『冠を持つ神の手』 モゼーラ 感想 攻略 その6
異世界ファンタジー育成系ADV、『冠を持つ神の手』(かもかて)の感想や考察、攻略です。制作サークルは小麦畑様。その6では、攻略キャラクターの一人、モゼーラについての感想を書きます。攻略についても触れます。
※「リリアノ&モゼーラの共通友情エンド」と「ヴァイルの憎悪監禁エンド」を並行する攻略について、攻略メインの記事を書いています。
≪関連記事:共通友情エンドとヴァイル憎悪監禁エンドを並行 『冠を持つ神の手』 攻略≫
全イベントとエンドを見た上での感想なので、ネタバレしかありません。未見の方はご注意ください。考察みたいなものも書いていますが、あくまで個人的な考えです。主観まみれです。
22歳の女性。王城の図書室付の文官。以前は花形部署の法務に在籍していたが、税率に関する重大なミスを犯して左遷された。
地方の役人である父母のもとで育ち、ある目的を胸に秘めて王城に出仕した。正義感が強く何事にも真面目な性格。しかし思い込みが激しい一面も。怠惰な貴族を批判し、リタントの王制に対しても少なからず疑問を抱いている様子。そのため平民出身の主人公に期待をかけている。
かなり惚れっぽい性格であり、年齢に比して未婚であることを気に病んでいるらしい。
登場条件:知力10以上
冠を持つ神の手
モゼーラは、王城に仕える平民出身の文官です。担当パラは知力。出会いは図書室で、ようやく文字が読めるようになってきた主人公にモゼーラは適正レベルの本を勧めてくれます。
彼女は、その5で感想を書いたリリアノたち貴族や王政側の人間に批判的な立場をとるキャラクターです。
叩き上げの実務家であるモゼーラは、名ばかりの上司である利己的で怠惰な貴族たちを嫌悪しています。彼女の不満は感情だけの問題にとどまらず、やがてリタントという国の体制そのものに批判的な眼差しとなって向けられるようになりました。
性格上不正や怠慢を許せない彼女は、その憤りを行動に移したことがあります。
モゼーラは少し前まで法務の文書係でした。優秀な官吏であり、丁寧で細やかな仕事ぶりを高く評価されていたそうです。ところが、何度か重大な書類ミスを犯し、閑職とも言える図書室へと左遷されました。
実はこのミスは、モゼーラが故意に行ったものです。税率の引き下げを認めない貴族の上司に業を煮やし、明らかにおかしい数値を最終確認の場に上げることで、国王であるリリアノの注意を引いて現状の打開を狙ったのです。
そして実際に、モゼーラの読みは当たりました。リリアノが文書のおかしな点に目を留めたことで現地の実態調査がなされ、税率は是正されたのです。
法務は花形と言ってもいい部署ですが、モゼーラは「正しいこと」のために出世コースを蹴ったことになります。
モゼーラの思う「正しいこと」は、現状己の利ばかりを追求する貴族によってねじ曲げられることがほとんどです。唯一公正な人間として評価している国王のリリアノも、貴族社会の一員であることに変わりはありません。だからこそ彼女は、貴族制とそれを許容するリタントの体制に疑問を抱かざるを得ないのでしょう。
大人しいように見えて内に激しい情熱を秘めているモゼーラ。実は彼女は、とある重要人物の血縁者です。
その人物とは、かつて貴族制の解体を目指して成らず、現在は貶められ忘れ去られようとしている四代国王ネセレその人。モゼーラは、ネセレの死の直前に生まれた彼の落胤です。
二十二年前、モゼーラの生みの母は生まれた直後の赤子を養子に出しました。後難を避けるためでしょう。しかし、成長する中で育ての両親が実の父母でないことに気づいたモゼーラは、唯一の手がかりである一冊の法の本を携え、自身のルーツを求めて王城に伺候したのです。
調査の中でネセレこそが自分の生みの親かもしれないと思うようになったモゼーラは、次第に彼の足跡を追い求めるようになります。ネセレは何を思い、何を成そうとしたのか……と。しかし、四代の名を出すことさえタブー視される王城では、それはたやすいことではありませんでした。
