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『神林家殺人事件』 「ノンフィクション」推理ADV 感想&レビュー&攻略 ※ネタバレ注意

2021/04/27
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ある名家を襲った猟奇的事件の「真実」を再現した推理アドベンチャーゲーム、『神林家殺人事件』の感想&レビュー記事です。攻略情報も含まれます。制作者は鳥籠様。作品のダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → 作品ページ

神林家殺人事件 スクショ タイトル画面

神林家殺人事件

本作は、「実在の事件の再現ゲーム」という体の推理ゲームです。エンディングは27+1で計28通り。エンドコンプまでの所要時間は約4時間でした。

以前遊ばせてもらった『左眼ジャック事件』が面白かったので、同じ制作者様による推理ADVをプレイさせていただきました。硬派なタイトルがプレイの決め手でした。

ネタバレを避けつつ書くと、本作は隠しエンドの存在によって全体の印象がガラリと様変わりしてしまう作品でした。初見では「そういうことか(衝撃&納得)」が先に立ったのですが、あれこれと振り返るうちに「こんなひどい話って……(恐怖&悲しみ)」とじわじわ思うようになり、クリアしてけっこう経つ今でも余韻を引きずってしまっています。一部にサイコロジカルホラーっぽいアプローチが採用されているせいでもあるのでしょうか。

ともかく隠しエンドに関しては書きたいことが多かったので、隠しエンド(エンド0)の感想のみを書いた記事を別にアップする予定です。 → ※更新しました!

≪関連記事:『神林家殺人事件』 屍を積み上げた異常者が得る自由と孤独 隠しエンド 感想&考察

以下は、ストーリーやエンディングに関するネタバレ込みの感想です。攻略情報にも触れています。『左眼ジャック事件』の内容にもネタバレに抵触しない程度に触れています。未見の方はご注意ください。

作品のあらすじ

作品のあらすじを書きます。まずは、ゲーム内の「まえがき」や作品のダウンロードページ、りどみ等で読むことのできる「序文」を引用させていただきます。

神林家殺人事件。
日本中を震撼させたあの事件から早くも数年の歳月が経ちました。
巷に溢れるニュースの流れの中で、既にあの事件のことは忘却の彼方にあるという人も少なくないと思います。そのため今だからこそ、この場を借りて公表したいことがあります。
驚かれるかもしれませんが、本作の作者である私(鳥籠)は当時、あの神林家殺人事件の渦中に居合わせておりました。そして、それまで味わったこともなかった混乱と恐怖、絶望を越えて私は生き残ったのです。当時の、目を覆いたくなるような凄惨な光景の数々は作者の脳裏に焼き付き、今でも悪夢にうなされる夜があります。
しかし、世間ではどうでしょう。事件後、表面的なニュースだけが流れ、根も葉もない噂や憶測が飛び交い、大多数の人はあの事件の詳細までを理解しているとは言い難いというのが私の印象です。
あの事件の全容を目の当たりにした当事者の一人として、神林家殺人事件の真実を世間に知ってもらう必要があると私は考えました。そして、それを伝えることが、あの悪夢の館で生き残った私の使命だと思うのです。
幸いにも私にはゲーム制作という趣味がありました。
そのため、あの事件を推理ゲームの形で再現することを思いつきました。
当時作者が見聞きしたことや事件の資料を参考にし、可能な限り現実の事件に近い形で作品化しましたが、ゲームとしての体裁を整えるために作者の想像で補った部分が少なからずあります。娯楽性を保つ為、敢えて作者の視点ではなく、同じく事件の際に居合わせた大学生を主人公としました。
また、関係者の個人情報に配慮し、一部の登場人物の名前や設定に修正を加え、事件の背景設定に脚色した箇所が少なからずあります。
本作『神林家殺人事件』は実在の事件の再現ゲームであり、正規ルートで描かれる物語は全て現実に起こったことです。このゲームは、フィクションではありません。登場する人物・建物・団体・事件は現実に存在する、あるいは存在したものです。
このゲームを通じて、あの悪夢のような事件を一人でも多くの人に追体験してもらいたい。それが作者の切なる願いです。

神林家殺人事件

つまり、『神林家殺人事件』は、実際に起こった事件を、生き残った関係者(HN:鳥籠)が推理ゲームとして再現したフリーゲームである。その前提を確認した上で、本編の再現ゲームのあらすじを書きます。

神林家殺人事件 スクショ 先輩・江崎玲於奈とともに神林邸を訪れる主人公

神林家殺人事件

20XX年1月某日、大学生の「高尾田悠」は、1つ年上の先輩・「江崎玲於奈」とともに静岡県と神奈川県の県境にある山中を訪れました。目的地は、日本推理小説界の巨匠である「神林太郎」の住まう屋敷。玲於奈はインターネット上の推理小説愛好会に所属しており、その日、初めてのオフ会が神林邸で開かれることになっていたのです。

神林家は地元の名士であり、何代にも渡って優れた政治家や学者、作家、音楽家を輩出している家系でもありました。オフ会の主催者である「神林武丸」や彼の妻の「神林和(なごみ)」、娘である双子の「神林佐紀」と「神林佑紀」、家政婦の「関屋恵」らは悠らを歓迎しますが、7歳の末娘・「神林指子(さしこ)」や狐面で顔を隠した「神林清」は、ミステリアスな雰囲気を漂わせて客人と交流を持とうとはしません。

そうして始まった晩餐会の冒頭、あいさつに立った武丸は、「クリエイター」を名乗る者から犯行予告が届いたことを告げます。ミステリ好きに向けた粋な余興だろうと面白がっていた愛好会のメンバーたち。しかし晩餐会が終わって各人がぱらぱらと退出し始めた頃、惨劇は予告通りにその幕を上げます。自室に戻った神林太郎が無残にも首を切断された状態で発見されたのです。犯行現場には、クリエイターからの謎めいたメッセージが残されていました。

次々に血みどろの犯行を重ねるクリエイターと、その餌食になっていく神林家の人々。魔の手はやがて推理小説愛好会のメンバーにも及び始めます。冷徹なるクリエイターの正体と目的とは? 悠や玲於奈は無事に生き残ることができるのか? ……といったあたりが、再現ゲーム本編の見どころです。

再現ゲーム(本編)の感想

神林家殺人事件 スクショ クリエイターによる惨劇の予告状

神林家殺人事件

『神林家~』の印象を簡潔に書くなら、「推理モノのちゃんぽん」でしょうか。館モノ、クローズド・サークル、横溝作品っぽい名門一族、叙述トリック、バールストン・ギャンビット、そして誰もいなくなった、後期クイーン問題……等、実際に作中で言及されるものから推測されるレベルのものまで、様々な推理モノのエッセンスをふんだんに取り入れた作品でした。

これだけ豪勢にぶち込むとどこかで無理が出そうなものですが、むしろすべての材料を使い切って1つの結末に進んでいった印象があります。力業すぎる感じもなく、実に美味しいちゃんぽん(=見事な構成)だなーと感服いたしました。

まず、「推理小説愛好会のオフ会」という設定を利用して、ストーリーで実際に使われそうなネタを事前に振ってくれるのが巧いなあと思います。具体的には、玲於奈先輩と他3人が和気あいあいと語っていた推理小説論考ですね。物語の見方が一変する叙述トリック、真犯人が被害者と入れ替わって目くらましするバールストン・ギャンビット、館そのものに仕掛けがある……等。

最後に振り返ったとき、「そういえばあのシーンの会話、ことごとく物語に反映されてる」と気づいて戦慄しました。まさかすべての技法が使われるはずはないし、この会話のどれか1つがヒントなんだろうなー……と思っていたら、まさかの全使用オチ。つくづく豪儀な推理ゲームだと思います。

あと、ストーリー進行の速さ、というより登場人物が退場していくペースの速さに驚愕しました。神林家の人間9名、主人公ら含めた客人6名の計15名が主要な登場人物。この15人がたった一夜(というか数時間)のうちに次々と亡き者になり、最終的には主人公&先輩しか残らない……と書くと、その退場ペースの凄まじさを分かっていただけるでしょうか。

