『Marie's Room』 2017~2018年の時系列と2042年のマリー&ケルシーについて 考察&感想 ※ネタバレ注意
海外発の短編探索ゲーム、『Marie's Room』の2017年~2018年の時系列と事件後のマリー&ケルシー(~2042年)について考察した記事です。制作者はlike Charlie様。ゲームの公式ページ(Steam)はこちらです。 → Steam : Marie's Room
Marie's Room
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前回の記事では、似たデザインのゲーム(『Her Story』)も引き合いに出しつつ、『Marie's Room』(マリーの部屋)の感想&レビューを書きました。
≪関連記事:『Marie's Room』 日記を読み解き2人の少女を襲った悲劇を見届ける探索ゲーム 感想&レビュー ※ネタバレ注意≫
今回の記事では、マリーの日記の記述に基づいて『Marie's Room』の時系列をまとめます。具体的には、まず2017年11月~2018年7月にかけてのマリー&ケルシーの動向を順を追って見ていきます。日記はすべてマリー視点なので、本編(2042年)でのケルシーのコメントも一部盛り込みつつ、両者の視点をカバーすることを目指しました。
その後、事件後~現在に至るマリー&ケルシーの動向についても考えます。ここに関しては、「マリーの最後の手紙」、「2042年時点のケルシーのコメント」、および「真相解明後の電話内容」を参考にしました。不明な部分も多々あるので憶測多めです。
時系列についてはあくまで一プレイヤーのまとめなので、抜け・漏れ・誤解・誤訳等があるかもしれません。以下には『Marie's Room』の核心そのもののネタバレが含まれます。ストーリーやエンディングを未見の方はご注意ください。
『Marie's Room』 2017~2018年の時系列を考察する(※感想込み)
Marie's Room
この項目では、「マリーの日記」に基づいて2017年11月(出会い)~2018年7月(決別)におけるマリーとケルシーの動向を考えていきます。主に日記の日付に即してイベントの流れを整理しつつ、ケルシー視点の情報も交えてまとめました。
単純に時系列順にイベント内容をまとめてもよかったのですが、結局はノリノリでネタバレ込みの感想を添えました(ケルシーのコメントと突き合わせつつマリーの日記を読むのが単純に面白かった)。以下には致命的なネタバレが含まれるので、未プレイの方はご注意ください。
2017/11/9:マリー、「フードレスキュー」に参加した経緯を語る(Last Hope 1/2)
マリーの日記の一番古いエントリーは、2017年11月9日に書かれたものです。内容は、「フードレスキュー」に参加した経緯を語ったもの。フードレスキューは食品ロスを減らすための取り組みであり、マリーの住む地域では、賞味期限の迫った食品を貧しい人々に格安or無償で配給していたようです。
日記に添えられている記事の見出しは、「高校生がクラスメイトを飢えから救った」というもの。他でもないマリーについて書かれた記事です。この記事が広まってからマリーは周囲にフードレスキューに参加する理由をさんざん問われたらしく、そのことにうんざりしていた(でもたぶん誇らしくはあった)ことがうかがえます。
ちなみに、マリーがフードレスキューに参加する動機として働いたのは、学校で男子がバックパックからサンドウィッチを盗んでいる場面を目撃したことです。彼女はそこで初めて、何らかの事情により常にお腹を空かせているクラスメイトがいることに気づきました。そして、彼らを支援するためにフードレスキューに参加することを決めたようです。
この時点でのマリーは知りませんが、ケルシーもたびたびフードレスキューに食料を求めてやってくる子供の1人でした。彼女は貧しい母子家庭の出身であり、アルコール中毒の母親にネグレクトを受けていました。「この世に食品廃棄物なんて存在しない、少なくともそんなものを私は知らない」と語る通り、彼女は常に飢えており、時には生ごみ同然のものを食べることもあったようです。
2017/11/17:マリー、フードレスキューでケルシーと顔を合わせる(Last Hope 1/2)
2017年11月17日、フードレスキューに参加したマリーは、食べ物を求めてやってきたケルシーと遭遇します。ある意味で始まりの日とも言えるこの日、マリーはケルシーが「救うべき可哀想な境遇の子ども」であることを知り、ケルシーはマリーに「施しを受けた」ことにこの上ない屈辱を感じました。
この日はフードレスキュー3周年の記念日だったようで、志を同じくする仲間に囲まれたマリーは実にハッピーな気分でした。そこにやってきたのがケルシーです。フードレスキューのメンバーはケルシーの顔を知っていました。本人も語る通り、ケルシーはマリーと出くわすまでは頻繁にフードレスキューで食料を得ていたからです。
マリーはすでにケルシーのことを知っていました。おそらく学年でも目立つ綺麗な女の子だったからでしょう。だからこそ、マリーはケルシーがフードレスキューを必要とするような家庭の子だと知って本当に驚いたようです。もともとケルシーに好感情を抱いていたマリーは、彼女の事情を知っても見下すことはなく、むしろ彼女のような境遇の子を救うためにもっと頑張らないといけない、と奮起しています。
ただ、同級生のマリーに自分の貧しさを知られたこと、そして彼女の手から食料を受け取ったことによって、ケルシーの自尊心はズタズタに傷つけられたようです。食料を袋に詰めて手渡すとき、マリーはケルシーが恥ずかしがっているように感じました。しかしケルシーはマリーの思う数倍はこの件を気にしていて、以降は飢えと天秤にかけてでもフードレスキューに行かないという選択をするようになります。
これは想像でしかないものの、ケルシーがトレバーと付き合うようになったのはこの後のタイミングではないかと思います。というのも、彼女が素敵な彼氏だった頃のトレバーについて思い出すときに、「ハンバーガーをいつもタダで食べさせてくれた」(ハンバーガーショップで働いていたから)と述懐しているからです。フードレスキューという食糧調達手段を利用できなくなったケルシーは、トレバーの提供してくれるハンバーガーに頼ってなんとか飢えをしのいだのではないでしょうか。
2017/11/21:マリー、ケルシーとチームを組む(Last Hope 1/2)
2017年11月21日、つまりフードレスキューで遭遇した4日後、マリーは科学の授業でケルシーと組んで課題に取り組むことになりました。憧れのケルシーと同じチームになったことはマリーにとって非常に嬉しい出来事だったようで、この日の文章からは彼女の喜びが手に取るように感じ取れます。
マリーが抱いた唯一の懸念は、ケルシーが喜んでいるようには見えなかったこと。その懸念は実際正解であり、ケルシーはフードレスキューで活躍するマリーとフードレスキューに通っている自分がチームを組まされたことに、相当のフラストレーションを抱えていました。
もっとも、ケルシーはマリーと組まされるという苦痛をなんとか乗り越えようと決めたようです。つまり、「奨学金を得るためにしなければならないこと」と割り切って課題に取り組むことにしたわけですね。
ちなみに、2042年現在のタレス邸の居間には2人の努力が見事実ったことを示す証拠が飾られています。「2018年 科学研究コンテスト 第2位」と書かれたトロフィーです。マリーもケルシーも優秀な生徒だったことがうかがえます。
2017/12/4:マリー、完全にやらかす(Last Hope 2/2)
2017年12月4日、マリーは致命的な「やらかし」をしてしまいます。11月17日に出会って以降、ケルシーは一度もフードレスキューを訪れようとはしませんでした。ずっと彼女を心配していたマリーはこの日、彼女に自分のサンドウィッチを差し出してしまったのです。
サンドウィッチを差し出されたケルシーは、頭のおかしい人間を見るような目でマリーを見た後、そのまま歩き去りました。さすがに失敗したと気づいたマリーは、「もう私たち絶対に友達になんてなれない」と自分の行いを激しく悔いています。
