『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』 攻略対象キャラ6人のストーリー&エンディング感想 ※ネタバレ注意 その2

2019年01月25日
恋愛(乙女ゲー/ギャルゲ―) 0

世界各国の要人と恋する女性向けノベルゲーム、『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』のキャラクタールート&エンディング感想記事です。ネタバレを含みます。制作者は、沢良木由香里(さわらぎゆかり)様。作品ページ(Script少女のべるちゃん)はこちらです。 → 『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ アマネ 2

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

今回は、攻略対象キャラ6人(ベルナルト、ダリオ、セルジュ、モルテザー、アマネ、グレゴリウス)のルート&エンディング感想を1人ずつ書きました。ストーリー内容からエンディングに至るまでガッツリとネタバレしているので、未見の方はご注意ください。

「『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』のあらすじ」・「世界観設定」・「作品の魅力」などを書いた元記事から、「各キャラルート感想」だけを抜き出して「記事その2」としました。

≪元記事:『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』 世界各国の要人と恋するノベルゲーム レビュー その1

最初に(注意&攻略順とその理由)

ここから要人6人のルート&エンディングの感想を書いていきます。隠しキャラと隠しルートに関しては触れません。

一応攻略順を書くと、最初に攻略したのはベルナルトです。「普段なら最初に攻略しないタイプのキャラだ」と感じたので、あえて一番手に選択しました。

ベルナルトルートをクリア後、リメイク体験版でもプレイしてみたくなったので、リメイク版に唯一ルートが実装されているダリオを攻略しました(そのせいか、オリジナル版のダリオの立ち絵に馴染むまでに時間がかかりました)。

その後、3番目にセルジュ、4番目にモルテザーを攻略しました。セルジュを選んだ理由は「ベルルートのセルジュが格好良かったから」、その次にモルテザーを持ってきたのは「セルジュの幼なじみ繋がり」です。

そして最後から2番目にアマネ、トリにグレゴリウスを攻略しました。それぞれ主人公マドカと関わりが深そうだったので、攻略を後回しにしていた2人でした。

そういうわけで、個別感想はベルナルト→ダリオ→セルジュ→モルテザー→アマネ→グレゴリウスの順に書きます。先にことわっておくと、キャラによって感想の量に差があります。というよりグレゴリウスが一番好きなので、グレゴリウスの感想だけ超長いです。

また、主人公のことは基本的に「マドカ」(デフォルトネーム)と表記します。以下、ストーリーとエンディングの詳細なネタバレや、あとがき&裏話のネタバレを含みます。

ベルナルト・カウペンガウゼン/Bernard Kaupengouzen

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ ベルナルト

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:ベルナルトはプルーシェ帝国の皇太子孫です。父母ともに健在ですが、主に資質の問題から、皇帝の息子であるベルナルトの父親ではなく、孫のベルナルトが皇位継承者と目されています。
プルーシェ帝国は閉鎖的な国であり、後継者であるベルナルトの存在も長く隠されてきました。ベルナルトは老いた皇帝の若き日の姿に生き写しであり、その人となりもまた、「冷徹な暴君である祖父とよく似ているらしい」と噂されています。

主人公との出会い:パーティー会場で転びかけたマドカはベルナルトに助けられます。同時に高圧的で辛辣な言葉を投げかけて去った彼に対し、けして良い印象は抱かなかったマドカ。しかし彼女は、ひょんなことからベルナルトの秘密を知ってしまいます。

ベルナルトは最初に攻略したキャラでした。主人公に対して好意的なキャラからケンカ腰のキャラまで一通り網羅されていますが、ベルナルトは(初登場時は)辛辣な態度を通すキャラクターです。

ところで、恋愛ゲーをプレイするとき、「どのキャラから、またどの順で攻略するか?」は人によって様々だと思います。最初はついこういうキャラを選んでしまう、キャラ同士の関係性を意識して攻略を進める……など、自分なりのパターンが決まっている方も多いのではないでしょうか。

私の場合、「ラストに誰を攻略するか」を重視しがちです。だからエンディングをいくつかクリアした段階で、「最後に攻略するキャラ」を想定して攻略を進めます。
傾向的には、主人公と関わりが深いorストーリー上重要なポジションを与えられているキャラを最後に残すことが多いです(たとえば今作の場合、アマネとグレイで迷った結果、後者をラストに攻略しました)。

一方、最初に攻略するキャラクターはだいたいフィーリングで選びます。もちろん一応の基準はあって、キャラ設定やストーリーが王道的で、とっつきやすいキャラだとといいなーと願ってチョイスします。

そういう基準でいくと、ベルナルトはまず1番手には選ばないタイプのキャラです。主人公に辛辣&冷酷そうなキャラは、できればゲーム世界に慣れてきた中盤あたりに攻略したい気持ちがあります。

じゃあどうして初手ベルナルトだったのかと言えば、「普段ならまず最初に選ばないキャラを攻略してみよう」と唐突に思ったからです。幸運なことに、この選択は個人的には大正解でした。ベルナルトを最初に攻略したおかげでこの作品をより楽しめたような気がします。

ベルナルトの成長物語

ベルナルト(以下「ベル」)は、「冷酷で厳格な男だ」「傲慢で暴君の祖父にそっくりだ」と噂されているキャラです。実際本人もそう思われるような振る舞いをしています。

しかし実は、ベルは冷酷でも厳格でも傲慢でも暴君でもなく、周囲のイメージに合わせて演技しているだけだったりします。素のベルは神経質で体が弱く、大事の前には胃薬を手放せないような青年です。言ってしまえば、ヘタレなキャラなんですね。

ベルルートの面白さというかユニークなポイントは、たいていルート中盤くらいで行われる「ギャップ披露」が序盤でドーンと展開される点だと思います。かつ、「実はヘタレ」という落差を、(パッと見)高飛車&冷徹な男性キャラに持ってきた点も新鮮だなと感じました。