そうして行き詰まりかけていた彼女の前に現れたのが、他ならぬ主人公です。
ネセレを知る他数名のキャラクターがそう思ったように、モゼーラもまた主人公の出現を神の導きだと直感しました。平民出身の貴族ではない寵愛者、それはきっとネセレの再来でしかない、と。モゼーラは大きな期待を胸に秘め、主人公の動向を見守ろうと決めたわけです。
ここまで書いたところでは、モゼーラはややとっつきづらい仕事人間のようにも見えます。しかし、彼女は意外にも恋多き女性です。しかも男運が無いのか男を見る目が無いのか、なかなか恋が実らないタイプです。
彼女は今年22歳であり、愛情ルートでは適齢期を過ぎつつあるその年齢*1を相当気にしているらしいことが分かります。
*1三足族の寿命は、現代日本に住む私たちよりも短いようです。単純に生活水準が異なるからでしょうか。それなりにシビアな世界観なので、その分成熟が早いのかもしれません。
また、結婚相手の年齢についての感覚もやや異なっている印象です。現実では三つの年の差くらいは気になりませんが、グラドネーラ世界では「三つも」という認識になることがあるようです。
目安になるかどうか不明ですが、現代日本の成人年齢である20歳は、三足族の成人年齢である15歳の1.33倍です。モゼーラの年齢は22歳ですが、これは現代日本の感覚で言うと約29歳です。ちなみにリリアノは17歳で結婚しました(現代日本の感覚では約23歳です)。外付けの事典によれば、結婚適齢期は十代後半から二十代前半だそうです。
この話題と絡み、現実に即したキャラの年齢について考えてみました(キャラの年齢考察)。
ところで、モゼーラ=ネセレの子だと早々に予想できたプレイヤーの方はいるのでしょうか。
私は、「ネセレには主人公と八歳年の差がある子供がいた」とリリアノから聞かされて初めて、「えっモゼーラさんなの?」とびっくりした口です。初見ではなぜかネセレが主人公の父親だと思っていたので(ネセレの活躍時期と主人公の年齢を考えるとまったく重ならないのに)。目先の情報にまんまと引っかかったとも言えます。
モゼーラは愛情ルートと友情ルートでかなり印象の異なるキャラクターだと思います。愛情ルートをさらっとなぞるだけでは、八歳年下の子供に舞い上がって結婚を迫る人という印象で終わりかねません。 (もっとも、個人的には一々わかりやすいほどに照れてくれるモゼーラさんはとても可愛いと思います。年齢や身分差や容姿を気にする奥底に、ある種の臆病さが透けて見えるところも少なからず共感できます)。
しかし、友情ルートで彼女の秘密を知ると、真摯に父の背中を追う彼女の誠実さや信念が見えてきます。特に、リリアノとの共通友情エンドは、このゲームの一つの秘密が紐解かれて未来へと通じる、最高に熱い一押しのエンディングです。
愛情エンディングは3通りです。モゼーラの出生の秘密を知ると愛情Aになります。知らない場合は最終結果:王のときに愛情B、王以外のときに愛情Cに分岐します。彼女の出生の秘密を教えてもらうには、高めの好友が必要です。
攻略の方針としては、積極的に彼女をかまい困っていたら助ける。 これに尽きます。
好愛の上がり具合が比較的大きく、好愛が上がる箇所も多いモゼーラは、結果として好愛がとても上がりやすいキャラになっています。隠し設定としても、好愛にブーストがかかりやすいそうです。雨の日or励みイベントにまで好愛上昇ポイントはまんべんなく含まれているので、まず数値不足にはならないでしょう。
個人的には、【贅沢な服】や【息抜き】といった、気の抜けた素のモゼーラを見られるイベントが好きでした。中庭の川辺で素足になってパシャパシャしているところを見つかり、家の近くに川があったんですよと気まずそうに言うモゼーラさん可愛い。
また、これはどちらかというとユリリエ愛情派生ですが、【舞踏会の日に】はとても良かったです。ピクニックでお手製の料理を振る舞ってくれることも嬉しいポイントですが、主人公の村の近くに群生する花をわざわざ育てて見せてくれるいじらしさが素敵でした。
