トッズイベント「彼に飲ませるお茶」に見るグラドネーラ世界の伝承 【冠を持つ神の手/かもかて考察】
『冠を持つ神の手』(かもかて)のトッズルートにおけるイベント、【彼に飲ませるお茶】の感想&考察記事です。制作サークルは小麦畑様。ネタバレにご注意ください。
冠を持つ神の手
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≪元の記事:『冠を持つ神の手』 トッズ 感想 攻略 その12≫
この記事は、以前トッズの感想記事の一部として書いたもの(のリメイク版)です。新規の記事ではないです、すみません。
ちょっと元の記事が長すぎるなーと前々から感じていたので、内容的にも独立性の高いこの話を切り離して再掲させていただきます。トピックの主旨自体に大きな変更はありませんが、大陸の地図を追加し細部の情報を更新しました。
トッズの「おはなし」 グラドネーラ世界の伝承
各キャラクターのイベント群にはたいてい1つほど、本筋(キャラの掘り下げ)から少し離れたイベントが紛れている気がします。例として挙げるなら、タナッセ【選定の印】/リリアノ【唯一絶対の武器】/サニャ【中庭の猫さん】、モゼーラ【人と神の境】/ルージョン【建国王の仕掛け】……など(※主観)。
不思議なもので、そういったイベントほど妙に印象に残ります。選定印や神の解釈、グラドネーラの風俗や習慣といったものが主軸に据えられているから、個人的に印象深く感じるのかもしれません。
上記の事柄に対する、各キャラなりの地に足の着いた考え方がうかがえるのも嬉しいポイントです。神に対する姿勢や一般的な習わしへの考えなどから、その人のひととなりがより立体的に見えてくる気がします。かもかてのイベント構成は巧みだなーと思う所以です。
ところで、トッズルートにおけるそういったイベントは、【彼に飲ませるお茶】ではないかと思っています。これはトッズにお茶を振る舞ったお礼として、お題を1つ選んで彼に小話をしてもらうイベントです。提示されるお題は3つ。すなわち「一番美しかったものの話」、「一番怖いものの話」、そして「一番驚いた時の話」。そのどれもが個人的には大いに興味を引かれるような内容でした。
もちろん、この時のトッズは旅なれた商人を装って主人公に接しています。だから彼が本当に話題となっている場所(地の底や魔の草原)に行ったかどうかは怪しいものです。実際、「口から出任せの与太話」とトッズ自身が最後に断ったりもします。
ただ、仕事柄トッズのフットワークが軽く、一般人よりはるかに活動範囲が広いのは確かです。また、リタントの民間伝承を実話風にアレンジして語っている可能性もあります。
虚実はさておき、グラドネーラ世界の神秘的な側面を知ることができるという点で、【彼に飲ませるお茶】はとても興味深いイベントだと個人的に思っています。それでは以下、それぞれのお話について詳しく見ていきます。
一番美しかったものの話 魂の沈む山
Photo by Daniel Leone on Unsplash
「一番美しかったものの話」では、山の中へ(文字通り岩と岩の間へ)分け入り、地の底で亡くなった人の魂らしきものを見つけたときの体験談が語られます。
これは、グラドネーラ世界の死生観に密着したエピソードです。グラドネーラでは、人が死ぬことを「お山に登る」と表現することがあります。死後の人の魂は神に導かれて肉体を離れ、「山へ至る」のです。
山に集った魂のうち、神の覚えめでたき人の魂は山を登って神の国へと迎えられます。神の覚えめでたき人とは、寵愛者や高名な神官(王城の神殿の壁に『聖徒』として名前が彫られている人たち)だと一般的に解釈されています。
神に選ばれた人々の魂が神の国へと向かう一方、そうではない大勢の人々の魂は、そのまま山に沈んで地へ還ると言われています。しかし、そのことはけして「終わり」を意味しません。人の魂は再び地上へと甦り、新しい命を得ます。永遠に繰り返す魂の輪廻こそが「神と人の約束の証」なのです。
つまり、「一番美しかったものの話」の中でトッズが見たと主張するのは、山に至って地へ還っていく人の魂ということになります。山の奥深くの竪穴のような場所で、輝く魂が下へ下へと降りていく……なんとも神秘的な光景です。
ただ気になったのは、トッズはどのあたりの山に入ったのかということです。真っ先に考えついたのは、南東の果ての聖山(古都ディットンにある宗教的聖地。かつて太陽神アネキウスはこの山の頂上から天へ戻ったとされる)でした。とはいえそれならトッズが言及しそうなものだし、そもそも麓に古神殿があるので、簡単には入山できないかもしれません。
