『MinuteGlass(ミニットグラス)』 孤立した宇宙船からの生還を目指す探索ADV 感想&レビュー ※ネタバレ注意
酸素供給が断たれた宇宙船内で生存の可能性を探るSF探索アドベンチャーゲーム、『MinuteGlass(ミニットグラス)』の感想&レビュー記事です。ネタバレが含まれます。制作者はゆきみや様。作品のダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → MinuteGlass
MinuteGlass
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『MinuteGlass(ミニットグラス)』は、宇宙船で旅行に出かけた女の子が絶体絶命の状況に陥るところからスタートするSF探索ADVです。若干サスペンスの趣きあり。エンディングはバドエンやハピエン含め複数存在するものの、マルチエンドというわけではなく、ストーリーの実質的な終着点は1つであるという印象です(後述)。
ちなみにタイトルの“Minute glass”とは、「1分間(あるいは数分間)を測る砂時計」のこと。1分後に酸素供給の断たれる宇宙船に閉じ込められた主人公リリアンの切迫した状況と絡めて、作中では砂時計が象徴的に描かれます。また、「引っくり返せば何度でも1分間をカウントできる」という性質も、リリアンを見舞う不思議な事象を暗示しているのかもしれません(ネタバレになるので後述)。
さて、『MinuteGlass(ミニットグラス)』の感想を一言で表すなら、「意外性十分の洗練された探索ADV」でしょうか。宇宙舞台のSFものって大好き~ドット絵も超かわいい~みたいな感じに、最初はビジュアル面に惹かれてプレイし始めたんですよね。もっと言えば、単純にその見た目から、「ほのぼのした感じのストーリーなのかなー」とも予想していました。
しかしいざ進めてみれば、漂い始めるサスペンスな空気にドキドキし、繰り返した可能性を余さず回収するSF要素に興奮し、その先で明かされる衝撃の真相にゾクッとし……といった具合に、意外な展開に心をガシッと掴まれることがとにかく多かったです。こういうギャップに弱いんですよね、本当に。キュートでポップでキャッチーなビジュアルを良い意味で裏切る、エキサイティングでシリアスでちょっぴりダークなストーリーがなんともツボでした。
それでは以下、『MinuteGlass(ミニットグラス)』のストーリーやエンディングについて、レビュー&感想を書いていきます。「魅力をレビュー」と題した項目では、ネタバレ情報を控えめに書きました(とはいえ、だいたいのストーリーラインや構成上の仕掛け等には触れています)。一方、真相解明ルートの感想にはネタバレ情報がガッツリと含まれます。未見の方は十分にご注意ください。
『MinuteGlass(ミニットグラス)』のあらすじ
『MinuteGlass(ミニットグラス)』のあらすじを書きます。
MinuteGlass
主人公の「リリアン」は、つい最近購入した個人用の宇宙船でひとり旅に出かけた女の子です。故郷の惑星を飛び立ってはや11日。宇宙食にも飽きてきたリリアンは、48時間後に到着する惑星スイートプラネットでどんな美味しいものを食べようかと考えながら過ごしていました。
しかし突然、宇宙船内に警報が鳴り響きます。緊急事態発生、酸素供給装置に問題発生、ただちに脱出してください……。
慌ててトラブルシューティングを行うリリアンですが、エラーコードは不明。ネットを検索するも解決策は見当たらず、頼みの予備の酸素格納庫に残された酸素もたった2%のみ。最寄りの惑星に修理に向かう時間さえありません。
残された時間はわずか1分間。絶望的な状況に直面したリリアンは、かすかな生還の可能性を求めて、諦めることなく“何度でも”宇宙船内を探索します。
はたしてリリアンは、自身を閉じ込める檻と化した宇宙船から脱出できるのか? そして、この思わぬ「事故」に隠された邪悪な企みと驚愕の真相とは? ……といったあたりが『MinuteGlass(ミニットグラス)』の見どころです。
絶体絶命の1分間を繰り返す『MinuteGlass』の魅力をレビュー