恋多き人なのに、わかりやすく舞い上がったり照れたりのモゼーラさん可愛い。特に計算しての反応ではなく、素直に主人公にほだされているのが彼女らしくていいと思います。また単純に、この国の地勢や特産は一通り頭に入れていると言う彼女の官吏としての優秀さにも感心しました。
モゼーラの愛情攻略はかもかてには珍しくギャルゲ的というか、相手に好意的に接していれば自然とクリアできるスタンダードな流れだったように思います。恋愛対象にどういう人を求めるかを熟考する必要はなく、特定イベントやフラグ立てが必須ということもなく、特定パラを抑えなければならないわけでもないので。
唯一引っかかるポイントを挙げるなら、【最後の日】の選択肢でしょうか。そして、その【最後の日】と愛情Aのエンド内容が、愛情ルート中では最も印象深かったです。
最終日のモゼーラは、単に愛の告白をしただけでは身を引いてしまいます。もともと彼女は、主人公が成人する前に自分の気持ちにけじめをつけるつもりだったのです。
私はもう(若くはないから)気持ちだけで決めることはできないと彼女は言います。成人すれば、あなたは私よりも素敵な相手がたくさんいることに気づいてしまうだろうとも言外に匂わせていました。
「『三つも』年上だ」と言われることもある世界です。八つもの年の差は、モゼーラを躊躇わせるには充分だったのでしょう。あなたにとっての一年はとても伸びやかに過ぎていく、私にとっては胸が痛いくらいにと話す彼女の葛藤は、年下の相手を好きになった人の心情としては真に迫ったものがありました。
しかし、モゼーラにとっての本当の問題は、2人の年の差ではなかったのだろうと私は思います。
主人公が結婚を申し込んだ場合、主人公を諦めるつもりでいたモゼーラは動揺し、最終的に自分の気持ちに素直になってくれます。
素性が判明しない愛情Bと愛情Cでは、彼女はまだどこか主人公の愛に不安げな様子がありました。そして素性を明かした上での愛情Aにおいて、モゼーラはようやく内省的な話をしてくれます。
モゼーラは、「正しさ」を追い求める人です。不正を許すことができず、半ば融通が利かないところもある。そのせいで悩んだり苦労したりする彼女の姿は、攻略中はもはやお馴染みでした。
私は単に、彼女はそういう性格なんだろうということで片付けていました。あるいは彼女の父親の血のせいなんだろう、と。しかし頑なに「正しさ」を求めるモゼーラの態度には、彼女自身も気づいていない理由があったのです。
自分には最後の勇気が無かった。愛情Aで、彼女はそう述懐します。父である四代に関しても、仕事に関しても、人を愛するということに関しても、最後のところに踏み込めなかった。だからこそ、誰からも認めてもらえる「正しさ」が欲しかったのだろう、と。
モゼーラの求める「正しさ」は絶対的なものです。だからそれに沿って行動すれば、心理的な安心を得ることができます。他者に否定された場合でも、「わかっていないのは相手の方だ」と考えることが可能です。
しかし恋愛にはこれといった「正しさ」は存在しません。だからこそ主人公と出会うまでモゼーラの恋愛はうまくいかなかったのでしょうし、主人公に対しても不安混じりに接していたのかなと思いました。
勇気が無かったというのは、自分を肯定してもらえる自信がなかったと捉えてもいいと思います。モゼーラがそういった不安を抱えていたことは意外でもあり、愛情ルートでの言動を思うと納得でもありました。
年齢差は確かに大きな障害として存在したのでしょう。しかし結局ネックだったのは、彼女が主人公を信じ切れていなかったことだったのだと思います。
「単にそういう性格だから」で済ませることなく、きちんと理屈づけてキャラ造形をする。制作者様のそういう姿勢が私は大好きです。そういうことだったのかと驚かされるのが快感なので、この愛情エンドを見てモゼーラのことがいっそう好きになりました。
