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『ヒトミサキ』 懐かしい故郷で事件が起こるノスタルジックミステリーADV 感想&攻略 ※ネタバレ注意

2021/02/07
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故郷の田舎町で事件に巻き込まれる推理アドベンチャーゲーム、『ヒトミサキ』の感想&攻略記事です。制作者は裏束様。作品のダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → ヒトミサキ

ヒトミサキ スクショ タイトル画面

ヒトミサキ

『ヒトミサキ』は、久々に故郷に帰った男子高校生が身内絡みの事件に巻き込まれるミステリーアドベンチャーゲームです。ストーリーは一本道ですが、選択ミスorフラグ未回収によるゲームオーバーやバッドエンドが存在します。流血表現が多少あるものの、脅かしやホラー要素はほぼありません。

少し前に同制作者様の『真・村雨』(ジャンル:サバイバルサスペンスADV)を遊んだところ、作中で『ヒトミサキ』との関連性が匂わされていたので、「これは遊ぶしかない」と思ってプレイしました。ちなみに「ヒトミサキ」というゲームタイトルは、主人公タクミの故郷であり物語の舞台でもある「一見崎」から来ています。

≪関連記事:『真・村雨』 惨劇の夜を生きのびるサバイバルサスペンスADV 感想&考察 ※ネタバレ注意

『ヒトミサキ』の感想を簡単に書くなら、「論理も感情も兼ね備えたグレートな推理ADV」でしょうか。ミステリ部分では「そういうことか!」と何度となく納得と快感を味わい、ストーリー部分ではやるせなさと悲しみに心をかき乱され、最後の最後まで釘づけになってプレイしました。めっちゃ面白かったです。あとで「ノスタルジックミステリーADV」という形容を知り、簡潔明瞭なその表現に深く納得しました。

以下では、『ヒトミサキ』のストーリー&キャラクター感想やエンディング攻略などについて書きます。事件の真相やキャラクターの秘密など作品の核心に触れるネタバレ情報が多く含まれているので、未見の方はご注意ください。

『ヒトミサキ』のあらすじ

『ヒトミサキ』のあらすじを書きます。

ヒトミサキ スクショ 久々に幼なじみのナナミの家を訪れる

ヒトミサキ

主人公の「戸塚タクミ」は高校2年生。修学旅行中に発生した火事で家族4人を亡くし、母方の伯母を頼って、かつて暮らしていた一見崎(ヒトミサキ)へとやってきた少年です。

一見崎はタクミにとって懐かしい故郷であり、親身で愛情深い人間の多いのどかな田舎町です。しかしちょうどタクミが不在だった1年前、一見崎では「犬飼一家殺人事件」と呼ばれる不可解な事件が発生していました。犬飼一家の3人が死亡したこの事件の全貌はいまだ不明。容疑者と目される少年は事件直後に失踪し、その行方はようとして知れないまま現在に至っていました。

引っ越す前に仲良くしていた「片桐ナナミ」と「岡崎ヒロ」の歓迎を受けつつ、犬飼事件や今後のことについて彼らと話していたタクミ。しかしそんな中、タクミの唯一の肉親である意地悪な伯母が何者かに殺害されてしまいます。現場に残されていたのは、「1年前の続きだ まだ終わらせない」という不穏なメッセージでした。

タクミの伯母の命を奪ったのは誰なのか? 突然の事件にも冷静なタクミの真意とは? そして、1年前の犬飼事件の真相とは? 平和で穏やかな田舎町で再び血が流れるとき、タクミは変わらぬ故郷と人の優しさ、そして悲しい真実に直面することになります。

ゲームオーバー&エンディング攻略について

ヒトミサキ スクショ 現場に残されていた一年前の事件に関するメッセージ

ヒトミサキ

『ヒトミサキ』のストーリーは、基本的には一本道です。数日のうちに発生するいくつかの小事件に対応しつつ、最終的にはそれら事件の全容を解明し犯人を突き止め、後日談へ……という流れをたどります。

ただし、重要な選択肢を外したり、「回想構築」(情報を整理し過去に起こった出来事を脳内で構築する)を失敗することによって、物語途中でゲームオーバーに至ることがあります。どこで詰んだかによって、ゲームオーバーの内容は大きく異なります(後述:「全ゲームオーバー&エンディングの感想(+犯人考察)」)。

また、終章に入ると選択肢によるゲームオーバーではなく、バッドエンドorフェイクエンドorベストエンドのいずれかに行き着くことになります。この3つのエンド分岐に関しては、もう少し下の「3種類のエンディングへの分岐点」の中で詳しく書きます。

ゲームオーバーに至る分岐点

まず、ゲームオーバーに至る分岐点についてまとめます。選択肢の正否、あるいは回想構築の正誤によってストーリーのゲームオーバーに至るポイントは、おそらく5つ存在します。

1つ目のゲームオーバーに至る分岐点は、第三章で瀕死のケンジから電話を受けた直後にあります。通話が切れた後、通話を切って他の人間に連絡するか犯人を探るために繋いでおくかの選択肢が発生します。この選択肢で後者を選ぶと、バッドチョイスによりゲームオーバーに導かれます。

2つ目のゲームオーバーに至る分岐点は、同じく第三章、ケンジの居場所を突き止める際の回想構築です。この回想構築で失敗すると、1つ目とは似て非なるゲームオーバー(※「全ゲームオーバー&エンディングの感想」で後述)を迎えることができます。

3つ目のゲームオーバーに至る分岐点は、第四章の安田刑事と問答するパートに存在します。このパートでは、安田刑事の提示する「タクミ犯人説」を否定する必要がありますが、1つでもミスするとその場でゲームオーバーになります。

4つ目のゲームオーバーに至る分岐点は、同じく第四章の、誘拐されたナナミの居場所を突き止める際の回想構築です。この回想構築で失敗すると、ナナミを見つけることができずゲームオーバーとなります。

最後に5つ目のゲームオーバーに至る分岐点は、第四章の終盤に存在します。町の人に聞き込みを終えた後、瀬崎&月村とナナミの誘拐事件について話し合うことになりますが、ここで推理を誤るとゲームオーバーです。「違和感を感じた相手とは?」でミスると最速で見られます。