最初の犠牲者を皮切りにどんどんと登場人物が退場していくので、最初はマジかよ~とちょっと半笑い状態だったんですよね。いくらなんでも犯人アグレッシブすぎるやろ、と思ってしまって。でも瞬く間に人が減り神林家以外の人間も犠牲になり始めるにつれて、「これもしかして主人公たちしか残らないんじゃ……」と恐怖を覚えた記憶があります。実際その予感通りに物語は進んでいったので、終盤に主人公と先輩以外に唯一生き残っていたキャラが姿を消したときは、絶望しつつも若干諦めの境地でした。

エンディングに関しては、クライマックスの挑戦状パートからの怒涛の分岐が圧巻でした。笑うと同時にテンションが上がりました。名前ありの登場人物全員についてエンドがあるほか、名前のみの未登場キャラ(古坂とか志乃とか)や、制作者本人(鳥籠)のエンドもあります。基本的に間違うと主人公と先輩の漫才からのバドエンに誘導されますが、一部身震いするようなメタいエンドやエンド1のニアミスエンドもあり、実に見応えがありました。

※エンド1~エンド27に関しては、「エンド1~エンド27の感想」にて個別に感想を書いています。

私自身は、最初にエンド20を見たんですよね。これは挑戦パートから分岐するエンドではなく、神林太郎が退場し美樹本洋子が登場する間の選択肢ミスによって引き起こされるバッドエンドです。このエンド20と、晩餐会での和との会話がずっと気になっていたので、比較的サクッと「犯人」の正体が判明するエンド1を見ることができました。

エンド1については、主人公によるトリックの種明かしに盛り上がり、神林家を文字通り破壊し尽くした「犯人」の主張に複雑な思いになりました。いくつかの回収されなかった要素は気になったものの、幾多の遺体を巻き込んで館とともに炎上する「犯人」という構図は王道的でいいなーとも思いました。

『神林家』におけるパロディ要素と他作品との繋がり

神林家殺人事件 スクショ カメラマンの洋子は逆転裁判のナツミのパロディか

神林家殺人事件

『左眼ジャック事件』と同じく、『神林家~』はアニメや漫画等のパロディ要素が豊富な作品でもありました。ここでは個人的に発見したものや「これはもしかして」と思ったものを羅列しようかなーと思います。あと、制作者様の他の作品に登場するキャラについてもこの項目で触れています。

最初にお、と思ったのは、神林邸の裏手に広がる「ひょうたん池」です。河童が出没すると噂され、最近は麓で河童饅頭を売り出している……という武丸の説明を聴いて、「これ逆転裁判無印4話の『ひょうたん湖』や!」とピンときました。

逆裁1-4の事件現場となるひょうたん湖では、最近未知の生物が激写され、「ヒョッシー」と名付けられて注目を集めていました。広場ではヒョッシー人気に便乗してお饅頭を売っているのんきな若者もいるという設定です。

同じく「これって逆裁オマージュかな?」と思ったのは、後発で登場するフリーカメラマンの美樹本洋子です。フリーのカメラマン、ひょうたん池に写真を撮りに来た、茶髪パーマ、緑のジャケット、(時々)関西訛りでしゃべる……など、登場後すぐに「なんだか大沢木ナツミっぽいな」と感じました。

大沢木ナツミは逆裁1-4にて初登場する大阪出身のお騒がせカメラマン。シナリオ担当が大阪人をイメージして書いたものの、肝心の大阪出身の同僚ら(※CAPCOMの本社は大阪にある)からはすこぶる不評だったという逸話を持つキャラです。洋子はシリアスな過去を持つ神林家の関係者であり、ナツミのようにうるさかったり厚かましかったりがめつかったりするわけではありません(あとアフロヘアーでもない)。ただ、属性的にはナツミオマージュなのかなーと感じるキャラクターでした。

※追記:コメント欄にて、『かまいたちの夜』に「美樹本洋介」というキャラクターが登場することを教えていただきました。名前がほぼ同じだしフリーカメラマンだしで、どう見ても洋子の元ネタになったキャラだと思います。『かまいたちの夜』はまだプレイしたことがないので、こうして教えていただけてすごく有り難いです。ゆめなまこさん、貴重な情報をありがとうございました!

次に、『名探偵コナン』ネタもけっこうあった気がします。太っていると見せかけて生首をお腹に入れて運ぶトリックとか、脇にボールを挟んで脈を止めるとか、歯と爪は人体の固い部分一位二位とか、炎上する屋敷の中でピアノを弾く犯人とか(いくつかはコナンというか推理小説のあるあるネタかも)。懐かしい。

あと、医者の徳田霧子は『ブラック・ジャック』に登場するドクター・キリコでしょうか。大学院生の草薙望都は、漫画家の萩尾望都から名前をもらったのかなーと思いました。

その他、犯行予告と「呼称のある犯人」(今回だと『クリエイター』)は古風ですがザ・推理モノっぽい感じで好きでした。私は『金田一少年の事件簿』の怪人名をパッと思い出しました。また、終盤の「プレイヤーへの挑戦」は、「読者への挑戦」のオマージュでしょうか。

『左眼ジャック事件』で頻出したフリゲ作品パロディは控えめでした。ただ、どこで言及があったのかはぼかしますが、フリゲ好きの主人公が『悠遠物語』を引き合いに出すシーンがありました。『左眼』のサクラも言及していましたが、この主人公も完結を待っているのでしょうか。親近感が湧きます。

それと、ググってみて気づいたのですが、クリエイターによるメッセージのほとんどは『攻殻機動隊』からの引用のようです(私自身は『攻殻機動隊』に触れたことがないので、はっきりしたことは言えません)。

また、半導体物理学を専攻している先輩・「江崎玲於奈」の名前の元ネタは、そのまんま同名のノーベル賞物理学者だろうと思います(振り返って思うに、その名前の引っ張り方自体が先輩にまつわる秘密のヒントだったのかもしれません)。

加えて、神林家については『犬神家の一族』をモチーフの1つにしている印象です。わかりやすいのは狐の面で顔を隠した神林清で、同じく顔を隠したスケキヨのパロディではないかと思います(清犯人説のエンドタイトルや志乃犯人説で主張されたトリックなども犬神家っぽい)。ちなみに、倉庫にも横溝正史の本がこれみよがしに置いてありました。

最後に制作者様の他の作品との繋がりについて。他の作品とは言っても私はまだ3作(『左眼ジャック事件』&『何も事件は起こらなかった』&『鵺の子』)しかプレイしていないのですが、『左眼』の登場人物は何人か『神林家』に顔を出しています。

具体的には、鳥山恵司(フリゲ制作が趣味)と和山葵(雑誌記者)、冥王玲於奈(占い師)、喫茶店「ダ・カーポ」の面食い女性店員など。このうち鳥山はメインキャラであり、和山も意外な役回りで主人公たちの前に登場します。セリフはないものの、青髪の女性&メガネの男性と、ダジャレ好きなDD&カマトト疑惑のあるJDのカップルもそれぞれエンド26とエンド1で喫茶店にいました。

逆に、『神林家』の登場人物が『左眼ジャック事件』に登場していたりしないかなーと見返したところ、1つ発見しました。本屋にたむろしている夢追い人のTIPにおける、「最近買った復刻版『第五次元の密室』(神林太郎・著)」という記載です。他にも何かしらあるかもしれません。こういう複数の作品で世界観を共有する手法、すごく好きです。

あと、悠や玲於奈は静岡県の御殿場市(※ゲーム内)に住んでいたようです。序章では喫茶店「ダ・カーポ」で、エンド1では通称ラミエル公園で待ち合わせているので。ただ、事件から数年経った現在はその限りではないのかもしれません。

『神林家』と『左眼ジャック事件』の時系列――鳥山と和山に着目して

ところで、『左眼ジャック事件』における「鳥山恵介」(怪しい男)と「和山葵」の情報を見返したところ、作品の時系列についてどっちが先なんだろうと疑問に思いました。つまり、『左眼』→『神林家』の順なのか、それともその逆なのか……という疑問です。

鳥山に注目すると、彼は『神林家』本編で最終的にああいうことになってしまうため、『左眼』は『神林家』の惨劇よりも前のお話だと考えられます。つまり、時系列は『左眼』→『神林家』です。