正攻法憎悪ルートからの1通りですが、エンディング内容はとても濃いです。
攻略の方針としては、彼女が忌み嫌う利己的で怠惰かつ高慢な貴族の思想に染まり、彼女の期待を裏切りましょう。モゼーラは好悪の反応が非常にはっきりとしているので、嫌がる返答を探すのも比較的たやすいはずです。
【貴族と規則】あたりの憎悪選択肢を見ると、主人公が嫌な奴すぎてため息が出ます。しかし、モゼーラの期待も重いといえば重いと思いました。
略取されて右も左も分からない場所に放り込まれた未成年の主人公が、彼女の望むように志を高く持って茨の道を進めるかと言うと難しいのではないでしょうか。生きやすいように生きて何が悪い、という。
貴族の守護者になったリリアノが、自分の仕事に思うところがないわけではない様子だったので、モゼーラの言い分は正しいのだろうとは思います。ただ、プレイヤーは神視点なればこそ彼女に同情できるのであって、主人公にしてみれば、「知ったことか」という感じなのかもしれないと感じました。
リタントという国と王制の在り方に絶望したモゼーラは、ついには選定印の正統性にまで疑いの眼差しを向けて城を去ります。その後は巷間にて、民衆に王権への疑惑の芽を植え付けていったようです。史書風のエンドロールには、王制に疑義を呈する一派に彼女の姿があったらしいと記されていました。
正直このエンディングには痺れました。格好いい。さすがは乱世で輝く人。モゼーラのバイタリティーと胆力を改めて思い知った次第です。
選定印の操作については実際どうなんでしょうか。寵愛者が生まれるタイミングや陣営を考えると、神の見えざる手が確実に働いているような気はします。
とはいえ、人の手が入っているかどうかについては疑問です。現在王権を欲しいままにしているランテ家の人々は選定印を望んで得たわけではなく、とある魔術師は選定印を古い時代の魔術師の業だ(からうまく扱えない)と言っていたので。
しかし、選定印の作為性という疑惑を俎上に載せられること自体が稀有なのだろうと思います。ラストの、平民出身ゆえにモゼーラの及ぼす影響を憂える主人公がとても印象的でした。
友情エンディングは3通り存在します。通常のエンドは、最終結果:王の友情Bと王以外の友情Cです。
そして、リリアノとの共通イベントである【継がれゆく世代】を経ると、友情Aを迎えることができます。
攻略の方針としては、モゼーラをかまいすぎないことが肝要です。もちろん親しく接し彼女の思想に賛同すべきですが、気を抜くとすぐに好愛が上がるので、大っぴらに彼女を助けるのはアウトです(好愛が高まりすぎると友情エンドを迎えることができません)。
勉強熱心なところをアピールしつつ、ある程度距離を置き、そっと見守って彼女の背中を押すのがベストです。
【彼がいた証】でネセレの著書を読ませてもらえるかどうかの判定が、前半と後半を繋ぐ山場です。後半に入ってしまえば好友がガンガン上がるようになります。
早めに知力を100以上にし、王を目指して好友をコツコツと積んでいきましょう。モゼーラは現在の王制や貴族の在り方に思うところがある人なので、そのあたりも意識すると好友が上がりやすいかもしれません。友情Bと友情Cは彼女の出生を知らなくてもOKなので、比較的簡単です。
友情Aの攻略方法
友情Aまでの流れはリリアノの感想記事にも書きましたが、モゼーラ視点でもう一度まとめました。
まずはリリアノと並行して好友を上げ、ネセレのことと彼の本を宝器庫から持ち出してほしいという2つの話題を引き出します。
次いで【訪問の用件】でリリアノに上記2つの話題をそれぞれぶつけ、ネセレ暗殺の告白を聞き、ネセレ直筆の本を持ち出しましょう。後者の【残された筆跡】では、リリアノにモゼーラが四代の子だと暴露することを忘れずに。
あとは、モゼーラにリリアノの告白内容を暴露すれば準備は完了です。2人の好友が35以上であれば、【最後の日】にモゼーラをリリアノに引き合わせる選択肢が出現し、【継がれゆく世代】が発生します。