3種類のエンディングへの分岐点

続いて、複数のエンディングへの分岐点について説明します。第四章までは選択肢ミス等でゲームオーバーに誘導されますが、連続誘拐事件と犬飼一家事件を解明する終章に入ると、推理ミスによってバッドエンドに分岐します。

先ほども述べた通り、『ヒトミサキ』にはBAD END/FAKE END/BEST ENDの3種類のエンディングが存在します。このうちバッドエンドは3通りあり、すべて関係者を集めて推理を披露する事件解明パートから分岐します。詳細な分岐ポイントは以下の通りです。

  1. ナナミ誘拐事件パートにて、犯人に証拠提示を要求されたときに選択肢をミスする
  2. 犬飼事件推理パートにて、矛盾する2つの証言を選択するときにミスする
  3. 犬飼事件推理パートにて、真犯人を指名するときに別の人物を選ぶ

無事に事件解明パートを抜けると、町中の人にお別れをする後日談パートに入ります。ここで普通にさらーっとあいさつをして回り、瀬崎&月村に話しかけて一見崎を離れると決め、ナナミに別れを告げるとザ・エンド……ではなく、フェイクエンドに行き着きます。文字通り「偽の結末」であり、タクミがすべての真相を知ることなく一見崎を去るエンディングです。

すべての真相を知るには、ベストエンドを見る必要があります。ベストエンド到達の鍵を握るのは、本編中に何かと因縁のあった北村刑事です。北村刑事は最初どこにもいませんが、数日間で深く関わった人たちにあいさつし終えると警察署前に出現します。単に警察署に入ってケンジ&安田刑事と話をするだけでは現れないので注意しましょう。

実際のプレイ時には、警察署内でケンジ&安田刑事と話す(北村刑事の存在をほのめかすヒントあり)→ナナミやヒロ母、旅館の女将の浅井さん(と姪っこ)、老夫婦、田中商店の田中さん、ヒロ父の友人だった手塚あたりに声をかける→警察署に戻る……というプロセスを踏むことで、無事に北村刑事を発見できました。出現条件は、「特定の人物すべてに話しかける」or「一定数の人間に話しかける」のどちらかでしょうか。

北村刑事と話すと、タクミがある重要なことを思い出します。直後に北村刑事に「ボイスレコーダー」を突きつけるとフラグが立つので、旅館に戻って瀬崎たちに話しかけましょう。最終章が始まります。ここでタクミの伯母を殺害した犯人の名前を挙げることができれば、ベストエンドに到達可能です。

ちなみに、最終章で犯人の名前を挙げられないor間違えると、バス停でナナミとお別れするフェイクエンドに誘導されます。ただし、このルートでは北村刑事と伯母の事件について話しているため、バス停シーンに移行する前に追加要素が発生します。短いもののベストエンドの内容を知っているとグッとくるくだりが見られるので、見て損はない内容だと思います。

ネタバレ込みのストーリー&キャラクター感想

ヒトミサキ スクショ タクミの伯母が何者かに命を奪われる

ヒトミサキ

ここから、『ヒトミサキ』のネタバレ込みのストーリー感想&キャラ感想を書いていきます。以下には、犯人の情報やキャラクターの秘密など物語の核心に触れるネタバレが含まれます。

まず結論から書いてしまうと、『ヒトミサキ』は非常に面白いアドベンチャーゲームでした。雰囲気がめっちゃ良いゲームなんですよね。起動してタイトル画面を初めて見た時点で「あ、このゲームすごく雰囲気良さそう」と感じました(暗い空と森の梢、綺麗なのに不穏なBGMが絶妙だった)が、その予想は最後まで裏切られませんでした。

「雰囲気が良い」の意味合いについて問われると、そもそも主観かつ感覚的な話でしかないので悩みます。ただ『ヒトミサキ』に関しては、ストーリーやキャラクターや舞台設定等が一体となって「一見崎」という架空の田舎町に説得力を持たせてくれる点、それによってプレイヤーに親近感とノスタルジーをしみじみと味わわせてくれる点が印象に残りました。一見崎に複雑な葛藤を抱く主人公タクミの結末を最後まで見届けたい、と自然と没入できるゲームだったと思います。

ノスタルジックなストーリーに溶け込む推理要素

記事冒頭にも書いた通り、『ヒトミサキ』の印象を一言で書くとすれば、「論理と感情を兼ね備えた推理ADV」です。

もう少し具体的に書くと、「登場人物の動きと思考にしっかりとした論理性がある一方、他者との関わりや情動によって生じる人間ドラマを見ることもできるミステリ作品」でしょうか。骨組みはカッチリ堅固で揺るがないのに、内部には柔らかく温かいものが詰まっているというか、推理要素とストーリー展開が絶妙に溶け合ったミステリADVだった印象です。

『ヒトミサキ』は、厳密で細かい推理が必要とされる(例:第一の事件の凶器は何か、その証拠は何か、どのようなトリックが用いられたか、それを示す証拠は何か……と逐一挙げていく)タイプのゲームではありません。また、シビアで難しい思考を要求される場面も特段ありません(手がかりの提示の仕方が意地悪ではないので最悪総当たりでも解ける。総当たりが大変なのもボイレコ証言の矛盾指摘くらい)。

ただ、複数発生する事件への対応と推察、およびそこから手がかりを見出して真相解明へと向かう流れが筋道立っていて明快でした。視点人物であるタクミが冷静かつ賢いこともあり、状況を把握しやすいし、モノローグも痒い所に手が届く内容だったなーと思います。

先ほど書いた通り、『ヒトミサキ』は推理面をガチガチに突き詰めた作品ではなく、ストーリーの中に推理要素が自然と溶け込んでいるゲームだと私は思ってます。

私自身はどちらかと言えばストーリーを見たい派なので、『ヒトミサキ』のゲームデザインはかなり好みでした。そして個人的な好みを脇に置いても、推理要素の主張が強すぎない(=推理すること自体が目的ではなく、推理はあくまで物語を進めるための手段である)ことが、かえって『ヒトミサキ』の「ノスタルジックミステリーADV」感を際立てていたように思います。

というのも、『ヒトミサキ』の主人公は意欲的かつ自信たっぷりに難事件を解決する探偵(orミステリ小説愛好家etc.)ではないからです。

主人公の戸塚タクミは、つい最近家族を亡くして故郷に戻ってきたごく普通の高校生です。表面上は平静に見えても内心は家族を失ったショックでややまいっているし、事件を調べ始めるのも能動的にではなく必要に迫られてのこと。基本的に冷静で頭は良いものの、特殊なスキルや専門的な知識・経験を有しているわけではありません。

