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『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男) ※ネタバレ注意 その3

2018/10/21
RPG(ロールプレイングゲーム) 0
フリーゲーム 感想 考察 攻略 RPG ファンタジー ダーク クトゥルフ神話 WIZMAZE

マルチシナリオ型ファンタジーRPG、『WIZMAZE』(ウィズメイズ)のキャラクター (アルマヴィタ・ナジーシャ・痩身の男)に関する感想記事です。考察とネタバレが含まれます。制作者はJakalope(ジャカロープ)様。作品の公式サイトはこちらです。 → WIZMAZE

WIZMAZE ナジーシャ ヒトを救えるものはヒトしかいない スクショ

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今回の記事では、Bルート&Cルートで仲間になってくれるアルマヴィタ、ナジーシャ、痩身の男の3人について詳細な感想を書きます。具体的には、戦闘ユニットとしての使用感、キャラのパーソナリティー、イベント内容等に触れます。

また、考察というほど大げさなものではないですが、仲間キャラ4人の言動を参考に『WIZMAZE』のテーマについて色々と考えました。キーワードは「ヒトであることは誇り」だと思います。

以下には、「キャラクターの経歴」や「キャライベント内容」、「ギフト会話」等のネタバレが含まれます。また、「痩身の男」に関する感想には、その正体や過去の情報が含まれます。未見の方はご注意ください。

※『WIZMAZE』感想記事一覧

・その1:『WIZMAZE』 マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説
・その2:『WIZMAZE』 ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート・Bルート・Cルート)

・その3:『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男)(現在閲覧中)
・その4:「人間界の王」とは何か? 『WIZMAZE』の伏線&元ネタ考察

ガンジールのアルマヴィタについて

wizmaze スクショ アルマヴィタ 偉大な姉への複雑な思い

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アルマヴィタの来歴

見習いウィザードとして≪宵闇の学院≫で学ぶ「アルマヴィタ」(以下「アルマ」)は、「アルガン」と呼ばれる有翼人です。

アルガンは屈強な肉体と強い力を持つ種族であり、狩猟や鍛冶を得意とします。アルマはアルガンとしては小柄で非力だったため、故郷で同胞たちに虐げられた過去を持っています。そのため、力と強者を尊ぶアルガンの思想には少なからず反発を覚えているようです。

また、アルマの出身地である「ガンジール」は帝国領ですが、現状はアルガンに実効支配されています。ガンジールの事実上の支配者は、ダァトを崇める竜神教の総本山でもある「北の修道院」、および修道院の僧兵長である「ナーラウェン」です。

ナーラウェンはアルマの実の姉であり、唯一の肉身でもあります。アルマは魔道士となるべく故郷を離れて帝国の首都へと赴きましたが、その際にナーラウェンとケンカ別れしてしまったことを今なお引きずっているようです。

戦闘ユニットとしてのアルマヴィタ

戦闘ユニットとしてのアルマは、物理攻撃・防御に優れたヒーラーです。アルガンならではの頑丈さ(出血、転倒状態にならない)と、本人の資質(回復魔法の効果UP)からくる多種多様な癒しの魔法が持ち味。敏捷(素早さ)は低いものの、パーティの回復役なのでむしろ好都合です。主人公が覚えられない「広域回復」(仲間全体を回復)はとても便利な技だと思います。

魔闘士志望なだけあって筋力に比べて魔力が低いですが、アルマはアルガンならではの喚鳴界由来の力を使うことができます。「竜皮」(仲間全体の物理耐性UP)「竜骨砕き」(打撃、喚鳴殺、+転倒)は天空の古寺院で特に役立ちました。とりわけ後者は消費MPが0なので、序盤から終盤まで使える強くてコスパの良い技でした。

アルマの魅力とキャライベント感想

アルマは、1周目にBルートを攻略したときに初めて仲間になってくれたキャラクターでした。優しげな風貌と背中の翼、屈強な体つきがいいバランスだなーと思ったのを覚えています。初プレイの時点で好きになりましたが、時間を置いてからの2回目プレイでアルマのことがもっと好きになりました。

アルマの魅力は、純朴でおっとりとした性格と感情の表れ方が素直なところだと思います。会話していてすごく落ち着くし和みます。冗談を真正面から受け止めて動揺するタイプの人なので、ついついからかう感じの選択肢ばかりを選んでしまいました(最初に追いかけてきたとき「何か用か?」を選んだり、ギフトでドレスを渡してみたり)。