キャラのパーソナリティーを掘り下げられるゲームでは、たいていストーリーを進めて仲良くなった頃に攻略対象キャラの意外な一面が見えてくるものだと思います。たとえば、気が強いように見えて案外臆病なところがあるとか、好意が高まると軽いノリで接してこなくなるとか。そういったギャップの発見は、「ずいぶん仲良くなれたんだな」というプレイヤーにとっての指標にもなります。

しかしベルルートの場合、「高飛車クールと見せかけて実は素直なヘタレ」という、言ってみれば大オチが序盤で開示され、以後はずっとヘタレなベルを相手に話が進むわけです。冷ややかで気位の高いキャラってなんだかんだ需要が高いと思うので、冷酷!残忍!なテンションが完全なる演技だと判明したときは、なかなか思い切ったキャラ造形だなーと感じました。

ただ、個人的には素のベルが好きです。愛称の「ベル」で呼びたいのも、ありのままのベルナルトに愛着が湧いたからだと思います。

ルートを攻略するとわかりますが、ベルはかなり弱点の多いキャラです。胃が弱い、気管支が弱い、気難しい、緊張しい、人見知り……パッと挙げてみるだけでも色々あります。必死で周囲の望む姿を演じているものの、本来のベルは恐怖を以て統治する君主には到底なれない人間であり、本人もそのことを痛感しています。

正直に言えば、「こうも情けない感じの描写が続くとは」と最初はやや唖然としました。おいおいと思いながら話を進め、ベルがガラの悪い男二人を前にマドカを置いて逃げたシーンで呆れがピークに達しました。「ベルマジか、合理的ではあるけど仮にも攻略対象キャラがそんなことをしてもいいのか、ベルのカッコいいところをまだ見ていない気がするぞ」、と。

しかしそこまでいってようやく、呆れながら「可愛い人」とベルを表現するマドカの気持ちがわかった気がしました。ベルは(終盤までは)正直なところ格好良くはないです。ところが、「ダメなところが可愛い男」選手権があったら、確実に本選出場できるレベルで「可愛い人」なんですよね。

そういう心境になると、以降は情けない自分を取り繕わず、マドカに素直な信頼を寄せるベルを応援したい気持ちになりました。ベルルートはベルの成長物語なんだと呑み込むこともできたので、四苦八苦しながら善い君主になろうと頑張る終盤のベルを見て感慨深くもなりました。

最終的にはベルを好きになれたので、もう少しルート内でベル本人にスポットライトを当ててほしかったなと感じました。具体的には、終盤で隠しキャラが美味しいところを持っていきすぎじゃないかなと思いました。そういうタイプのキャラではないのかもしれませんが、もうちょっとベルに見せ場がほしかったなーというのが素直な感想です。

ところで、上で「ベルを1番に攻略して大正解だった」と書きました。ここで理由を述べると、「他キャラルートでベルを見ると楽しくなって一度で二度美味しいから」です。

実は、ベルの「病弱さ&気弱さ&素直さ」は、他のルートではかなり巧妙に隠されています(そこがベルルートのキモなので当然ではあります)。伏線として、部屋の清掃に神経を尖らせていたり友達に対してフレンドリーだったりといった描写はあるものの、他キャラルートのベルはヘタレで病弱なキャラにはまず見えません。

そして、それこそがすごく楽しいポイントです。クリア済でベルの本来の姿を知っているからこそ、クールに水煙草をくゆらせたり、「誰にでも言いたくないことの1つや2つや3つある」と語るベルナルト皇子がめっちゃ面白く見えるわけです。実は煙草苦手なのに頑張って吸ってるんだよなーとか、ベルの場合言いたくないことは3つ程度じゃ済まないだろうとか、思わず笑えてくるわけです。

そういう意味で、他キャラを攻略する過程でさらにベルに愛着が湧いた感があります。たとえばベルの次にダリオルートを攻略しましたが、ベルの唯一の友人であるノアの正体が明らかになったときは、真っ先にベルのことを思い出しました(マジで笑いました)。

ダリオ・ドゥーガルド/Dario Dugald

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ ダリオ

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:ダリオはヴァンリーブ王国の警部です。第一王子に付き添ってカムジェッタを訪れた彼は、式典でも要人警護を担当しています。
世界有数の警察機構で要職にあるものの、ダリオ本人は一般人です。しかし、アマネたち他国の要人とは昔から付き合いがあるようで、ごく気さくに付き合っています。唯一ベルナルトだけは腐れ縁のライバルであり、表向きは仲が悪いようです。

主人公との出会い:式典当日にダリオと顔を合わせたマドカは、初対面にも関わらず、彼と一触即発の険悪ムードに陥ります。しかしその夜、怪しい男たちに路地裏で命を奪われかけたマドカを救ったのは、他ならないダリオでした。以降ある理由から犯罪組織に付け狙われる羽目になったマドカは、ダリオの保護を受けつつ、組織を追う彼に協力することになります。

ダリオルートのコンセプトは、「ジェットコースターのような恋」。ダリオが警官&特殊犯罪組織がストーリーに絡むこともあって、クライムサスペンスめいたスリリングな展開が続きます。エンターテインメント的な面白さで言えば一番のルートかもしれません。見どころたっぷりで先が気になって仕方がありませんでした。

特殊な言語で話す犯罪組織の人間のやりとりを聞き取ってしまったことから、マドカは彼らに命を狙われることになります。マドカが聞いてしまった言葉の意味犯罪組織のボスの正体が明かされたときは、「そういうことか」と膝を打ちました。

そこから怒涛のクライマックスになだれ込むわけですが、終盤の展開にはドキドキしっぱなしでした。ダリオの友人や身内に関して伏線がきちんと張られていたからこそ、クライマックスであれだけ盛り上がれたのだと思います。

こう書くと常にスリリングな印象が続くようですが、ダリオとマドカが着実に心を通わせるシーンや穏やかな日常シーンもあり、しっかりと緩急のついたルートになっています。『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』は、緩急のある構成が何より巧みだなーと思いますが、それを強く感じたのはまずダリオルートにおいてでした。