この項目では、『MinuteGlass(ミニットグラス)』の魅力をいくつかピックアップしてレビューします。ストレートなネタバレ(例:宇宙船事故の真相への言及)は控えました。ただし、ストーリー構成や砂時計演出の狙い等には触れています。未クリアの方はご注意ください。
最初にざっと書き出してしまうと、生存シミュと見せかけたサスペンス調一本道ストーリーの意外性、繰り返されるバッドエンドがすべて生還エンドの布石となる構成、宇宙船に閉じ込められた主人公の運命を暗示する砂時計演出、真相解明ルートで判明する背筋に寒気の走るような真実……等にうならされました。グラフィックやサウンドも文句なしに素晴らしく、出色の出来ばえだと思います。
魅力①:生存シミュかと思いきやサスペンス調の一本道ADV
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『MinuteGlass』をプレイしていて一番印象に残ったポイントは、「生存シミュレーション風のマルチエンドADVかと思いきや、サスペンス調の一本道ADVである」点でした。
「あと1分で酸素のなくなる宇宙船」というシチュエーションより、最初は宇宙船内部を調べて手がかりを探る脱出シミュレーションゲーム(制限時間あり)なのかなーと思ったんですよね。探索不足や特定の場所を調べることで到達できるバッドエンドがいくつかあって、ミスせずに正しい手がかりを発見すれば生還できるよ~な感じなんだろうな、と。
その場合、スタート地点は常に1通りであり、複数のエンドが並列に存在することになります。つまり、マルチエンディング方式のシミュゲーっぽいADVなのかなーと漠然と考えていました。
しかし終盤までプレイして、その予想は実際とは「ズレ」があったことに気づきました。『MinuteGlass』は確かに手がかりを見つけて生存を目指すゲームであり、エンディングは複数用意されています。しかし、そのよく練られた構成ゆえに生存シミュ感は薄く、また、“どんな形であれ”「生存」という目標を目指す一本道のサスペンスストーリーであった……という感想を最終的には抱きました。
この感想は、特に生還失敗バッドエンドの扱いを見ていて感じたものです。失敗バドエンは6つ存在しますが、それらは「見ても見なくてもOK」な結末(エンドをコンプしたい人だけ回収すればOK的な)ではありません。むしろ、生還ルートに行く以上は必ず見なければならない扱いの結末です。
「××エンド」と呼ばれてこそいるものの、6つのバドエンはいわば生還エンドに向かうための必須イベントのようなもの。必須イベントたるバッドエンドをすべて確認することで、ようやく生還に必要なヒントが揃い、新しい展開が導かれるのです。
つまるところ、本編からは「行き着く先は1つに定まっている」という印象を受けました。「6つのバドエンと1つのハピエン」というより、「6つの最悪の可能性をシミュした上でようやく到達できる生還ルート」みたいな(もっとも、生還ルートで選択肢をミスすると逐一バッドエンドに到達するので、そこはまさにマルチエンディングですが)。
「行き着く先は1つに定まっている」感覚をさらに強調するのが、主人公リリアンがループをおぼろげながら認識している点です。単にシミュゲー的な都合としてスタート地点が定まっているわけではなく、1分後に命を落とす可能性を繰り返していることを主人公はぼんやりとわかっています。だからこそ、6つの最悪の可能性から正解を拾い上げて生還する……という新しい流れが導かれるわけです(「主人公が繰り返しを認識していて意識が連続している」という事実は、ストーリーの核心や最後のどんでん返しとも関わってくる部分)。
個人的に、「なるほどバドエン回収が捗る系のゲームだな」と初見で思ったぶん、6つのバドエンをコンプした後に展開が変化したときにかなりびっくりしたんですよね。「これ実はバドエン全部見るの前提なんだ!?」と。見た目だけで立てていた予想を実に気持ちよく裏切られたというか、「このゲームスゴイな」と超!エキサイティン!!しました。
そういう意味で、「生還失敗としてのバドエンがいくつか用意されている仕様」よりも、「失敗バドエン=生還ルートの布石、バドエンを網羅して初めて生存可能性が拓かれる仕様」の方がより大きなカタルシスを味わえるんだなーと実感しました。もちろん後者は物語を作る上での苦労がより多い仕様だと思いますが、『MinuteGlass』はその苦労を「ストーリーの面白さ」という成果に見事昇華しているゲームだと思います。