この後マリーはのんきに(といっても切実だとは思いますが)課題の進捗具合を心配しています。ただ、この出来事が例の強盗事件の呼び水になったのではないかと思わなくもないです。少なくとも、フードレスキューはおろか学校でも自分を「貧乏で腹ペコの可哀想な子」扱いするマリーに、ケルシーが激しい怒りを抱いたことは想像にかたくありません。
ケルシーがタレス家襲撃に積極的に参加していたかどうかは不明です。ただ、「この家はクラスメイトの家だからやめておこう」とトレバーを引き止めなかったことは事実です(それこそ現場でタレス父子と出くわすまで、そこがマリーの家だったと知らなかった可能性もありますが)。強盗事件が12月4日のやらかしの直後に発生していることを思うに、やはりこの日の出来事は、タレス家がターゲットになったことと若干関わっているんじゃないかなーと思います。
2017/12/22:マリー、強盗に出くわした夜を振り返る(Last Hope 2/2)
2017年12月22日の日記の下には、強盗が押し入った家の父親をナイフで刺し、その娘をバットで殴ったことを伝える新聞が覗いています。そう、マリーとその父のタレス氏は、自宅で強盗の被害にあったのです。マリーとケルシーの関係にとって最大のターニングポイントになった日であると言えます。
事件が発生した正確な日付はわかりませんが、日記が書かれた時点で、事件から数日~1週間以上が経過しているようです。マリーは世間がいつまで経っても事件に注目し続けることに辟易としています。
マリーの父親は強盗に腹を刺されました。ケルシーが「タレスさんは命を落とすところだった」と思い返している通り、彼は重傷を負って集中治療室にも入ったようです。マリーもまた野球バットで殴られて頭を数針縫うけがを負い、脳震盪を起こして入院しました。
事件当夜、刺された父親を助けるためにマリーは強盗の男を攻撃しようとしました。しかしその場にはもう1人強盗が潜んでいて、マリーはそのもう1人に野球バットで頭を殴られ、そのまま気絶してしまったのです。マリーたちは強盗たちの顔を見ていなかったため、結局その後も犯人が捕まることはありませんでした。
マリーは「私は恐怖を感じていない」と書いていますが、危うく父親を失いかけたこの事件で、彼女は大きな精神的なダメージを負ったものと思われます。ケルシーは、「父親の容体が不安定だった間マリーはとても苦しんでいた」といった主旨の発言をしています。この事件(および父の危篤)が苦しい状況でも強がろうとするマリーの性格を強化したのかもしれません。
ところで、言うまでもないことですが、タレス氏を刺した強盗の男こそトレバーであり、マリーを殴って気絶させたもう1人の強盗がケルシーです。トレバーと付き合い始めた当初、ケルシーはトレバーがお金持ちである理由を知りませんでした。そこからどのように彼女がトレバーの所業を知ったのか、またどうして彼の犯罪行為に加担することになったのかは、作中では語られていない部分です。
トレバーはほぼ確定的に窃盗・強盗の常習犯だとして、ケルシーが加担したのははたしてこれ1回きりだったのだろうか、と疑問ではあります。タレス家襲撃以降はおそらく加担していないとしても、それ以前は一緒に強盗を働いていたのかどうか。余罪はないのか。たぶん初めての犯行で乗り込んだのがタレス家で、以降は怖くなってノータッチ……という流れだろうとは思うものの、はっきりとしたことは分かりません。
2018/1/5:マリー、ケルシーの言葉を寂しく思う(Nothing Was Different 1/2)
2018年1月5日の日記には、マリーとケルシーの会話やそれに関するマリーの考えが記されています。日記と言うよりは、彼女の思想や悩みを書き留めたような内容になっています。
「自分には失うものなんて何もない」と語るケルシーのことをマリーは真剣に心配しています。マリーはケルシーのことを友達だと思っているから、ケルシーが進んで孤立し他者を寄せ付けようとしないことが寂しいのでしょう。ここで、"shadow person"というワードが初めて出てきます。ケルシーと対等になれず、素敵な彼女に寄り添い憧れるしかできないマリーの現状を示す言葉なのかもしれません。
とはいえ、この時点のケルシーはタレス家に強盗に入った後なので、被害者のマリーと(言い方は悪いですが)のうのうと交流を続けているらしいことにびっくりします。自分がバットで殴打した相手なんて、普通なら申し訳ないやらいたたまれないやらで徹底的に避けそうなものですが。あるいは本当に自分の顔を見ていないか(or 怪我の具合は大丈夫か)確認するために接触し、そのまま罪悪感も手伝って気に掛けるうちに仲良くなり……みたいな感じだったのでしょうか。
真相を思うと、親身にケルシーを案じて支えたいと思っているマリーが可哀想でもあります。マリーの目から見れば、ケルシーは親のネグレクトに苦しむクールで寂しげな女の子に見えるのかもしれません。ただ、実際の彼女は重犯罪の片棒を担いだ人間であり、マリーに真相を知られたくないと怯えつつ、この後も強盗犯の彼氏とずるずると関係を保ち続けるような子です。
ケルシーのことを支えたい。ケルシーの本性を見抜けないままそんな願いを抱いた時点で、悲しいことにマリーがたどる未来はほぼ決定されていたのかもしれません。
2018/1/10:マリー、猫を愛する(Nothing Was Different 1/2)
2018年1月10日の日記は、日記というより詩のような内容です。猫が好き、猫は困難に陥ることを恐れないから、と綴るマリー。ケルシーが言及しているように、マリーは恐怖を抱かず困難を恐れない猫のような人間になることを望んでいたのでしょう。
2018/1/19:マリー、亡き母の誕生日を祝う(Nothing Was Different 1/2)
2018年1月10日、マリーは「ママ、お誕生日おめでとう!」と書いた写真を1枚貼りました。マリーの母のロレインは、マリーが5歳の頃に亡くなりました。高校生になった今でも母親の誕生日を祝うマリーの愛情深さにほろっとくるエントリーです。
ちなみに、写真に映っているのは幼いマリーと一緒にブランコに乗るロレインです。マリーの部屋のデスクの引き出しに入っていた、ロケットの写真と同じものですね。また、亡くなったロレインの写真を留めるマスキングテープは黄色と赤とピンクの花柄です。後の日記を見ると分かりますが、マリーは愛する家族を悼むときにこの可愛らしい花柄のマスキングテープを使用するようです。
2018/1/28:マリー、ケルシーに苦言を呈する(Nothing Was Different 2/2)
2018年1月28日のマリーは、初めてケルシーの彼氏であるトレバーに言及しています。マリーによれば、ケルシーの持っている可愛いものはすべてトレバーがプレゼントしたものだそう。マリーのトレバーへの印象は最低に近く、「ぞっとするようなヤツ」「ケルシーがトレバーのどこを気に入っているのかわからない」と書いた上で、「素敵な彼氏がいる私に嫉妬してるんでしょ」とケルシーに言われたことについて憤慨しています。
マリーは、ケルシーが苦しい現状から逃げ出すためにトレバーに依存していることを見抜いています。おそらく、母親のネグレクトに端を発する空腹や貧困や愛情不足を、食べ物や衣服やアクセサリーをいくらでもくれる恋人のトレバーにすがることで解決しようとしている……と見ているのでしょう。
ケルシーにはトレバーは必要ない、彼女は自分の力で母親から逃げなければいけない、苦しい状況から自分を救い出さなければならない、彼女ならできる、残念なことに彼女は自分にそれができるとは信じていないけど……とマリーは綴っています。
こういうマリーの考え方を見ると、彼女は根っから善良な子だなーと思います。マリーは善い人間であろうと心がけているし、何より他者の本質も善であると信じているんですよね。ただ、本当に悲惨な経済状況や保護者の愛情を欠いた不安定な精神状態を経験したことはないから、世の中そんなに善い人間ばかりではないことや、向上心や希望を抱くことが難しい人間もいることをあまり想像できていない節はあります。
