「人間界の王」とは何か? 『WIZMAZE』(ウィズメイズ)の伏線&元ネタ考察 ※ネタバレ注意 その4
ダークファンタジーRPG、『WIZMAZE』(ウィズメイズ)の「人間界の王」および「虚無界の神々の元ネタ」について考察する記事です。ストーリーのネタバレを含みます。制作者はJakalope(ジャカロープ)様。作品の公式サイトはこちらです。 → WIZMAZE
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『WIZMAZE』は、ゲーム世界を理解する上での資料が充実している作品です。「世界のあり方」から「人間を構成する要素」まで、ゲーム中で濃厚な世界設定にじっくりと目を通すことができます。
単に情報を羅列するだけでなく、著者の情報と文献の内容・言葉遣いが関連付けられていたり、書籍に読者の書き込みがあったりするのが芸コマだと思います。ゲーム内資料を読むのが好きなので、『WIZMAZE』の文献の充実っぷりは本当に嬉しいポイントでした。
今回の記事では、そういったゲーム内資料を参照しつつ、プレイ中に気になったこと・考えたことをまとめました。具体的には、「守り人と"人間界の王"」と「虚無界の神々のモデル&モチーフ」について書いています。以下、アーカイブのネタバレを含みます。
※『WIZMAZE』感想記事一覧
・その1:『WIZMAZE』 マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説
・その2:『WIZMAZE』 ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート・Bルート・Cルート)
・その3:『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男)
・その4:「人間界の王」とは何か? 『WIZMAZE』(ウィズメイズ)の伏線&元ネタ考察(現在閲覧中)
守り人と“人間界の王”
この項目では、個人的に興味深いなーと思っている「人間界の王」について、いくつか気になる情報を拾ってみました。
*参考にしたゲーム内の文献:『領域存在あるいは神について』『人間界の神』『亡国の軌跡』『腐海の底:守り人の祭祀場』『王の守り人』
前提として、『WIZMAZE』世界の宇宙にはたくさんの「領域」が存在します。そして基本的に、各領域には強大な力を持つ支配者(=「領域存在」、神or王のようなもの)がいます(参考:上図)。
たとえば、クレルモフェラン帝国の後援者である「アドラール」は、「星霜界(エタニティ)」を統べる領域存在です。また、アドラールと対立する「虚眼ノ王」および彼の三人の子は、「虚無界(ヴォイド)」を支配しています。
※『WIZMAZE』世界の「領域」と「領域存在」、彼らと対応する「人間界の勢力」に関しては、記事その1に詳しくまとめました。
≪関連記事:『WIZMAZE』(ウィズメイズ) マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説 その1≫
しかし数ある領域の中で、なぜか「人間界(モータリティ)」には領域存在が存在しません。原初の領域とされる「真理界(ウィズメイズ)」と同じく、王を戴かない例外的な領域であるわけです。
二千年ほど生きているらしいカリスでさえ、「人間界の領域存在を見たことがない」と記しています。プレイヤーとしても、救いを求めて苦労したクレトラ(深きものどもの長)の話を聞いていて、「どうして人間界には神がいないんだろう」と思いました。
この「人間界における領域存在(人間界の王)」に関して、気になることを記している文献がいくつかあります。それぞれの文献の記載・主張をざっくりとまとめると、次のようになります。
腐樹海の最下層、“穢れ溜まり”のさらに下に、“故も知らぬ人々(アビ)”が「守り人の祭祀場」を作っている。“故も知らぬ人々”は「守り人」と呼ばれ、真理界と通じ予知の能力を持つが、その代償として肉体と魂を捨てたヒトならざる存在である。彼らは不在の領域存在、人間界の王である“オールドキング”の帰還を待っている。
私自身の話ですが、プレイ中には「守り人」や「オールドキング」といった単語について深く考えませんでした。「『穢れ溜まり』って地下道かな」、「『守り人の祭祀場』は海境の祭祀場の別名なのかな」とかごくアバウトに片付けていました。
しかし、全ルートをクリアしてアーカイブを改めて読んだときに、「そういえば『守り人』とか『オールドキング』ってゲーム中に出てこなかったな~」と気づきました。同時に、「24ある文献の3つを使って言及されている時点で、『人間界の王』って相当重要な情報じゃないか?」とも思いました。
文献の記述をまとめると、腐樹海の最下層のさらに下に、「守り人の祭祀場」があるということですよね。そこには「守り人」と呼ばれる人々がいて、カリスでさえ見たことがない「オールドキング」の帰還を待ち望んでいる。そしてオールドキングは、人間界の危機には必ず帰還すると伝えられている……。