もう一つ思いついたのは、「輝岩山脈」でした。この山脈の麓には「ニッケセネ」という街があり、時折珍しい品物を王城に納めているようです(ローニカ、【市の日】)。「輝岩」という名前からしてレアな石を産出しそうなので、その繋がりでワンチャンあったりしないかなと思いました。
また、トッズの語る宝石も気になります。「陽の光に燃え立つように七色の光を宿し」、「月の光の下ではまるで何も持っていないかのように透き通る」と表現されていましたが、読んでいてふと「七色って具体的には何色なんだろう?」と思いました。
「虹は何色?」という質問は、世界各地の文化の違いを際立たせる問いとしてよく引き合いに出されるものだと思います。「グラドネーラの七色」について具体的な言及はありませんが、想像する上で、グラドネーラの太陽が参考になるんじゃないかと個人的には思います。
というのも、グラドネーラの太陽は夜になると光を弱めて月となり、六十日周期でわずかに色を変えつつ、六つの色(白緑青赤黄黒)の光を発するらしいからです(事典より)。六色ということで一色足りないわけですが、グラドネーラの七色はこの六色と似た構成なんじゃないかと予想しています。
一番怖いものの話 南の果ての魔の草原
Photo by Courtney Corlew on Unsplash
「一番怖いものの話」を選ぶと、誰もが恐れる南の果ての魔の草原に分け入ったときの体験談を聴くことができます。この話については、さしものトッズも「与太話」と最後に言い足していました(だから「“怖い”話」と、他2つの話のように過去形では形容していないのかも)。
国王リリアノは【移譲の儀】において、「かつて我ら草叢にあり」から始まる文言を暗唱します。この文言は、ルラントに率いられた三足族がリタントを興すまでの経緯を簡潔に語るものです。そして、ここで言う「草叢」とは、「魔の草原」周辺を指すと考えてもいいと思います。
ダリューラ時代の三足族は、差別を受けて南へと追いやられ、草原のすぐ近くに集住していたそうです。トッズ愛情エンドで主人公たちがたどり着いた「始まりの森」と呼ばれる場所こそ、彼らの祖先のかつての住処だったのでしょう。のちの建国王たるルラントもまた、南方の集落の出身でした。
反乱を起こしたルラントは古神殿を包囲し、北の穀倉地帯へと攻め入ってリタントを建国するに至ったわけですが、まさに「草叢」こそは三足族およびリタントの「始まりの地」と言えるのかもしれません。
※ちなみに、大陸グラドネーラにおける「魔の草原」や「始まりの森」の位置は下図の通りです(公式サイトに掲載されている大陸の地図を参考にさせていただき作成しました)。
トッズは、魔の草原の向こうにあった「魔法王国」の話題にも冗談交じりに言及します。売り口上でも魔法王国の遺跡を引き合いに出すことがあるので、話のタネにもなるこういった伝承に詳しいのかもしれません。
「最後の魔法王国」テラーソーは、神の怒りに触れて滅びた国だと言われています(ダリューラ時代に三足族が迫害されていたのは、このテラーソーの民の末裔なのではないかと疑われたためでもあるようです)。魔の草原にはテラーソーの最後の王が呼び出した魔物が棲みついている、とまことしやかに伝えられています(公式サイトのグラドネーラ事典より)。
たしかにトッズの語る魔の草原の描写を聞いていると、草原には何らかの魔術or呪いがかけられているようにしか思えません。草は刃物のように硬くなり、草丈は人を呑み込むくらいに高く、足下は柔らかく人を引きずり込むかのよう……って聞いているだけでも恐ろしいです。
また、魔の草原の恐怖は物理的なものには限られません。真に恐ろしいのは、草原から聞こえてくる「声」です。「声」について、トッズは以下のように語ります。
「夜風になびく草の上を滑るように、あの歌は聞こえてくる。女の声だ」
トッズ 「彼に飲ませるお茶」 冠を持つ神の手
「歌……、いや、悲鳴、なのかな、あれは。胸が詰まる悲哀の響きだ」
人によっては草ずれにしか聞こえないこの声に惹かれ、毎年一人か二人が草原に消えるとトッズは話します。ここまで話を聞くと、人知を超えたものが草原の向こうにいて、草原全体に影響を及ぼしているようにも思えてきます。
さて、ここで思い出したいのが、魔術師ルージョンの言葉です。グラドネーラには不思議な力によって尋常ではないことを成す人々が存在します。しかしその末裔であるルージョンははっきりと、魔術にできることは「恐ろしく少ない」と語っています。
「人を虜にしたり、操ったり、あっという間に眠らせたり、その人にしか見えない幻を見せたり(中略)そんなのは全部世迷言さ」
ルージョン 「魔術にできること」 冠を持つ神の手