しかし、和山に注目すると上の順序は怪しいものになります。『左眼』における和山の説明には、「以前は別のオカルト専門誌の記者だったが、現在は週刊パトスの記事を任され~」との記述があります。一方、『神林家』のエンド27(事件から数か月後)において、彼女は自分の担当は「オカルト系の雑誌」であると話しています。

この2つの情報を単純に掛け合わせると、『神林家』時点での和山はオカルト雑誌記者だったが、『左眼』ではその雑誌から週刊パトスの担当に変わった……という話になります。つまり、時系列は『神林家』→『左眼』。しかしこの順序は、『神林家』でああいう結末を迎えた鳥山が『左眼』で健在であることと矛盾します。

といっても、たとえば和山は「オカルト専門誌A」→「週刊パトス」(左眼)→「オカルト系の雑誌B」(神林)という流れで雑誌を移っているのかもしれません。また、実は週刊パトスが「オカルト系の雑誌」であり、『左眼』→『神林家』において同じ雑誌(パトス)に所属し続けている可能性もあります。そもそも私は制作者様のゲームをまだ3本程度しか遊んでいないので、和山が様々な雑誌を遍歴する記者であることを私が知らないだけなのかもしれません。

あと、そもそも『左眼』に登場する鳥山と『神林家』に登場する鳥山はまったくの別人である可能性もあります。というのも、鳥山は『神林家』で本名を「鳥山恵司」と名乗っていますが、『左眼』のTIPでは本名「鳥山恵介」であると記載されているからです。「恵司」と「恵介」で、なぜか一字違います。だから、名前が一字違いで容姿が瓜二つで趣味も同じでややゲスい言動・雰囲気も共通している赤の他人……という線もないわけではありません。

とはいえ、鳥山の名前の違いはまえがきに説明されていた通り、制作者が事件関係者の名前を意図的に変更した結果だろうとは思います。また、初めてのオフ会に臨んで、鳥山本人があえて本名を正しく名乗らなかった可能性もそこそこあるのかなーと思います(それこそエンド9などで言及されていた通り)。

≪関連記事:『左眼ジャック事件』 現代のジャック・ザ・リッパーを追って霧の街を往くサスペンスADV レビュー その1

ゲーム終了後に始まる「ゲーム」(※ネタバレ有)

さて、ここまで再現ゲームの感想を書いてきました。ここからは再現ゲーム終了後に始まる「ゲーム」、すなわち「再現ゲームの外側の現実」にフォーカスします。核心的なネタバレが含まれるので、特に隠しエンド(エンド0)を未見の方はご注意ください。

神林家殺人事件 スクショ 再現ゲーム終了後の現実と事件の真相

神林家殺人事件

エンド0の存在と到達条件

まず思い出したいのは、神林邸で発生した惨劇をたどる本編が、「事件の関係者(であると主張する人物)が制作した再現フリーゲーム」であるということです。

つまり、ゲーム本編は単純な現実ではありません。「真実」が判明し主人公が生還してめでたしめでたしで終わるエンド1は、あくまで制作者が用意したゲーム内のエンディングの1つ(おそらくトゥルーエンド扱い)に過ぎないのです。

それでは、「ゲームの外側」に出るためにどのような行動をとればいいのか。これについては、さり気なくも露骨なヒントが2回ほど提示されます。すなわち、「ゲームを終えたその時に、現実のゲームが幕を開ける」というメッセージです(通常のメッセージとはフォントが異なることに注目)。

上記のメッセージですが、エンド0にたどり着く過程で誰もが一度は目にするはずです。というのも、音楽室で待っていた「犯人」こと神林佐紀が最後につぶやく言葉だからです。また、全員が見るわけではないと思いますが、エンド25でもこのメッセージが提示されます。「エンド25 犯人は作者」への到達条件は、犯人当てパートで「鳥籠」と入力することです。

「ゲームを終えたその時に、現実のゲームが幕を開ける」……このメッセージが示唆するところはごくシンプルです。あくまでPCフリーゲームである本作を終えたとき、現実の世界にアクセスできる。つまり、「事件の真相」として提示されるエンド1を見た後に、タイトル画面から「ゲームを終える」を選ぶと、再現ゲームを脱出してその外側の現実(作中世界)のストーリーを見ることができます。

制作者の意図が介在する再現ゲーム、その巧妙さ

エンド0では、再現ゲームをプレイしていた高尾田悠と江崎玲於奈のやりとりが描かれ、再現ゲームの制作者と「クリエイター」こと真犯人の正体が明かされます。エンド0の詳しい内容はひとまず脇に置き、まずはエンド0の存在(つまり本編が制作者によって巧妙に細部をいじられた不完全な再現ゲームであること)を踏まえ、本編の感想を書き直したいと思います。

本作の何より見事なところは、「生存者が制作した実際の事件の再現ゲームである」という虚実織り交ぜた前提を存分に活用している点だと思います。単純な再現ゲームとして見ると、エンド1を経てもいくつかの違和感と疑問点が残る。はっきりとは表現し難いものの据わりの悪い部分も残る。それらモヤモヤする部分を起点として、そもそも再現ゲームが創られた理由と制作者の正体へとつなげていく流れが秀逸でした。

以下では、「本編=再現ゲーム」という前提を活かした演出や展開について、いくつか凄いなーと感じた例を挙げていきます。

まず、最初の前書きとフリゲ形式によって、フリゲ制作を趣味とする鳥山恵司がこのゲームの作者こと「鳥籠」であるかのようにミスリードする巧妙さが印象的でした。

実際にプレイしたとき、私は「名字の鳥山をもじって鳥籠を名乗っているのかな」と想像し、鳥山が生き残ってこのゲームを作るのだろうとなんとなく予想しつつプレイしていました。鳥山はコメントが若干俯瞰的で、物語の外側にいる第3者っぽいツッコミも口にしていたので(あと、『左眼』プレイ時に制作者様の分身っぽいキャラなのかなーと思ったせいでもある)。

だから鳥山が最後の最後に退場したときは、「じゃあ誰がのちのちこのゲームを作るの?」と真っ先に思いました。かつ、そう思ったからこそ、主人公の口から放たれた「鳥山さんが死ぬはずはなかったのに」というセリフがあまりにもメタく見えてぞわぞわしました。これだけ無茶苦茶な惨劇の真っただ中にいる主人公が、「鳥山さんが死ぬはずはなかった」なんて即座に言えるのはなぜ? と。

落ち着いて考えてみれば、主人公の発言は「自分も先輩もクリエイターではない。よって三人だけになった以上、鳥山さんが襲われることはない」という認識に基づくものかもしれません。ただ初見では、「これ一般プレイヤーの混乱を見透かした制作者が主人公の口をジャックして言わせてるんじゃないの?」ととっさに思いました。

「鳥山は退場しないはず」という根拠に乏しい確信を抱けるのは、事件の先行きを知らない主人公ではなく、再現フリゲの前書きを読んで「制作者・鳥籠=生存者」というメタ知識を得ているプレイヤーの方だと思うんですよね。だから、主人公の発言をメタく感じたし、「どうせ鳥山が制作者の鳥籠だと思ってたんだろ? ご覧の通りたった今退場しちゃったよーん」と暗に言われているような感覚に陥りました。

この悪意をちょっぴり感じるミスリードと、頭の中を覗かれているようでぞっとするメタ発言は、本編が制作者の意図を張り巡らせたゲームであることをさりげなく主張していたようにも思います。脅かし要素こそないものの、作中2番目のホラーポイントという印象です(一番怖いのはエンド19のアレ)。

ミスリードと絡んで、主人公と先輩が神林邸に入るときの演出にもかなり翻弄されたなーと思いました。具体的には、「ねえねえ、また増えたみたい」「全部で何人になるのかしら?」「うふふふ…………楽しみね」という、黒地に赤字と青字で不気味に提示されるメッセージのことです。

後で探索中に話しかけるとわかりますが、上の会話は主人公たちの訪れを3階の窓から見ていた佐紀&佑紀によるものです。山奥に住む高校生の2人は人との出会いや娯楽に飢えていて、見知らぬ客人が訪れるオフ会を楽しみにしていました。だから上記の会話も「お客さんいっぱい来てほしいな~楽しみ!」という気持ちを表したものでしかなく、そこには含みも悪意もないわけです。