ケルシーはマリーを指して「ドリーマー(夢想家)」と表現します。マリーが思春期の少女であることや、そう表現するケルシーが劣悪な家庭環境で育ったことを抜きにしても、たしかにマリーには他者や世界を理想化し多くを期待するきらいがあるのかなーと思わなくもありません。まあ、人を見る目や経験さえ培われれば、マリーのドリーマー気質は彼女にとってプラスに働いたんじゃないかと思いますが(多感な時期にケルシーに入れ込んだことがひたすら悪手だっただけで)。
2018/2/14:運命のラ・ラ・ナイト(Nothing Was Different 2/2)
2018年2月14日の夜は、おそらくマリーにとって最低最悪と言うほかないものだったはずです。この日の夜、マリーは友達のベンと一緒に映画館に行きました。お目当ては『ラ・ラ・ランド』。映画を楽しんだマリーは、上映後にケルシーとばったり出会います。たまたま会えたことが嬉しくて、彼女をハグしたマリー。しかし、返ってきた反応は予想外のものでした。ケルシーは「こんな真似するなんて何考えてるの」と言いながら、抱きついてきたマリーを突き放したのです。ケルシーと一緒にいた彼氏のトレバーとチアリーダーの友達は、その一幕を大いに面白がったと言います。
日記にてトレバーのクソ野郎やおバカなチア友への怒りをあらわにするマリー。しかし真に彼女を苦しめたのは、ケルシーに対する失望感であり、彼女に拒絶されたがゆえの孤独感だったのでしょう。この失意の夜は「ラ・ラ・ナイト」として、マリーの記憶に深く深く刻み込まれることになります。
2018/2/14:マリー、大いに葛藤する(We're Going To Be Friends 1/2)
次のページには、2018年2月14日の日記がもう1つあります。日記の内容と「絶対に忘れないで」と付された割れたガラスのスケッチを見るに、おそらくケルシーの投石後に書かれたものでしょう(後述)。
この日記内で、マリーは自身の複雑な葛藤を書き留めています。映画館での一幕の後、ケルシーはその夜のうちに謝りに来てくれました。ただ、マリーは心のどこかで納得できないのです。なぜなら、ケルシーが公の場では自分と友達でありたくないことを知ってしまったから。彼女にとって自分の価値がさほどでもないこと、一段下に見られていることをラ・ラ・ナイトで認識してしまい、「それって友情のあるべき姿なの?」と猛烈に感じてしまったからです。
「クソックソックソッ!」とFワードを連発するマリー。彼女の葛藤は色々な意味で共感できる(それゆえに苦しい)ものでした。ケルシーはすぐに謝りに来た、それは確かです。ただ、深夜にマリーと一対一の状況だから謝罪できたのであって、仮にトレバーやチア友が一緒にいたとすれば、ケルシーは絶対に自分のやったことを謝らなかったことでしょう。「ケルシーってあんなダサいヤツと仲良いの?」とあざ笑いながら聞かれることほど、当時のケルシーにとって恥ずかしいことはなかったでしょうから。
実際のところ、24年後のケルシーも「自分は表立ってはマリーと友達でいたくなかった、彼女はそのことを理解していなかった」と述べています。40歳超かつ母親にもなって「あのときはメンツを優先するあまりマリーに酷いことしちゃったな」ではなく「カーストの上下に鈍感なマリーは空気読めてなかったよ」みたいな感想しか出てこないんだ……と正直思いました。「ラ・ラ・ランドってマジでゴミみたいな内容やったわ~トレバーにこっそりとタダ見させてもらってよかった~あんなもんに20ドルも出せるわけないやんマジで~まあ夢見がちなマリーはラ・ラ・ランド好きやったんとちゃう?」みたいな述懐も、シンプルに品性がド底辺の人間だなーと感じました。
ケルシーはマリーに友情を抱いてはいるものの、甘ちゃんかつ持てる者であるマリーを羨みつつ見下してもいるんですよね。他方、マリーはケルシーをまぶしい素敵なクール女子だと信じ込んで崇拝し、ケルシーの一番になりたい/彼女を支えたい/彼女と対等でありたいと願っています。そんな2人の非対称的な友情の歪みが表出したイベントこそ、このラ・ラ・ナイトだったのかもしれません。
2018/2/16:マリー、ケルシーとの友情を継続する(We're Going To Be Friends 1/2)
ラ・ラ・ナイトから2日後の2018年2月16日の日記は、ケルシーとの友情継続を報告するものです。要約すると、「ケルシーが変わったのはトレバーの影響によるところが大きい。彼女はその夜のうちに謝りに来てくれた。反省もしている。ケルシーには行き場がない。ケルシーが私の部屋に居てくれることが嬉しい」……という内容です。
衝撃の夜から2日経過してクールダウンしたマリーは、「ケルシーはどうしようもないクソ野郎であるトレバーのせいで変わってしまった」と総括し、ケルシーの友情を踏みにじる行為を許すことにしたようです。もっとも、彼女はそういう解釈の仕方ですべて納得できるわけではないことも仄めかしています。
ちなみに、ケルシーは映画館でマリーを突き放した後、マリーの家までまっすぐに謝りに来ました。そしてマリーと話すために窓に小石を投げ、反応がないのでもっと大きな石を投げて窓ガラスを割っています。謝りに来てくれたことはともかく、マリーは雑に投石したケルシーに相当立腹していたようで、後々まで彼女が投げた石を「記念」として残していたようです。
この後発生する事件を思うに、「ラ・ラ・ナイトの時点でケルシーと絶縁してさえいればマリーは悲劇に見舞われなかったはずだ」と個人的には思います。「私より彼氏やチア友の方が大事で、私とはもう友達でいたくないんでしょう。あれだけあからさまな態度を取られた以上、今までみたいに仲良くすることはできない」と本音を伝えて拒絶していれば、ケルシーとズブズブ依存状態に陥る未来は避けられたのではないか……と。
しかしこれは神視点のプレイヤーかつ学生時代を脱したからこそ言えることであって、ケルシーが大好きで情に厚い思春期真っ盛りのマリーに、そんな合理的で冷たい判断はできないだろうなとも感じます。
学生時代って友情第一なメンタルになってしまうところがありますよね。そして、尊敬しているor憧れている友達から拒絶されることや、「自分はあの子と対等な友達ではない(あの子に軽く見られている/あの子には自分よりも大事な存在がいる)」と認めさせられることほど、プライドを深くえぐられる出来事はありません。
「対等な友達だと思われてなかったなんて悲しい」で済めば諦めはつくのです。「もうええわ、友達はこの世にあんただけとちゃうねん、こっちもあんたみたいな友達甲斐のないヤツ知らんわ」と思考をシフトすることができます。ただ、相手のことが大好きで彼女の価値の高さを認識していて、にもかかわらず彼女に「対等な友達」として扱ってもらえない場合、ことはそう簡単には行きません。「大好きなあの子にとって自分の存在は軽い」と認めることは、そのまま自分の価値を否定することに等しいからです。
マリーは賢い子なので、ケルシーが自分を対等な友人だと思っていないことに気づいています。しかし気づいた上で、その事実をいったん無視することに決めたようです。なぜかと言えば、マリーはクールでゴージャスなケルシーのことが大好きだから。そして、自分がいなくなったらクソッタレトレバーに頼るほかないケルシーの気の毒な家庭環境をよく知っているからです。向上心のある子でもあるから、いつかケルシーと対等な友人になれることを夢見て、友人であり続けようとした部分もあるのかもしれません。
1人のプレイヤーとしては、「いや、ケルシーってそんな献身を捧げるに値するような女の子じゃないと思うよ」と率直に思わざるを得ませんでした。高校時代のケルシーと似たような人(たとえば友人Aと友人Bなら迷わずステータスの高い方を、友人と恋人なら常に恋人を、あからさまに優先するタイプの人)と接した経験があるから思うことですが、こと友人というカテゴリにおいて、ケルシーは単純に「地雷女」の気があるように見えます。一生懸命仲良くしても都合よく振り回されるor善意を絞り取られて疲れるだけなので、ほどほどに距離を置いたほうが良いタイプの人間という印象です。
(※もちろん、交友関係に優先順位があったり人によって態度が変わったりすることを難じているわけではありません。人間社会で生きる以上それは当たり前のことなので。そうではなく、自分が行っている順位付けをまったく隠す気のない、デリカシーと想像力に乏しい人について上のように書いています。)