攻略対象キャラのダリオについては、真面目な話、「カッコいい」としか言いようのないキャラでした。ここぞというときに絶対に外さずキメにくる、それがダリオというキャラクターの印象です。これだけ格好良いキャラも珍しいというか、「マジに格好良すぎる」と攻略中に何度思わされたかしれません。

一つ例を挙げるなら、「いつかお前の中でこの草原をセロシア・キャンドルの花畑以上の場所に~」からの、「ここにセロシア・キャンドルの花畑を作ろうと思っている」は反則だと思いました。どこまで隙が無いんだ~格好良すぎる~と思うしかなかったです。

短気で口が悪いものの、面倒見がよく根は優しい。そんなダリオのキャラクターはストレートに魅力的で、マドカが口喧嘩を繰り返しつつも彼に惹かれる理由がよくわかりました。

一方で、国と仕事に対しては真摯であり、若干危ういくらいに滅私奉公の覚悟を抱いていることは意外なギャップでした。他ルートで明かされる真実を思うと、マドカにとって特別な存在である父親の姿がダリオに被るのも納得です。
終盤になるにつれてマドカがダリオに「生きてほしい」と望むようになり、ダリオもそれに応えて変化していく……という流れも綺麗でした。マドカの中で、父親とダリオの面影が最後には分かれる描写もよかったです。

ダリオとマドカは、「第一印象は最悪」という古くは『自負と偏見』から続く恋愛ものの黄金律を押さえた二人です。しかし、実は当人同士も忘れているつながりがあったりします(おまけエピソードより)。アマネとの関係といい、エピローグのタイトル名といい、ダリオはかなり美味しいポジションにいるキャラだなと感じました。

セルジュ・ブラディスラフ/Serge Vladislav

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ セルジュ

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:セルジュはスランビュー王国の公爵家の人間です。グレゴリウスやモルテザーとは幼馴染みであり、今回の式典には父に付き添って出席しました。
草花を愛する寡黙な自由人であるセルジュは、田舎での質朴な暮らしを好んでいます。一方で他人と積極的に関わることを避け、何より生家である公爵家を忌避しているようです。父のブラディスラフ公爵は五人兄弟の末っ子であるセルジュを跡取りと見込んでいるものの、当のセルジュに家督相続の意思がないことを嘆いています。

主人公との出会い:マドカはセルジュの兄に思わぬちょっかいをかけられ、絶体絶命のピンチに追い込まれます。セルジュは気乗りしないながらも奥の手を使ってマドカを救いますが、そのことが更なる波乱を二人にもたらすことになります。

セルジュルートの特徴は、なんといってもツカミのインパクトがピカイチなことだと思います。第一章からエンジン全開で、「なんて波乱万丈な幕開けなんだろう」とワクワクしました。
もちろん序盤が面白いだけでなく、セルジュというキャラの魅力や背景設定を丁寧に描写しつつ、終盤までプレイヤーの心を掴んで離さないルートだったと思います。

セルジュの過去

そもそもセルジュを攻略しようと思ったのは、ベルルートでのセルジュの決然とした態度が印象深かったからです。

血と心の通った「家族」であったプルーシェ帝室を襲った悲劇に対し、セルジュは憤りを露わにし、「自国の政府に掛け合ってベルナルトに加勢する」とまで言い放ちます。それまでの寡黙さ、政事への関心の薄さとはかけ離れた激しい反応に、「何がそこまでセルジュの逆鱗に触れたんだろう」と大いに興味をそそられました。

そんな興味を抱きつつプレイしたせいでしょうか。セルジュが生家であるブラディスラフ公爵家を敬遠し、父母を拒絶する理由が明かされるシーンでは、心を揺さぶられました。セルジュ視点での過去エピソードを読んでから見返すと、セルジュの告白をより悲しく思いました。

まずこのシーン、別荘の周囲の景観が夢のように美しいんですよね。月明りの下、風が吹いて湖が波打つたびに夜光虫が輝きを放ち……と、非常に幻想的です。セルジュはその景色を前に、この別荘を以前所有していた人のことを教えてくれます。

セルジュが「家族というもの」に絶望し、周囲の人間を信じられなくなった経緯は、事実として受け取るだけでも胸が痛くなるものです。しかし、別荘周辺の自然の美しさと併せて提示されるからこそ、いっそう悲壮感のあるエピソードになっていると思います。

セルジュの愛した人がおそらく喪失感を抱え、ひとりきりで湖を眺めていたこと。その人がまさにその別荘で悲劇に見舞われ、貶められ、今はもう帰らぬ人であること。そしてセルジュが、その日から絶望に暮れて生きてきたこと。

そんないくつもの悲しい出来事が、湖を前にうち沈むセルジュの姿にオーバーラップして見えるような心地でした。湖と夜光虫は、ここではセルジュとセルジュの大切な人をつなぐものとして機能していた気がします。

「彼」は孤独のうちにあって湖を眺めていました。美しい夜光虫の輝きに心を慰められたのか、「彼」はセルジュにもこの光景を見てほしいと思っていたようです。
セルジュは「彼」のものだった別荘を買い取り、やはり「彼」と同じように、独りきりで生活し始めました。しかしセルジュにとって、「彼」が見てほしいと願った情景はただ美しいだけではなく、自身の罪を思い起こさせるものでもあったわけです。

だから、夜の湖が綺麗であればあるほど、セルジュが孤独と後悔のうちに生きてきたことが心に迫ってくるようでつらくなりました。淡々とした語り口ながら、「本当の家族」を失った彼の悲しみが伝わってくる、名シーンだったと思います。

静かな情熱を秘めるセルジュ

セルジュ本人に関しては、心を閉ざしている序盤から、徐々にマドカと打ち解けていく過程が細やかに描かれていました。

あとがきにもありましたが、セルジュ自身はマドカのトラブルに巻き込まれた形なんですよね。だから最初は、マドカと関わるにも渋々といった態度が目立ちます。そもそも彼は過去のトラウマから周囲に対して心を閉ざし、幼なじみであるグレイやモルテザーとさえ目を合わせられないような状態でした。