それなのに、上記の会話を見た私は身構えて双子のことを若干怪しみました。なぜかと問われると、会話を提示する際の演出があからさまに不穏だったからです。

エンド0を見た上で本編を振り返ったとき、私が最も制作者の悪意を感じたのは上記の不穏な演出でした。前提として、再現ゲームは「神林家で起こった惨劇の犯人は神林佐紀である」ことを強調するために作られています。だから制作者は、なんでもない平和な双子の会話を悪意たっぷりに演出して、プレイヤーの疑惑を双子に向けようとしたのでしょう。

次に、主人公を刺すときに犯人が決まって"Game Over"とつぶやいていたことも、エンド0を見ると露骨でもあり納得でもあるなーと思いました。初見では、「あーこの選択だとがめおべらか~やり直そう」くらいにしか思わなかったんですよね。ただ、「よくよく考えると犯人が刺しながらゲームオーバーって言うのメタくない? 最後にゲームオーバー表示がドーンと出るならわかるけど」とだんだんと思うようになりました。

この"Game Over"発言、第一にプレイヤーへのメタいジョークであるとは思います。ただ、エンド0を見ると、虚しい人の生をゲームのように捉えていた制作者の思想を明確に反映したメッセージでもあったんだなーと感じました。この意味の二重性も、再現ゲームという前提あってこそのものだと思います。

また、これは周回して気づいたことですが、エンド0を見た後に本編をスタートすると、選択場面で4つ目の選択肢が提示されるようになります。最初は周回プレイヤーへのご褒美かなと思ったものの、いくつかの4つ目の選択肢に出くわすにつれてじわじわと恐怖を覚えるようになりました。というのも、2周目以降増えた選択肢の多くは、どう見ても制作者である鳥籠の思想を如実に反映する内容だったからです。

「1周目はこんな選択肢なかったよね?」という戸惑いと、選択場面を通じて語りかけられているかのような居心地の悪さ。エンド0での「現実を侵食するゲームを作りたかった」という告白を思い出し、制作者の存在がゲーム内部からじわりじわりとにじみ出てきているかのような変化に言いようのない不安を覚えました。こういう気づかれにくいところに細やかな仕掛けのあるゲームってすごく好きです。

あと、これは想像の域を出ないものの、エンドリストの仕様も制作者の意図を感じ取れるものになっているような気がします。たぶんエンド1~エンド25まではあくまでゲーム内に用意された結末だと思うんですよね。そしてエンド1については、「これこそが真相ですよ」と言わんばかりに派手な黄色で表記されています。再現ゲームは神林佐紀に罪を着せることを1つの目的として作られているため、当然と言えば当然です。その上で、エンド1の主人公は「なんだかまだ終わっていないような気がするんですけど、気のせいですかね」とエンド0の存在を匂わせる発言をしています(エンド0未開放の場合の会話かも)。

一方で、エンド26とエンド27は再現ゲームの中に存在するエンディングではないのだろうと思います。というのも、どちらのエンディングも事件当時の神林家ではない時間・場所で展開され、そこに制作者が知り得ない第三者が介在するからです。

そもそも制作者が事件当時の主人公たちの行動を克明に把握できたのは、館中に盗聴器などを仕掛けていたからだと明かされています。したがって、神林邸に向かう前の主人公と先輩(と冥王玲於奈)のやりとり、あるいは事件後の主人公と先輩(と和山葵)のやりとりは、制作者の関知するところではないはずです。

ゆえに、エンド26とエンド27はゲーム内ストーリーではなく、事件前と事件後に実際に起こった出来事なんだろうなーと個人的には思います。エンドリストを見渡すと、エンド26とエンド27のみ暗いグレーで表記されているんですよね。この違いは、主人公たちがプレイした再現ゲームに、その2つのエンドが実装されていないことを暗示するものではないかと感じました(同じく未実装だろうエンド0は白文字表記なので、色分けは根拠として若干頼りないですが)。

あとエンド26とエンド27に関しては、状況説明の短文が「ゲームを終えたその時に~」と同じフォントで提示されます。これも両エンドが現実の出来事であることの示唆ではないかとちょっと思いました(まあこれは単に状況説明時のフォントとして揃えているだけかもしれません。そもそもエンドタイトルやプレイヤーへの挑戦も同じフォントだし)。

主人公・高尾田悠と先輩・江崎玲於奈の秘密について

続いて、主人公である高尾田悠と先輩こと江崎玲於奈に関するミスリード(というか叙述トリック)について。結論から書くと、主人公の悠は一人称:僕の女性であり、先輩の玲於奈は女装をしている男性だった……ということがエンド0ではっきりと明かされます。

実は主人公女性説については、以前プレイしたある推理ゲーム(一応感想記事のリンクを貼っておきますが、ネタバレなのでご注意ください)の影響もあって念頭にはありました。可能性として1つあるだろうな、と。

また、先輩男性説についても、初見で「美人だけどなんかちょっといかついな」と感じた(『左眼』のサクラとシルエットが同じなのに不思議な話ですが)ので、女装した男性だったと明かされたときにもそこまでの驚きはありませんでした。意味深にキャラ紹介に書かれている「特殊な趣味」の概要が本編で明かされなかったのは、ある意味見た目に明らかだったからかと納得できました。

その上で率直に書くと、最初の時点では「この叙述トリック要る?」と疑問を抱きました。特に主人公については、「立ち絵が提示されないのを利用して『一人称は僕だけど見た目は完全に女性のキャラでした』って引っかけをするのはちょっとずるくない? せめて『一人称:私』くらいにとどめるべきじゃない? 中学生ならまだしも大学生で僕っ子はけっこうレアじゃない?」と思いました。「これ単にプレイヤーをびっくりさせる以外の理由はあるの?」と。

しかし、悠の性別がひそかに暗示されていたことや、玲於奈先輩が制作者の正体にたどり着いた理由を一通り聞いて、そういった懐疑の念はだいたい解決されました。

男女に対する武丸の呼び方の違いから、悠は実際的にも見た目にも女性だと分かる人物だと示唆されていた。一方の玲於奈は、複数人から女性として扱われていた。つまり事件当時の悠と玲於奈は女性の2人連れとして周囲に認識されていたはずだが、玲於奈が女装した男性であることに唯一気づいた人物がいる。その人物こそ、わざわざ悠と玲於奈に関して叙述トリックを仕掛けた再現ゲーム制作者の正体である……という理屈ですね。その人物については、双子の入れ替わりを即座に見抜くほどの洞察力を持っているとも言われていました。

推理面での必要性は上の通りですが、ストーリー的にも2人絡みの叙述トリックは必要だったんだろうなーと後で思いました。より正確に言えば、真犯人と対比させる形で、他者に理解されがたい孤独に悩む玲於奈先輩というキャラを置く必要があったんじゃないかと思います。これに関しては、エンド0の感想記事の中で詳しく書こうと思います。

ちなみに悠と玲於奈の秘密は、エンド1後の後日談でも示唆されています。具体的には、ラミエル公園で先輩と落ち合う前に、喫茶店「ダ・カーポ」で和山葵と話すイベントですね(余談ですが、このイベントの発生条件がよくわかりません。好感度3探偵度6ギャグ度0の初回では発生しませんでした。エンド27が見られるパラメータでのみ発生するのか、それともエンド0後にエンド1をもう一度見ると発生するのか、あるいに2周目に発生するのか。エンド27前提だとラミエル公園での会話内容も変化するので、たぶんエンド27の到達条件を満たすと発生するイベントなのかなーとは思います)。

ここで主人公は、和山に自分の名前の読み方を教えます。「ユウ」ではなく「ハルカ」だ、と。また、和山は玲於奈を「興味深い人物」と形容します。これらはおそらく高尾田悠が実は女性であり、江崎玲於奈がトランスヴェスタイトであることのヒントなのでしょう。

また、2周目解禁の選択肢も含まれますが、本編中には選択次第で悠と玲於奈の性別を示唆する会話が発生する場面がありました。たとえば、序盤の探索中に双子に話しかけるシーンです。「玲於奈先輩は綺麗だ」を選ぶと、悠は「先輩は変態で他の人には気づかれていないけど自慢できない趣味を持っている」と話します。かなりのヒント会話だと思います(悠のこの言い方、昨今だとよろしくないものかもしれませんが)。