魅力②:洗練された演出と構成
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『MinuteGlass』の魅力その2は、「洗練された演出と構成」です。先に構成について触れると、上でも述べた通り、6つのバドエンの内容がすべて生還ルートのヒントと化す点が秀逸だと思います。初見での興奮がハンパなかったです。
また、宇宙船事件の真相が暴かれ、ラッキー&ハッピー要素でしかなかった主人公のループの意味合いがガラリと変化してしまう真相解明ルートの存在自体もグレートでした。真相解明ルートに関しては色々と書きたいので、詳しいところは下の「生還後に提示される真相解明ルートについて」に譲ります。
ネタバレ薄めレビューということで、この項目で掘り下げたいのは砂時計(ミニットグラス)を効果的に用いた演出です。ゲームタイトルにそのものズバリ採用されているだけあって、『MinuteGlass』は「砂時計」をストーリーやビジュアルのモチーフとし、主人公リリアンの絶体絶命の状況や、もっと大きいところで彼女が落ち込んだ運命を暗示する小道具として使用しているゲームです。
たとえば、イントロダクションから本編に移行する際、くるくると回転する砂時計が出現します。これは、生還を目指して「1分間を何度でも繰り返す」ゲームの始まりを暗示しているのではないかと思います。実際、チェックポイントから選んでスタートする際も砂時計が回る演出が差し挟まれます。
その直後のカットインでもリリアンと砂時計がセットで描かれ、砂時計の内部にとらわれたリリアンの上にキラキラと輝く砂が降り積もって行きます。これもまた、リリアンがあと1分間で酸素供給の断たれる宇宙船に閉じ込められたことを想起させる表現だと言えます。
次に、6つのバッドエンドを体験すると、プレイヤーはやはり砂時計にとらわれて脱出できないリリアンの一枚絵を見ることになります。ただし、バドエンを重ねるにつれて砂時計のガラスには深いひび割れが走るようになります。そして生還成功のALIVE ENDに至ったとき、砂時計のガラスは完全に砕け散り、リリアンが容器内部から逃げ出したことが示されます。
後から見返して、バドエンのたびに砂時計にひびが走る演出は、バドエンがけして無駄な失敗可能性ではないこと(バドエン内で得られる情報が生還のヒントに成り得ること)の示唆だったんだなーと感じました。失敗を繰り返すたびにリリアンの手には生還のための鍵が集まり、彼女を捕らえる砂時計にも亀裂が走っていく。最終的にリリアンは6つのバドエンで得た鍵を用いて生還への道を拓き、砂時計のガラスを内部から打ち砕いて脱出する……という。
きっとこれ生還エンドで粉々に割れるんだろうなーとは思っていたものの、パリンと砂時計が割れてさらさらと砂がこぼれていく一枚絵を見たときの高揚感は半端なかったです。良い意味で期待を裏切らない見事な演出だと思います。
また、砂時計は「絶体絶命のピンチ~ALIVE END」の流れのみを演出するものではありません。むしろその先の隠しエンドにおいて、リリアンの運命に関するより恐ろしい暗示と想像をプレイヤーにもたらしてくれます。個人的に一番「うわぁ~エグイな~」と感じたポイントでした(後述:「生還後に提示される真相解明ルートについて」)。
魅力③:細部まで凝った可愛すぎるグラフィック
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『MinuteGlass』の魅力その3は、「細部まで凝ったキュートなグラフィック」です。これに関しては見りゃ分かるレベルで素晴らしいので、こうして書き出すのはいっそ野暮かもしれません(でも好きなのであえて詳しく書きます)。
イントロダクションからスタートしてリリアンと宇宙船内部がパッと映し出されたときは、「なにこの近未来カワイイ世界」とワクワクドキドキが止まりませんでした。
宇宙船ステージは、クールな近未来SF感とドット絵のよさを活かした可愛さの2者を見事に両立させているのがグレートだと思います。一言で言えばめっちゃイイ。全体の彩度は低め&灰色と紫色ベースで宇宙空間っぽい無機質さを表現しつつ、パステル調の水色やピンクを要所要所に配置することで、ポップで柔らかい雰囲気を醸し出している印象です。各キャビネットのアイコンもシンプルで可愛くて好きです。