そんなタクミのキャラクターを思えば、彼と『ヒトミサキ』のストーリーに「俺に任せろ、謎を解明してこの事件を解決してやる!」といった気負いや勢いがないこと、また、高度で小難しい推理が展開されないことはごく自然な話です。むしろ、バリバリ推理をする系の主人公とストーリーではないからこそ、タクミに寄り添いながら物語を追い、『ヒトミサキ』の魅力である哀愁漂うノスタルジーを堪能できたようにも感じました。

また、「回想構築」という『ヒトミサキ』における独自の推理システムも、タクミのキャラクター造形から来る要請にバッチリ応じたものだったと思います。

回想構築は難解なトリックや暗号を解明するものではなく、特殊な道具や機器を使って行うものでもありません。ただ聞き込みによって地道に情報と証拠を集め、論理的に当時の状況を構築し、他人の言動を客観的かつ筋道立てて推察するシステムです。

最初こそ地味な要素だなーと思ったものの、ストーリーを進めて何度か試みるうちに、回想構築は主人公タクミのキャラ造形(他より少し冷静で頭の回る一般の高校生)に立脚した堅実なシステムだと感じるようになりました。なんというか、突飛ではなく自然にストーリーに調和して馴染む要素なんですよね。

回想=過去を思い出すことでもあるので、故郷への郷愁やかつての友人との再会といったテーマを扱う『ヒトミサキ』にピッタリのシステムだとも思います。

回想構築のみならず、『ヒトミサキ』は総じて「このトリックSUGEEEE考えた主人公もSUGEEEE」とプレイヤーを驚かせるのではなく、「あーなるほどそう考えるとバッチリ辻褄が合うなあ」とプレイヤーに納得と満足感を与えることが巧いゲームでした。

推理面で特にドキドキしたのは、犬飼一家事件を紐解く回想構築とその前後の推理(第四章)でしょうか。事件当時の来客状況をジュースの買い出し情報から導く流れが大好きです。さり気ない手がかりに着目することにより、隠された真実にたどり着く展開に大いに燃えました。

あと、『ヒトミサキ』には犯人が1人以上存在しますが、証拠や状況によってその事実がうまく示唆されている(後で振り返って「そういえば……」と気づける)点も見事でした。具体的には、タクミへのコンタクトのとり方が犯人によって違っていたり(ケンジの事件の犯人は慎重、誘拐事件の犯人はややうかつ)、複数の現場に残されたメッセージの内容が実は正反対だったり(伯母の事件では1年前の事件を蒸し返す内容、ケンジの事件では1年前の事件をこれ以上掘り返すなという警告)。

改めてまとめると、推理要素がガチガチに主張することなく自然に物語に溶け込んでいて、テンポよくプレイヤーを終章まで導いてくれる点が好印象でした。簡潔に表現するなら、「推理要素がストーリー&キャラクターとよく調和している」という感想になるのでしょうか。推理要素とは少し離れますが、キャラの思考や行動が常に論理的であることも、安心感があるし読み進めやすくてよかったです。

また、『ヒトミサキ』をプレイして最も魅力的に感じたのは、ノスタルジーと人間ドラマと哀しみに満ちたストーリーです。タイトルにもなっている「一見崎(ヒトミサキ)」とそこに暮らす人々へのノスタルジー(郷愁/懐古)、他者を思うがゆえのすれ違いや悲劇など、物語に内包される要素がとにかくツボに入るものばかりでした。

故郷に帰る系の話に付き物の二大感情と言えば、「みんなすっかり変わったんだな」(寂しさと諦め)と「みんな昔から変わらないな」(安心と喜び)ではないかと思います。

『ヒトミサキ』の場合、最初は「みんなすっかり変わったな」系の話という印象を受けました。数年経って精神的に成長したように見えるナナミやヒロはもちろん、他ならない主人公がすっかり変わってしまった(昔は明るくて頼れるリーダー的少年だったのに)と頻繁に言及されるので。

しかし話が進むにつれて、「やっぱりみんな昔から変わっていない」という印象が強まっていきます。より正確に言うなら、「みんな変わってしまったようで実はまったく変わっていなかった」ことが判明し、最終的には「そのために悲劇が発生した」という残酷な真実が明かされていくのです。

この段に至って、「一見崎の住人には親身で愛情深い人が多い」という何度か提示された情報がボディーブローのように効いてきます。本来なら嬉しいことであるはずの「みんな変わらないなあ」が、終盤はどうしようもない切なさとやるせなさをプレイヤーにもたらすわけです。これぞ構成の妙だと思います。

とはいえ『ヒトミサキ』の良さは、最後の最後に変わらずそこにあった故郷の人の愛情深さが絶望した主人公を救う点にあります。一見崎との関係に葛藤するタクミを眺めてきたこともあって、ベストエンドの内容には思わず涙しました。

全体を通して、思いやりのある人々が暮らす一見崎という懐かしい故郷、その故郷にまつわるノスタルジックな感傷を多角的に描いた素晴らしいシナリオだったと思います。最後まで没入してストーリーを追うことができました。

キャラクターについて

キャラクターに関しては、なんといっても主人公のタクミが印象深いです。率直に言って、最初は冷たくていけすかない主人公だなーと思っていました。「タクミは家族を亡くしたばかりだから」と頭で納得しつつも、いくつかの場面で「いくら何でもナナミやヒロに冷たくない?」と感じてしまったので。

ただ、物語が進むにつれて、だんだんとぶっきらぼうで強がりなタクミの本音や素顔が見えてくるんですよね。他人に頼るのが嫌で自分を強く見せてしまう気持ちや天涯孤独の身になった寂しさ、本当は誰かに寄りかかりたいという素直な欲求……それらがタクミの中でせめぎ合っていること、そのために自分を頼れる兄貴分のように見ているナナミに対して冷たく当たってしまうことも分かってきます。彼がある意味で「信頼できない語り手」だったことが判明した後は、物語序盤のタクミに感じた違和感もきれいに解消されました。

