『カルィベーリ』 少女が無人のホテルを探索するADV 感想&考察 ※ネタバレ注意
探索アドベンチャーゲーム、『カルィベーリ』の感想&考察記事です。制作者はあうぐ様。ゲームのダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → カルィベーリ
カルィベーリ
『カルィベーリ』は、弟エフィムのために食べ物を探して無人の「ホテル・カルィベーリ」に忍び込んだターニャの物語です。タイトル名の「カルィベーリ(колыбель)」は、ロシア語で「ゆりかご」を意味します。クリアまでの所要プレイ時間は30分ほどでした。
以下はネタバレをガッツリと含む『カルィベーリ』の感想と考察です。未見の方はくれぐれもご注意ください。
『カルィベーリ』のあらすじと特徴
カルィベーリ
先ほども述べた通り、『カルィベーリ』の主人公は「ターニャ」という名の少女です。吹雪の中、弟のエフィムを残して家を出た彼女は、ホテル・カルィベーリに忍び込みます。食料を求めて、なぜか無人のホテル内を探索するターニャ。プレイヤーはターニャを操作し、彼女が目的を果たすまでの過程を見届けることになります。
「夜に無人のホテルに忍び込む」と書くといかにもそれっぽいですが、『カルィベーリ』にホラー的な脅かし要素はほぼありません。どちらかと言えば抑制的で暗く、静かな雰囲気の作品です。なぜホテルは無人なのか、なぜターニャはホテルに忍び込んで食料を探すのか……それらの理由は当初プレイヤーには知らされないため、靄がかったような不安な気持ちのまま攻略を進めることになります。
ところで、制作者であるあうぐ様の作品の特徴(『カルィベーリ』にも共通する)は、基本的に作中でBGMが用いられないことだと思います。『カルィベーリ』ではBGMの代わりに環境音が主体となって用いられ、雰囲気を高めています。
また、情報量の少なさも特徴の1つだと言えます。こういった脅かし要素の少ない作品は特に、資料を探して繋ぎ合わせることで物語を浮かび上がらせていく趣きが強くなっています。その他、マザーグースの引用による真相の暗示も印象的な要素です。
加えて、全体としてプレイヤーの導き方が巧妙な作品が多いことも特徴的だと思います。たとえばある道具を入手すると、「そういえばあの気になるところにこの道具を使えそうだな」とすぐにピンとくるんですよね。
「いや、それってゲームとして当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれません。しかし案外そうとは言えないと私は思います。かつ、ヒントの的確さとタイミングの良さ、その積み重なりは、プレイヤーに快適なプレイ感を与える大切な要素だとも思っています。
もちろん、主人公に「あれが気になる」、「あそこに行かなくちゃ」と言わせることでヒントを提示する探索ADVはたくさんあります。最近は詰まないようにとの配慮から、メニュー画面で小目的を逐一確認できる親切なゲームも多いです。それはそれで有り難い配慮です。
ただ、あうぐ様の作品群は、おしゃべりではないのに親切なんですよね。作品にそぐわない饒舌さを省くために、プレイヤーの思考も加味しつつ、情報を落とすタイミングがきちんと計られています。点と点がすっと繋がる情報提示の仕方が上手く、ストレスフリーにプレイヤーをコントロールする手法に長けている……とでも表現するべきでしょうか。
そういうところにまで気を配っている探索ADVは意外と少ないような気がします。個人の感じ方にもよると思いますが、私はあうぐ様の作品のサクサクとした進行が好きです。『カルィベーリ』もやはりサクサクとプレイできるゲームでした。
緩やかに終わりへと向かう「ゆりかご」を描いたストーリー
カルィベーリ
制作者様の他の作品と同じく、今作の『カルィベーリ』も鬱々として重く報われない話でした。再度の注意ですが、ネタバレを含みます。
『カルィベーリ』は、社会的弱者を置き去りにしたゴミ箱のような廃都市を舞台に、立場の似通った3人の少女をフィーチャーした物語です。
3人の少女のうち、1人は弟エフィムを養う「主人公ターニャ」、もう1人はかつて妹ニーナとホテル・カルィベーリに隠れ住んで「手記を記した少女」、最後の1人は「拳銃を持った例の少女」です。
舞台のモデルは、タイトルや通貨単位からしてロシアでしょうか。ターニャたちが住む地域はほぼ無人になっていますが、それは政府から市内全域に出された謎の避難命令が原因らしいです。
災害か、人災か、戦争か、政府の陰謀か。色々なことを疑った挙句、手記の少女は1つの結論に行き着きます。すなわち、「私たちのようなゴミをふるい落とすためだったのではないか」、と。手記の少女たちのような貧民や浮浪児は、避難を許されなかったのです。