けっこうキツイ書き方をしたものの、私は当時のケルシーを全き悪女だと思っているわけではないです。彼女もまた思春期真っただ中の高校生なので。マリーを傷つけたことを自覚し、マリーとの友情を終わらせたくないと思って謝りに来たことも事実でしょう。
ただ、24年後のコメント(ラ・ラ・ランドのチケットより)を聞くに、ケルシーは「マリーは大事で対等な友達」と思い直して謝りに来たわけではないとたぶん思うんですよね。マリーを傷つけてしまったことは認識していたものの、マリーが傷ついている理由(対等な友達だと思われていない)については、「だって仕方ないじゃん(イケてないマリーと表立って友達主張できるわけないじゃん)」で流していたんじゃないかと思います。
ケルシーがこのラ・ラ・ナイトをあまり深刻に受け止めていないことは、本編で「石」や「窓」を調べるとよくわかります。先ほども書いたようにマリーは、ケルシーが投げた石をあえて保管していました。ケルシーはマリーのそうした行動に気まずさを覚え、どうして(あの夜のことを)思い出す必要があるの、私は謝ったのに……と尋ねました。するとマリーは、「この石は【あなたに】思い出してもらうために残しておくの」と答えたそうです。実際マリーは2月14日の日記に、「二度と忘れないで」と書き留めています。
ケルシーはこの件について、「私を二度と信じてはいけないことを思い出すための記念品としてマリーはあの石を保管していた」と解釈しています。マリーの複雑な葛藤を思うにその解釈は正しいのでしょう。ただ、この若干の据わりの悪い2人の関係(およびその原因に触れずになあなあで済ませたこと)こそ、ラ・ラ・ナイトによる衝撃がケルシーにとってさほどでもなかったことの表れではないかと思います。
ラ・ラ・ナイトで露呈したマリーとケルシーの関係性を思うにつけ、せめてマリーのママが生きていたらなあ……と思わずにはいられませんでした。こういう女の子同士の微妙でややこしい友情関係って、男性である父親には理解しにくいし、娘の方もなかなか相談しにくいものだと思います。その点母親だと大なり小なり同じような経験をしていることが多いので、傷ついた娘を慰めつつ、友達一途になるあまり視野が狭くなっている娘に、「たしかにその子は素敵な子なんやろうけどその子があんたのすべてってわけじゃないんやで、いつかその子以外の友達もできるんやで」みたいに諭してあげられたんじゃないかなーと感じました。
この「もしもロレインが生きていたら」は、どの時点のマリーについても抱いてしまう感想ではあります。
2018/3/17:マリー、ケルシーの靴に文句を言いつつも憧れる(We're Going To Be Friends 1/2)
2018年3月17日の日記は、ケルシーのスパンコール付の靴に関するものです。鋭利なヒールがふくらはぎに刺さって激怒しつつも、ケルシーの脚がサイズ9の靴を履いているとマジで素敵、とマリーは書いています。ラ・ラ・ナイトの直後からケルシーがトレバーと別れるまでの約2か月の間、2人の関係は平和な蜜月を迎えていたようです。
ちなみに、ケルシーのお気に入りのその靴は例にもれずトレバーに買ってもらったものです。(たぶん代替品を買う余裕がなかったのだと思いますが)靴の購入資金が犯罪行為から来ていたことを知った後も、ケルシーはその靴を履き続けていたようです。なんとバイクに乗るときもそのキラキラの靴を履いていたらしく、当時の私はバカに見えただろうなあと彼女は振り返っています(それ以前にヒールでバイクはアウト案件)。
2018/3/17:マリーと誓いの小瓶(We're Going To Be Friends 2/2)
2018年3月17日の日記は、マリーが日記を擬人化して秘密話を打ち明けるような体裁をとっています(よくある「親愛なる日記さん」みたいな感じ)。
テーマは「誓いの小瓶」。マリーのパパであるタレス氏は幼い娘がFワード(汚い言葉)を多用することを憂い、彼女がFワードを口にするたびに、誓いの小瓶にキャンディを1つ入れさせることにしました。亡くなったママはFワードが嫌いだよ、と諭した上で。以降、マリーはキャンディが溜まることに心を痛め、「もう汚い言葉は使いません」とそのたび誓っていたようです。タレス氏はこっそりと小瓶のキャンディを食べつつ、マリーの誓いに喜んでいたと言います。
この日の日記、マリーの性格や父子関係がよく表れていてけっこう好きです。まず、「気づいてる?最近私Fワード使わなくなってるでしょ?」からの「クッソ誇らしいわ!ハッ!」の勢いに笑いました。面白い。
ママを引き合いに出しつつの誓いの小瓶作戦は良い教え方だなーと思います。少なくとも叱って教えるよりはずっと良い気がします。このエピソードを読むだけでも、タレス氏の娘への愛情や、彼が幼い娘を放置せずに苦心して育てていたことが伝わってきます。マリーの精神の健やかさや向上心、楽観性は、おそらくタレス氏との良好な関係を基盤に育まれたものなんだろうなーと感じました(シングルマザーの母から育児放棄されたケルシーとは色々と対照的)。
ちなみに「タバコの小瓶」を調べると、マリーが上記の誓いの小瓶システムをケルシーにも推奨していたことが分かります。具体的には、ケルシーがタバコを買おうとするたびに、マリーはタバコの小瓶にお金を入れさせていたそうです。その貯めたお金でいつか大学に車で通うときのガソリン代が払えるよ、と言い聞かせて。まさにタレス氏がマリーを指導したのと同じやり方ですね。
もっとも、ケルシーはそのお金を大学への通学費用に使うことはありませんでした。彼女が誓いの小瓶に貯めたお金を使用したのは実に24年後、アメリカからはるばるカナダのバンクーバーまで、車でマリーを迎えに行ったときのことでした。
2018/3/27:マリー、ケルシーに「私の友達」と呼ばれる(We're Going To Be Friends 2/2)
2018年3月27日の日記は、喜びに満ち溢れています。この日、マリーはケルシーに「私の友達」と呼ばれました。青空とキング牧師の肖像(「私には夢がある!」)をバックに、マリーは高々と宣言します。「私はもう影のような人間じゃない。彼女は私の友達だ」……と。
初見ではここに至ってようやく友達認定してもらったのか、と驚いたものの、ラ・ラ・ナイトの一件を踏まえるとそうではないんだろうなと思い直しました。おそらくケルシーは、学校などの公の場で、マリーを指して「彼女は私の友達だ」と言ったのではないでしょうか。
その瞬間にマリーの受けた衝撃と感動は想像にかたくありません。愛するケルシーにようやく認めてもらえた。もはやケルシーに寄り添いついて回るだけの影のような存在ではない。彼女と対等の友人になることができた……ケルシーと出会った当初からひそかに抱いてきた夢が叶ったことに、マリーはそんな晴れ晴れとした感慨を抱いたのではないでしょうか。
2018/4/9:マリー、ケルシーにカードを配り直すようにと助言する(All is Now Harmed 1/2)
2018年4月9日の日記は、マリーがケルシーに与えた影響を考える上でとても興味深い内容になっています。この日記を読んで「カード」を調べると、マリーがケルシーの境遇を真摯に理解し友人として思いやっていたことと、ケルシーがマリーの思いをしっかりと心に留めていたことがよく分かります。
マリーは、ケルシーは世界に対して常に怒りを抱いている、それを煩わしく感じることはあるけど理解はできる、と書いています。私たちはまったく異なる物語を持っている、とも。これはおそらく、子煩悩な父親のもと裕福な家庭で愛されて育ったマリーと、アルコール中毒の母親にネグレクトを受けて育った貧困家庭出身のケルシーの境遇の違いを表現したものでしょう。
ケルシーの世界への怒りは、おそらく「不公平だ」という思いから生じていたのだろうと思います。自分とその他の人々とでは、ゲーム開始時点で配られたカードの内容に差がありすぎる。つまり、この世に生まれ落ちた時点で、自分と他の人とでは持っているものが違い過ぎる(そんなのでまともに生きていけるわけがない)……ケルシーはたぶんそういう類いの怒りを覚えていたのでしょう。その怒りは、ある意味でもっともなものだと感じます。