ゲームオーバーやバッドエンド、事件解明パート、ベストエンドを見るたびにタクミの素の感情が見えて彼への印象がどんどんと好転していくので、なんともうまい見せ方だなーと思いました。タクミにしっかりと感情移入できたからこそ、彼が本音を吐露するベストエンドであれだけ感動できたんだろうと思います。愛着の湧く主人公でした。

あと、片桐ナナミちゃんはどこまでも良い子で癒やし枠でした。感情表現が素直で美味しいオムライスを作ってくれて(特にプレイヤー視点で)一緒に居て安心できる女の子とか最高ですね。

真面目に考えると、タクミにとって、あるいはプレイヤーにとっての「ヒトミサキなるもの」の象徴がナナミなのかなーという印象です。後述しますが、ベストエンドでああいう対応をとってくれた彼女と片桐家には、プレイヤーとしても感謝の気持ちしかありませんでした。

また、真犯人たちも印象に残りました。彼らの動機を知ってまったく違和感が生じない点は、伏線の張り方や舞台設定の巧さゆえだなーと思います。

特に主犯の方が受けていた家庭内虐待の描写が短いながらも生々しくて、そういう背景があってあの状況に直面したらそりゃパニックに陥るかもしれないなーと心底同情しました(昔読んだ海外の極悪犯罪者の犯行をまとめた書籍に、似たようなやり口で継子を虐め抜いた母親の話が載っていたんですよね。記述を読むだけでも吐き気が込み上げるような胸糞悪い話でしたが、ゲームをプレイしていてちょうどその母親のことを思い出しました)。

個人的に、『ヒトミサキ』のストーリーの哀しみの淵源にあるものこそ真犯人たちの関係性だと思います。もちろん、他者の命を奪う行為が真犯人たちの事情によって完全に正当化されることはありません。突如として命を絶たれた犬飼一家4人と遺族の無念は筆舌に尽くしがたいでしょうし、真犯人たちは法にのっとって裁かれる必要があります。

ただ、他者の幸福を心から願うことは非常に人間らしい営みだと私は思います。だから、共犯者がその思いゆえに罪を犯したことは単純に悲しくやるせないことだと感じました。

真相を知った後、1年前にやり遂げただけではなく現在に至るまで行動し続けた共犯者って若干怖いくらいに献身してるなーと感じました。「一見崎の住人は親身で愛情深い人が多い」という設定を最も強固に裏書きするのは、もしかすると共犯者の存在なのかもしれません。ナナミとは別ベクトルで「ヒトミサキなるもの」を象徴する人物だと思うし、その情念の濃さには惹かれるものがありました。

タクミと途中で敵対する刑事2人に関しては、嫌味なオジャマ役を担う北村刑事をベストエンドに至るためのキーパーソンに設定している点がうまいなーと思います。終盤は自分の非を認めてタクミに謝ってくれるし、単なる意地悪で意固地な大人にしないところはすごく良いなと思いました(でも加藤フウタを煽ったのは犯罪誘発行為だしそう簡単に許しちゃダメだろうとも感じます)。

一見頼りない安田刑事が実は有能な人であり、北村刑事に堂々と意見はするものの、彼を先輩として尊重しフォローしているのも良いギャップ&細やかな配慮だと思います。どちらのキャラについても、平面的・一面的なキャラではない点がグレートです。

また、町中を歩いているモブキャラも良い味を出していました。イベントの進行状況によって細かくメッセージが変わるので、確認するのが楽しかったです(ケンジを貶していたおじさんが後で評価を変えているところとか)。平和な日常を送っている住人たちに話しかけるたび、自分の中で一見崎の立体感が増していくような気がしました。

最後に、前作『村雨』の主人公コンビである瀬崎と月村(いまだにこの2人だけは名字で書いてしまう)が中盤からスポット参戦する展開には燃えました(フツーにイチャイチャしていることには笑いました)。

個人的な印象ですが、陰惨な例の村から離れて一応平和な一見崎に来たせいもあってか、2人とも『村雨』の時より生き生きとしていたような気がします。特に瀬崎は、お助けポジのNPCとして登場すると、穏やかですっとぼけた良いヤツ感がいっそう輝くなーと思いました(分かる人にしかわからない例えを出すと、大逆転裁判2のDLC日本編の龍ノ介みたいな感じ)。

さほど突っ込んだ言及はなかったものの、瀬崎の口から浅木や細波の話題がチラッと出たことは嬉しかったです(ケンカの仕方を教えてもらった発言とか)。会話相手ができたことで複雑さが増す終盤の展開や事件を理解しやすくなり、ストーリーに緩急もつき……と良いこと尽くしの登場でした。特に前作プレイヤーにとって嬉しいご褒美要素だったのではないかと思います。

≪関連記事:『真・村雨』 惨劇の夜を生きのびるサバイバルサスペンスADV 感想&考察 ※ネタバレ注意

前作『村雨』との絡みで書くと、『ヒトミサキ』では「名前表記」と「顔グラ」が改善されている点も印象に残りました。前作では名字も名前も漢字表記だったのに対し、『ヒトミサキ』では名前がカタカナ表記になり、一気に把握しやすくなりました。ナナミやヒロといったネームも、リアルに存在する一方で覚えやすい系の名前でいいですね。

顔グラについては、固定されていた前作とは異なり、『ヒトミサキ』では感情に合わせて細かく変化するようになっています。キャラの心情が理解しやすい、場面場面への没入感が深まるといった点で、やはり良い改善要素だったと思います。

全ゲームオーバー&エンディングの感想(+犯人考察)

ヒトミサキ スクショ 瀬崎 真実は残酷なこともある

ヒトミサキ

最後に、すべてのゲームオーバーとエンディングについて感想を書きます。それぞれのタイミング・分岐点に関しては、「ゲームオーバー&エンディング攻略について」で一通り書きました。

あと、ゲームオーバーになると基本的にタクミが何者かに襲われますが、どうもタイミングによって犯人が違う気がするので、そこについても軽く考えています。再三ですが、以下にはネタバレしかないのでご注意ください。

GAME OVER(第三章:ケンジからの電話直後)

第三章にて、まるで青春アミーゴのようなシチュエーションで電話をかけてくるケンジ。直後の選択肢場面で、犯人を探ろうとして電話を繋ぎ続けると1つ目のGAME OVERに行き着きます。

