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『deep-sea fishes in gloom』 「深海魚」をめぐる短編ミステリADV 感想&レビュー ※ネタバレ注意

2016/05/03
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短編アドベンチャーゲーム、『deep-sea fishes in gloom』の感想&レビュー記事です。制作サークルは言ノ葉迷宮様。制作者様のHPはこちらです。 → 言ノ葉迷宮

deep-sea fishes スクショ タイトル画面

deep-sea fishes in gloom

『deep-sea fishes in gloom』。タイトルを訳すなら、「暗がりの深海魚たち」といった感じでしょうか。憧れの上司の付き添いでとある別荘を訪れた主人公が、ちょっとした事件に巻き込まれるお話です。

少し前に言ノ葉迷宮様について教えてもらい、フリーソフト形式の作品をすべてプレイさせていただきました。1つ手を出したら面白くて面白くて、次々にプレイしてしまった次第です。

ミステリもアドベンチャーも好きなので、言ノ葉迷宮様のゲームはクリティカルヒットでした。どの作品にも一定の論理が存在し、選択肢の積み重ねで分岐が変化したときの快感に病みつきになります。そんなの分かるわけない、とか結局どういうことだったのか、とプレイ後に思わされることはまず無かったです。よく考えることってこんなに楽しいんだなとプレイするたびに実感しました。

シナリオのドライすぎずウェットすぎず、知的で穏やかな空気感も好きです。またSEやBGMのチョイスも素晴らしく、場面ごとの雰囲気に浸ってしまうこともしばしばありました。

というわけで、とりわけ印象に残ったいくつかの作品について今後簡単に感想を書こうと思います。以下は、『deep-sea fishes in gloom』のネタバレを多分に含む感想です。ご注意ください。

『deep-sea fishes in gloom』のあらすじ

『deep-sea fishes in gloom』のあらすじを簡単に書きます。

deep-sea fishes スクショ 選択場面には時間制限が存在する

deep-sea fishes in gloom

『deep-sea fishes in gloom』の主人公は、「甲斐原」というシステムエンジニアの青年です。彼は頼れる上司である先輩の「智形さん」にほのかな好意を寄せています。

あるとき、2人は仕事で取引のある「秦元氏」に招待され、彼の別荘を訪れることになります。別荘には秦元氏のまだ幼い娘2人も来ていました。彼女らとどこかぎこちないやりとりをする秦元氏。実は2人の娘はつい最近まで施設で生活していたらしく、秦元氏は2人の存在を知ってすぐに引き取ったものの、娘たちとどう接すればいいのか悩んでいる最中でした。

複雑な親子事情を目に留めつつも、都会で疲れた体をリフレッシュさせようとする甲斐原。しかし、のどかな時間を一変させる「ある事件」が発生します。秦元氏が娘に贈ろうと購入した絵本が、解かれた包装のみを残していつの間にか消えてしまったのです。

絵本を盗んだのは誰か? その動機とは? そして、真相にたどりついた甲斐原が気づく「暗がりの深海魚たち」の秘密とは? ……といったあたりがストーリーの見どころです。

『deep-sea fishes in gloom』のあらすじ

続いて、『deep-sea fishes in gloom』の概要を簡単に書きます。

『deep-sea fishes in gloom』は短編アドベンチャーゲームです。主人公はSEの甲斐原。推理要素があり、作中で発生する事件を解決できるか否かによってエンディングが4つに分岐します。1周は20~30分程度。

初回プレイ時は、「任意セーブ不可」「選択肢場面に制限時間あり」という縛りが存在します。また、エンドを何度か迎えることで、以下の4つのお助け機能を解放できるようになります。

・任意セーブOK
・選択肢の制限時間設定を無くす
・『戻る』(一つ前の選択肢場面に戻る機能)の使用
黄色いモノ(推理ヒント)の提示

ちなみに、4つ目の「黄色いモノ(推理ヒント)の提示」とは、文章中の手がかりとなる箇所が黄色くなり、カーソルを合わせるとヒントコメントが表示される機能のことです。

ストーリーと推理面の感想

『deep-sea fishes in gloom』は、制作者様の作品群の中でも特に好きなゲームです。言い回しと文章のテンポがよく、推理要素もさらっとしているようで質が高かったです。