より宇宙船っぽいパキッとした印象のコントロールパネル側(ステージ右)、よりリリアンのプライベート空間っぽいベッド&シミュレーション側(ステージ左)という風に、同じ宇宙船内でも画面を遷移するとステージの雰囲気が少し変化するのも素敵ですね。基本的に固定ステージだからこそのこだわりを感じました。
ステージ繋がりで言うと、スイートプラネットとドリームシミュレーションもあまりに可愛くて、テンションが上がりつつも動揺しました。なんというか、圧倒的に可愛いんですよね。目が喜ぶ系の可愛さ。宇宙船ステージとのギャップを意識して作られている感があります。少ししか滞在しないステージなのに気合が入ったつくりで超キュートです。
もう少し具体的に書くと、スイートプラネットは全体的にポップ&カラフルなステージです。宇宙船ステージの雰囲気からは離れた赤み強めのピンクが差し色に使われているなど、生還(=ゲームクリア)のご褒美感のあるkawaiiステージでした。背景のハンバーガーベルトコンベアの動きも細やかで見入ってしまいます。
また、個人的に好きなのはドリームシミュレーションステージです。やはり宇宙船内とのギャップもあり、全体的にキラキラとして見える柔らかいパープル主体の夢世界にうっとりとしました。「こんなリゾートに行ってみたい」感がスゴイ。紫×水色めっちゃイイですね。ライフセーバーさんと話した後、プールから上がれずに一瞬詰んだのも良い思い出です(ジャンプすればOK)。
ここまでステージに関して色々と書きましたが、一番グッときたのはアライブエンド手前の、惑星(チタンタラート)に着陸するシーンかもしれません。宇宙船の窓越しに海の青と陸地の緑を目にしたときのあの興奮……それまでリリアンとともに近未来っぽい淡いパステル調の世界に身を置いていたぶん、生還してようやく目にできるナチュラルなカラーに感じ入りました。演出の妙だと思います。
あと、ステージのグラフィックのみならず、キャラクターに関するグラフィックも素晴らしかったです。主役のリリアンは表情豊かだし、歩行グラフィックもシチュエーションに合わせて細かく変わります。個人的には、ロボット(?)のテディの表情が感情に合わせてくるくると変化するのが可愛いし芸コマだなーと思いました。「GJ」と「:b」が好き。
最後に、『MinuteGlass』はサウンド面も素敵なゲームでした。特に♪「うちゅうでひとり」というオリジナルBGMが素晴らしかったです。本編中に流れるBGMはこの「うちゅうでひとり」だけですが、耳に心地よくて聴いていて不思議と飽きないんですよね。
あくまで個人の好みですが、ぐるぐる周回する系のゲームを遊ぶとき、メインBGMが刺激的過ぎたりうるさすぎたりすると「ちょっとうっとうしいな」と感じることがあります。しかし♪「うちゅうでひとり」は煩わしくなく、それでいてSFっぽさとかわいらしさに溢れている良曲だなあと思いました。
また、これは記事を書くにあたってどうしても書きたかったことですが、『MinuteGlass』はSEが超良いゲームだと思います。特にスペースでジャンプして着地したときのSE。弦を軽くつまびくような音が実に快いんですよね。この仕掛け1つによって移動操作が楽しく感じられるのがミソだと思います。メインのストーリーはもちろんのこと、こういった細部にひと手間かけているゲームってすごく好きです。
ストーリー&エンディング感想(※ネタバレあり)
それでは、『MinuteGlass』のストーリーとエンディングの感想を詳しく書いていきます。ネタバレがガッツリ含まれるのでご注意ください。
ストーリーの流れを詳しく見ていくと、プレイヤーは最初に6つのバッドエンドを回収することになります。探索するポイントによって到達するエンドが決定される仕組みです。6つのバドエンでは、おおむね①宇宙船の内部構造、②宇宙船に潜在するおかしな部分、③リリアンが宇宙船を購入した経緯の3点が掘り下げられます。
1つ目の「宇宙船の内部構造」については、具体的には「どこに何が収納されているか」という情報です。たとえばデスクリーニングエンドではタコロボの収納場所が分かり、ファイナルレストエンドではACアダプタの収納場所が分かります。