好感度設定のないゲームにしては、『WIZMAZE』は選択肢や会話内容が細やかに作り込まれています。アルマに限らずナジーやカリスについても、選択肢次第とはいえ、色々と想像できるやりとりが多いなーという印象です。

これはたぶん、Aルートに入らない限り、3人の主人公への好感度がデフォで高いせいだと思います。アルマ、ナジー、カリスは強い個性と重い過去の持ち主ですが、出会ったばかりの主人公にはすんなりと打ち解け、しかも特別視してくれるんですよね(もちろん主人公が無条件で好かれることにはちゃんと理由があります)。そういうわけで、想像の余地のあるキャライベントが多いのかなーと感じました。

印象に残ったキャライベントをいくつか挙げると、まず「ワザと落ちてない!?①」でのワタワタ感がツボでした。ある意味お約束の「アルマに助けて欲しいから」を選ぶのもいいですが、しらばっくれるのも個人的には好きです。なぜかアルマの方が大いに反省するので申し訳なくなる一方、本当に良い人だなーとニヤニヤできます。

あと、東塔最上階の仕掛けを解くイベントも、失敗したときのアルマの反応が面白かったです。実際に血がドクドク出ていると思うので納得の反応ではありますが、たぶん主人公があまり動じていないだろうことを想像すると、アルマの慌てぶりに笑えてしまうというか。

ちなみに連続失敗するとアルマが代わりに仕掛けを解いてくれます(「これ以上きみがやったら……」)が、代わってくれと頼まれて主人公が拒否(「いやだ」)したときの反応も、アルマらしくて面白かったです。

また、天空の古寺院からセントラルに戻ったとき、「ナジーを助けに行こう」と言うアルマに「……」を選んだときのやりとりもいいなーと思いました。ここの会話は主人公の気持ちを色々と想像できるのがいいなと思います。「怪我してないから落ち着け」と直後に弁解するので、単にぼーっとしていたわけではなく、意図的に黙り込んだんだろうと思うんですよね。ということは……みたいな。

最後に、ダンジョン終盤で傷ついたアルマを助けた後、回復したアルマがダンジョンボス手前で合流する際のやりとりもすごく好きでした。

普通にBルートをプレイしていると、最初に協力しようと声をかけられたときにOKするものだと思います。ただ、最初に仲間入りを蹴った場合でも、ダンジョン終盤に仲間のピンチを救えば加入してくれるんですよね。だから、Cルート狙いの周回でダンジョンボス手前で合流するバージョンも確認し、その結果「めっちゃええやん」とテンションが上がりました。

合流イベントはアルマとナジーの両方に用意されていて、追いついた2人に対する答えも同じ三択から選ぶことができます。どちらに対しても「遅い!」が盛り上がるかなーと個人的には思いました。

アルマの場合、直前のセリフがシチュエーション的に妙に盛り上がるセリフなので、なおさら「遅い!」と返したくなります。それに対する返答もまた良くて、アルマって良いなあ好きだなあとつくづく思いました。

アルマはただ穏やかで優しいだけでなく、お姉さんや同胞、故郷に複雑な思いを抱いていたり、従軍した過去を持っていたりします。特にイシュタル像前のイベント(「故郷と偉大な姉」)では、険しい表情で過去と絡めた強い決意を語ってくれるのが良いギャップでした。

アルマは争いを愚行と言い切る一方、かつて奴隷だった自分たちが解放されるには争い(刻月戦争)が必要だったことを認めています。そして、その争いによって「権利」を勝ち取れたのは、姉のナーラウェンのような力ある強いアルガンたちがいたからです。

「力こそ正義」を地で行くアルガンの思想に反発を覚えているアルマにしてみれば、どうしても複雑な気持ちになってしまう現実だろうなと思います。だからこそ、「魔道士になって同胞たちに異なる考え方を示したい」と願うアルマを応援したい気持ちになりました。