テレビの不穏なニュースから推察するに、避難命令には国内規模の大事件が関係しているらしいです。しかし、結果的に社会的弱者が切り捨てられたことには間違いありません。見捨てられた都市では電力や水道の供給がストップし、食べ物はどんどんとなくなっていきます。
『カルィベーリ』では、閉鎖的な世界で少女たちが生きるために争った顛末が語られました。しかし、そうやって弟妹のために食べ物を持ち帰った拳銃の少女も、やはり長くは生きていけないだろうことが暗示されています。
ゴミの掃きだめのような廃都市という「ゆりかご(カルィベーリ)」の中で、人々は緩やかに死に向かうしかないのです。本当の意味で誰も救われない結末であり、とても素敵な鬱加減でした。
『カルィベーリ』は登場人物が多かったり政府の陰謀or災害が匂わされていたりするので、他の作品とは少し毛色が違うようにも感じました。それでも制作者様の持ち味はバッチリと光っていると思います。ラストの衝撃とプレイ後の沈鬱な気持ちが後を引く作品でした。
共通する「怖さ」と「悲しみ」
あうぐ様の作品は今のところすべてプレイ済です。ちなみに、一番最初にプレイしたのは『盲愛玩具』でした。いまだに強く印象に残っている作品です。
≪関連記事:『盲愛玩具』 少女たちの幸福と悲しみを描く探索ADV 感想≫
それなりにホラー耐性や脅かし耐性はある(と自分では思っている)んですが、『盲愛玩具』をプレイしている間はビビりっぱなしでした。正直に言うと2回ほどビビって悲鳴を上げました。操作するのが怖い、これ以上は無理無理と思ったゲームは久々でした。(怖さの方向性的な意味で)ツボにはまったのかもしれません。それ以降、その怖さに病みつきになって全作品をプレイさせていただきました。
制作者様の作品のベースには、必ずと言っていいほどに「少女を襲う悲劇」が存在します。純真さ、幸福、脆さといったものの象徴が少女なのかもしれません。
作品群をプレイすると、個人的には、「生まれてきたことの悲しさ」や「生きていくことの哀しみ」といった普遍的なテーマも心に浮かびます。そういった悲劇を覆そうという勇ましい作風ではないことも、私が制作者様の作品に惹かれる理由の一つなのだろうと思います。
ホラー作品ではないものも含め、あうぐ様の作品にはどれも、染み入るような怖さと悲しさがあると思います。たとえば最新作の『アイシャの子守唄』も、テーマがしっかりとした怖くて悲しい作品でした。
≪関連記事:『アイシャの子守歌』 真相&時系列を考察 感想≫
『カルィベーリ』の時系列の考察
最後の項目では、『カルィベーリ』の時系列を自分なりに考えてまとめました。あくまで一プレイヤーのまとめなので、間違い等あるかもしれません(拳銃の少女あたりは特に)。完全なるネタバレです。
「手記を書いた少女」と彼女の妹である「ニーナ」が避難できずに市内に残り、ホテル・カルィベーリに住み始めた。その時点で、ホテルにはある程度の食料が残されていた。
ある日、手記の少女は風邪を引いたニーナのために街に出た。ホテルに帰ってくるとニーナは何者かの手によって事切れていた。残された資料から考えるに、加害者はおそらく「拳銃を持った少女」。ニーナは食べ物を出し渋ったために命を奪われたのだろう。
手記の少女は絶望しニーナの亡骸を埋めたが、しばらくしてその墓の横に自らの墓穴を掘って命を絶ったらしい。
その後、食料が腐りきった頃に、食べ物を求めて「ターニャ」がホテルに侵入(『カルィベーリ』の冒頭)。食糧庫から保存食を持ち出そうとするも、拳銃の少女に見つかって撃たれる。拳銃の少女にもまた養うべき弟妹がいた……というオチ。
「自分で何かを探すよりも人が見つけたものを取った方が早い」と手記で語られていましたが、『カルィベーリ』のラストは衝撃的でした。
手記の少女とニーナはすでに亡く、ターニャもラストで命を奪われました。ターニャを失ったエフィムは一人では生きていけないでしょうし、拳銃の少女とその弟妹もまた、遅かれ早かれ他の子どもたちと同じ道を辿るしかないのだと思います。
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※あうぐ様の他の作品についても感想記事を書いています。
・『アイシャの子守歌』 感想 真相&時系列を考察(廃屋の地下に閉じ込められた少女が地上を目指すADV)
・『盲愛玩具』 少女たちの幸福と哀しみを描く探索ADV 感想(養い親のもとで幸福に暮らしていた少女が真実を知るADV)
※また、ロシアのストリートチルドレンを題材にした作品の感想記事も書きました。
→ 『Ulitsa Dimitrova』 ストリートチルドレンを操作するアドベンチャーゲーム 感想
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