マリーはそんなケルシーの怒りを理解した上で、彼女に「ディール」するようにとアドバイスしたようです。ケルシーはやりたいことをなんだってできる。ただ、実際に自分で実現させようとしなければならない、待ってるだけじゃなくて……と。要するにマリーは、「手持ちのカードに不平を並べて『自分には無理だ』と諦めるのではなく、カードを自力で配り直せ」と諭したわけです。
結局マリーは持てる者ではあるので、この発言に対してケルシーが「わかったようなことを言って」と反感を覚える可能性もあった気はします。ただ、ケルシーはマリーの言葉をごく素直に受け止めました。おそらくケルシーにとって、自分の境遇を真摯に思いやってくれた人はマリーが初めてだったのではないでしょうか。そして、自分の可能性を信じて新しい生き方を示してくれるような人も。
この日のマリーとケルシーのやりとりを踏まえた上で、穏やかで堅実な母親になった24年後のケルシーを見ると、なんだか感慨深い気持ちになります。おそらくケルシーは、マリーがいなくなった後も彼女の言葉を心に留めて「カードを配り直す」ことに努めたのでしょう。ある意味で、健やかドリーマー時代のマリーが遺した贈り物が最良の形で結実した……と言えるのかもしれません。
ちなみに、「ジャケット」を探ってカードを見つけると、ケルシー視点でのこの日のエピソードの感想を見ることができます。「マリー、私の友達のマリー」という言い直しを見ても、4月9日時点のケルシーがマリーのことをかけがえのない友人だと思っていたことは確かです。
「カードをもう一度配って」というマリーのアドバイスが影響したのかどうか、ケルシーはこの直後にトレバーと別れる決心をしました。最良の時を迎えていたマリーとケルシーの友人関係は、ここから緩やかに破滅へと向かうことになります。
2018/4/11:マリー、ケルシーとトレバーの破局を喜ぶ(All is Now Harmed 1/2)
2018年4月11日の日記は、ケルシーがついにトレバーと別れたことを喜ぶ内容です。ケルシーにフラれて激昂したトレバーは、人気のない学校の廊下でケルシーを襲い、彼女の服を引き裂きました。ケルシーいわく、マリーの友達であるオタクのベンに助けられて事なきを得たようです(ただ、どうもその後ベンがトレバーに報復を受けたらしいことが気になります。助けてもらったわりにケルシーがベンに冷たいのも、やっぱりケルシーって基本的に酷薄な人だなーと感じてしまうポイントです)。
トレバーの野蛮な行いにFワードを使用して怒りつつも、マリーは2人の破局を大いに喜んでいます。トレバーの影響を逃れたケルシーはもっと良い行いをできるようになる、きっと事態は好転する……と。ただ、その推測が完全なる楽観であったことを、マリーは後々思い知ることになります。
2018/4/13:マリー、トレバーの異常性に気づく(All is Now Harmed 1/2)
2018年4月13日の日記は、わずか2日前の日記の内容とは打って変わって暗い内容です。マリーを破局の原因と信じたトレバーは、マリーに対してストーカーじみた電話攻撃と物騒な脅迫を仕掛けてきたのです。ようやくトレバーの異常性に気づいたマリー。ここから3か月弱に渡って彼女は陰湿極まりないトレバーの攻撃を受け続け、精神的に追い詰められていきます。
2018/5/19:マリー、トレバーから嫌がらせを受け続ける(All is Now Harmed 2/2)
2018年5月19日の日記は、前回の日記から1か月後に書かれたものです。ただし状況はまったく好転していません。トレバーはマリーに嫌がらせを続けています。
具体的には、まずメールでの脅迫。マリーのPCにはこの日のトレバーのメールが残っていますが、そこには「お前たちを見ている……」との一文とともに、マリーとタレス氏が仲良く歩いている写真(おそらく隠し撮り)が添えられています。ケルシーを返さないのならお前だけではなく父親もただでは済まない、という脅しであることは明らかです。また、「今日はたった5通しかメールが来なかった」と漏らしていることから、マリーが日常的にトレバーの脅迫メールを何通も受け取っていたことが見て取れます。
トレバーの嫌がらせは学校でも行われていたようです。この日マリーと顔を合わせたとき、トレバーは指で喉を掻っ切る仕草をしてみせました。これもシンプルな脅迫メッセージです。
マリーは日記に「あいつは私をとにかく怖がらせようとしている」と書いていますが、実際のところ、彼女は心底怖がっていたのでしょう。ただ問題だったのは、マリーがその恐怖を心の中に押し込めてしまい、身近な人に助けを求めようとしなかったこと。強盗事件に関する日記などを見てもわかるように、マリーは「私は怖くなんかない」と強がる子です。ガチもガチのバイオレント犯罪者であるトレバーとの対峙において、その強がりは最悪な形で発揮されてしまったと言えます。
マリーの強がりは、ケルシーを心配させないためでもありました。トレバーを再びケルシーに近づけさせないよう私が盾にならなければ、と彼女は思っていたのかもしれません。また、半年前の強盗事件で命を落としかけた父親に対しても、心配をかけたくない一心で相談しなかったのかもしれません。
ちなみに、ケルシーはトレバーによるマリーへの脅迫を知らなかったようです(「電話」や「メール」を調べると分かります)。個人的には、「いや察せよ」と言いたくなる部分ではあります。ケルシーはトレバーが万事につけマリーを責めていたことを知っていたし、トレバーが平気で人を刺すタイプのガチ犯罪者であることをおそらく唯一知っていました。だとすれば破局後、トレバーがマリーをつけ狙うだろうことに思い至りはしなかったのか。というより、なぜ約1か月もの間親友の様子がおかしいことに気づかなかったのか。なんでやねんケルシー、とめっちゃ思ってしまいます。
2018/5/19~2018/5/22:マリー、ケルシーと一緒にジョーンズさんのプールへ行く(All is Now Harmed 2/2)
2018年5月19日から22日にかけて、マリーとケルシーはジョーンズさんのプールに出かけていたようです。ジョーンズさんはケルシーのご近所さんであり、スイミングプールとオレンジの果樹園を保有していました。ケルシーは昔から摘みたてのオレンジを失敬しては、夜中にプールに侵入して裸で泳いでいたらしく、この日マリーをナイトスイミングに誘ったわけです。
ちなみにマリーがビビっていることから、おそらくジョーンズさんの了解を得ずにやっていることだと思います。もはやツッコミませんがフツーに犯罪です。また、マリーは必死にケルシーに水着を着るようにと諭しています。
ともあれ、ビール2本と新鮮なオレンジをお供にして、マリーとケルシーはゴキゲンな夜を過ごしたようです。特にトレバーの脅迫に疲弊していたマリーにとって、この小旅行は良い気分転換になったことが見て取れます。この日の日記には、オレンジを模した夕陽のイラストとオレンジのマスキングテープが貼られています。
2018/6/7:マリー、ケルシーとオレンジ畑に行く(All is Now Harmed 2/2)
2018年6月7日、マリーはケルシーと一緒にバイクに乗って、再びジョーンズさんのオレンジ畑に行きました(ケルシーの靴の話はこの日のエピソードか)。白昼堂々オレンジ畑を訪れた2人は、バスケットをオレンジでいっぱいにしてマリーの家に帰りました。ジョーンズさんはこれを知っているのかどうか。たぶんフツーに無許可じゃないかと思います。
ただ、この日はある意味でターニングポイントでもありました。日記にも記述されているように、この日2人はトレバーに捕捉されたのです。
家バレしたのかなとケルシーの言い方を見て最初は思ったのですが、トレバーは強盗に入ったこともあるので、フツーにマリーの家を知っていたはずだと思います。学校が同じだから下校時に追跡すれば家はわかるだろうし、マリーをストーカーしていたことからケルシーが彼女の家に入り浸っていることも知っていただろうし。
だから"get caught"は、脅迫を意に介さず堂々とケルシーとイチャついているマリーを見てトレバーがとうとうプッツーンときた、くらいの意味なのかなーと思います。ともかく、ここからマリーは更なる地獄を味わうことになります。
2018/6/12:マリー、助けを得られず憔悴する(Nothing Was the Same 1/2)