アルマに関しては、いくつか気になる&もっと知りたいポイントがあります。とりあえずは以下の3点でしょうか。

  • ≪宵闇の学院≫はアルマとナーラウェンの姉弟関係を知っているのか?(立場的には人質として入学したオブシディアに似ているが、アルマはどういう扱いの学生なのか)
  • アルマはどのタイミングで学院に入学したのか?(戦後まもなく故郷を離れたらしいが、すぐに入学したのか、それとも入学までにラグがあったのか。即入学したのなら、立場が似ているオブシディアと仲良くなっていそうな気がする。戦後生まれのナジーと同時期に昇格試験を受けているので、入学時期は終戦のもっと後?)
  • アルマは何歳?(刻月戦争の勃発が20年ほど前、そのとき従軍できる年齢だったと考えると、すでに40年くらいは生きている? アルガンの寿命や成長速度は他種族とどう異なっているのかも気になる)

アルマや姉のナーラウェン、アルマの友人で元剣闘奴隷のコールニクスなど、アルガンには個人的に気になるキャラクターが多いです。所属陣営が対立しているので、姉弟には微妙に対決フラグが立っているような気もするし(たしかウィザードは、戦時には帝国軍に協力しなければならないはず)。追加シナリオでアルガン陣営の掘り下げがあればいいなーと今から楽しみにしています。

ラビのナジーシャについて

wizmaze スクショ ナジーシャ 腐樹海の人々に希望を与えたい

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ナジーシャの来歴

「ナジーシャ」は、腐樹海出身の「ラビ」の女性です。刻月戦争で母を亡くし、重傷を負った父に背中を押されて≪宵闇の学院≫に入学しました。

「腐樹海」は「三歩歩けば死体に当たる」とさえ言われる、瘴気と湿気に満ちた疫病の蔓延する土地です。そこに住む貧しい「腐海人」は、長らく虐げられてきた歴史を持っています。

そんな腐樹海にあって、ラビは強い力と厳しい戒律を持つ一族であり、刻月戦争では腐海人をまとめ、先陣を切って果敢に戦いました。

しかし刻月戦争後、帝国の意向でラビは他の腐海人に優越する待遇を受けることになり、実質的に腐樹海の支配階層となりました。腐海人の対立を狙った帝国の狙い通り、現在一部の腐海人はかつてのラビの功績を忘れ、彼らに強い反感を覚えています。

ナジーシャは奴隷制がなくなっても状況の変わらない腐樹海を憂い、「いつか故郷を変えたい」という静かな熱意を抱いているようです。

戦闘ユニットとしてのナジーシャ

戦闘ユニットとしてのナジーシャは、一撃必殺の物理技が使える素早いアタッカーです。炎の精霊と親和性が高いラビの一族として、強力な炎魔法を操ることができます(炎魔法の威力が25%UP)。また、疫病と猛毒に対して耐性を持っています。

技の中では、ラビに伝わる暗殺技の「致命の一撃」、蘇生技の「透花掌」が便利でした。また、個人的にバフ技が好きなので、ボス戦では主人公と一緒に「鼓舞」(ATKとMAG上昇)をかけまくってもらいました。

あと、「呼水」(全体の闇耐性UP)も虚無界で非常に役立ちました。ナジーシャは敏捷が高いので、バフ技や耐性上昇技と相性がいい印象です。腐樹海は古くから虚無界と繋がりが深い地域ですが、「呼水」はあえて虚無に与せず炎の精霊を信仰してきたラビにふさわしい秘儀だと思います。

ナジーの魅力とキャライベント感想

ナジーシャは、気が強くハングリー精神旺盛な女性です。最初は古寺院→腐樹海の順にプレイしたので、「回復後すぐにライバル宣言をしてくる勝ち気なキャラクター」というイメージがありました。その後、今度は腐樹海を先に攻略して案外冷静で割り切った人であることを知り、ギャップを感じて一気に好きになった覚えがあります。

いくつか好きなイベントを挙げてみます。まず印象的だったのは、最初に焚火の前で声をかけたときのやりとりです。「いつもそんな調子なのか?」を選んだ際、ナジーシャに淡々と所信表明をされて驚いたことを覚えています。第一印象から「挑発的な言動に対しては同じトーンで言い返してくるのでは」と予想していたので、思いのほか冷静な返しが印象的でした。

このシーンでは「望むところだ!」を選ぶのが好きです。ナジーとアルマが友人になった理由や、『WIZMAZE』自体のテーマのようなものが垣間見える返答をしてくれるので(後述:"Human and Proud(ヒトであることは誇り)")。