上記のルージョンの認識に基づけば、少なくとも現代の魔法では、人の心を操ったり記憶を改ざんすることはできないことになります。
魔の草原の逸話とルージョンの意見をすり合わせてみたとき、ふと思い浮かんだ人物がいます。それは、市に登場する謎の占い師です。
彼女は攻略上のお助けキャラとして、特定の人物の好感度を高めたり低めたりしてくれます。しかし、この占い師がやっているのは、まさに「魔術ではできない」とルージョンが断言したことばかりではないでしょうか。彼女は特定の人物に夢を介して幻を見せることができます。それによってその人物の心を操り、時にはその記憶をも利用しつつ、彼/彼女の心の傾向を強めることができるのです。
ただでさえ怪しいのに、ルージョンの話を踏まえるとことさら怪しく見えてくるこの占い師は、どうやら女性のようです。ずるずるとした服を着こみ、全身に装飾品をつけ、フードを深く被った彼女の正体は謎に包まれています。
3度の占いを終えると、彼女は主人公の目を眩ませ姿を消してしまいます。しかしその後も主人公に故郷の夢を見せ、「貴方の心に私は寄り添う。貴方の歩みを私は見届ける」と囁きかけるのです(【かの村の夢】)。
顔見せはNGらしいので仕方がないですが、この占い師の何が一番印象に残るかと言えば、やはり「声」だろうと思います。「美しい声音」、「からかい混じりの、女の笑い声」、「艶やかな囁き」など、その声は様々に表現されています。
ここから、草原を渡る声の主とこの占い師は似たようなものなのではないか……と思ってしまいました。どちらも(少なくとも現代の)魔術師ではなく、人ならざるものなんじゃないかな、と。占い師は主人公を「人の」王の子とわざわざ呼ぶので、なおさらそんな気がします。
最後に余談ですが、このお話で「好奇心から」を選択したときのトッズの反応がけっこう印象的です。まさに「二人っきりで逃避行」をすることになる愛情エンドの暗示のようにも聞こえました。
※「魔の草原」近くの集落の出身であり、反乱軍を率いてリタントを興した初代ルラントに関する考察記事も書いています。ルージョンイベントの【建国王の仕掛け】で提示された疑問について、「ルラントと魔術の関わり」という切り口から考えました。
≪関連記事:ルージョンイベント 「建国王の仕掛け」と初代ルラントの謎 考察 【冠を持つ神の手/かもかて】≫
一番驚いた時の話 トッズの理想と平凡な村
Photo by Johannes Plenio on Unsplash
「一番驚いた時の話」をねだると、かつてトッズが見た「何てことのない村」の話を聞くことができます。
以前サニャの感想記事の中でも書きましたが、この話でトッズが見た村というのは、主人公の故郷の村なんじゃないかと個人的には思っています。「囲む黄色い花畑」というトッズの言葉が妙に気になるんですよね(逆に言うとその一点しか決め手はないわけですが)。
主人公の出身の村は、特産品として「黄花油」を納めていました。この油の原料は、昼の太陽の強い時間にだけ咲く小さな黄色い花です。この黄色い花は、「地味が違うから育てるのが難しい」というモゼーラの発言も併せて、リタント各地に群生しているような花ではないと推測できます。
主人公はこの花について、「村から少し歩けば、現れる一面の黄色い絨毯。それが私の日常の光景だった」(【舞踏会の日に】)……と語っています。
この「一番驚いた時の話」を見返していて、一番驚いたと銘打って理想通りの村の発見を挙げるトッズの心境にしんみりしてしまいました。「その村に俺はいなかったから去った」というくだりにも同じく。普通の村の生活を実感として知らないからこそ、強く印象に残ってしまうんだろうと思います。
このお話、他3つと比べるとオチが弱めなんですよね。お約束の主人公へのアピールに繋げているとはいえ、トッズの語り口もやや冴えません。だからこそ、民間伝承的な趣きのある他の話とは違い、この話だけはトッズが実際に体験した話なんだろうなと感じました。
*****ここまでお読みいただきありがとうございました。【彼に飲ませるお茶】のお話はかなりファンタジックなので読んでいてワクワクしますね。他のキャラの感想記事についても、トピックを一部抜き出して再掲しようかなと考えています。
※関連性の高い記事
・元記事:『冠を持つ神の手』 トッズ 感想 攻略 その12
・主人公の村の話:『冠を持つ神の手』 サニャ 感想 攻略 その8
・ルージョンイベント 「建国王の仕掛け」と初代ルラントの謎 考察 【冠を持つ神の手/かもかて】
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