個人的に好きな友情イベントは、【隠された候補者】です。これは、ヴァイルの視察に乗じて城下の大広場に赴き、モゼーラが集めてくれた民衆相手に主人公が演説を一席ぶつというイベントです。
実は、主人公の存在は、リリアノの意向で城の外の人間には公表されていません。したがって、この【隠された候補者】で初めて、ヴァイルに次ぐ二人目の候補者である主人公の存在は明るみに出ることになります。
このイベントでは、かもかてでは貴重な王城ではない場所の様子が描かれます。また、後の【必要な手助け】とも併せて、モゼーラの企画力と行動力、そして分析家としての一面を垣間見ることができます。
モゼーラは父のネセレを尊敬していますが、けして盲目的に崇拝しているわけではありません。彼の失敗もしっかりと理解しています。
ネセレは平民出身ですが、民衆の社会を本当の意味で知っているとは言えませんでした。幼い頃から王城で育てられたために、彼は貴族を憎みながらもその価値観に染まっていたのです。加えて民衆も綺麗な心の持ち主ばかりではありません。次第にネセレの心は民衆から遠ざかり、己の立ち位置を見失って完全に孤立してしまいます。
モゼーラは主人公とネセレを比較し、主人公は王城以外の場所を知っているから、城の外に暮らす国民の大部分のことを忘れる心配はないと言います。
善い王であったネセレを決定的に狂わせたのが「孤独」であったことは、モゼーラだけでなく、ネセレの腹心であったローニカも意見を一にするところです。
まずは民衆に主人公という存在を知らしめる。そして主人公にも、王城の中からは見えにくいが確かな力を持つ民衆のことを心に刻ませる。いずれ王になった主人公が孤立しないようにと、モゼーラは主人公にこの【存在証明】を勧めたのです。
ちなみにこのイベント、リリアノにモゼーラの関与がバレると、モゼーラは罷免されます。それだけのリスクを背負って主人公に期待し支えようとする、彼女の重たい熱意がひしひしと伝わってくるイベントでした。
かもかてのお約束とはいえ、友情エンドでのモゼーラの成長と安定はとても頼もしかったです。
生みの親という自分の基盤になるものについての確信を得たからでしょうか。【残された筆跡】での「私はここにいる」という言葉には、万感の思いが籠っていて印象的でした。よくよく考えると、志半ばで亡くなった父の足跡を求めて王城へ……ってとても主人公っぽい生い立ちです。
友情Bですでにリリアノやヴァイルへの認識を改めているモゼーラを見て、案外柔軟な人だと思ったことを覚えています。彼女の性格の一面として、思い込みの強さや性急さ、頑固さといった部分が強調されている印象があったからです。感情的な問題として、父ではないかと思っている「正しい」人を悪しざまに罵る貴族に対し、肩肘を張らずにはいられない部分もあったのかもしれません。
【継がれゆく世代】では、「正しさ」とは何かということがフィーチャーされていました。リリアノとモゼーラの対話は、互いの心理をこの上なく的確に掘り下げるものだったと思います。
モゼーラの思想は言ってみれば青く、一歩間違えば舵が取れなくなる危うさを秘めてはいます。しかしそれでも、人を惹きつける絶対的な「正しさ」を含んでいるのだろうと思います。
対するリリアノの、皆正しく皆間違っているというすべてを相対的にとらえる思想は、豊富な経験から培われた老練な王らしいものです。しかしそれは、ある意味難題から目を逸らすずるい考え方でもあります。
最後にモゼーラに「あなたの理想は何ですか」と問わせることで、この論戦における二人の対等さが強調されたのは非常にいいなと思いました。互いに痛いところを突かれて言葉に窮し、それが二人ともにこれからの展望を与えるという綺麗な形になっていました。
友情Aでのモゼーラは、世の中や父親の行いの不条理さと向き合った上で、それでも正しさを追い求めたいと主人公に語ってくれます。王位を継承しない場合の彼女のすっかり落ち着いた励ましも好きですが、やはり、何かが次の時代に受け継がれることを信じようと力強く言ってくれる王位継承パターンがしっくりきます。