次にコミカル系イベントの、「ワザと落ちてない!?②」も好きです。お約束の「ナジーに助けて欲しいから」を選んだときの、お姉さんっぽい呆れた感じの反応が可愛かったです。ナジーなりにデレてくれたのも嬉しかったですね。「わざと落ちてる」→「歯ぁ食いしばりなさい!」の流れも面白くていいなーと思いますが。

その他、可愛い系のやりとりは、主人公が物質界から帰ってきた後の会話でしょうか。アルマの鈍感さゆえにナジーの好意がバレる流れがナイスでした。ナジーとアルマの普段の雰囲気も感じ取れるやりとりだったと思います。

怒りを秘めるナジーシャの強さ

ナジー関連のイベントで最も印象に残っているのは、シリアス路線の「奴隷商人」イベントです。ナジーの割り切った大人なところと割り切れない激情家なところが同時に見られる良イベントだと思います。

特にハッとしたというか、ナジーへの認識を改めたのは、「商人を助けたい」という選択に彼女が素直に従う理由を聞いたときです。「やっぱりナジーはただ強気なだけの女性じゃないな」と思いました。

悲惨極まる腐樹海で生まれ育っただけあり、ナジーは肝が据わっていて現実的な思考ができる人です。故郷を平気な顔で食い物にする連中も腐海人を見下し侮蔑する帝国人も、今まで嫌と言うほど見てきたのでしょう(腐樹海に棲む深きものどもが帝都の好事家に理想化されているのも、ある種のオリエンタリズムを想起させるものがあります)。

しかしナジーの良いところは、悲惨な現状に対して感覚をマヒさせるのでなく、怒る気持ちを持ち続けている点だと思います。

1人の力ではどうにもしがたい現実に対し、「クソ喰らえ」と怒りを露わにするナジーシャが個人的にはとても好きです。すぐのぼせちゃって、と特定の話題にこみ上げる怒りを自覚している理性的なところも併せていいなと思います。

アルマやカリスもそうですが、『WIZMAZE』のキャラクターは「怒り」を胸のうちに秘めている点が印象深いです。基本的には割り切った思考と行動をするものの、自分の中の大切なものを侵されることだけは許せないし、そのときにヘラヘラ笑うのではなくきちんと憤ります。いつも怒りっぽいのではなく、怒るべき場面でしっかりと怒るわけです。

そういった怒りは人間くささの表れであるとともに、非難・軽蔑すべき事柄に対して「鋭い」感覚を持っていることの証左でもあると思います。

あちこち歩き回ったりオードの話を聞いたりする限り、ナジーの故郷である腐樹海は相当酷い状況にあることがわかります。「腐樹海に真の自由をもたらしたい」と望むナジーの決意が、少しでも実を結ぶことを願わずにはいられません。

Bルート後の主人公にはぜひナジーの生涯のライバルとなってもらいたいし、彼女を奮起させつつ時々は励ましてあげてほしいです。あと、アルマも誘って3人で美味しいものをたくさん食べに行ってほしいですね。

痩身の男について

wizmaze スクショ カリス 岬の墓標

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痩身の男の秘密と戦闘でのステータス

「痩身の男」は、仮想領域内の腐樹海の奥にある「錬金術師の小屋」に住んでいます。実は彼こそが仮想領域"ウィズメイズ"を創造したカリス・アルハザードその人です。かつては学院に在籍し天才の誉れ高かった魔道士ですが、虚眼の魔道士(虚無の眷属)であることが発覚し、半年前に宵闇の学院を追われました。

カリスはすでにヒトではなく、悠久の時を生きる存在です。彼の来歴と真実はCルートにて明かされます。

また、仮想領域"ウィズメイズ"は、ある目的のために作られた"篩(ふるい)"です。カリスと彼の同胞である"白のマクスウェル"は、彼らの宿願を叶えてくれる存在を待ち望んでいます。カリスとマクスウェルの過去、およびその目的は、Aルートで明らかになります。

カリスは主人公と同じく、全外領域から力を引き出すことができます(正確には今は通じていないらしいですが、領域魔法は使うことができるようです)。また、虚眼の魔道士として虚無界由来の独自の魔法を使うこともできます。

終盤にパーティインするお助けキャラという事情もあり、カリスは火力耐久ともに文句なしの性能を誇ります。全体回復&全ST異常を治す「再生」を持っているので、回復役になることも可能です。