そんなセルジュが、裏表のないマドカにだんだんと心を開き、抑えてきた感情を取り戻し、いつしか仮初めの関係を惜しむようになる……それがセルジュルートの概観と言えます。

序盤でもセルジュの飾らない優しさや抱える心の傷の深さはわかります。しかし仲良くなるにつれて、セルジュの芯にある強さや他者への思いやりがよく分かるようになるんですよね。だから、マドカが自分でも気づかないうちに、ゆっくりとセルジュを好きになる流れにも共感できました。

個人的に印象に残ったのは、セルジュが街路に花を植える奉仕活動をしているくだりです。初見では、草花が好きなセルジュらしいなーと単純に思っただけでした。しかしのちに、その活動に単なる緑化以上の深い意図があるとわかり、セルジュの思慮深さや現実的な思考に感銘を受けました。

彼は隠遁生活を望む自分を指して「利己的」と言いますが、マドカも感じた通り、実は市井の人のために無欲に働くような人間です。
後半明らかになりますが、スランビューは社会的弱者が国の発展に取り残される構図が急速に目立ち始めた国です。セルジュはそうした現実をとらえ、弱い立場の人のために、名声も金銭も求めず自分のできることを実行し続けています。

制作者様の裏話の中に、「セルジュは実は一番要人向き」というお話がありました。後半スランビューが危機に陥ったときの行動力もそうですが、「自分の立場でできること」を理解した上で淡々と実行するセルジュは、たしかに胆力のある人だと思います。

物語が佳境に入る中、彼の要人としての能力や今まで積み重ねた行いが評価される展開には、なかなかのカタルシスがありました。

ただそれだけに、セルジュが完全にスランビューとの関係を断つ結末は読めませんでした。

セルジュとマドカの幸せを思えば、人種差別が激しいスランビューに残るよりは、カムジェッタに来た方が良いのはたしかです。しかしスランビューの問題が完全に解決したとは言いがたいままラストに向かったので、ちょっと気がかりに思いました。裏話にもあった、もともとの結末の方が個人的にはしっくりきたかなーという印象です。

まあ、ヘレナ姉さまの婚約者(モルテザー似)が王位を継承すれば、スランビューの状態も少しはよくなるのでしょうか。弁は立つもののうっかり失言と問題行動の多いジョルジェが国王になったら、スランビューが主要国から外れるのは確実らしいので、婚約者にはぜひ頑張ってほしいものです。

あと、セルジュルートはひょっとすると、全キャラ中一番甘い展開が多いんじゃないかと感じました。モルテザーが冷やかすくらいくらいに二人が仲良くなる手前のシーンとか、けっこう踏み込んでるなーとプレイ中は驚きました。淡泊に見えて率直で情熱的なところも、セルジュの大きな魅力ですね。

モルテザー・イムリバ/Morteza Imriva

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ モルテザー

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:モルテザーはイムリバ王国の有力な一族の人間です。に籍を置いており、今回は兄二人の体調不良により代理としてカムジェッタに赴きました。
物腰柔らかで人格者然としたモルテザーは、他国の関係者にも覚えめでたい人物です。しかし、彼と親しいグレゴリウスやセルジュら要人たちは、モルテザーの裏の顔をよく知っています。

主人公との出会い:帰宅する途中、マドカは偶然にモルテザーの裏の顔を目撃してしまいます。以降、反応が素直なマドカをからかっては楽しむようになったモルテザー。彼はマドカの語学の堪能さを見込み、彼女を新しい秘書として雇用することを思い立ちます。

モルテザールートは、良い意味での意外性をたくさん感じられるルートでした。モルテザーのことを好きになれる、かなり満足感のあるストーリーだったと思います。

弱さと優しさ

「穏やかに見えて苛烈」と形容されるモルテザー。攻略対象キャラの中では一番の年長者であり、パッと見は人当たりの良い要人然とした人物ですが、実はドSで腹黒いキャラだったりします。その二面性は他のルートでも容易にわかるポイントなので、ルート序盤の展開にさほど驚きはしませんでした。

しかし、「穏やかな外見」と「苛烈な一面」を通過した先に、「もろく弱い内面」が見えてきたときは正直言って驚きました。

たとえば後半、モルテザーが倒れる場面があります。物理的なダメージを負わされたためではなく、ある過去について言及されたせいで精神的動揺がピークに達して倒れるわけです。その事実はモルテザーが普段の彼(の外面)とは乖離した「弱さ」を抱えていること、そしてその深刻さを伝えてくれるものだと思います。

あえて誤解を恐れずに書くなら、攻略対象キャラ6人の中で、もっともシリアスな「弱さ」を抱えているキャラはモルテザーだと思います。

モルテザーの弱さや脆さは、彼の生来の気質に起因するものではありません。幼い頃に精神に痛手を負わされ、その傷がまだ癒えていないがために生じるものです(同じように弱さを抱えているとはいえ、精神的には健やかで家庭環境が悪くはないベルとはそこが違います)。

言ってしまえば、現在のモルテザーは「マイナスの状態」にあります。モルテザー自身、自分が多くを失い痛みを抱えてしまったことを自覚しています。彼が家督と王位を欲するのも、根本的には「失われたものを少しでも取り戻したい」という切なる願いゆえです。

つまり、モルテザーは「痛みと喪失を知っている人間」なんですね。その事実は、モルテザーの優しさを思うに重要なことだと思います。

攻略中に、モルテザーが他者に見せる繊細な優しさや思いやりに感じ入ってしまうことが何度かありました。「繊細な」と書いた通り、けして単純な優しさではなく、相手のことを心から考えた上での優しさです。それは外面の温厚さや内面の苛烈さから来るものではなく、彼の抱える弱さから来るものなのではないかと感じました。

「弱さ」を抱えてはいても、モルテザーは「弱い人間」ではないと思います。弱い人間は自分の抱える弱さを悪意に変え、他者を傷つけることがあります。しかしモルテザーは他者に対して優しく、周囲をないがしろにはしない人です。