友情Aはモゼーラエンドの方が熱くて好きです。アネキウスが太陽神であることを思うと、立ち去るモゼーラの背中を陽光が照らすという今後を祝福するようなラストも余韻があって最高でした。
ところで、友情Aの後なら、モゼーラと玉座の間の老女を引き合わせることも可能なのでしょうか。
「今更顔を出せない」と老女は言っていましたが、せっかくだから命があるうちに会ってあげてほしいと思わずにはいられません。リリアノとローニカは老女の存在を把握しつつも見逃している様子なので、なんとか便宜を図ってくれないものかと期待してしまいます。
裏切エンドは、【最後の裏切】からの裏切A、愛情派生告発の裏切Bの2通りです。
裏切Bは、愛情ルートで印象反転すればOKです。別のエンドにいかないように、念のため好友は上げない方がいいかもしれません。
裏切Aはなんと、裏切られたモゼーラがモブ神官と結婚するという衝撃の展開でした。立ち直りと見切りをつける速さにさすがモゼーラさんだと最初は思いましたが、振られてひと月で結婚を決めるあたり、彼女も相当堪えて自棄になったのではないかと今では思います。
というより、主人公の仕打ちは他の裏切エンドと比べても相当酷いです。身を引くつもりだったモゼーラを強気に口説き結婚の約束まで取り付けた上で、綺麗に裏切ったわけですから。
たとえ振られることには慣れっこと口では言えても、これでは元々弄ばれていたのだと絶望しても仕方がない。年の差、平民身分、四代の子という出生……そういう諸々の障害をモゼーラは勇気を出して乗り越えようとしていたのに。
モゼーラの突然の結婚について、主人公は前々からそういう予定だったのではと疑っていました。しかし、彼女に限ってそんなことはないと信じています。若干後ろめたそうでもあった主人公の心情としては、そう疑うことで自分の気持ちを楽にしたかったのかもしれません。
裏切Bでは、主人公の裏切りのせいで城を追われたモゼーラが、城下で主人公の悪評を広めたそうです。「事情はすべて分かっているんですよ」と言いたげなローニカの忠告が耳に痛かったです。
裏切エンドでは両方とも、モゼーラのその後の事情を伝えてくれるのがローニカでした。やはり、彼女の動向を個人的に気にかけているのでしょうか。
ところで、裏切Aでのモゼーラはその後ディットンに移住して神官になったらしいです。最初は意外な選択に思いました。しかし後々考えて、if世界のタナッセと同じような感じなのかなと思いました。
観点と興味の度合は異なるとはいえ、モゼーラもタナッセと同じく選定印に疑問を持っています。憎悪エンドでも選定印のカラクリを解き明かすことに意欲を見せていました。
また、【神殿書庫】によれば、彼女の実父であるネセレと神殿はそれなりに良い関係を保っていたようです。今後主人公、ひいては王政から距離を取りたいモゼーラの避難先として、神殿はごく自然な選択肢なのかもしれません。
モゼーラの素性を告発するとAエンド、謀反の罪を着せるとBエンドです。
Aエンドを迎えるには、モゼーラの出生の秘密を知る必要があります。【どうしてこの城に】までイベントを進め、彼女からの質問に正解しておきましょう。
Bエンドについては、【貴族ではなき王】を見てモゼーラの言質をとっておくことが条件になります。
基本的には相手に近づいておもねりつつ、こっそりと印憎を高めることになります。ただし注意すべきなのは、好愛だけを高めても殺害エンドは迎えられないということです。
上述した通り、【どうしてこの城に】や【貴族ではなき王】の発生がエンド条件になっていますが、それらは好友高で起こるイベントです。だからモゼーラの殺害エンドは、友情ルート派生と言ってもいいと思います。
殺害エンドと言えば、愛情ルートで印象反転システムを使用するのがポピュラーな攻略方法です。しかし、モゼーラに関してはそうではないので注意しましょう(常に一心同体狙いなら心配はありませんが)。