具体的な内容は、勘で探すも空振りに終わり宿屋へ戻る→犯人が気づいて電話を切る→すでに夜中だが一縷の望みに賭けて犬飼家へ向かう→やはり見つからない→警察に通報していなかったことに気づいて帰りがてら電話→背後から駆け寄ってきた何者かに殴打され倒れ伏す……というもの。注目点として、犯人の足下を見たタクミがその正体に思い当たる描写があります。

ゲームオーバーその1(以下"G.O.1")は、タクミの判断がことごとく後手後手に回ってしまう点が見ていてつらかったです。「ひとりで行き当たりばったりに行動した結果失敗する」という内容は、「単独で動かず関係者に助けを求めた上で着実に情報を集める」という正解の択と明確に対比されていて見事だなーと思います。

ところで、このG.O.1はゲームオーバーその2(以下"G.O.2")と内容がよく似ています。具体的には、「犬飼家からの帰り道に電話していたら殴られ、犯人の足下を見て正体に気づく」というシチュエーションが同じです。

ただ、G.O.1とG.O.2では、タクミを殴った犯人が違うような気がします。というのも、G.O.1とG.O.2では、「タクミが電話していた相手」と「タクミを殴った直後の犯人の反応」が異なっているからです。

前提として、ケンジ襲撃事件のタイミングでタクミを襲うインセンティブを持つ人間はトモヨとヒロの2人だと考えられます。ケンジを人事不省に追い込んだ犯人がトモヨであること、トモヨとヒロは犬飼一家事件の共犯者で一蓮托生であること、犯人の足下を見ただけでタクミがその正体に気づく(=犯人はタクミと親しい人間である)こと等がその理由です。

2人は瀕死のケンジを見つけさせないために、あるいはケンジから犬飼一家事件の情報を得た可能性を疑って、タクミを襲いに来たものと思われます。

したがって問題になるのは、「G.O.1の犯人はトモヨなのか、それともヒロなのか?」ということです。

結論から書くと、ゲームオーバーその1でタクミを殴ったのはケンジを昏倒させた人物、すなわちトモヨなんじゃないかなーと思います。ケンジがタクミに電話したことに気づく→繋ぎっぱなしになっていた通話を切る→森から犬飼家に回り込んでタクミを探す→後ろから追いかけて息の根を止める……という流れだったのではないか、と。

そう考える理由は2つあります。1つ目は、後述するG.O.2でタクミを殴った人物は明らかにトモヨではないから(逆算して微妙にシチュの異なるG.O.1の犯人はトモヨではないか、という推測)。2つ目は、G.O.1に至る過程に顔を出すキャラは、タクミとケンジと「ケンジを襲った犯人(=トモヨ)」の3人だけであること。もっとも、どちらも根拠と言うには弱いですね。

ちなみに、タクミに敵意を持つ加藤フウタは、このケンジ襲撃事件においてはゲームオーバー要員ではないと思われます。というのも、彼はケンジの行方を突き止める回想構築パートにおいて、終始情報提供者の役割を担っているからです(一方、トモヨとヒロはほぼ出てこない)。そもそも彼がタクミを嫌う理由はナナミにあるので、ナナミと関係のないこの騒動でタクミを襲いに来る動機には乏しいと言っていい気がします。

GAME OVER(第三章:ケンジ捜索中の回想構築)

第三章でケンジの行方を追う回想構築に失敗すると、2つ目のGAME OVERに到達します。内容はその1と同じく、「犬飼家から戻る道中に電話で話しているところを背後から殴られる」というもの。

「ケンジ襲撃事件においてタクミを襲う動機を持つのはトモヨとヒロの2人である」と書きました。その前提のもと「G.O.1でタクミを襲った人物はトモヨである」と考えましたが、同じ前提を持つG.O.2については、タクミを襲った人物はトモヨではなくヒロなのではないかと個人的には思います。

ポイントは、G.O.2でタクミが電話で話している相手はトモヨであることです。タクミが殴られ倒れ伏した後、トモヨは電話の向こうから「どうしたの!?」と焦った様子で話しかけています。つまりトモヨはこの場におらず、したがってタクミを殴った犯人ではないことになります。そうなると、G.O.2の犯人だと考えられる人物は消去法でヒロただ1人になります。

ヒロはタクミが情報収集を始めた頃に「ケンジのことを聞いた」と電話してくるんですよね。真相を知った上で推測するに、トモヨは犬飼一家事件の真相に迫ったケンジを殴った直後、真っ先に共犯者であるヒロに連絡を入れたのだと思います。もしかすると動揺マックスで泣きながら電話をしたのかもしれません。

1年前の事件以来自分を庇い続けてくれているトモヨが、あの事件の真相を隠すために再びその手を血で汚してしまった。その事実を知ったとき、トモヨに恩義を抱いているヒロはおそらく深い罪悪感と焦りに襲われたのではないでしょうか。そして、なんとかしてトモヨを助けたい一心でタクミの息の根を止めに行ったのではないでしょうか。トモヨはタクミが襲われたことに驚いているため、おそらくヒロは独断で行動したのだろうと思います。

注目すべきポイントとして、G.O.2の犯人は、倒れ伏したタクミに対して「お前が悪い」と口走っています。「タクミを責め立てるキャラ」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは加藤フウタですが、上記の発言に関しては、ヒロの口から出たと考えてもそこまで違和感はないと思います(そもそも、上で書いた通りフウタがケンジ襲撃事件でタクミを襲う可能性は低い)。

というのも、ヒロ視点で見れば、タクミの帰郷によって1年前の事件が蒸し返されたと言えなくもありません。その結果ケンジの動きが活性化され、トモヨがケンジに手を下さざるを得ない事態にまでなりました。しかもタクミはそうしたケンジの動きを関知していないわけではなく、ケンジと一緒に1年前の事件を調査し、意識さえ戻ればトモヨの犯行を証明できるケンジを救おうともしています。

ヒロやトモヨからすると、タクミは急に帰ってきて1年前の事件の話題を掘り返した人間であり、事件解決に執念を燃やすケンジを焚きつける存在でもあった。そういう風に考えるなら、ヒロがタクミに「お前が悪い(余計なことばかりしやがって)」と焦燥と敵意を抱き、命を奪いに来るのも分からない話ではない気がします。自分ではなくトモヨが危機に瀕していたからこそ、ヒロも我慢ならずに行動したんじゃないかなーと感じました。

GAME OVER(第四章:安田刑事との問答中)