カリスは虚無の眷属ですが、虚無殺の「虚ろ砕き」を使うことができます。虚無界ではこの魔法と「拡散する光の槍」が役に立ちました。あと、使う機会はあまりなかったものの、「掌握」はキャラクターにふさわしい魔法だなと思います。

痩身の男の魅力

痩身の男ことカリスは、ポジションからして特別感のある、『WIZMAZE』のキーパーソンと言ってもいいキャラクターだと思います。そもそも、ゲームタイトルの由来である仮想領域"ウィズメイズ"を創り上げたのは他ならないカリスです。アルマやナジーは同じ見習いとして協力し合う仲間ですが、カリスはお助けキャラとしてパーティインしてくれます。

まず、カリスの言葉選びや話し方に惹かれました。含みのある落ち着いた語りがいい味を出しているほか、ときどきかなり邪悪な笑みを浮かべるところも面白いです。アリゼ・ロベールの書いた『“小さき角”問題に関する反論』を読んだときの反応には笑いました。

不老不死、(ある意味)黒幕的存在、魔道の天才……とカリスは盛りだくさんの設定を持っています。同行してくれるCルートでは、かつて同じ立場にあったものとして主人公を導く、いわば賢者ポジションのキャラとして活躍します。古風なローブを身にまとい包帯で顔を隠した出で立ちも、古代人っぽいミステリアスな雰囲気に満ちています。

とはいえ、カリスはその性格まで典型的な賢者のように悟り切っているわけではなく、むしろ俗っぽかったり湿っぽかったりする一面が目立つキャラクターだと思います。

基本的に古風な言葉遣いでひょうひょうとしているものの、昔のことやオブシディアのこと、あるいはヒトならざる自分のことに話が及ぶと、じめっとした暗い感じが顔を出すんですよね。ちょっと悪趣味でジョークを言うのが好きな普段の態度と、諦め半分でポツポツと話す本音の部分のギャップがなんとも絶妙で、個人的にはとても好きなキャラでした。

特に印象深かったのは、カリスの諦めの悪さです。ケイランの言う通り、カリスはもはや自分がヒトではないことを痛いほど理解しているようです。それでもヒトらしいヒトに強く惹かれ、自分もせめてヒトらしくありたいと足掻くことをやめません。その諦めないところ、諦め切れないところが個人的には好きです。それだけ「ヒトであること」はカリスにとって大事なことで、そこだけは譲りたくないから割り切れないんだろうなと感じました。

前にもどこかで書きましたが、悟り切ったキャラクターにはあまり惹かれません。でも、表面上悟っているように見えて割り切れていない、現状を受け入れているようでどうしても諦めきれないものがあるキャラクターにはいつも心惹かれます。

カリスも長生きしているだけあって余裕はあるものの、けして悟り切ってはいません。だからこそ強く興味を引かれるキャラでした。

Cルートで明かされる真実と感動

自分の中でカリスから受けるインパクトが大きかったのは、Cルートの展開に感動したせいでもあります。A、Bルート攻略を通してキーパーソンであろうカリスへの期待は高まっていましたが、その期待はまったく裏切られませんでした。

AルートとBルートを攻略した私は、「そろそろ主人公がどういう存在なのか知りたい」という気持ちを強く抱いていました。加えて、AルートとBルートの結末、もっと言えば「Aルート&Bルートにおける主人公の着地点」にあまり納得できない気持ちも抱えていました。

AルートとBルートにおいて、主人公はそれぞれ虚無の眷属&黎明の眷属になりました。初見時も漠然とした嫌悪感を抱きましたが、後で「眷属化=本質を奪われ『異形』になること=ヒトでなくなること」だと理解し、さらに釈然としない心持ちになりました(詳しくは「"Human and Proud(ヒトであることは誇り)"」で後述します)。

Cルートおよびカリスとの交流は、そういった疑問やモヤモヤ感を完璧に解決してくれたというか、欲しかった答えとエンディングを私に与えてくれたんですよね。

Cルートでは主人公の正体、およびかつてカリスが主人公と同じ「アトモストゥーナ」であったことが明かされます。いわば主人公は、(呪いを受ける前の)過去のカリスであったわけです。

本質を失ったことに起因する苦悩と「ヒトであること」への切望。過去の過ちを嘆くカリスの言葉を聞いて、AルートとBルートで主人公の身に起こったことの重大さをようやく理解できた自分がいました。そしてカリスの後悔が印象的であればあるほど、「本質」を保ったまま、つまり“ヒトとして”試練を終えることのできたCルートの意義深さが実感できるような気がしました。