また、内部構造繋がりで行くと、フィーリングドリームエンドではリゾートドリームをシミュレーションすることによって、特定の暗号を解読する方法がわかります。
2つ目の「宇宙船に潜在するおかしな部分」に関しては、リクエスティングリリーフエンドとラストレターエンドで掘り下げられます。前者では「宇宙船外部からの通信妨害の可能性」が、後者では「宇宙船で以前にも人が亡くなっている可能性」と「酸素供給装置は壊れていない(つまり酸素供給の遮断は単なる事故によるものではない)こと」が匂わされます。
最後に、3つ目の「宇宙船購入の経緯」については、ビターメモリーエンドで詳しく語られます。押さえるべきポイントは、リリアンの接客を担当した店員は、宇宙船が中古の欠陥品であることを故意に伝えなかった可能性が高いという点。また、このエンドでは宇宙船のメインコンソールのパスワードを設定することもできます。
以上の情報に加えて、6つのバッドエンドでは、その端々でリリアンにテディという機械に強い親友がいることも何度か匂わされます。そして、このテディこそが必要な情報が出そろった場面で主人公を生還へと導いてくれる救世主です。
初見プレイ時は、バッドエンドのたびに砂時計が割れていく演出にドキドキしました。「もしかして何かが起こるのか?」と。そしてバドエンを6つ見終わった~と思ったところで、見たことのないまったく新しい展開がスタートするわけです。「あのバドエン6つの立ち位置ってそういうこと!? すべてはここに至るための布石!?」と興奮し、「これ一本道ストーリーだったのかぁ~」と感服しました。
マジメな話、この生還ルート開通時のエキサイト感はヤバかったです。スピーディーに畳みかけるように選択肢が迫ってきて、でもその1つ1つはバッドエンド1~バッドエンド6で示された情報を思い出せば確実に解答できて、薄皮一枚残して次々に破滅の可能性をかわしていける……という。「ここ知ってる、バッドエンドでやったとこだ!」とワクワクし、ただ1つの生還可能性に向けてゴリゴリと道を切り拓いていく楽しさにテンションブチ上がりでした。
特に、最後の最後に例の暗号が提示されたときは、「なんて綺麗で熱い流れなんだ……!」と感動しました。ドリームシミュレーションに登場したライフセーバーのお兄さんは、本当の意味での「ライフセーバー」だったんだな、と。真相解明ルートを見ると暗号の答えにゾクゾクできる点も重ねて良かったです。
この生還ルートで地味に嬉しかったのは、謎に包まれていた友人テディが満を持して、それも頼れる救いの主として登場したことでしょうか。これだけ登場を引っ張る以上、黒幕か最強お助けキャラのどちらかだろうなーと予想していたので、順当に後者でよかった~と胸をなでおろしました。テディのコミカルな表情(?)可愛くて好きです。
ちなみに、6つ存在する選択肢場面で失敗すると、それぞれ固有のバッドエンドに行き着きます。必須イベントとしてのバドエンと異なるのは、そのエンドタイトル。「××エンド」といった形ではなく、たとえば"Nobody came."のように短文が1つ提示される仕様になっています。
この6つの短文仕様バッドエンド、個人的にはリリアンのタイムルーパーとしての記憶が彼女自身に囁きかけているのかなーと感じました。「そうじゃないでしょ、救助を呼んだって間に合わなかったでしょ」みたいな感じで。
そして、この短文タイトルは、後述する"His turn"と共通の空気を持っている気もします。"His turn"は文字通り「彼のターン」、つまりリリアンが運命の分岐によって敗北するエンドです。だからこそ、そのエンドタイトルは、「彼の番ね(でも次こそは……)」とルーパーと化したリリアンが漏らした呟きのようにも思えるんですよね(100%妄想)。
生還後に提示される真相解明ルートについて
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さて、『MinuteGlass』には、生還エンドの先に「真相解明ルート」とでも言うべき展開が用意されています。バドエン→生還の綺麗な流れだけでも見事なゲームですが、個人的に一番凄味を感じたのがこの真相解明ルートでした。リリアンを陥れようとした犯人の正体、そして彼女が体験していたループの実像……ショッキングな真実にゾクゾクすること必至の隠しルートだと思います。以下、核心的なネタバレが含まれます。