なんというか、考えるだにワクワクする隠し設定(あるいは伏線)だと思います。今作で文献のみの言及だったということは、続編で重要なダンジョンになったりするのでしょうか。正史であるAルート(魔人王ルート)の後というとまさに人間界は危機に瀕しているはずなので、なおさら関係してきそうです。
あと、興味を引かれるのは、『人間界の神』という文献内にある「帝国の皇帝は代々奴隷王リアトリスの本質を受け継ぐ~」というくだりです。
クレルモフェラン帝国の成立は数百年前なので、「はるか昔から存在する守り人たちはなぜ、またどういう経緯で皇帝たちと接点を持ったのか?」といった疑問はあります。ただ、これまたワクワクするダークな仮説だと思いました(他ゲーの話でアレですが、『Ruina』のアルケア帝国を思い出しました)。→ 『Ruina 廃都の物語』 感想 考察
また、文献の走り書きによると、カリスは「穢れ溜まり」まで潜って実際に守り人を見たことがあるそうです(その走り書きを見たこともあって、穢れ溜まり=地下道と最初は勘違いしていました)。
ギフト会話によれば、「穢れ溜まり」=「エリンガナを祀る異形司祭のいる場所」のようです。穢れ溜まりと守り人の祭祀場はけっこう近接しているのでしょうか。「守り人の祭祀場」は領域内領域ではないか……といった示唆もしているので、カリスからはもっと詳しい話を聞きたいところです。
虚無界の領域存在とクトゥルフ神話の「外なる神々」
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アドラール一強の星霜界、謎に包まれた喚鳴界とは異なり、「虚無界(ヴォイド)」は関係者が数多く登場する、情報量の多い領域です。
この虚無界の神々ですが、クトゥルフ神話とその神格(特に、外なる神々/アウターゴッド)をモチーフに造形されているような気がします(ちょっとややこしい事情がある*ので、この項目では「クトゥルフ神話の『外なる神々』」を"アウターゴッド"と記述します)。
そもそも、虚無界の別の呼び方である「ヴォイド」自体、「宇宙のある領域」を示す言葉です。そして、特にラヴクラフトの原作を語る上で、コズミックホラー(宇宙的恐怖)要素は欠かせません。また、虚無界のシンボルとされる「燃える三眼」(タイトル画面でも確認可能)は、クトゥルフ神話のある神格の化身を指す言葉でもあります。
そこで、以下では、虚無界の神々の元ネタを考えてみました。憶測も多分に含まれているので、間違いや勘違いなどがあったらすみません。
*一応、「外なる神々」という名称はそのままゲーム内に登場します。虚眼ノ王が交わったとされる「太古の闇」や、腐樹海の土着神として一部で信仰されている「妖蛆エリンガナ」は、外なる神々の系譜だと言われています。外なる神々のほとんどは、今は人間界から消え去ったそうです。
この外なる神々は、虚無界の領域存在と近しい関係にあります。たとえば虚眼ノ王は太古の闇と交わって3人の子を生みました。また、外なる神々の関連書物(後述)に記されている「異形文字」は、虚無語のもとになった言語だそうです。
ただ、虚無界のものたちと外なる神々は、近しいけれども根本的に異なるとも言われています。虚無の末弟であるオプタトゥムが、外なる神々のことは正直よくわからないと語るほどです。
後述するように、虚無界の面々には明らかにクトゥルフ神話のアウターゴッドの面影が見出せます。しかしそれはモチーフ上の話であって、ゲーム中では「虚無界の神々≠外なる神々」であると明示されています。
「虚眼ノ王」(コガンノオウ)のモデル
最初に、虚無界を代表する領域存在は「虚眼ノ王」(コガンノオウ)です。この虚眼ノ王は、「アザトース」をモデルにしているのではないかと思います。
アザトースは「魔王」と称される盲目白痴の神であり、宇宙の中心に座す存在です。彼自身が何かを成すことはほとんどなく、メッセンジャーであるニャルラトテップが主人の意思を汲んでその実現を図ります。虚眼ノ王は、「原初の混沌にただ揺蕩い無聊を齧り続けるもの」、「夢想に浸る盲目神」と表現されているので、イメージとしてはアザトースにかなり近いものがあると思います。
ちなみに、アザトースには三人の娘がいて、それぞれオッココク、アウラニイス、トゥーサという名前だそうです。この三人の娘の名は、ほとんどそのまま虚眼ノ王の三人の子が統べる領域の名前になっています(左から順に長兄、長姉、末弟の領域。ただし、末弟の領域はトゥー"ス")。
また、ウィズメイズ下層から落ち込むヴォイドには「アザートゥ」の名を持つ敵が出現し、地下道に棲む「深きものども」の長は、自らを「"アザーテ"のクレトラ」と名乗ります。この「アザートゥ」や「アザーテ」は、アザトースの落とし子の名称らしいです。
以上より、「虚眼ノ王のモデルはアザトース」とそこそこ自信を持って言えるのですが、問題は彼の3人の子の元ネタです。
順に書いていきますが、長兄ジークサウロ、長姉マイノグーラ、そして末弟オプタトゥムの3人に関しては、カッチリと当てはまるモデルの神格がいないように感じました。より正確に言えば、それぞれが複数の神の特徴を持ちあわせている&3人ともニャルラトテップを彷彿とする特徴を共通して持っているような印象を受けました。