2018年6月12日の日記は、焦燥と悲嘆に満ちた内容です。このあたりから読むのがつらくなる日記ばかりでした。マリーはトレバーによる被害を学校当局に相談し、警察にも訴えたようです。ただ、彼らはマリーをあしらうだけで、話の内容を真剣に受け止めようとはしませんでした。「強盗被害のトラウマに囚われている可哀想な子」扱いを受けたマリーは、怒りを爆発させてFワードを連発しています。
さすがにメールなどの証拠を見せれば警察も動いたんじゃないか、とか素直に大人のパパに相談して一緒に警察に来てもらえば真剣に受け止めてもらえたんじゃないか、とか思わなくはないです。ただ事実として、マリーのSOSは黙殺されました。ケルシーはのんき&事なかれな態度がありありとにじみ出ている校長のメールを見て、「どうして実際に被害が出る前に対応してくれなかったのか」と悲痛な感想を漏らしています。
ここに至ってもマリーはケルシーのことを心配しています。ケルシーに話したいけど、言ってしまえば彼女は正気を失って自分を傷つけかねない、最悪の場合トレバーのところに戻りかねない、と。
マリーの推測はおそらく正しいと思います。ケルシーがトレバーの脅迫を知ったとして、彼女がマリーの身を守るために、たとえばトレバーの犯罪を告発するとは思えないんですよね。ケルシーはトレバーの罪を告発できる唯一の人間ですが、それを行うことは学生として、そしてマリーの友達としてのケルシーの破滅を意味します。だからマリーがトレバーに傷つけられていると知ったら、トレバーのところに戻る道を選ぶんじゃないかと個人的には思います。
(というより、トレバーが「マリーに本当のことを言うぞ(嫌なら戻ってこい)」とケルシーを脅迫しようとしなかったのが不思議と言えば不思議です。それをすると自動的に自分の罪も露呈するから、よほど切羽詰まらないと切れないカードだったのでしょうか。)
2018/6/23:マリー、確信する(Nothing Was the Same 1/2)
2018年6月23日の日記は、これまでで最も悲しい内容です。マリーの飼い猫の「バンブルビー(マルハナバチの意)」がいなくなったこと、ほぼ確実にトレバーの犯行であり、もう二度とバンブルビーは帰ってこないだろうことが綴られています。
正直なところ、PCで「バンブルビーの捜索願」を調べた時点で大きなショックを受け、動揺MAXになって泣けてきた覚えがあります。いくらなんでもそこまでするか、と。その後、放心し絶望のどん底にいるマリーの日記を読んでさらに落ち込みました。血も涙もないド畜生クソッタレケツ穴陰湿犯罪者であるトレバーに対するヘイトも頂点に達しました(クソ汚い言葉遣いですみません)。
実際に飼い主にならないとなかなかわからない部分ではありますが、ペットを悪意を持って傷つけられるなんて想像するだけでも血が凍りつきそうになります。もしその想像が現実になったとすれば、たぶん私はたださめざめと泣くだけではいられないと思います。多くの飼い主にとって、ペットは愛する家族の一員(かつ無条件で守るべき存在)も同然だからです。
この日から数日に渡ってマリーは泣き続けていた、とケルシーはコメントしています。マリーの絶望と怒りと哀しみが手に取るようにわかるからこそ、バンブルビーが消えた直後にマリーがある決意に至ったことに納得しかありませんでした。この日のバンブルビーの写真には、亡くなったロレインの写真に使われていたものと同じ、弔意を示すらしい小花柄のマスキングテープが貼られています。
ちなみに、マリーと同じくケルシーもバンブルビーの末路を察していました。つまり、トレバーがやったのだ、と。個人的には、「そこまで察してんのになんでだんまり決め込むねん」と思いました。マリーが夜中にこっそりと泣いていることに気づいていたのなら、自分の元カレのせいで親友の愛猫が殺された自覚があるのなら、寄り添って慰めるなりトレバーへの対処を話し合うなりしてあげればよかったのに、と。
2018/6/30:マリー、ついに決意する(Nothing Was the Same 1/2)
2018年6月30日、バンブルビーがいなくなってから約1週間後、マリーは決意を固めました。間近にあるトレバーへの恐怖を克服するべく、インターネットを通じて9mm拳銃を購入することに決めたのです。トレバーが見張っている可能性を考慮し、町の外でこっそりと現物を受け取るつもりだ、とも書かれています。
誰かを撃つことを考えているわけじゃない、自分の身を守るためよ、と結論付けつつも、マリーの脳裏にはトレバーに銃口を向ける可能性が過ぎっているようにも感じ取れます。何をすべきなのかわからない、と彼女は合間に零しています。
ケルシーはマリーのこの行動には気づいていなかったらしく、「マリー、何を考えていたの? 違法だって知ってるはずなのに」とコメントしています。マリーの真面目さをよく知るケルシーの驚きによって、当時のマリーがどれほど追いつめられていたのか、その悲愴な決意が鮮やかに浮かび上がってくるようです。つくづく親友と彼氏が別れたことによって、なぜかその彼氏に集中攻撃されるマリーが気の毒でなりません。
ちなみに、この日の日記には拳銃のスケッチが添えられています。銃口から飛び出すのは綺麗な花束。そして、スケッチに使用されているマスキングテープは、1週間前にバンブルビーの写真に使われていたものと同じです。花束が射出されている方向を見るに、マリーはおそらく拳銃の購入と愛猫への弔いを結び付けて捉えていたのではないでしょうか。だとすれば彼女が想定していた拳銃の使い方は、やはり自己防衛に留まらない類いのものだったのかもしれません。
2018/6/30:マリー、強盗事件の真相に気づき始める(Nothing Was the Same 2/2)
2018年6月30日の日記は、「悪い報せ」という内容です。マリーの家からわずか2ブロック先の家が強盗の被害に遭い、女性が1人殺害されたというニュースが飛び込んできたのです。しかも警察は、トレバーがその下手人ではないかと疑っていました。
ここからマリーは、「昨年の12月、私たちの家に押し入ったのもトレバーだったのではないか」と推測します。あまりに大きな話に混乱するマリー。しかし彼女は、ケルシーがそれを否定しているとも書き留めています。いくらトレバーがクソ野郎でもそんな暴力沙汰に関わったことはないはずだ、と。
マリーは「ケルシーはトレバーに襲われて服を引き裂かれたことだってあるのになんだって現実から目を逸らすのかしら、やれやれ」(要約)的なコメントをしています。ただ真相を知った後だと、この場面でケルシーがトレバーを擁護したことには納得しかありませんでした。
ケルシーはマリーの大当たりの推測に口が裂けても同意できなかったはずです。なぜなら彼女はその強盗事件の第三者ではなく、むしろ当事者の1人であり、トレバーと一緒にタレス家に押し入ってマリーの頭をバットで殴った共犯者だからです。
おそらくケルシーはこの日のニュースを血の気が引くような思いで眺め、内心でビクビクしながらマリーの推測を否定しにかかったのではないでしょうか。もしトレバーがこの件で警察に捕まってタレス家の事件についても洗いざらい自白したら……と気が気でなかったかもしれません。
あらためて、ケルシーはマリーの友人ではあったとはいえ、最初から最後まで彼女に対して誠実であろうとはしなかったんだなーと思わざるを得ません。強盗事件からこの時点まで、ケルシーはいったい何を思いながら被害者であるマリーの友人をやっていたのでしょうか。バレませんようにと毎日祈る思いだったのか、バレなければいいと開き直って付き合っていたのか。タレス氏がくれた鍵束を使うたびに罪悪感を覚えていたことから、前者寄りだとは思いますが。
2018/7/5:マリー、やり遂げる(Nothing Was the Same 2/2)
2018年7月5日、この日マリーはついにやり遂げました。このことを後悔する羽目になりませんように、と彼女は書き残しています。おそらく無事に拳銃を購入できたのでしょう。この選択の成功はある意味でマリーを破滅させたものの、一方で彼女の命を救うことにも繋がりました。
2018/7/7:マリー、ナイトスイミングを満喫する(Nothing Was the Same 2/2)
