エンゼリカを~

メギとミクリの説得には、それぞれグッとくるものがありますよね。
メギもミクリも程度の差はあれ、エンゼリカと同じく葛藤を抱えていたキャラだと思います。
だからこそ、2人が自分と向き合った上で、「一緒に生きていこう」とエンゼリカに訴えかける流れはすごく良いなと感じました。

世界線が様々に分岐しても、描写がきちんと繋がっているのが『ほろびのゆりかご』の面白さですよね。
色々と考えさせられる、魅力的な作品だなーと思います。

2018/06/16 (Sat) 21:22 | EDIT | REPLY |   

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