シリアスな場面では、モルテザーは時に親しい人に辛辣な言葉を投げることがあります。しかしそれは建前や必要に迫られてのものであって、その本心に気遣いや情があることは十分に感じられるのです(幼なじみのセルジュ&グレイルートにおける彼の言動には、そういった美徳がよく表れていると思います)。

そういうわけで、ストーリーを追う中でモルテザーのことがとても好きになりました。マドカとの交流を通し、モルテザーが少しずつ心の平穏を取り戻す過程も細やかに描写されていたと思います。マドカにとってのモルテザーが「鏡写しの自分」であること、モルテザールートのテーマが「赦し」であることも含め、二人が心を通わせる流れはとても自然なものでした。

また、モルテザールートを攻略して、ベルルートのプルーシェ内乱イベントでモルテザーが煮え切らない反応を見せていた理由が理解できました。ベルルートでははっきりしない対応だなと感じましたが、モルテザーも相当苦しい立場にあったんだとわかってなんだか申し訳ない気持ちになりました。

プルーシェ内乱イベントはモルテザールートの山場です。モルテザーはもちろんのこと、彼の幼なじみであるグレイやセルジュ、そして主人公マドカの見せ場でもあったと思います。モルテザーをさりげなくフォローする親友二人の優しさに感じ入り、マドカが涙をこらえて自転車をこぐシーンではつい目頭が熱くなりました。

エピローグでの「イムリバを強く優しい国にする」という宣言は、まさにモルテザールートの締めにふさわしい言葉だったと思います。平常運転ながらも、素直になって気持ちを伝え合うモルテザーとマドカを祝福したい気持ちになりました。

アマネ・ブルダム/Amane Bulldam

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ アマネ

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:アマネはブルダム王国の第一王子です。今回は叔父である国王とともに式典に出席しました。実直で何事もそつなくこなすアマネは、礼儀正しく公務に熱心で、国内外の評判が高い王子です。年に見合わぬ落ち着いた雰囲気があるものの、彼を昔から知る者は、「子供の頃のアマネは今とは違っていた」と言います。

主人公との出会い:マドカは式典で出会った好みど真ん中のイケメンであるアマネに思わず見惚れます。一方のアマネは、マドカが調香したパフュームに気づいて動揺した様子を見せます。アマネと仲を深める過程で、マドカは忘れていた過去の記憶と向き合うことになります。

アマネは攻略対象キャラの中でも一番手と言っていいキャラクターです。各キャラルートでは、たいていストーリーを象徴する花が出てきます(ベルならシザンサス、セルジュならカランコエ、モルテザーならジャスミン)。

アマネの場合、その象徴となる花は、タイトル名にも入っている「セロシア・キャンドル」。ここだけに注目しても、アマネというキャラクターが重要なポジションにあることはわかります。

アマネルートは、この作品における真相解明ルートに位置づけられます。真相とはもちろん、他のキャラルートでさまざまに匂わされる「主人公マドカの過去」です。

他のルートではさらっと通過する篠島ミツル名誉回復イベントの詳細も含め、カムジェッタに移住する前のマドカの過去、そしてアマネとマドカの隠された過去が明らかになります。

制作者様の裏話によれば、アマネは要人の中ではもっともオーソドックスでまともなキャラだそうです。たしかに派手でわかりやすい個性を持っている他のキャラに比べると、アマネは落ち着いたキャラクターだと思います。アマネ自身が他の要人(縁者のダリオを除く)に対して一歩引いた態度をとっているのも、そう感じる理由の一つかもしれません。

しかし、いざキャラルートを攻略してみると、アマネの魅力がひしひしと伝わってきました。同時に、このゲームの原型がアマネとマドカの恋物語であることもよく理解できました。クールで優しいアマネが秘める、マドカへの一途さが何より印象的なルートだったと思います。

アマネがかつてマドカと近しい人間であったこと、おそらく悲劇が起こってマドカと引き離されただろうことは、他のキャラルートを読んでいても分かることです。それでも、マドカとその家族を襲った事件の残酷さ、それによってアマネとマドカがどれだけ傷ついたかを知ったときは、痛ましい気持ちになりました。瀬伍門許すまじ。

ルートの中盤を過ぎたあたりから、抑制的かつ自罰的に振る舞うアマネが気の毒に思えてならなかったです。アマネがマドカに対して無償の献身や愛情を捧げるほどに、プレイヤーとしては、「アマネにも幸せになってほしい」と思わずにはいられませんでした。

アマネは「マドカが幸せならそれでいい」という思考ができる人だったりします。たとえば、クリア特典のおまけエピソード(他キャラルートにおけるアマネの心境を描いたもの)とか、アマネが一途すぎて切なくなるくらいでした。

あと、運命の三つ巴手前の、アマネがマドカとの約束を心の支えに生きてきたことがわかるくだりには泣けるものがあります。ひたむきさにグッとくると同時に、ブルダムでのアマネの孤独がうかがわれて心が痛みました(父を亡くし、母とも心理的距離ができてしまったから仕方がないのか)。

そういったもろもろの事情もあり、「報われてほしい」と一番感じたキャラはアマネだったかもしれません。たとえば、「一緒にダンスを踊るなら相手はマドカと決めていた」という告白には、いじらしすぎる~と思うほかなかったです。

また、アマネは素敵な年下キャラでもありました。彼は主要キャラ6人の中では最年少であり、25歳のマドカよりも5歳年下です。そのわりに年下キャラにありがちなツンツンした態度ではなく、素直かつクールな態度を貫くのが新鮮でした。基本的に大人びたキャラであり、マドカに対する負い目があるからでしょうか。

そしてそんなアマネがあからさまに拗ねるという意味で、「ダリオへの嫉妬シーン」は貴重だったと思います。シンプルに可愛かったです。年下らしからぬ気負いのなさと年下ならではの気後れを、良いバランスで成立させているアマネの造形は魅力的だと思います。