制作者様の所感通り、後味は相当悪かったです。修羅場もやむなしの愛情ルート派生ではなく、友情派生だからでしょうか。完全にこちらを信頼してくれたモゼーラをだまし討ちしなければならないことにけっこうな罪悪感を覚えました。
憎悪を隠して近づき罪を着せて……という攻略が推奨されるのはサニャルートでも同じです。しかしサニャは、印象による好感の引きずられ修正が起きるんですよね。つまり、主人公の悪意には気づいてくれるわけです。
モゼーラはそれすらなく純粋に主人公に友情を感じてくれるので、申し訳ないなといつも思います。
Aエンドで湖に浮かんだモゼーラですが、自殺として処理されたそうです。検死役を抱き込んだのか、犯行時からそう見えるように偽装したのか。モゼーラは覚悟して王城に出仕したのだとは思いますが、それでも酷い最期だと思います。Aエンドは描写や実行した貴族の仕事ぶりを含め、淡々とし過ぎていて怖かったです。
上でチラッと年齢についての話が出ましたが、攻略キャラクター全員の年齢を現代日本と同じ感覚で眺めるとどうなるんだろうと思い、換算してみました。完全なる自己満足です。
上と同じく成人年齢を基準とし、キャラの年齢を1.33倍し端数は四捨五入しています。 ヴァイルと主人公については、未分化という特殊な状態なので省きました。
- サニャ 16歳 →約21歳
- タナッセ 17歳 →約23歳
- ユリリエ 同上
- ティントア 18歳 →約24歳
- ルージョン 同上
- グレオニー 19歳 →約25歳
- トッズ 20歳 →約26歳(自称)
- モゼーラ 22歳 →約29歳
- リリアノ 36歳 →約48歳
- ローニカ 52歳 →約69歳
ちなみに、61歳(→約81歳)で亡くなったファジル*2について、主人公は「短いということはない年齢だろう」とコメントしています。
サニャ、ローニカ以外は見た目的に妥当なラインなのかもしれません。リリアノの換算後の年齢は、成人して数年の息子を持つ母としてはごくごく普通かなと思います。ただ、ビジュアルが年齢にそぐわない麗しさだというだけで。
ローニカについては、換算後の年齢を見て愛情ルートの深刻さが骨身にこたえました。いつ山に導かれてもおかしくない年齢なんだな、と。他キャラがこぞってさすがに無茶だよやめときなと忠告するのも納得です。
おそらくグラドネーラでは、60歳を超えれば十分に長生きだと言えるのではないかと思います。
*2【図書室・ファジル】の歴史書には、7381年没、享年62歳とありました。一方、グラドネーラ人物事典という外部データには、7380年没、享年61歳と記載されていました。同事典には、ネセレは7831年没とも記されています。
ファジル死亡ののちネセレ死亡という順序であることは、ローニカの話からも明らかです。グラドネーラは年明けとともに一つ歳を重ねる数え年を採用しているので、問題は二人の死の間に年をまたいでいるのかどうかです。
少しイベントを見返してみましたが、【国王余話・リリアノ】にそれらしい情報がありました。リリアノはネセレの急逝に伴い、14歳で登城しました。そして「祖父は年明けにて、既に亡くなられている」、今まで伏せていて申し訳ないと話したそうです。
「にて」は結構曖昧な表現だと思いますが、その直前、先年あたりからファジルは体調を崩し目通りが叶わなくなったという情報が出ています。とすると、7380年にファジル死亡、翌7381年にネセレ死亡&リリアノ即位と考えるのが妥当かなと思います。というわけで、人物事典の享年61歳を採用しました。
無人の玉座の間を訪ねると、老女の侍従が現れて話をしてくれます。彼女は三代ファジルや四代ネセレの在りし日を知る古株であり、重大な秘密を抱える人物です。
【老女の想いは】で、彼女はかなりディープな話をしてくれます。憎悪の解釈の仕方、王が人に戻るときに起こることなど、キャラクターの心情を考える上ではかなり核心的な情報ばかりです。