第四章では、タクミを警察署に連れていこうとする安田刑事と言葉で対決することになります。彼が展開する「タクミ犯人説」を完全に論破できなかった場合、問答無用でゲームオーバーになります。

この3つ目のゲームオーバーではめずらしくタクミが生存します。もっとも、容疑者として連行され、厳しい取り調べの末何もかもを諦めてウソの自白をする……という虚無感漂うエンドなので、とても喜ぶことはできませんでした。

このG.O.3については、「どうせ俺には帰る場所なんてない」という悲壮感に満ちたタクミの独白が印象に残っています。タクミは寂しさや空しさをあまり表に出そうとしない主人公なので、そのぶんこのエンドを見たときは無性に悲しくなりました。

もっとも、この物悲しい結末が可能性として提示されることで、タクミが帰る場所を得たベストエンドの幸福感がいっそう際立つのも確かです。バドエンによってベストエンドをさらに輝かせるにくい構成だと思います。

GAME OVER(第四章:ナナミ誘拐時の回想構築)

第四章で誘拐されたナナミを探す際、回想構築に失敗すると4つ目のゲームオーバーに行き着きます。

具体的な内容は、日暮れまでナナミを探し回すも発見できずとぼとぼと秘密基地へ→ナナミを気遣わなかったことや今日の約束を忘れていたことを後悔→「俺が悪かったってことなのかよ」とつぶやく→いつの間にか背後に立っていた人物に「ようやく理解したのか」と言われて殴打される→終了……というもの。

タクミを殴った人物ですが、ストレートに加藤フウタでいいんじゃないかなーと思います。ナナミを誘拐した犯人がフウタであることがその最大の理由です。ナナミを見つけられず慚愧の念に堪えないタクミを悪意ある言葉で嘲り責めている点も、ことあるごとにタクミに因縁をつけていたフウタっぽい感じがします。

このG.O.4は、あのタクミが泣き出すこともあって見ていてなんともつらいエンドでした。癇癪を起こして泣くならまだしも、もう耐えられないとばかりに零れた感じの泣き方で、「タクミも泣いたりするんだ……いや、ここまで追い込まれたらそりゃ泣くよね……」とプレイヤーとしても心に刺さるものがありました。

GAME OVER(第四章:終盤の推理パートin宿屋)

第四章の終盤、ナナミ誘拐事件や犬飼一家事件の推理に失敗すると、5つ目のゲームオーバーに到達します。内容としては、瀬崎と月村を帰して夜中まで考える→就寝→殴打されて目覚める→横に立つ誰かに何事か罵倒される→そのまま終了……というもの。

このG.O.5の犯人ですが、一番可能性が高いのは加藤フウタかなーという印象です。最大の根拠は、第一章の時点で夜中に窓からタクミの部屋に侵入しようとした人間がいたこと。その日の昼間にタクミは加藤フウタと揉めていたので、フウタが夜中に報復しに来たのではないかと単純に思いました。

G.O.5も夜中かつタクミの部屋で発生するので、第四章にしてついにフウタが侵入に成功し、タクミを襲ったのではないか……と考えた次第です。

あと、旅館の裏手にフウタの家があることもフウタ犯人説を支持する理由の1つです。タクミの部屋は位置的に加藤家の敷地と接している可能性もあるので、フウタが見とがめられずに窓に近づくこともたやすいのではないかと思います。

また、意識朦朧とするタクミが犯人に罵倒され、酷く嫌悪されていると感じたことも理由として大きいです。トモヨやヒロはなんだかんだタクミとは昔なじみなので、「タクミさえ帰ってこなければ」と思うことはあれど、強い嫌悪を向けて罵ることまではしない気がするんですよね。一方フウタはナナミの件と北村刑事の扇動もあってタクミへの嫌悪と敵意がマシマシなので、寝込みを襲って罵倒する描写と齟齬はないかなーと思います。

もっとも、犯人がフウタだとして本当に窓から入れるのかどうかは疑問です。たしか事前にタクミが窓を開けた描写はなかったし、ゲームオーバー時に窓が開いているわけでもありません。だとすれば、窓よりも旅館の廊下から侵入する方が楽なのかな……と思わなくもないです(その場合犯人も変わってくる気がする)。

BAD END(終章:誘拐犯への証拠品つきつけ&ボイレコ証言の食い違い指摘)

終章に入るとミスチョイスしてもゲームオーバーにはならず、代わりにBAD ENDに到達します。

バッドエンドに至る分岐点は、「ゲームオーバー&エンディング攻略について」でも説明したように3通りあります。すなわち、「誘拐犯に対する証拠品つきつけ」と「ボイレコ証言の食い違い指摘」と「犬飼一家事件の真犯人指名」の3つです。

ただし、前2つの分岐点から至るバッドエンドは、経緯こそ異なるもののエンディング内容はほぼ同じです(どちらの場合でもタクミはせっかちな北村刑事によってそれ以上の推理を禁じられ、加藤フウタはお縄になる)。というわけで、前2つについてはまとめて感想を書きます。

ナナミとマナの安全が確保されたため、タクミは友人たちに何も告げずに一見崎を離れます。「誰かの重荷になりたくないから」とあてどもなく放浪するタクミ。しかし数日後、格安の定食屋に入ったタクミが見たのは、一見崎で再び殺人事件が発生しナナミが一家ともども亡くなったという凄惨なニュースでした。

このバッドエンドは、『ヒトミサキ』のゲームオーバー&エンディングの中でも一番キツイ内容でした。タクミがまたやせ我慢をして食うや食わずの生活を始めたこともキツければ、想定外のナナミの死で心をポッキリ折られるラストもキツイ。家を離れている間に家族全員を失ったタクミがまたも離れた土地で大事な人に死なれるという、とことん救いのないエンディングだと思います。

ところで、このバドエンでナナミとその家族が狙われた理由と、彼らの命を奪った犯人が気になって仕方がありません。

まず犯人ですが、三崎ジュンコや加藤フウタといった火種になる人物がすでにいないことを考えるに、単純にトモヨかヒロなのかなーと思います。

そしてナナミが狙われた理由は、彼女が犬飼一家事件の真相に関わる重要な情報を持っているからではないでしょうか。本編でトモヨを指名する際のとっかかりになったのは、ナナミの持つ「トウゴの部屋に出入りしていた人物の情報」と、安田刑事の持つ「犬飼家で発見された指紋の情報」でした。