私個人の話ですが、ミステリ要素を含むノベルゲームをプレイするとき、推理面の複雑さ・凝り具合よりも、読者(プレイヤー)への見せ方の上手さに注目することが多いです。

上記の観点から見て、『deep-sea fishes in gloom』はとても面白い作品だなと思いました。ある視点から振り返ると、散りばめられたさり気ない描写群が一本の線となって浮き上がる構成になっています。もっと言うと、そういったヒントとなる描写の中に物語の核心を示唆するものが含まれていることも秀逸です。

また、人の命に関わるような派手な展開なしに、人間心理の一面を鮮やかに切り取った話が描かれていることも素晴らしいなと思います。冒頭の世間話のように見えた深海魚の話の巧妙な回収といい、推理としても物語としても、一つの確固たるテーマに沿ってまとめ上げられていると感じられるつくりでした。

実際にプレイしたときの感想ですが、エンド回収するにあたってなかなか苦労しました。「分かる人には簡単」という説明がありましたが、悲しいことにすぐには分からなかったです。犯人はなんとなく察しがついたのですが、証拠は曖昧、動機に至っては見当もつかないありさまでした。

黄色いモノを見ていて、「普通のハサミ」に引っ掛かったのが犯人を特定する証拠に気づいたきっかけでした。どうして「普通の」がつくんだろう、そういえば主人公にとっての「普通の」ハサミって……と。一度気づくと、確かに全員分の「ある特徴」を確認できる場面が存在することにも思い当たりました。

それでも動機はまるで分からず、エンディング01での告白を聞いて「そういうことだったのか」としんみりさせられた次第です。

犯人と「深海魚」について

※以下には犯人の行動についてのネタバレが含まれます。

普通に考えると、人が子供に用意したプレゼントを盗むのはアウトです。ただ、自分なりの感傷にしたがって行動した犯人を殊更に非難する気にはなれませんでした。それが犯人にとって必要な行為であって、プレイヤーの私自身もその感傷に少なからず共感を覚えたからです。

「深海魚」が「深海」で不自由していたのか。これは答えが出ない問いだと思います。立場によって価値観は変化するものです。内部から見れば豊かに感じられても、外部から眺めれば「そうではない」と思う人もいることでしょう。

しかし「深海魚」がいて、彼らを気の毒に思って急激に引き上げようとしている人がいることは事実だった。ひっそりと身を寄せ合って生きていた「深海魚」にとって、そういう存在が必要でもあった。

だったらせめて、「深海」の豊かさとそこで育まれた「深海魚」の独特の精神性をよしとし、その浮上に伴う衝撃を和らげようとする人も存在していいんじゃないかな、と思いました。少なくとも、「深海魚」の片割れは犯人のアドバイスに元気づけられた様子でした。

まあ犯人も自覚済みですが、プレゼント奪取は気休めに過ぎないんですよね。ただ、その気休めを「深海魚のため」というより「自分のため」にやってしまう犯人の人間臭さはけっこう好きだったし共感もできました。もしもあそこで「深海魚のためにやった」と告白されたら、一気に白けていただろうと思います。

トイレに籠ってプレゼントを……と話す犯人の言葉は臨場感に溢れていて、そのときの複雑な感情や、もっと踏みこんでその過去を知りたいと思わされました。

*****

深海魚じゃないですが深いお話でした。血生臭い惨劇が起きなくても、これだけ人の心理を深く描けるものなのかと感動もしました。短くまとまった心にすっと染み入る系の作品で、個人的には大好きです。

言ノ葉迷宮様の他の作品について、いくつか感想記事を書いています。

『かげろうは涼風にゆれて』 夏の孤島を舞台にしたSF青春ADV 感想 攻略
『テオとセァラ』 「選択をやり直せない」ノベルゲーム 感想 考察 攻略
『月屋形事件』 感想 攻略 考察(甲賀三郎原作のパスティーシュ作品。歯ごたえ十分のミステリADV)

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かーめるん
Admin: かーめるん
フリーゲーム、映画、本を読むことなどが好きです。コンソールゲームもプレイしています。ジョジョと逆転裁判は昔からハマっているシリーズです。どこかに出かけるのも好きです。草木や川や古い建築物を見ると癒されます。

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