ところで、この老女はいったい何歳なのでしょうか。彼女は三代国王の治世の終わり頃に王城で働き始め、四代の即位から死までを見守りました。そして五代国王リリアノが退位しようとする現在も現役です。
成人直後の15歳から働き始めたと仮定します。三代の治世を1年未満~数年経験したとして、ネセレの治世は約29年、リリアノの治世は約22年ですから、老女は優に50年以上王城で働いていることになります。
つまり、年齢はもう70歳近いのではないでしょうか。モゼーラを生んだときは44歳を超えていたはずなので、向こうの世界観では相当な高齢出産です。とはいえ、だからこそ老女とモゼーラの存在はうまく隠されたのかもしれません。
老女の侍従はネセレとほぼ同い年で、彼が即位してからずっと側仕えをしていたようです。ネセレの心にいたのは「あの人」だけだったそうですが、それでも老女としては良かったのだろうと思います。
ネセレがいた証を遺したかったという老女の話を聞くと、【遺すための仕事】や【生みの繋がり】でのモゼーラの話を思い出してしんみりとします。
モゼーラは好愛が上がりやすいキャラです。そのため、嫉妬イベント要員として他キャラルートで何度も協力してもらいました。本当に感謝しかありません。
彼女自身の嫉妬イベントについては、貴族が相手でもすぐには引かない押しの強さが印象的でした。二股イベントなどで対比される2人だからか、ユリリエの嫉妬イベントと共通するシチュエーションが多かった気がします。
ユリリエと似ているようで少し違うのは、最後まで押し切れない躊躇いがあることでしょうか。それは表面上、年齢差や身分差、容姿へのコンプレックスからくるものなのかもしれません。まあ、タナッセには完勝していましたが。
ローニカとリリアノのことはかなり警戒している様子で、察しが良いなと思いました。特にローニカ嫉妬では、貴人に対するようにモゼーラに接するローニカと、「時折ローニカに睨まれているようで怖い」と漏らすモゼーラが印象的でした。
年上の余裕のなさや湿っぽさを小出しにしてくるあたり、モゼーラはつくづくリアル寄りの造形だと思います。トッズやサニャへの反応を見てもどこか生々しい。それでも必死に主人公を想ってくれることを含め、モゼーラさんやっぱり好きだなと思わずにはいられません。
夢イベントについて。まず、【愛しき夢】では、夢判断の本を繰るモゼーラを見ることができます。彼女らしくて非常に可愛かったです。
【親しき夢】は、屋根裏で一緒に寝転がって本を読むというシチュエーションがノスタルジックでいいなと思いました。ごろごろと寝転がって本を読むのは、子供時代の(大人になっても?)あるあるだと思います。
ヴァイル憎悪監禁エンドとモゼーラ愛情エンドを並行しました。モゼーラは無謀にも新王に逆らい、城を辞めさせられたそうです。
本人はもちろん、ローニカあたりは少し悔しく思って見ていそうだと思いました。モゼーラさんのことだから、城下で新王への悪評をばらまいてくれるのでしょうか。しかし彼女には、主人公のことは忘れて他の人と早く結婚してほしいとも思います。もしかすると血筋的な意味で、印持ちが生まれるかもしれないので。
制作者様によれば、モゼーラは乱世で輝くタイプだそうです。なるほどという感はあります。平和に淀みつつあるリタントでは、彼女の溢れんばかりの気概と静かな情熱はうまく活かせないのではないでしょうか。あのバイタリティーと粘り強さを見るに、どちらかと言えば男向きだったのではと思わなくもないです。
良くも悪くも融通の利かない気の強さがあり、年上女性っぽいねちっこさも見せてくるので好き嫌いは分かれると思います。しかし、ギャップが素敵なお姉さんとして個人的には好きなキャラです。
その7は、主人公の侍従であるローニカについての感想です。
次回:『冠を持つ神の手』 ローニカ 感想 攻略 その7
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