Cルートの、「(主人公には)人間界を助ける存在であってほしい」とカリスが願ってくれるラストには感動せざるを得ませんでした。カリスが失意を抱えて悠久の時を生きてきたことを思うと、彼との間に芽生えた友情や、彼の心からの願いのこもった言葉が嬉しくてたまらなかったです。

カリスに関しては、追加シナリオで更なる掘り下げがありそうですね。楽しみにしています。

"Human and Proud(ヒトであることは誇り)"

wizmaze スクショ ナジーシャ 魂の一番大事な部分を踏みにじられる痛み

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Bルート、Aルートとクリアして、Cルートでカリスの過去と思いを聴いているとき、強く感じたことがあります。それは、ヒトならざる者であるカリスや、ヒトとして扱われないことの痛みを知るアルマやナジーにとって、「ヒトであることは誇り」なんだろうなということです。

カリス、アルマ、ナジーは3人とも「お前はヒトではない」という他者の言動に直面したことがあり、自分のアイデンティティについて葛藤した過去を持つ人たちです。

たとえばカリスは、実際に上のようにマクスウェルに指摘されて激高していました。アルマは同胞たちの中では常に疎外感に悩まされていたらしく、第三階級に属する者として奴隷解放戦争に従軍したこともあります。ナジーは戦後生まれですが、腐海人ゆえに侮蔑されることが日常茶飯事のようです。

そういった経験ゆえに、3人の「ヒトであること」への意識・自覚は強く、「ヒトであること」は彼らの魂の尊厳と直接的に関わるテーマなんだろうなと感じました。だから「ヒトであること」を否定されるシチュエーションに臨んだとき、あるいは尊厳を侵された過去に話が及んだときに、3人はそれぞれセンシティブな反応を見せるのだと思います。

もちろん、正史は主人公がメイガスロードになる(ヒトではなくなる)Aルートです。ただ、Bルートでのカリスの言葉(“アドラールは貴公に人ならざる力を与えた、そして≪最も尊きもの≫を奪っていった”)や、Cルートラストでの悔恨と願いを聴くに、「ヒトであることは誇り」という意識は、『WIZMAZE』の根底に流れているものなのかもしれないと感じました。

Cルートをプレイしたとき、「ヒトであること」に執着しヒトらしさに憧れるカリスが印象的だったんですよね。Bルートで自分を抑圧されて然るべき存在だと思ったことは一度もないと語気を荒くして語るアルマや、静かなトーンで魂の痛みについて触れるナジーについても、やはり強く印象に残りました。

現代日本人としては、人としての権利を真っ向から否定される状況にはやはり馴染みが薄いです。しかし、アルマやナジーほど深刻なレベルではなくとも、心の大切な領域を侵される痛みは、生きていれば一度や二度は経験するものだと思います。そういう意味で、メインキャラ3人にはそれぞれ共感できるポイントが多かったです。

ところで、「AルートとBルートの終着にあまり納得できなかった」と上で書きました。なぜ嫌なのか自分でもよくわからず不思議に思いましたが、今思えば、「主人公が奴隷になるエンド」だから釈然としなかったのだろうと思います。

『WIZMAZE』では繰り返し、ヒトがヒトを支配することの愚かしさと、他者に尊厳を踏みにじられることの苦しみが語られます。奴隷制度への批判的眼差しはその延長線上にあるものです。たとえばアルマは、奴隷であった彼の親友について話した後、以下のような認識を示します。

肉体、魂、本質……己が三元は、たとえ何があろうとも己だけのものだ。
それを奪い取る奴隷制度は間違っている、――絶対に。

WIZMAZE

肉体、魂、そして本質。3つとも、『WIZMAZE』世界においてヒトがヒトであるために欠くことのできないものです。他人に侵されてはならないものです。

だとすれば、本質を明け渡して黎明or虚無の眷属となった主人公は、肉体的自由を奪われた奴隷と大きくは変わらないのではないでしょうか。個人の尊厳を重視するカリス達の姿勢に共感したからこそ、特に強制的に本質を奪われるBルートに嫌悪感を覚えてしまったんだなーと後で思いました。