おそらくナナミは安田刑事から何かの拍子に指紋の話を聞き、「トウゴの部屋に入ったことはない」というトモヨの証言の矛盾に気づいてしまったのではないでしょうか。そしてトモヨを問い詰めに行き、口封じにあった……という流れが1つ考えられるのかなーと思います。

ただ気になるのは、ナナミだけではなく家族全員が亡くなっている点です。「ナナミだけ口封じすればいいのにどうして家族も一緒に?」という疑問と、「1人ならともかく4人を一気に手にかけるのって単純に難易度高くない?」という違和感が生じます。

前者の疑問については、素直に考えるならナナミが家族と情報共有した可能性を疑ってのマサクゥル!なのかなーと思います。流れとしては、ナナミに問い詰められ、その場でなんとかなだめて家に帰してから、夜に家族もろとも口封じにかかった……とか。

ナナミが家族同伴で犯人を問い詰め、その場で返り討ちに遭った可能性もちょっと考えました。ただ、ナナミが親しい友人に対してそこまで用意周到なことをするか疑わしいし、犯人がその状況で片桐家4人をすべて葬れるかというと、さすがに難しいだろうと思わざるを得ません。

次に後者の違和感(4人全員って難易度高くない?)に関して、最初はタクミの戸塚家と同じく片桐家も放火されたんじゃないかなーと考えました(その方がタクミにとってよりつらいバドエンになるし)。もし深夜に火事が発生すれば、一家全員が亡くなってしまうのも十分あり得る話です。

しかしタクミの見たニュースでは、「片桐さん宅が全焼、この家に住んでいる4人と連絡がとれない、焼け跡から4人の遺体を発見、警察は放火の可能性も視野に入れて捜査」といった内容は報じられていません。そうではなく、「一見崎でまたも殺人事件が発生」と1年前の事件を想起させるような言い回しがなされています。

したがって片桐家の4人の遺体は、犬飼家の3人の遺体と同じく、明らかに他殺と分かるような状態で発見された可能性が高いと言えます。

ここからにわかに思い浮かんだのは、ヒロが犯人である可能性です。犬飼一家の3人をその手にかけたときのように、再びヒロが一線を越えてしまったのではないか……と。

もちろんトモヨが犯人である可能性もあると思います。というより、最初はそっちの方が仮説としてはアリだと思っていました。ナナミが手持ちの情報から怪しむ可能性のある人物は第一にトモヨであり、実際に彼女のみが捕まるバドエンその3では、ナナミたちがマサクゥルされるような事態は発生していないので(あの後発生する可能性はないわけではないが、少なくともエンド内容として描かれてはいない)。

ただ、ナナミ1人をガツンとやるならまだしも、一家4人を手にかけるって相当ぶっとんだ所業だと思うんですよね。トモヨはヒロの安寧と引き換えに自分を犠牲にする精神の持ち主でもあるし、ナナミに問い詰められてどうしようもなくなったら、本編同様自分1人で自首しようとするのではないかと思います。少なくとも、自分の保身のために一家4人の命を奪うような行動に出るかどうかは疑問です(もしヒロにまで疑いをかけられたら、と考えるとなんとも言えませんが)。

だから、「利己心ではなく他人を思う心が悲劇を招く」という『ヒトミサキ』のストーリー的にも、トモヨがナナミに疑われ、それを知ったヒロが凶行に走った……という流れの方が個人的には想像しやすいかなーと思いました。

BAD END(終章:犬飼一家事件の真犯人指名)

終章でトモヨの関与を暴いた後、「犬飼一家事件の真犯人指名」で失敗するとこのバッドエンドになります。失敗するには、真犯人以外の適当な人物を選べばOKです。

プレイヤー視点でもタクミ視点でもすでに真犯人は明らかなため、指名失敗は単なる推理ミスではなく、「真犯人がわかっているのにあえて見逃した」という扱いになります。

俺には分かりませんでした、と推理を切り上げるタクミに、「ごめんね」と涙を流してひたすら謝るトモヨ。タクミは俺をハメようとしたくせに謝って許されることじゃねーだろ、とトモヨを突き放すものの、内心では彼女が謝罪する本当の理由を理解しています。

トモヨが連行された後、タクミは一見崎を出ていく決心をします。翌日森の奥の秘密基地を訪れ、もういないトモヨに本当にこれで良かったのかと問いかけるタクミ。伯母に復讐しようとしてできず、トモヨの罪を暴きながら真犯人は見逃した中途半端な自分に嫌気と後悔は尽きません。ひとり野垂れ死ぬことも考えつつ、タクミは楽しい思い出の詰まった秘密基地に背を向けるのでした。

一番キツイのはバドエンその1&その2だと書きましたが、最も悲しい気持ちになった結末はこのバッドエンドその3でした。トモヨがひたすら謝罪する意味がわかるのはタクミだけ、という構図がグッとくるんですよね。周囲には「罪を着せようとしてごめんね」に見えていても、当事者であるタクミにだけは「真犯人を庇わせてしまってごめんね」でもあると理解できるという。

ヒロを守るためにトウゴを手にかけ、一晩かけて遺体を埋め、事件を探るケンジを妨害するために彼の恋人になり、挙句の果てにはすべての罪を1人で被ろうとする……そんなトモヨの凄絶な献身を思うと、涙ながらの「ごめんね」の重みは半端ないなと思います。慕っていた姉御に裏切られたタクミが苦い気持ちになるのはもちろん、隣で聞いているヒロも罪悪感に打ちのめされているのではないかと思い、なんとも暗い気持ちになりました。

本編で瀬崎は「(親しいヤツならその罪を)暴くのをやめるっていうのか? なら、そいつの人生はきっと滅茶苦茶になるぞ」と言いましたが、これは真犯人を追及しないバドエンその3の行く末を見事に暗示する発言だと思います。自分のためにすべてをなげうったトモヨを犠牲にして、タクミにも自分を庇わせて、それでヒロが心安らかに生きていけるわけもないと思うので。

あと、タクミがトモヨに言った「昔は楽しかったよ。今はお互い変わっちまったけど~」にも胸がキリキリとしました。「違うねんタクミむしろ逆やねん」と先にベストエンドを見ている身としては言いたくなってしまうものの、「このバドエンでのタクミにはそうとしか思えないよね……」と思うとグッと呑み込まざるを得ないつらさ。