ところで、メインだけあってアマネエンドのハッピーエンド&エピローグは非常に印象的でした。最後に流れる歌は、歌詞も曲調もアマネルートにぴったりですね。あらたまった敬語でマドカに指輪を差し出すアマネと、タイトル(『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』)が綺麗に回収される展開に感動しました。

グレゴリウス・カムジェッタ/Gregorius Comejetta

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ グレゴリウス

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

キャラ詳細:グレゴリウス(通称グレイ)は、カムジェッタの第一王子です。カムジェッタでは10年前に王政が崩壊したものの、形式上王子として扱われています。
常に明るく笑顔を絶やさない、要人たちのムードメイカー兼トラブルメイカーであるグレゴリウス。カムジェッタのお国柄かお気楽な雰囲気を漂わせている彼ですが、実は自国の政情を注視しています。

主人公との出会い:マドカとグレゴリウスは、ホテルスタッフと常連客として10年来の付き合いです(互いが15歳と16歳の頃からの知人)。好意をアピールし続けるグレイに、半ばストーカー疑惑を抱きつつ交流してきたマドカ。しかし式典当日、彼がカムジェッタの王子であることを知って驚愕します。

モルテザーを攻略した後、アマネとグレゴリウスのどちらをラストに残すべきかでひとしきり迷いました。ベルの感想の中でも書きましたが、最後に攻略するのは「ストーリー上重要ポジションにあるキャラ」か「主人公と関わりの深いキャラ」にしようと考えていたからです。

上記の基準を踏まえるなら、キャラの紹介順的にもポジション的にもアマネ一択だろうと最初は思っていました。ただ、ルートをいくつかクリアする中で、「グレゴリウスも相当重要なポジションにいる、マドカの過去に関わるキャラなのでは?」と強く感じたんですよね。だから、グレゴリウスを最後に攻略することに決めました。

この選択は、個人的には正解でした。というのもクリア直後に、「もう他のルートを攻略できそうにない」という心境になったからです。恋愛ゲームでそういう風に感じることって初めてで戸惑いましたが、同時に、「ここまで『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』をプレイして本当によかった、グレゴリウスルートを最後に取っておいてよかった」と心から思いました。

そういうわけで、グレゴリウスの感想はちょっと長くなります(基本的に「グレゴリウス」呼びで統一していますが、文章が長くなったり繰り返しのある部分では「グレイ」と書いています)。

ミステリアスなグレゴリウス

実は、『セロシア』を読み進める中で一番興味を引かれたキャラが他でもないグレゴリウスでした。

導入部をプレイするだけでもわかりますが、グレゴリウスはマドカに対して好意マックスのキャラクターです。好意をアピールしすぎて当のマドカにハイハイと流されるくらいに、マドカのことが大好きなキャラクターです。

一方、グレゴリウスに関しては「ナンパな女好き」という評価もありました。だから最初は、よくいるリップサービスに余念のないプレイボーイキャラなのかと思っていました。ついでに本人が積極的に三枚目として振る舞っていることもあって、明るいお気楽キャラなのかなーとも思っていました。

しかし2人くらい攻略したところで、「グレゴリウスは言動通りのキャラクターではなさそうだ」と感じ始めました。端々で実は思慮深かったり、マドカの過去を気遣っているらしい描写が見受けられたんですよね。

三枚目&いじられキャラっぽい印象が先行する点についても、性格に加えて個性豊かで忙しい要人たちに集団行動をさせる(イベント企画人としての)役割や、話にオチを提供する役割を担っているせいでもあるらしいと感じました。

そもそも本当にお気楽なだけのキャラなら、シリアスシーンで印象的な活躍はできないはずです。しかしグレゴリウスはシリアスシーンにおいても一定の出番があるので、なおさら外面だけで判断してはいけないキャラだろうなと思いました。

そして更にプレイを続けて、「グレゴリウスはガチでマドカのことが好きなんじゃない?」と感じるようにもなりました。感じると同時に、今までのグレイの言動を思い返して「マジで?」と動揺しました。

今までギャグシーンの一環でしかなかったグレイのマドカへの言葉(「運命の人」「心に決めた相手はマドカだけ」)が、すべて本心からの告白になってしまうからです。いったんそう認識すると、サブリミナルめいて挿入されるマドカへの好意のアピールを、単なるお笑いシーンとして流せなくなってしまう自分がいました。

しかし他方、グレイはマドカと他の要人が結ばれる手助けをすること、結ばれた二人を祝福することを一切ためらいません。たとえばアマネルートでは、アマネとマドカの再会を進んでセッティングし、自らマドカの手をとってアマネのもとに導いたりします(グレイルートを除くと、グレイの内面やマドカへの気遣いを一番わかりやすい形で見られるのは、アマネルートのような気がします)。

「マドカのことが好きなのに、マドカが他のキャラと結ばれることに対する葛藤はないのか?」「やっぱり本気で好きなわけではないのか?」……と、他のルートを攻略しつつもグレゴリウスの動向や言動は常に気になるポイントでした。

そして悶々と考えるうちに、いつの間にかグレゴリウスは、私にとって最もミステリアスなキャラクターになっていきました。ゆえにそのルートへの期待感もまた、非常に大きなものになっていた記憶があります。

グレゴリウスルートの感想

グレゴリウスルートを概観してまず印象に残るのは、「他のルートとかぶらない展開が多い」ことでした。

実際にプレイするとわかりますが、このゲームにはどのルートでも一定共通して発生する事件(イベント)が用意されています。たとえば、「プルーシェ内乱イベント」や「ヴァンリーブの特殊犯罪組織イベント」、「“ブルダムの悲劇”に関する会見イベント」などです。

ルートをまたいで同じイベントが起こることにより、「そのときあのキャラは何をしていたのか?」ということが掘り下げられ、ストーリーに奥行きが出るようになっています(『セロシア』の大きな魅力の一つだと思います)。