あと、同じ場面で「君たち可愛いね。ぐふふ」を選ぶと、佑紀が「悠さんの方が可愛いですよ」と発言します。これも悠の性別を示唆するヒントだろうなーと感じました。

というのも、もし女子高校生が初めて会った年上の男性に「可愛いね」と褒められたとして、「あなたの方が可愛いですよ」と返すでしょうか。もし相手が男性なら、たとえば「あなただってカッコイイですよ」と返答しそうなものではないでしょうか。そして「あなたの方が可愛いですよ」と返すのは、一般的には相手が(年の近い)女性であるときではないでしょうか。この「悠さんの方が可愛い」発言は、性別特定に繋がる一番わかりやすいヒントかもしれません。

それと、美樹本洋子を連れての行動中に厨房へ赴くと、玲於奈先輩がお腹を空かせるイベントが発生します。ここで2周目解禁の選択肢を選ぶと、2人の性別を推察する上で重要な会話が発生します。具体的には、「牛乳飲めば胸が大きくなるよ」とからかう洋子に「そんなわけないじゃない」と赤面してつぶやく先輩と、恋人同士かと問われて「誤解に誤解を重ねて言ってることはたぶん正しい」と答える悠です。

特に後者に関しては、けっこう複層的な意味を秘めたやりとりだなーと思いました。というのも先述した通り、玲於奈が女装した男性であることに気づいた人物は真犯人だけでした。つまり洋子の眼には悠と玲於奈はどちらも女性に見えていたはずです。しかし彼女はごくフランクに、「2人は恋人同士なの?」と尋ねています。

エンド27で明かされますが、洋子はかつて同性の同級生と恋人同然の関係にあったそうです。そういう背景があったからこそ、女性の2人連れに見える悠と玲於奈に対して「恋人同士なのか」とすんなり尋ねていたんだなーと後で気づいてスッキリしました。逆に言えば、厨房でのやりとりと洋子の過去について情報を得れば、エンド0を見なくても叙述トリックに気づけるかもしれません。

以上のように悠と玲於奈関連の叙述トリックは、数ある推理要素との掛け合わせでごちゃごちゃしてしまいそうなところ、きっちりと細部の辻褄を合わせている点が見事だと思います。

真犯人判明により生じる疑問

もっとも、真犯人の正体と所業が判明したことで、(主に犯行に関して)新たな疑問が湧いてきたのも事実です。以下、ほぼ犯人の正体を書いてしまっているのでネタバレにご注意ください。

抱いた疑問というのは、「真犯人には本当にこの犯行が可能だったのか?」です。率直に言うと、「いやーちょっと無理があるやろ……」と感じました。真犯人が緻密な犯罪計画を練り上げた点について異論はありません。ただ、終盤までの大胆な犯行をすべて単独でやりきったと言われると、「さすがに無理じゃないかな」という感想が浮かんできます。

最大のネックは、どうしようもない身体的なハンデです。7歳の女の子の身長は120cm前後、体重は23kg~24kgくらい。そんな犯人が、男性も含めて大人たちをたった数時間で10人以上葬ったというのは、正直なところ現実的ではないような気がします。

何人かは堂々と正面から刺していますが、いったん屈ませてから不意を突いて刺したのでしょうか。返り討ちに遭わなかったことも驚きだし、返り血の処理はどうしたのか、あれだけ次々襲ってよく目撃されなかったな、といった感想も浮かびます(まあ目撃されなかったことに関しては、館中に盗聴器を仕掛けて絶対に見つからないよう気を付けていたんだろうとは思いますが)。

短時間の大量襲撃以上に困難ではないかと思うのは、大量の遺体の処理と運搬です。真犯人はトリックを成立させるために、ほぼすべての遺体に関して首や腕を切り離し、しかも複数の遺体をこまめに移動させています。ただ、骨と肉でできた人間の遺体ってそんなにサクサク切ったりほいほい持ち運んだりできるものではありませんよね。

生肉でも分厚かったら切るのに苦労するのに、骨が通っていて血がぶしゃぶしゃ噴き出すだろう人間の首や腕をそう簡単に切断できるのか? 人間の胴体は相当重いが、どうやって現場を行き来させたのか? 生首にしたって相当重いと思うが、どうやって移動させたのか? 遺体運搬は複数回発生したと思うが、その間一度も目撃されないことが本当に可能だったのか? 衣服着せ替えトリックにしても、意識のない成人女性の体から短時間で服を剥ぎ取れるのか? 遺体に服を着せるのは脱がせる以上に大変だと思うが、そちらも短時間で可能なのか?……といった疑問がいくつも湧いてきます。

さっきも書いた通り、年齢に関係なく真犯人の頭脳がスーパーなのは納得できます。ただ、肉体的にもスーパーでないと、これだけ難易度が高くて制限時間のシビアな犯行をやり通せないだろうと思うんですよね。

真犯人は神林家が生んだ天才ではあるものの、神林の血が輩出するのは学者、政治家など学芸方面に秀でた人間です。天性のアスリートを生み出すわけではありません。家政婦の関屋さんいわく真犯人は部屋に閉じこもってばかりの子供だったらしいし、こんなSASUKEじみた犯行を本当に敢行できたのだろうか……と思わずにはいられませんでした。

この遺体の処理と運搬に関しては、まだ「共犯者がいて最初から手伝っていた」という説明の方が無理がなかったんじゃないかなーと思います。

また、実質的な決定打になったひょうたん池を横断しての武丸襲撃についても、個人的には無理があるんじゃないかなーと感じました。理屈としては分かるんです。ただ、7歳の子が猛吹雪の中凍った湖面の上を5分ほどかけて行き、東屋にいるガタイの良い父親を襲い、その場で首を切り落とし、また湖面の上を戻ってくる……なんてことが本当に可能だったのか。もちろん、真犯人は実際にやってのけたんだろうとは思います。ただ、そこにリアリティがあるかと言われれば、あんまり無いんじゃないかなあと思わざるを得ませんでした。

エンド1~エンド27の攻略と感想

神林家殺人事件 スクショ エンド1~エンド27までの感想 プレイヤーへの挑戦と江崎玲於奈犯人説

神林家殺人事件

この項目では、エンド1~エンド27の感想を書きます。攻略情報が含まれます。注意点として、すべての感想は隠しエンドであるエンド0の存在を前提としています。つまり、エンド0でのみ明かされる情報にも言及しつつ感想を書いているので、エンド0を未見の方はご注意ください。

≪関連記事:『神林家殺人事件』 屍を積み上げた異常者が得る自由と孤独 隠しエンド 感想&考察 ※ネタバレ注意

エンド1 命あること:「プレイヤーへの挑戦」において、「神林佐紀犯人説」を主張すると、事件の「真相」が判明するエンド1に到達できます。一夜にして神林家に集った12人の命を奪った猟奇的な犯人、その正体は神林佐紀であった……という結末です。

佐紀と回答してパスできたときは、興奮半分困惑半分でした。探索時や晩餐会での彼女はごく普通の女子高校生にしか見えなかったからです。キレの良いBGMとともに繰り広げられる主人公の推理にテンションが上がった後でも、どこか納得の行かないような気持ちは消えませんでした。

モヤモヤの理由については、喫茶店イベントで和山の話を聞いてやっと言語化できるようになりました。私が引っかかったのは、佐紀による破壊行為は、「クリエイター」という名乗りと少しも合致していないということでした。

破壊を尽くした先に生まれるものを見たかったのかもしれませんが、実際の顛末を見ると、彼女は神林家を滅亡させた直後に自決を選んでいます。彼女がこなした役回りは、まさに和山の言う通り「デストロイヤー」のそれです。少なくとも「クリエイター」という形容は思い浮かびません。この名乗りと実際にやったことの齟齬は、どうにも据わりが悪く思えるポイントでした。

とはいえ、佐紀が一応の動機として語った話は興味深かったです。本編序盤で和と話したとき、へえ~貧しい生まれながら裕福な家に嫁いで愛情ある結婚生活を送っているんだ~いい話だな~と私はのんきな感想を持ちました。まさかその和と武丸の幸福な婚姻が次世代の佐紀を捕らえる鳥籠を形成したとは思いもよらず、序盤で和によかったねと思ったぶんだけやるせない気持ちになりました。