2018日7月7日、この日マリーとケルシーは「最後の」ナイトスイミングを満喫しました。マリーはトレバーの恐怖を感じつつも、「今日ではない」と自分に言い聞かせてケルシーとの時間を楽しみました。「今日ではない」とは、トレバーの襲撃を想定した言葉でしょう。トレバーが警察に追われていることから、もう遠くに逃げただろうという楽観も手伝ったのかもしれません。
ケルシーもまた、夜の闇の中にトレバーが潜んでいることに気づいていました。ただ、マリーには何も言いませんでした(これもまた「なんでやねんはよ言えよ」案件)。ケルシーの言いぶりから、おそらくトレバーはこの夜に帰宅途中の2人を尾行し、マリーの部屋までついていったのでしょう。
2018/7/8:運命の日
2018年7月8日午前7時13分、ナイトスイミングに出かけたマリーとケルシーが部屋に帰ってきたとき、そこには招かれざる客がいました。ナイフを所持したトレバーです。彼はジョーンズさんの家から帰る2人をこっそりと追跡し、窓からマリーの部屋に侵入したのです。トレバーの狙いはケルシーではなく、自分とケルシーを破局させた(と彼が思いこんでいる)マリーでした。
マリーとケルシーの必死の抵抗に遭ったトレバーは、ここに至ってついに真実を暴露します。つまり、昨年12月にタレス家を襲ってマリーの父親を刺した強盗犯は自分であり、一緒に忍び込んでマリーを殴った共犯者こそケルシーである、と。
思わぬ告白に、マリーとケルシーはそれぞれパニックに陥ります。ケルシーはただ見られたくない一心でマリーを殴ったこと、彼女が酷い怪我をしたことに気づいて警察を呼んだこと、その場にいようとしたがトレバーに引きずられて現場を去ったことを半狂乱になって叫びました。ただ、ショックのあまり涙を流すほかないマリーにその言葉が届いていたのかはわかりません。
ケルシーはマリーとの関係をぶち壊したトレバーと戦い始めるものの、激しい攻撃にさらされ頭部にダメージを負います。そこで我に返ったマリーは、ついに最後の武器を取り出しました。拳銃です。銃を構えたマリーを見て激昂したトレバーは、下がれと叫ばれたのにもかかわらず、彼女からその銃を取り上げようとします。そこで、マリーは引き金を引いてしまいました。銃弾はトレバーの頭部を貫き、彼は命を落としたのです。
事件後のマリーとケルシーについて考える(~2042年)
Marie's Room
さて、2018年7月上旬に壮絶な事件を経験したマリーとケルシーは、その後どうなったのでしょうか。まずは事件直後に書かれた「マリーの最後の日記」の内容を振り返ります。
プレイヤーが真相を知った後に開示される最後の日記は、トレバーの命を奪った直後にマリーによって書かれたものです。一夜にして殺人者になり、かつ親友の裏切りを知った彼女は、その生々しい苦悩と煩悶の一端を日記に書き留めています。
フードレスキューに参加したこと、サイエンスプロジェクトに参加したこと、本当の友達を見つける力がなかったこそ、ケルシーの言葉を信用したこと、本当の彼女を知らずにいたこと、ラ・ラ・ナイトの時点で彼女と永久的に距離を置かなかったこと……今やマリーは、ケルシーと関わったすべての場面に対して後悔を抱いていました。
脚を撃つつもりで引き金を引いたマリーは、結果的にその手でトレバーの命を奪ってしまいます。親友が嘘つきの強盗犯だったことを知った直後に、自身も殺人者になってしまったのです。自分は以前の私と同じなのか。これは自業自得なのか。私は邪悪な人間なのか……とマリーは際限ない自問自答を繰り返します。
被害者のトレバーは悪質な強盗常習犯であり、ナイフを持ってマリーの部屋に侵入しマリーらに激しい暴力を振るっています。おそらくマリーの発砲は正当防衛だと判断されたのでしょう。
しかしそれでも、彼女がその後オレンジ・グローブで暮らしていくことは難しかったようです。事件後のマリーは父親の提案を受け入れ、バンクーバーに住んでいるジョージおじさんのもとに身を寄せることになりました。
つまり最後の日記は、マリーがアメリカ合衆国カリフォルニア州のオレンジ・グローブからカナダのバンクーバーに旅立つ直前に書かれたものでもあります。新しく人生を始める必要に迫られた彼女は、日記帳を「マリーの部屋」に残していくと決めました。いつの日か――すべてが遠く過ぎ去ったら、そして自分が殺人者であることに折り合いがついたら――迎えを寄越すね、とマリーは締めくくっています。
ここで注目したいのは、「迎えを寄越す」という文言です。マリーは「(自分で)迎えに行く」とは書いていません。二度と忌まわしい事件が起こった「マリーの部屋」に入るまいと思っていたのか、それとも当初からケルシーに頼むつもりだったのか。ともかく日記のこの部分は、2042年時点のケルシーが日記帳を求めて再びタレス家に足を踏み入れた理由を説明してくれそうです。
続いて、「ケルシーに宛てた最後の手紙」を振り返ります。この手紙はスタート直後、2018年当時のマリーの部屋にトリップする直前に閲覧できるものです。真相を知った後にようやくマリーの曖昧模糊とした書き方が指すところを理解できるようになります。短いのでざっくり訳すと以下のような感じです。
ハイ、ケルシー。
Marie's Room(翻訳は引用者)
そうよ、あなたに話してるの。あなたが今私の日記を読んでるってわかってる。
あなたのやったことについて、私はあなたを許すことができるのかな? 正直なところ、私にはわからない。真剣に努めてはいるけど、どうすればいいのかわからない。なぜなら私は何も理解してないから。
あなたは私の友達だった。私はあなたを愛してた、絶対的にね。私はあなたのためにああいう行動をとった。あなたのために、彼に立ち向かった。だけどあなたは……私にはわからない。
今はあなたの側にいることはできない。だから、私を探しに来てほしくないの。私は大丈夫よ、約束する。
マリー
この手紙もまた、マリーがオレンジ・グローブを離れる前に書いたものでしょう。文面から分かるのは、裏切りを知った後でもマリーがケルシーにいくらかの愛情と友情を抱いていたこと、ケルシーが秘密を抱えながら自分の友達として振る舞い続けた理由をよく理解できていないこと、新しい人生を始める自分にもう接触してほしくないと思っていること……などでしょうか。またその書き出しから、「ケルシーが自分の部屋に残した日記を読むこと」をマリーは想定していたようです。
上記の日記・手紙を踏まえた上で、作中の現実時間(事件発生から24年後の2042年)におけるマリーとケルシーについて考えます。2017~2018年時点でハイスクールに在籍していたことから、2042年のマリーとケルシーの年齢は40歳~42歳くらいでしょうか。
ちなみになぜ2042年と断定できるのかと言えば、タレス家の居間のタブレットに「本日のオレンジ・グローブの天気予報」が映し出されているからです。右下を見ると、「2042年8月15日(金)」と表示されています(ちなみにスタート時刻は午後9時。マリーの部屋が薄暗いのはそのせいか)。このカレンダーは現実と対応したものです。
ただ、正直なところ2042年のマリーとケルシーには謎も多いです。とりあえずマリーの部屋にある「ポストカード」と「マップ」、ケルシー自身の発言、およびケルシーとその娘との会話から読み取れるストーリーをまとめると、以下の通りです。
2042年現在、ケルシー・ジャクソンは24年前と同じくアメリカ合衆国カリフォルニア州のオレンジ・グローブに住み続けている。ケルシーには娘が少なくとも1人いる。現在は髪を染めていないしおそらくタバコも控えている。車を1台所有している。
ある日、ケルシーのもとに差出人不明のポストカードが届いた。表面の写真は、カナダのバンクーバーの夜景を写したものだった。ケルシーは即座に、そのポストカードが事件直後にアメリカを出国したマリーからのメッセージであると理解した。
しかし、電話をかけてもマリーは応じてくれなかった。そうなるとケルシーにできることは1つしかなかった。彼女はアメリカのカリフォルニアから愛車を運転し、はるばるカナダのバンクーバーに向かったのである。この「ギルト・トリップ」のために、ケルシーは誓いの小瓶に貯めたお金をすべて費やした。
バンクーバーでマリーと再会したケルシーは、彼女を車に乗せて再びオレンジ・グローブへと戻ったらしい。マリーの目的は、24年前に自分の部屋に残してきた日記帳を回収すること。それも、ケルシーにその日記帳を取ってきてもらうことだった。