しかしグレゴリウスルートではそうした共通イベントが起こらないか、起こってもあまり存在感がありません。たとえば、“ブルダムの悲劇”会見イベントは中盤に発生するものの、それは「移民規制の強化」というルート独自のストーリーの流れに組み込まれ、単体としてはフィーチャーされません。

グレゴリウスルートのストーリーは、最初から最後までほぼカムジェッタで完結し、他キャラの出番も少ないです(他のルートでは、たいてい前半の舞台はカムジェッタ、後半の舞台は攻略対象キャラの出身国という風に国境を越えます)。それまでのルートにはないイベントが発生し、カムジェッタの事情が初めて見えてくることもあり、新鮮味のある内容が多かったです。

また、グレゴリウスルートは他のルート以上に苦しい展開続きだった印象があります。「苦しい」というのはグレゴリウスとマドカの恋路に障害があるという意味ではなく、グレゴリウスがつらい立場に立たされ続けるので見ていていたたまれないという意味です。

この独特の「苦しさ」の主な原因は、グレゴリウスの地位が不安定であることと、グレゴリウス自身の性格の2つだろうと思います。

先に何度か述べましたが、カムジェッタは主要6か国の中では唯一君主制を採用していません。10年前に王政は崩壊し、政治権力は議会が握るようになりました(ルート後半でわかりますが、これは単なる民主化ではなく、貴族院が王室に取って代わったような状態です)。

だから、グレゴリウスは形式上「第一王子」ではあっても、その行使できる権力は非常に限られています。

グレゴリウスルートでは、王政崩壊後のカムジェッタの政治が良いとは言えないこと、国内問題が山積していることが明らかになります。ブルダムからの移民であり、ホテルスタッフとして勤務しているマドカの立場が悪化するような展開もあります。しかしそのとき、グレゴリウスは必ずしも爽快な解決をもたらすことができません。彼の努力とは関係なく、彼の手で掬えるものが限られているからです。

グレゴリウス自身はそのたびに無力感を覚え、開き直って身近な人しか救えない自分の行いを指して「偽善」と言ったりもします。彼が諦めずに行動していることがわかるだけに、プレイヤーとしても、マドカと一緒に苦しい気持ちになりました。

そしてグレゴリウス自身の性格も、そういった苦しさに拍車をかけるものだったと思います。

グレゴリウスは、「苦しい」「つらい」といった弱音を吐かないキャラクターです。感情表現が豊かで明るい一方、負の面をさらけ出すことはめったになく、非常に我慢強いんですよね。その我慢強さは彼が窮地に立たされる自身のルートであっても変わりません。

自分のルートかつこれだけ歯がゆい展開が続けば、激情に駆られるとか本音を吐露するとか、グレゴリウスが負の感情を露わにする展開があるだろうと予想していました。

しかしようやく激情に駆られたと思ったら、マドカとアンリを犠牲にしようとする父親や議会に対する怒りであったりする。また、やっと悲しみを見せたと思ったら、責任を取って死に行く前にマドカに笑って見せようとして、こらえきれずに零す涙であったりするわけです。

感情が波立つことはあっても、グレゴリウスは他者に心乱れた自分を見せようとはしません。グレゴリウスを指して「どこまでも優しい」と表現するセルジュは、幼なじみであるグレゴリウスの本質をよくわかっているんだろうなーと思います(優しさを形容するとき“誰よりも”ではなく“どこまでも”をチョイスするのもさすが)。

攻略中はグレゴリウスの強さに感じ入る一方で、「そんなに我慢しなくていいのに」「そんなに背負い込まなくていいのに」と思わずにはいられませんでした。たとえその行動がグレゴリウスの冷静な決意に支えられたものであっても、そもそも状況が彼一人にとって苦しすぎるだろう、と。

だから、「どうして彼だけが、たくさんのものを救わなくてはいけないのだろうか」「――どうして私には、彼の重荷を持てるだけの大きな腕(かいな)がないのだろうか」と悩み苦しむマドカには、ひたすら共感するほかなかったです。

とはいえ、苦しい展開が連続したからこそ、あの天からの“赦し”には感動しました。罪人が許された奇跡、マドカとグレゴリウスの聖夜の出会い、アンリの励ましと要人たちの思い。そういったものすべてが繋がってあの美しい展開を作り出しているように感じました。

たしかにファンタジーめいているものの、序盤(というか冒頭)からクライマックスに向けて丁寧に構成が整えられていったので、特に気にはならなかったです。むしろ、どうにもならない状況だったからこそ、人々の祈りに応えた優しい救いが与えられてよかったと思いました。

似た者同士のアマネ&グレゴリウス

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ スクショ アマネとグレゴウス

セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ

制作者様の裏話によれば、グレイルートは裏・真相解明ルートだそうです。アマネルートと併せることで、「ブルダムにいた頃」と「カムジェッタに来てから」のマドカの動向が、完全に明らかになるわけですね。

たしかに各ルートで、アマネとマドカに面識があるらしいことに加え、「グレイがマドカの事情を知り得ているらしいこと」はうっすらと匂わされていました(そういう意味で、アマネやグレイの攻略は後の方に残すとより楽しめるような気がします)。

実際にプレイして、アマネとグレイは「マドカとの関わり」という点において「対照的」かつ「補完的」であり、よく似た思慕をマドカに寄せているキャラだと感じました。上でアマネについて、何より「マドカへの一途さ」が印象的だったと書きました。実はその評価は、グレイについてもそのまま当てはまるのが巧みだなーと思います。

たとえばマドカとの関係を軸に眺めてみると、アマネとグレイの共通点と異なる点が同時に見えてきます。

アマネはマドカを失ったことで絶望のどん底に叩き落され、以降は彼女への贖罪を常に意識して生きてきました。

しかし、アマネを苦しめたマドカの喪失は一方で、失意に暮れていたグレゴリウスにマドカとの出会いという救済をもたらしました。その後、クローバーホテルでの再会も経て、グレゴリウスはカムジェッタとマドカを見守ることを決意。不安定な立場に倦むことなく、この10年間を前向きに過ごしてきました。