このエンド1、エンド0を見てからもう一度見返すと、「そういうことか……」と感じるポイントがいくつかありました。たとえば、主人公の「あなたが犯人ですね」と先輩の「本当に犯人なの?」に佐紀がはっきりと返答しない点。主人公の推理を聴き終えた後に「私が犯人よ」と言いはするものの、「あなたが犯人?」という直球の質問の答えをはぐらかしたりスルーしたりするのは、ある意味露骨だなーと思いました。

また、ナイフを持った佐紀の手が震えている点も「そういうことか」案件でした。あれだけ大胆不敵に残忍なことをした犯人にしては違和感のある反応だなーと1周目でも気になったポイントです。エンド0後にこのくだりを見ると、ナイフを突きつけた佐紀の心情を思って胸が痛みました。

エンド2 頭部交換予想:神林佑紀犯人説。推理内容は、双子の姉の佐紀の遺体を利用し自分が亡くなったと見せかけた佑紀が犯人である……というもの。佑紀に関しては、惨劇中に彼女の顔をした生首の耳裏にホクロがあることを確認しています。

つまり佑紀は確実に落命しているため、この推理はハズレ……なのですが、実は「真相」にニアミスなんですよね(だからエンド2という高位?の扱い)。主人公が音楽室から出てきた犯人の姿を見て混乱しているのも、つまりはそういうことなんだろうと思います。

エンド3 首切りロボット:高尾田悠犯人説。とちくるった主人公によるトンデモ主張に笑いました。最後の一言も面白かったです。

エンド4 あなたの無事を願う:江崎玲於奈犯人説。右上の先輩の顔が終始むーっとむくれていて大変可愛らしかったです。このエンドはギャグ路線ですが、遺体の衣服を交換して別人の遺体に見せかけるという正解の発想を話していたりします。

エンド5 悪魔の手術:徳田霧子犯人説。これ、一番ぶっとんだ推理というか妄想だと思います。自分で自分の首を切って縫合し、また切っては縫合し……って真剣に訴えている風の主人公が面白いけど怖い。

ただ、このエンドで気になるのは、「犯人は外科医である霧子さんを序盤で退場させた」と主人公が独白していることです。霧子が狙われた理由は佑紀と和の遺体交換に勘付いたせいらしいので、わりと早くに退場していたことは事実です。ただ、その霧子の遺体が見つかったのはけっこう後の話でした(東屋で武丸の遺体を発見して帰還した後)。

そもそも、事件の前半の退場者は神林家の人間たちであり、愛好会メンバーの遺体が発見され始めたのはだいたい後半以降です。だから、この推理失敗エンドで主人公が霧子の退場時期を断言しているのはちょっとおかしいような気がします。制作者によるメタいヒントなのでしょうか。

エンド6 凶器消失の謎:鳥山恵司犯人説。歯と爪のくだりを読んでコナンの元アイドルグループの事件を思い出しました。自分の首を自分で噛み切った説はさすがに笑いました。

エンド7 生ける生首:草薙望都犯人説。刺されるときにくだらないことを考えているエンドナンバーワン。

エンド8 首提灯:神林太郎犯人説。タイトルは落語の首提灯、胴斬りから。居合の有段者である太郎は自分の首を達人の技量で斬って落命することがなかったのだ……というアホ面白い仮説でした。

エンド9 ドグラ・マグラ:神林武丸犯人説。タイトルは、三代奇書である『ドグラ・マグラ』(夢野久作)から。推理を聞いた玲於奈が口にするチャカポコチャカポコは、同作に出てくるフレーズだそうです。

エンド9は、鳥山に関してわりと重要なことを話しているエンディングだった気がします。彼は本当に「鳥山恵司」だったのか、それは誰にもわからないという。上でも書きましたが、『左眼』での彼は「鳥山恵介」なので、エンド9を見るとあえて本名を名乗るのを避けていたのかなーとも思えてしまいます。

あとこのエンド9、2つの意味でゾクッとしました。1つには、演出の巧妙さ。先輩の笑みとともにいきなり画面が遷移して、主人公が九州帝国大学医学部精神病科の独房にいるオチが絶妙に怖かったです。BGMの使い方が巧すぎる。

2つ目は、「そもそもこれは本当に現実の『神林家殺人事件』なのでしょうか」という主人公のセリフです。なんともメタい(エンド1で主人公がその呼称を用いるのも、正直あざといなーと感じました)。この主人公の疑問は正しいんですよね。本編はけして現実ではなく、犯人によって巧妙に細部に手を加えられねじ曲げられたゲームなので。それを踏まえて制作者がお遊びで主人公に言わせている感があり、不気味に思いました。

エンド10 死に化粧:神林和犯人説。和の体型や肌のきれいさに注目して遺体の入れ替えを疑う発想はドンピシャリでした。ある意味で、和(の遺体)はこの事件のキーパーソンだったわけなので。

エンド11 魚は深く水中に潜む:神林指子犯人説。まず、このエンドタイトルの時点でやばたにえんな匂いがします。作中で指子は、「鳥は高く天井に蔵れ、魚は深く水中に潜む。」とそらんじました。その少し後、指子の服を着た遺体が見つかったときに、指子の叔母である清は「鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。声ある者は幸いなり。」と口ずさんでいます。

2人が引用したのは、小説家・斎藤緑雨の警句の一部です。引用されなかった前後も踏まえてすごくざっくり書くと、どちらも「鳴き声を上げる鳥は生かされその死を悲しまれる。一方で、声を出せない魚はただ喰われその死を悲しまれることもない。両者の扱いの違いは、ただ人間の都合によるもの(不平等だね)」……みたいなことを表現した警句です。

最初は指子と清の唐突な発言に「?」状態でしたが、エンド0を見た後だと、彼女らの言う「声なき魚」はおそらく指子のクラスメイトを指すんだろうなーと察するものがありました。つまり、清はきっと真相に気づいていたんだろうな、と。

指子の服を着た遺体の傍に立つ清を見つけたとき、主人公は「姪の末路を悼んでいるようだ」的な推測をしました。ただおそらく、あのときの清は小さな遺体を前にして、深い悲しみと懊悩を抱いていたんじゃないかなと想像してしまいます。そしてそう思えば思うほど、そんな清の命をも奪った上でこのエンドを作り、したり顔で「魚は深く水中に潜む」と冠する制作者がおぞましく思えてなりませんでした。

エンドの内容自体もけっこうゾクッとするものでした。主人公による指摘(クラスメイトの女の子を地下に幽閉し、その命を奪って自分の身代わりにした)が完璧に当たっていたからです。もちろん本編では舞台が静岡県~神奈川県に設定されているので、武丸襲撃の謎を解くことはできず、主人公の推理は暗礁に乗り上げます。我が身を危うくする推理をあえてゲームに組み込み、それによって自分には犯行は無理であるとさり気なく主張する、そんな大胆かつ冷静な制作者が空恐ろしかったです。

エンド12 バナッハ=タルスキの定理:神林依犯人説。難しいことを考えすぎてキャパオーバーで壊れるエンドでした。メタくて笑いました。

エンド13 斧琴菊:神林清犯人説。エンドタイトルは「よきこときく」、『犬神家の一族』で用いられた見立てを指しているのでしょうか。推理内容自体も犬神家のストーリーをオマージュしたもので、清だと思っていた狐面の人物は実は志乃(太郎の亡き妻)で、本物の清が今日帰ってきて……というトンデモ妄想推理でした。

エンド14 人形:関屋恵犯人説。恵は恰幅の良い人物を装い、腹部に首を詰めて運んだのだ、というトンデモ推理。「これまだキャラの顔が細長かった頃の名探偵コナンで見たヤツ~」とひとり盛り上がりました(玲於奈も言及した通り)。

エンド15 血の夜:美樹本洋子犯人説。亡くなったばかりにしては遺体が冷たすぎる、雪か氷をずっと触っていたかのように冷たい、という主人公のコメントは地味に真相に繋がるヒントかなと思いました。このエンドだとそこからボールを脇にはさんで脈を止めていた(たぶんコナンネタ)という推理に発展するものの、上記の表現はもしかすると、舞台が実は新潟県であり当日は猛吹雪だったことを匂わせているのかなーとふと思いました。