元ネタ:『X-MEN:FG』の「ミュータントは誇り」

wizmaze スクショ ヒトであることは誇り

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ちなみに、項目タイトルの「ヒトであることは誇り」="Human and proud."というのは、"Mutant and proud."(ミュータントは誇り)のもじりです。カリスの独白を聴いていたら、ふと映画『X-MEN: First Generation』(原題は"X-MEN: First Class")でのエピソードを思い出したので、項目タイトルに使いました。

以下、『WIZMAZE』とは直接関係のない映画語りです。『X-MEN: First Generation』(X-MEN:ファーストジェネレーション)(以下、『FG』)のネタバレを含むので、未見の方はご注意ください。

ご存知ない方のために一応説明すると、「X-MEN」シリーズは、遺伝子の突然変異によって超常的な力を得たミュータントたちの活躍を描いた物語です。テレパスがいたり、目からビームを出す人がいたり、金属を自在に操る人がいたり、ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンがいたりするシリーズですね。

"Mutant and proud."というセリフは、『FG』の中で何度か象徴的に使われた言い回しです。『FG』は新章の第一作目であり、それまでのシリーズから数十年ほど昔(プロフェッサーXにまだ髪があり、歩行もでき、軽妙なミュータントトークで女性をナンパしていた頃)のエピソードを扱っています。

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

X-MEN: ファースト・ジェネレーション

"Mutant and proud."というセリフを口にするのは、ヒロインの「レイヴン・ダークホルム」です。彼女はのちに「ミスティーク」を名乗って人類と敵対するミュータントですが、FGにおいては、「普通になりたい」と切望する悩み多き人物として描かれています。

レイヴンは特異な変身能力を持つミュータントですが、その代償とも言うべきか、鱗のような青い肌に全身を覆われた体で生まれました。容姿のために忌避された過去を持つ彼女は、「ミュータントであること」に強いコンプレックスを抱き、常に綺麗な女性に変身して生活していたのです。

しかし、同じミュータントたちとの交流を通じて、レイヴンの考え方は徐々に変化していきます。

映画終盤に「人類との共存か敵対か」を迫られたとき、レイヴンは最終的に後者を選択し、その際"Mutant and proud."(ミュータントは誇り)と言い残します。「人類から迫害されるミュータントの自分を否定せずに受け入れ、むしろミュータントであることに誇りを持って生きていく」と宣言したわけです。

もちろん、ミュータントである自分を否定し続けていたレイヴンと、ヒトである自分を否定され続けてきたアルマやナジーでは前提からして違います。

ただ、レイヴンもアルマ&ナジーも、マイノリティーとして辛酸を舐めた末に、自分という存在(自分のアイデンティティー)に強い自覚と誇りを持つという結論に至っているんですよね。そういう意味で、『WIZMAZE』のキャラと『FG』のキャラをどこか似ているように感じたのだと思います。

「X-MEN」シリーズは、「少数者に対する差別や疎外」をテーマの1つにしています。そもそも進化した人類であるミュータントは圧倒的なマイノリティーです。親や友人に気味悪がられるのは序の口で、場合によっては迫害されたり、非人道的な実験の被験体にされたりすることもあります。

他のアメコミヒーローものとの違いは、ミュータントたちにヒーロー感があまりないことでしょうか(個人の意見です)。ミュータントたちの多くは「普通ではない自分」・「理解されない自分」に悩み苦しみます。特別な使命や理由もないのに特殊な能力や外見を持って生まれ、家庭や社会において差別や迫害を受けたケースが多いからです。

そのため、総じて「周囲と異なる自分をどう受容するか」、「自分と世界(人類)の関係がどうあることを望むか」ということをシリアスに考えるキャラの目立つ作品だと思います(人類支配してやるマンになった悪役の方が、悩みもなくのびのびとヒャッハーしているイメージ)。

とりあえず、『FG』はマジで面白いのでオススメです(マシュー・ヴォーン監督はスゴイ)。

*****

次回は、「虚無界の元ネタ考察」と「人間界の王考察」を中心に書きます。

「人間界の王」とは何か? 『WIZMAZE』(ウィズメイズ)の伏線&元ネタ考察 ※ネタバレ注意 その4

・その1:『WIZMAZE』(ウィズメイズ) マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説
・その2:『WIZMAZE』(ウィズメイズ) ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート・Bルート・Cルート) ※ネタバレ注意

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かーめるん
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