マドカへの思いが行動理念や原動力である点、それぞれの理由からマドカを見守るポジションに自らを置きがちである点で、2人は共通しています。しかし「マドカと別れた/マドカと出会った」というポイントにおいて、秤が重みによってどちらかに片方へ傾くように、二人の不幸/幸は綺麗に切り替わっています。

また、2人の対照性は、実はマドカの母であるアンリの態度を眺めてみるとわかりやすいです。

ブルダムの悲劇の当事者であるアンリは、アマネに対しては頑なな態度を崩せません。頭ではアマネが悪くないとわかっていても、心の部分でどうしても割り切れないからです(夫を失っただけでなく、思い出すだけで気絶するレベルのリンチを受けたらしいので当然だと思います)。

一方グレゴリウスに対しては、アンリは素直な感謝と信頼を寄せています。マドカとアンリが強制的に連行されて糾弾を受けるシーンでは、グレゴリウスに庇われて泣き出すアンリの姿が非常に印象的でした。

グレゴリウスとマドカ

他のルートでのマドカは、付き合いの長いグレゴリウスに対して終始すげない態度をとっています。だから「肝心のグレゴリウスルートではどういう感じになるんだろう」と地味に気になっていました。

いざプレイし始めると、ルートの序盤からマドカが「この人はそういう人、実は良い人」とデレてくれたので正直感動しました。他のルートではけちょんけちょんにあしらっている分、全編通してマドカが思いのほか素直でニヤニヤしました。マドカが自宅でゴロゴロしながらグレイへの好意を自覚するのも、付き合いの長い二人らしくて好きです。

2人が10年間どういう風に付き合ってきたのかも相当気になっていたので、過去エピソードを見られて嬉しかったです(彼氏と大げんかして別れたときにグレゴリウスがホテルから連れ出して愚痴を聞いてくれたとか)。

マドカが砕けているというか、15歳の頃から知っているグレゴリウスに対してやや甘えた態度で接しているのも新鮮でした。「兄と妹のような関係」とルート説明にありましたが、実際に見ると納得の一言でした。

また、マドカとグレゴリウスの出会いもきっちり練られていて、ストーリーの核心に絡んでくるのもたまらないポイントでした。

そもそもマドカとアンリの秘密出国を助けたのがグレイであり、そのグレイは王政崩壊直後の聖夜にマドカと出会って救われ、のちにクローバーホテルで再会したときにも元気づけられていて……と、なんとも運命的です。グレゴリウスがマドカを「運命の人」と言い切る理由も理解できました。

マドカの方もグレゴリウスとの出会いを思い出した上で、何度も彼に救われていたことに気づきます(10年もの時をまたいで、口角上げ&「笑って」を繰り返すくだりには泣きました)。そこから彼を救うために行動しようと決める流れはとても綺麗でした。腹をくくったマドカが格好良かったです。

グレイの助命嘆願のくだりでは、アンリが力強くマドカを励ましていたことも印象的でした。他ルートでは重病で倒れる印象が強いアンリですが、グレイルートでは亡き夫と自分のことも踏まえつつ、優しくも毅然とした態度でエールを送ってくれます。他のルートでも感じましたが、アンリが自分たちを受け入れてくれたカムジェッタに強い愛着と恩義を抱いているのはすごく良いなと思います。

グレゴリウスはルート終盤に命がけで危ない橋を渡りますが、その行動にしてもそれまでの行動にしても、たいていは根底にマドカへの思いがあります。その事実を見直すたび、「すごいな」と驚嘆してしまう自分がいました。

「そんなに背負い込まなくてもいいのにと何度も思った」と上で書きましたが、グレゴリウスがつらさを我慢できるのは、ひとえにマドカがいるからなんですよね。「国のため」「移民のため」「国民のため」……と、外から眺めたときのグレゴリウスの理念や行動は、純粋に多くの人を救うことに繋がるものです。しかしその内面を覗くと、必ずと言っていいくらいに動機にマドカの存在が絡んでいます。

外と内のどちらに注目したとしても、導かれるのは「どこまでも利他的な人」というアンサーです。ただそれでも、「社会を変革しようとする人間の原動力が実は、ただひとりの人への愛情である」というコントラストにはしびれるものがあります。

もっとも、グレゴリウスはマドカを兄目線で見守ることに落ち着きすぎていて、恋愛的に成就するのか途中で心配になりました。アマネと同じで物分かりが良いというか、「マドカが幸せならそれでいい」という達観した思考をしがちなんですよね。

だからこそ、エピローグでの仲良しっぷりには安心しました。マドカの特大級のデレがなんとも嬉しく、真面目モードのグレゴリウスの告白にも感動しました。本当に幸せ空間という感じで、プレイヤーとしても心から喜べるラストでした。

*****

感動あり笑いありのすごく面白いノベルゲームでした。リメイクバージョンの完全版が発表されたら、ぜひプレイさせていただきたいなと思います。

※前回の記事:『セロシア・キャンドルをあなたに捧ぐ』 世界各国の要人と恋するノベルゲーム レビュー その1

関連記事

気に入ったらシェア!

かーめるん
この記事を書いた人: かーめるん
フリーゲーム、映画、本を読むことなどが好きです。コンソールゲームもプレイしています。ジョジョと逆転裁判は昔からハマっているシリーズです。どこかに出かけるのも好きです。古い建築物などを見ると癒されます。

当サイトの説明は、「フリゲと旅と映画について」の概要に詳しく書きました。サイト内の全記事をチェックしたい方は、インデックスをご覧ください。

また、お問い合せはこちらのメールフォームからお願いします。

拍手コメントへの返信は、該当記事の下の方に追記します。特別な記載がない場合は、(管理人にのみ内容が通知されるコメントであっても)基本的にHNを明記して返信させていただきます。あらかじめご留意ください。

返信不要の方は、その旨を簡単にお書き添えください。その場合、内容への返信はいたしません。その他ご要望等あれば、お問い合わせ・コメント時にあらかじめ教えていただけるとありがたいです。

コメント0件

There are no comments yet.