エンド16 土砂崩れ:鳥山退場直後、先輩を罵って下山するとこのエンドです。泣いている先輩が可哀想で心が痛みました(リアル悠はきっとこんな真似はしないので余計に)。

エンド17 不浄なる密殺:終盤近く、隠し扉について先輩と考えるパートで、何度も間違うとこのエンドに到達します。お手洗いに行ったまま先輩が戻らず、主人公も刺されてがめおべら。主人公が心配した通り、先輩が個室で狙われたとしたらホラーでしかなくて気の毒です。

エンド18 脱衣所の惨事:夜中に先輩とお風呂へ向かった主人公。先輩に続いてお風呂に入ってしまうと、犯人に刺されてゲームオーバーです。余談ですが、一緒にお風呂に入りたいな~と言ったときの先輩の反応が可愛かったです。

エンド19 明らかに寝過ぎ:夜中に先輩がやってきたとき、無視して寝てしまおうを選択するとこのエンドです。明らかに悲鳴が聞こえるも寝続ける主人公は人形を夢に見て飛び起きます。外に出ると転がっている先輩の遺体。謎のメモを見つけた主人公の背後にはいつの間にか「犯人」がいて、主人公が最後の生存者であることを告げてゲームオーバーです。

突然の人形ドアップにはビビり倒しました。画像といいSEといい間のとり方といい、ちょっと警戒しつつも油断しているプレイヤーの目を覚ましにきた感があり、なんで推理モノやのにガチホラー演出やねん……こんな驚くしかないやん……と心臓バクバク状態で思いました。謎のメモについては人選と数字の意味が気になります。

エンド20 闇に沈む:おそらく最短で到達可能なバッドエンドです。私が一番最初に見たエンドがこのエンド20でした。どこで分岐するかと言うと、太郎の遺体が発見された後、突然客人(美樹本)がやってくる場面です。ここで玄関に向かう武丸ではなく、北西棟にいる和らのもとに向かう関屋さんについていくと、エンド20に到達します。

このエンド20では、扉が開けっ放しになっている真っ暗な双子の部屋に入った主人公が刺されてしまいます。正直なところ、ここでのゲームオーバーは完全なる不意打ちでした。どういうこと? 関屋さんもあの一瞬で死んだの? それとも関屋さんが犯人?……と色々と疑問が湧いてきてドキドキしたことを覚えています。

後で見直すと、このエンド20はエンド1の露骨なヒントだったのかなーと感じました。犯行現場が双子の部屋だし。あとこのエンドは、さり気なく犯人候補の範囲を絞り込んでいます。もっと正確に言うと、真犯人のみを犯人候補から外すエンド内容になっています。

というのも、悠は部屋に入ったところで胸を刺され、耳元でゲームオーバーと囁かれているからです。高校生や大人ならいざ知らず、体格で劣る当時の真犯人にそんな芸当はできないと思います。

時系列を考えるに、この時点で姿の見当たらなかった和はすでに亡くなっていたんじゃないかなーと思います。「犯人」はその和の遺体を使って工作中だったか、あるいは片割れの佑紀の命を奪ったところだったのか(エンド20時点では部屋の前に血痕がないから後者でしょうか。まああの血痕は遺体を発見させるためのアピールな気もしますが)。ともかく、「犯人」がひそむ部屋にうっかり踏み込んだから、関屋さんと主人公は刺されてしまったのでしょう。

エンド21 炎からの脱出:犯人に会いに行かず、さっさと脱出するとこのエンドです。シチュ自体はエンド24と似ているものの、このエンドの主人公は「犯人」の正体に見当がついていた様子。ただ、先輩にそれを話すことはなく、悪夢の夜は明けていきます。

エンド22 翼なき闇:神林志乃犯人説。志乃は写真でのみその姿を確認できる、太郎のすでに他界した妻です。彼女は実は生きていて今まで地下に幽閉されていたのだ、と主人公は主張するものの、先輩に一蹴されて終了します。実は2番目に見たエンドがこれでした。

エンド23 The Imperfect Insider:古坂渋弥犯人説。草薙望都の先輩(恋人未満)だった建築家で、神林邸の改築に携わった人物です。神林邸は彼がこしらえた危険なからくりを搭載した館なのだ、と主張する主人公(もちろんそんなはずはない)。真相に近づく閃きが秘められているわけでもなく、一番的外れな推理内容だったかもしれません。

エンド24 見当違い:見当違いの名前や誤字、余白などがあるとこのエンドです。先輩に引きずられるようにして脱出する主人公。スッキリしない顔をする先輩に、もう終わったんだからいいじゃないですか、と返すのでした。

エンド25 犯人は作者:鳥籠犯人説。これ、初見では右上のかんたん制作者イラストを見て笑ったりしていました。ただ、2周目だとエンド11と同じく恐ろしくてならなかったです。「作者が犯人とか、そんな意味のないゲームを作って何になるのよ!?」という先輩のツッコミに肝が冷えました。

ちなみにエンド25では、エンドタイトル表示後、「ゲームを終えたその時に、現実のゲームが幕を開ける」という例のヒントが提示されます。「トゥルーエンド」扱いのエンド1で得られるヒントがなぜこのエンド25で提示されるのかと言えば、主人公の推理が紛うことなき「正解」だからなのでしょう。

エンド26 事件の序章:神林家を訪れる以前の悠と玲於奈の一幕が見られるエンドです。先にも述べた通り、エンド26とエンド27は本来の再現ゲームには実装されていないリアルイベントなんだろうと思います。不意を突かれたのは、占い師の冥王玲於奈が登場したこと(『左眼』のTIPを見返して、冥王玲於奈が本名であることを知って更に驚愕)。悠が近々大きな事件に巻き込まれることを予言するなど、相変わらずの冴えた直感っぷりでした。

エンド27(隠しシナリオ)の攻略情報と感想

エンド27も隠しエンドと言っていいものかもしれません。実は主人公には、作中の選択によって変動するパラメータが設定されています。パラメータは、「好感度」・「探偵度」・「ギャグ度」の3種類(プレイヤーへの挑戦で「パラメータ」と打つと、現在の数値を確認できます)。

エンド27は、パラメータを一定値以上にした上でエンド1を見ると解放されるエンディング(後日談シナリオ)です。具体的な条件は、「好感度6以上&ギャグ度3以上」

1周目では好感度3で終わったので、エンド27を見るべく2周目に突入しました。2周目では、玲於奈先輩から好感触な反応を引き出す&面白いことを言う&サブイベを積極的に見る……を意識してプレイしたところ、最終的に好感度6&探偵度4&ギャグ度6でゲームを終えられました。

上記のパラメータでエンド1を見た場合の、1周目との違いは2つ。1つ目は、公園で玲於奈先輩と落ち合う前に、喫茶店「ダ・カーポ」で記者の和山葵と話すイベントが発生したこと。このイベントでは、クリエイターの正体&悠と玲於奈の秘密に関する踏み込んだヒントが得られます。

2つ目の違いは、公園で玲於奈先輩と落ち合ったときの会話。ハッキリしたことを言えずに申し訳ないのですが、1周目と先輩の言葉が異なっている(より信頼と愛情のこもった言葉が聞ける)ような気がしました。これが好感度の高低によるものなのか、それとも作中での選択(たとえば先輩の部屋での選択や、東屋での選択)を反映した言葉なのかはよくわかりません。

上記の喫茶店イベントと公園イベントを経た後に、隠しシナリオを見るか否かのメッセージが発生。見るを選ぶと、事件から数か月後のお墓参りシナリオを見ることができます。

このシナリオ最大の見どころと言えばやはり、引き続き登場した和山葵の意外な過去です。『左眼』での胡散臭い言動を見ているぶん、こんなシリアスな役どころのキャラだったのかと思わぬ伏兵に遭った気分でした。

そして、なんといっても玲於奈先輩から悠に向けた感謝の言葉が沁みました。先輩は本編で「悠がいなくなったら耐えられない」と吐露し、「ありがとう」と何度か口にしていました。長らく深い孤独の中にいた玲於奈先輩は、「どんな人であっても先輩だから好き」と言ってのける悠に出会って救われたわけです。

詳しいことはエンド0の感想記事で書く予定ですが、玲於奈先輩は真犯人を理解する上で重要なキャラだと個人的に思っています。

先輩は、いくらか不自由な思いをしつつも自分のある場所に倦むことなく、愛する人に孤独を癒やしてもらいながら生きていこうとする人です。その点において、血まみれの自由を得るとともに大いなる孤独に自ら踏み入った真犯人とは対照的であり、人間的に好感の持てるキャラでもありました。

最終的な感想としては、ポニテヒロインは最高、これに尽きます。いいですよね、ポニーテールなヒロイン。Kawaii。『左眼ジャック事件』のサクラもポニテだったし、もしかして制作者様はポニテ女子好きなのかなー良いご趣味されてるなーと思ってしまいました。

*****

『神林家』、つい色々な部分を深掘りして考えてしまうくらいに面白いゲームでした。隠しエンドの感想記事は近々アップします。更新したらまた追記します。→ 更新しました!