「実はみんな昔から何も変わっていなかった」が『ヒトミサキ』のストーリーの核心であり最大の哀しみだと思うので、そこにタクミが気づかないまま、ボロボロの精神状態からの死を匂わせて終わる結末がひたすらにやるせなかったです。

FAKE END(終章:別れのあいさつパート)

終章で犬飼一家事件の真相を暴いた後、みんなに一通りお別れをして瀬崎&月村と一緒に一見崎を去ると、このフェイクエンドになります。北村刑事フラグを立てての最終章で推理に失敗したときもフェイクエンドに誘導されます。

初見でこのエンドを見たときの記憶は今も鮮やかです。瀬崎&月村の頼もしさと3人の固い友情には心温まったものの、ナナミに対するタクミのお別れの仕方に若干モヤモヤしたんですよね。結局タクミは「一見崎」と決別するのか~ナナミの前では笑うくせに一人になったら泣くのか~何があっても強く生きていこうってまあ綺麗ではあるけどさ~と複雑な思いでした。

それでもとりあえずナナミに「またな」と言えただけよかったのかな……と思いつつ眺めていたら、ジ・エンドがじわっと滲んでフェイクエンドに変化し、衝撃を受けるとともに背筋がゾワゾワしたことをよく覚えています。

あとでベストエンドを見たとき、このフェイクエンドに納得できなかった理由をようやく理解できました。タクミは一見ナナミと綺麗にお別れしているし、円満な再会を匂わせてもいます。ただ、結局タクミは「ヒトミサキなるもの」を拒絶して生きていこうとしているんですよね。

もちろん、一見崎を嫌っているのならその選択も理解できます。しかし、タクミは別れの後でひとり涙するくらいには、ナナミに象徴される親身で愛情深いヒトミサキ的な人々に未練があります。それなのに、「前を向いて強く生きていく」ためには必要ないものだと決めきって、自分を温かく受け入れてくれるだろう一見崎との縁を絶とうとしているわけです。

「前を向いて強く生きていく」ことは、やせ我慢をして格好つけて愛する誰かに頼らないことと同義じゃないだろう……と強く感じたから、フェイクエンドの内容にモヤモヤしたんだなーと深く納得が行きました。この「綺麗な終わり方だけどテーマ的にその結末でいいのかな」と思わざるを得ないフェイクエンドは、制作者様のストーリーに対する絶妙なコントロール力あってこそのものだと思います。

BEST END

終章終盤に北村刑事に話しかけてフラグを立て、最終章で犯人の名前当てに成功するとベストエンドに到達できます。北村刑事を出現させる方法については、「3種類のエンディングへの分岐点」をご覧ください。

北村刑事から放火事件当夜の伯母の動向について聞いた時点で、あれ、もしかして犯人って……と嫌な予感がしました。瀬崎&月村と話し合う中でその嫌な予感は確実性を増し、犯人を当てる場面で思い浮かべた名前が正解だったときは相当暗い気持ちになりました。タクミも途中で犯人に気づいて「まさかそんな」と言いたげな顔になりますが、プレイヤーとしても同じような心持ちでした。

犯人を問い詰めるシーンもひたすらに心苦しかったです。まったく豹変しないんですよね、犯人。それも当然と言うべきか、犯人は特に裏のある人間ではなく、罪を暴かれてなお本編での言動通りのまっとうな「いい人」でした(例えるなら金田一少年の「怪盗紳士の殺人」の犯人みたいな感じ)。

その過去や伯母に従った経緯、伯母の命を奪った理由を聞くうちにどんどんと気分は沈み、タクミへの優しい語りかけに胸が詰まる思いになり、「この人も昔から変わっていない」というタクミの心中語を聞いたあたりでとうとう泣けてきたのを覚えています。

ナナミもヒロもトモヨも犯人もみんな昔から変わっていない。それなのに、というよりそのせいで、悲しい事件がいくつも引き起こされてしまった……そんな切なくも残酷な事実を突きつけられ、ストーリーに内在する一貫性に感動しつつも、一プレイヤーとしてやるせなさで胸がいっぱいになりました。

だからこそ、タクミが自責の念に駆られたタイミングで「タクミは悪くない!」と飛び出してくれたナナミの存在に、心底救われた気持ちになりました。

タクミとナナミのお互いを思うがゆえのすれ違いが解消され、タクミがようやく「助けて欲しい」と口にできた場面では、もう万感の思いに浸るほかなかったです。やっと言えたんだな、と。長いストーリーを総括するがごとくの盛り上がりが素晴らしくて、恥ずかしながら再び泣いてしまった記憶があります。

後日談の内容もすごく良かったです。「強く生きていこう」と強がって別れていたら、きっとタクミは長い人生のどこかですり減って折れていたと思うんですよね。だからこそ、ナナミたち家族に頼りながら前向きに生きていく結末に到達できて本当によかったなーと感じました。ただいまベストエンド、最高でした。

*****

あらためて振り返るに、『ヒトミサキ』はすごく余韻の良いゲームでした。『7DAYS』(理不尽推理サスペンスADV)、『真・村雨』(サバイバルサスペンスADV)とプレイしてきましたが、今のところは『ヒトミサキ』が一番好きな作品かもしれません。瀬崎&月村のような例が以降もあるのかなーと思うと、制作者様の他のゲームも遊んでみたい気持ちでいっぱいです。

※裏束様制作のフリゲ作品について、いくつか感想記事を書いています。

『7DAYS』 引っ越したばかりのアパートで7日間生き延びる推理ゲーム 感想&攻略 ※ネタバレ注意
『真・村雨』 惨劇の夜を生きのびるサバイバルサスペンスADV 感想&考察 ※ネタバレ注意

*****

◇2月16日に拍手コメントをくださった方へ
拍手コメありがとうございます! わかっていただけた上に運命まで感じてもらって嬉しいです! ストーリーも演出もキャラクターもめっちゃ良いし、マナちゃんもあの姉にしてこの妹ありの超可愛い良い子だし、ヒトミサキってマジにグレートなゲームですよね:-) 私も制作者様の別作品でタクミや片桐姉妹にまた会えないかなーとかひそかに期待しています!

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かーめるん
Admin: かーめるん
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