ケルシーは愛車にマリーと自分の娘を乗せて、懐かしいタレス家へと向かった。2人を車に残して1人マリーの部屋に入ったケルシーは、長い時間をかけて思い出を紐解き、彼女の日記帳を読んでマリーの思いを知った。
しばらくして、まだ戻ってこないケルシーにしびれを切らした娘が電話をかけてくる。マリーおばさんが今にも車内でタバコを吸っちゃうよ、早く日記帳を持って降りてきて……と。通話を終えたケルシーは、慌てて部屋を出て階下へ向かうのだった。
2018年当時はタバコを吸うし髪は赤いし不良彼氏と付き合うし……でわかりやすく荒れていたケルシーですが、2042年時点ではすっかりと落ち着いた母親になっているようです。昔の自分を見て苦笑いしていることから、現在はおそらく髪を派手な色に染めていないのでしょう。誓いの小瓶の習慣を今も続けているのなら、タバコをやめている可能性もあります。また、学生時代とは違って少し余裕ができたのか、車を1台買って大事に乗っているようです(愛車の中ではタバコを吸わせないようにしている)。
ケルシーに関して気になるのは、やはり強盗に加担した罪を償ったのか否かということ。これについては触れられていない&もう24年以上経っているので、なんとも言えないポイントではあります。個人的には、ちゃんと警察に自首してしかるべき裁きを受けてくれているといいなーと思います。というより、「マリーが主犯のトレバーを撃ってくれたからバレずに済みそう、マリーも警察に言わないでね」みたいな感じで済ませていたら率直に言ってドン引き案件です。
24年後のケルシーは「タレスさんついに再婚したのよ~私もバハマ諸島でのハネムーンについていけたらよかったのになあ」と実にのんびりとしたコメントをしています。こんなことを言いながら、そのタレス氏が死にかけた事件の共犯だった罪を償わないまま24年間平和に過ごして子供も授かりました~だとシンプルに人倫にもとるキャラクターになってしまうので、きっちりと自分のケツは自分で拭いてくれていると信じたいです。客観的に見て、ケルシーはタレス父子から様々な善意を享受しながら彼らの平穏な生活をブチ壊した子でもあるので。
非行少女を脱したケルシーに対し、真面目な熱血ドリーマーだったマリーはもしかするとかなり擦れた女性になったのかもしれません。2018年当時はケルシーの喫煙を嫌ってタバコの小瓶を勧めていたのに、2042年の彼女は喫煙の習慣を身に付けています。
かつての自分の生家に入ることもせず(あるいは嫌な思い出があるから入ることができず)、長々と待たされて気が立ってタバコを吸おうとするマリー……この情報だけでも、24年間のマリーの苦労がしのばれてちょっぴり胸が痛くなります。もっとも、最近マリーに出会ったばかりのケルシーの娘は、彼女を「マリーおばさん」と呼んでそこそこ仲良くしている様子です。
事件から20年以上が経過した今、おそらくマリーは「そろそろ過去の自分に向き合っても大丈夫だ」と思ったのではないでしょうか。それはすなわち、ケルシーへの友情およびケルシー当人と向き合うことでもあったはずです。だから彼女は、「マリーの部屋」に置き去りにしてきた24年前の自分(=日記帳)を他ならないケルシーに回収させたのではないでしょうか。その過程で、かつての自分が抱えていた思いをケルシーに知ってもらい、24年前の自分たちのことを思い出してもらうために。
プレイヤーとしては、マリーの心の傷が少しでも和らいでいることを祈るばかりです。そしてできることなら、24年前の一生懸命で勇敢だったマリーの記憶を、彼女の今後の人生の糧として連れていってあげてほしいと思わずにはいられません。
2042年のタレス邸に存在するポストカード・地図・写真の謎
現在のタレス家に残る謎はいくつかあります。最大の謎は、マリーの部屋にケルシーの持ち物らしいポストカードとマップが残されていること。
24年前の写真やタレス氏の写真へのコメントを見るに、ケルシーは久々にタレス家に入ったらしいんですよね。それなのに、どうしてマリーの部屋にケルシー宛のポストカードやケルシーがバンクーバーに行くのに使用したらしいマップがあるんだろう、と疑問に思いました。この2つの物品は飛びぬけて謎すぎるので、「情報開示の都合上そこに置かれたもの」と解釈してもいいのかなーと思わなくもないです。
Marie's Room(書込みは引用者)
ところで、暗くて見えにくいものの、マップにはオレンジ・グローブの位置が×印とオレンジのマスコットによって示されています(参考:上の画像右)。ケルシーは×印地点から赤線で示された道を辿ってカナダのバンクーバーへ向かったのでしょう。ためしにマップの×印地点をグーグルマップで調べてみたところ、その地点にはたしかに「オレンジ・グローブ・アベニュー」という通りと住宅街が広がっていました。
オレンジ・グローブの位置のみならず、マップには"Kelsey's guilt trip"という文言が書き込まれています(参考:上の画像左)。"guilt trip"とは、「罪悪感」あるいは「他人に罪悪感を抱かせる言動」の意。後者については、特に「相手を申し訳ない気分にさせて行動を操ろうとするもの」という意味を内包しているようです。
つまり"Kelsey's guilt trip"は、ケルシーの抱える罪悪感、マリーがその罪悪感を利用して彼女をバンクーバーまで来させたこと(かつ日記帳を回収させたこと)、ケルシーの罪滅ぼしの道程(旅)……など、様々な意味が込められた言葉なのだろうと思います。
個人的に気になるのは、それを書き込んだのが誰かということ。一瞬マリーがそれを書き込んでポストカードと一緒にマップを送ったのでは……という考えが脳裏をよぎったんですよね。オレンジの可愛いマスコットキャラも、絵の巧いマリーが描いたものなのかなーと。ただ、さすがにそれはダークすぎるからないだろうと思い直しました。おそらくマリーに会いたい一心でバンクーバーまで駆けつけたケルシー自身が、自戒もこめてそう書き込んだのではないでしょうか。
その他の謎と言えば、現在のタレス家に飾られている写真でしょうか。ここに映っている人たちはいったい誰なのか。正体がはっきりしている写真はわずか2枚。2018年当時のマリー&ケルシーを写したものと、2042年までに再婚したタレス氏とその妻(金髪)を写したものだけです。その他の女性たちと揃って金髪の子どもたちは、いったい誰なのかよくわかりません。
奥のドアを調べるとケルシーが「ここは彼女の両親の寝室だ」とコメントするので、おそらくタレス氏は再婚した妻と一緒に、今もオレンジ・グローブの邸宅に住んでいるのでしょう。だとすれば、飾られている写真に写っている女性と子供たちは、「マリー/タレス氏の現在の妻/マリーの子ども(タレス氏の孫)/タレス氏と現在の妻の子ども」のいずれかなのかなーと思います。
特に黒髪の女性(左)と金髪の女性(右)を写した写真は、30代~40代のマリーとタレス氏の現在の妻を撮ったものではないかと感じます。よく分からないのは、茶髪の女性(左)とひっつめ髪の年配の女性(右)がおどけて映っている写真です。この2人はいったい誰なのか。面差しが似ているので、血縁者同士の2人だとは思うのですが。
*****『Marie's Room』、面白いゲームでした。実を言うとけっこう前にダウンロードして積みゲーになっていたので、無事にプレイ&クリアできてよかったです。同じようなSteamゲーが他にもあるので、ぼちぼち遊んでいきたいなーと思います。
※前回の記事:『Marie's Room』 日記を読み解き2人の少女を襲った悲劇を見届ける探索ゲーム 感想&レビュー ※ネタバレ注意
※「過去を懐かしむ」or「遠い過去に焦がれる」要素のある作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『Her Story』(彼女の物語) 感想 時系列考察 ※ネタバレ注意(新感覚サスペンスADV)
・『ヒトミサキ』 懐かしい故郷で事件が起こるノスタルジックミステリーADV 感想&攻略
・『テオとセァラ』 「選択をやり直せない」ノベルゲーム 感想 考察 攻略
・『過去への渇望』 奇跡の食物が創り出す近未来ディストピア 感想(SFノベルゲーム)
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