※隠しエンド感想記事:『神林家殺人事件』 屍を積み上げた異常者が得る自由と孤独 隠しエンド 感想&考察 ※ネタバレ注意

「クローズド・サークル」or「サイコロジカルホラー」or「意外性のある犯人」要素を含む作品について、いくつか感想を書いています。

『ある夏の日、山荘にて……』 サウンドノベル形式の推理ゲーム 感想 攻略 ※ネタバレ注意
『ドキドキ文芸部!』 ギャルゲ×サイコロジカルホラー 感想 レビュー 【Doki Doki Literature Club!/DDLC】
密室と化した宇宙船内部で人造人間の少年少女が何者かに襲われるSFサスペンスADV 感想 ※ネタバレ注意

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2021/05/06 (Thu) 12:14
かーめるん

かーめるん

To ゆめなまこさん

はじめまして、コメントありがとうございます! 記事を読んでいただけてとても嬉しいです。

あー『かまいたちの夜』ですか~! 不勉強ですがプレイしたことがないもので、まったく思い当たりませんでした……たしかに「フリーカメラマン」という共通項から別作品のキャラ2人をパロディする制作者様のセンス、痺れるものがありますね。
記事の該当部分に追記させていただきます。貴重な情報をありがとうございました!
(※すみません、頂いたコメントをきちんと汲みとれていなかったので、最初の返信を削除して訂正させていただきました!)

2021/05/07 (Fri) 00:46
かーめるん

かーめるん

Re: 気になったので一言

To とおりすがりさん

※ネタバレ部分を伏せていただきありがとうございます。ただ、コメント欄の背景色がグレーなので、指定のお色だと普通に見えてしまうことに承認後気づきました(本来なら非承認の状態でご返信すべきでした、申し訳ございません)。
ご配慮いただいたのに大変申し訳ないですが、頂いたコメントを削除させていただいた上で、ネタバレにならない箇所のみを引用させていただきます。何卒ご容赦ください。

> 真犯人がゲーム中の犯人と共犯だったけど先輩達が気付いて居ないだけなんじゃないの?

エンド0で真犯人は「作中犯人に手を汚させる気はなかった」、「ゲーム後半以降は~で待機させた」と語っていますよね。「全てのターゲットは自分の手で始末したかった」とも。
つまり、とおりすがりさんの仰る「共犯だったけど先輩達が気付いて居ない」とは、
「『最初から作中犯人と協力して計画を実行した』あるいは『途中で作中犯人を計画に引き込みガッツリ手伝わせた』けれども、真犯人は玲於奈たちにその真相を語らず、『単独犯だった』と偽った」ということでしょうか。

作中犯人と真犯人の共犯説は、まあ可能性として一度考えますよね。
少なくとも、「(計画の締め以外は)真犯人が単独で実行した」という説明よりは、共犯説の方がよほど自然だと私も思います。そこは記事の中でも触れている通りです(※一応ここで述べておくと、記事内の「共犯者がいて最初から~」における「共犯者」は、もちろん作中犯人を想定しています)。

ただ、私個人は真エンドで真犯人が言ったこと(=実質単独犯)をそのまま真実だと受け取っています。
理由は簡単で、私がああいう思想信条を持った黒幕キャラクターとしての真犯人を信頼しているからです。

まず、数年越しの追跡者である玲於奈たちに対し、真犯人が虚勢を張って嘘を吐くとは思えません。
共犯説をとるなら、真犯人は玲於奈たちに嘘偽りを語ったことになりますよね。
しかし、玲於奈と主人公は何の利益もないのに熱心に調査を続け、巻き込まれただけの事件のことを忘れずに、ついには真犯人にたどりついた人たちです。あくまで主観ですが、真犯人は自分の期待に応えた玲於奈らにいくらか感銘を受けているようにも見えました。
それなのに、「実際は共犯者と一緒に犯行に及んだけど単独犯を気取りたいから言わんとこ」なんて不誠実な態度をとるものでしょうか。
私はそうは思いません。第一に「ゲーム」の制作者として、真犯人はプライドを以て誠実に、嘘偽りのない真実の告白というクリアボーナスを与えるはずだと思います。少なくとも私は、真犯人はそういうキャラクターであるはずだと信じています。
もう今後一切2人に会うつもりはなく、またあの対面をもって神林家の事件(「ゲーム」)が本当に終わるからこそ、玲於奈と主人公(「プレイヤー」)に向けて語られた言葉に積極的な嘘偽りはないはずだ、と。

次に、実際は共犯だったのに単独犯だったと偽るのってフツーにダサくない?と思っちゃうのも共犯説を否定したい理由の1つです。
「実際は作中犯人に手伝ってもらっていたけど単独犯を気取りたいから言わんとこ」って、正味の話カッコ悪いと思うんですよね。

私は確かに記事の中で、「現実的に考えると無理がある」とツッコみました。しかし、真犯人(当時)は存在証明のために全身全霊をかけて計画に取り組んだわけで、たとえいかに無理があろうとも、ゲーム内では実際に単独でほぼやりきっちゃったんだろうなと思っています(記事にも書いた通り)。
最初はすべて1人でやるつもりだったと語るのならば、それはきっと真実なんだろう……と信じた方が楽しい“スゴ味”のあるキャラクターなので。
虚無への挑戦と題して1人きりで行うべき計画を練り上げ実行したプライドの高い真犯人が、震える手で武器を持っていた作中犯人に実際の犯行を手伝わせるイメージも湧きません。

最後に、「そもそも」の話になりますが、仮に真犯人と作中犯人が共犯関係にあったとしたら、真犯人(と制作者様)はフツーにその旨を説明するんじゃないでしょうか。
つまり、「真犯人は共犯者と一緒に犯行に及んだことを隠した(言わなかった)」ことにする意味は特にないと思うんですよね。ゲーム制作者としての誠実さ云々以前の話として。

というのも、仮に共犯関係があって「共犯でした」と真犯人に語らせたとしても、「真犯人SUGEEE」はまったく揺らがないからです。
「作中犯人に割り振った最後以外はすべての犯行を単独でやりきった」、それは確かにスゴイ話です。
ただ、それって結局は語り方の問題ですよね。
たとえば、「事件以前(つまり平穏な日常時)に作中犯人を支配下に置き、計画においても意のままに動かした」(最初から共犯説)でも超スゴイし、「事件の最中に作中犯人を計画に引き入れ、命令に従わせて手を汚させた」(途中から手伝わせた説)でも十分スゴイ。どの説をとっても工夫すれば「真犯人スゲー」が導かれます。
それなのに、「実際は共犯なんだけどカッコつかないから単独犯って思わせとこ」という意図で「共犯関係を隠した」となると、いやそれはめっちゃカッコ悪くね……?という感想になってしまいます。少なくとも私は。

長々と語ってしまって申し訳ありません! まとめると、「共犯説は可能性としてはあるかもしれないけど私は真犯人に夢を見ているので実質単独犯説を激推しします!」という話です。
もっとも、実際の描写がなく真犯人の語りしか信じるものがない以上、個々のプレイヤーが自由に解釈していい部分なのかもですね~:-)
記事を読んでくださってありがとうございました!

2022/05/21 (Sat) 19:09
かーめるん
Admin: かーめるん
フリーゲーム、映画、本を読むことなどが好きです。コンソールゲームもプレイしています。ジョジョと逆転裁判は昔からハマっているシリーズです。どこかに出かけるのも好きです。草木や川や古い建築物を見ると癒されます。

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