虚眼ノ王の子供たちのモデル
まず、長兄ジークサウロは、冥府王であり漆黒の一角獣にまたがった騎士の姿を取ります。「魂を駆り立てる者」の異名を持ち、愛用の武器は大剣ソウルクラッシュです。
ジークサウロに関しては、これといって思い浮かぶ神格がいませんでした(騎士イメージなのが難しい)。一応「魂を駆り立てる者」という別名を持つクトゥルフ神話の神格はいるようですが、それ以外にしっくりくるポイントもありません。
ただ、ジークサウロに関しては、兄弟の中でもっとも虚眼ノ王に近い存在であり、父の代弁者(唯一"思惟"を汲みしもの)であると言われています。虚眼ノ王のモデルをアザトースとするなら、ジークサウロのポジションはまさにニャルラトテップのそれなんですよね。
また、ジークサウロが統治する領域は「夜吼域(オッココク)」ですが、ニャルラトテップの異名の一つは「夜に吼えるもの」です。ちなみにニャルラトテップは、アザトースの子の1人ではないかと言われることもあります。
次に、長姉マイノグーラは「常闇の母」、「万物の女神」と呼ばれる存在です。召喚者の前では半人半魚の姿を取ります。
マイノグーラは、「深きものどもに信仰されている半人半魚の母なる神」というところから、「母なるハイドラ」をモチーフにしているのかなと思います(魚人のハイドラは旧支配者側とはいえ、イメージ的には一番マッチする印象)。ただ、「マイノグーラ」という名前自体は、ニャルラトテップの従姉妹である神格の名前と同じものらしいです。
また、「万物の母」である「シュブ=ニグラス」のイメージも若干入っているのかなと思いました。というのも、マイノグーラは「黄衣のローブ」と「黄衣のフード」をドロップするんですよね。シュブ=ニグラスは旧支配者である「ハスター」の妻と言われる神格であり、ハスターの化身の一つが「黄衣の王」であるとされています(黄衣の王=ニャル説もあり)。
最後に、末弟オプタトゥムについて。オプタトゥムは他の兄弟とは違い、人間界に対して積極的な姿勢を見せる神です。ヒトに興味を持っては(ネガティヴな意味で)介入する問題児的存在だと言われています。
人間界に度々ちょっかいを出す、領域存在としては異端的、召喚者の前に現れるときはフードで顔を隠した長身のヒトの姿を取る……といった要素を抜き出すと、オプタトゥムはかなりストレートにニャルラトテップ的な特徴を持っています。ニャルラトテップは人間を混乱・恐怖させることを楽しむ神出鬼没の存在であり、唯一「人格」を持つと言われるアウターゴッドだからです(もっとも、ヒトであるカリスにまんまとしてやられた上に封印されるオプタトゥムは、ニャルラトテップと比べるとちょっと弱い感じもしますが)。
また、オプタトゥムの異名である「闇に囁くもの」は、ラヴクラフトの小説のタイトルが元ネタかと思います。
以上、虚無界の領域存在の元ネタを考えてみました。ちなみにギフトアイテムの中にも、「無名祭祀書」というクトゥルフ神話体系の有名な魔術書が含まれています。『WIZMAZE』世界における「無名祭祀書」は穢れ溜まりの異形司祭にとっての聖典であり、外なる神々の系図が記されているそうです。カリスやオプタトゥム曰く、読むとSAN値が下がる(意訳)らしいですね。
個人的に気になっているのは、腐樹海で信仰されている半人半蟲の妖蛆エリンガナです。トルーデリアちゃん(エドの店の下にいる深きもの)によると、エリンガナは「外なる神々の末裔」らしいんですよね。元ネタの神格がわからないことも含めて引っかかる存在です(『妖蛆の秘密』が由来?)。
あと、名前だけ出ている「魔女ダーマ」も、初代アークメイジ・ローゼンタやアリゼ・ロベールとの関係で気になっています(『精霊王ノ器』という資料に、「ダーマの眷属」と二人への中傷コメントが書き込まれていました)。フィンカイラ人らしいローゼンタとアリゼ・ロベールに関しては、追加シナリオで掘り下げがありそうなので楽しみです。
*****
これまでに書いた『WIZMAZE』関連の記事は以下の通りです。
・その1:『WIZMAZE』(ウィズメイズ) マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説
・その2:『WIZMAZE』(ウィズメイズ) ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート・Bルート・Cルート)
・その3:『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男)
※また、「マルチシナリオ形式」or「ダークファンタジーな作風」の作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『Ruina 廃都の物語』 感想 考察(分岐が細やかなマルチシナリオ形式の長編ファンタジーRPG)
・『美術空間』 感想 攻略 ※ネタバレ注意(圧倒的な芸術空間を舞台にしたダークファンタジーRPG)
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