初っ端からネタバレになりますが、リリアンを宇宙船内で窒息させようとした犯人は、彼女に宇宙船を売りつけた胡散臭い店員でした。トラップを仕込んだ宇宙船を売りつけ、酸素供給をストップさせて乗客の命を奪い、その遺体を宇宙空間に投棄して乗客の持ち物を回収する……という極悪な計画犯罪を、店員は幾度となく繰り返していたようです。
テディの忠告を無視することで開通する真相解明ルートでは、罪を暴かれることを恐れた店員がリリアンの居場所を特定し、宇宙船内部に乗り込んできます。彼の目的はもちろんリリアンを排除すること。なすすべなく店員の凶弾に倒れるか、それとも「目には目を」と抗うか……前者の場合は"His turn"という店員勝利エンド、後者の場合は"OUTLIVE END"というリリアン勝利エンドに行き着きます。
この真相解明ルートには心底ゾッとさせられました。犯人が例のうさんくさい店員だったからではありません。そうではなく、リリアンを陥れようとした店員もまたループを繰り返していたらしいことが、このルートの最後にほのめかされたからです。
というのも、リリアンが店員に敗北するエンド(His turn)で、店員は「やっと、これでやっと、しなずに すむ…!」と笑いながら口走るんですよね。この台詞がたとえば「これでしなずにすむ」なら、さほど違和感はありません。アライブエンドでの店員は逮捕され、それまでの犯罪行為の積み重ねもあって処刑されます。ゆえに、「リリアンの口封じに成功した=逮捕されない」と捉えての「これでしなずにすむ」発言なら、とりたてて不自然なところはありません。
しかし店員は、「これで『やっと』しなずにすむ」と発言しています。この「やっと」は、どうにも違和感を覚えざるを得ない単語でした。その言い方ではまるで、一度と言わず何度となく、リリアンを口封じできなかったことによる破滅を体験しているみたいじゃないか……と思えたからです。
そこから私は真相解明ルートのスタート地点に戻り、今度はリリアンにハンドガンを携帯させ、店員に勝利するエンドを見ることにしました。すると店員は、「クソッ……つぎこそは……!」と言い残して絶命。あれあれあれあれ、と心がざわついたところで、リリアンが「……でもこれで しなずに すんだ…。」とHis turnエンドの店員とほぼ同じ発言をするわけです。
この瞬間に抱いた衝撃と絶望、「え?」と「まさか…」が入り交じった感覚は、まさに実際にプレイしてこそ胸をつくタイプのものだと思います。「これ両者ループ確定じゃないか、ルーパーとルーパーが互いの生存可能性を賭けて戦っていたんじゃないか」と悟って一気に背筋が寒くなりました。
この真相解明ルートおよびアウトライブエンド(リリアン勝利エンド)のスゴ味は、リリアンが体験していたループの構造が一気に様変わりしてしまう点にあると言えます。
リリアンを宇宙船に閉じ込めてその生命を奪おうとしたのは、間違いなく例の店員です。リリアンは1分後に訪れる破滅から逃れようと何度もループし、最終的にはその運命から抜け出します。しかしその一方、実は店員もまたリリアンと同じルーパーであり、「リリアンが生き残る=自身が破滅する」という運命から逃れようとあがいていました。
つまり、運命の砂時計が捕らえていたのは実はリリアン1人ではなく、店員もまた自ら仕掛けた破滅の運命の囚人だったわけです。本編でのリリアンは砂時計に閉じ込められ、落ちてくる砂、すなわち1分後の死の運命から逃れようとあがいていました。しかし実は、容器のもう一方には店員が閉じ込められていて、リリアンが確実に窒息するようにと必死で砂を落とし続けていたことになります。
リリアンをそのまま砂に埋めてしまえば、店員の勝ち。リリアンが硝子を打ち砕いて逃げてしまえば、決定的な証拠を押さえられている店員の負け。勝てば生存、負ければ破滅。そんな生きるか死ぬかのゼロサムゲームがリリアンと店員の間に発生していた……それこそが真相解明ルートにて明かされる最大のどんでん返しだと言えます。
アライブエンドできれいに締めて、その先の真相解明ルート→アウトライブエンドでショッキングな事実を明かし、全体の物語の様相をガラリと変える。これは、もしかすると好き嫌いの分かれる構成かもしれません。ただ、私は正直なところめっちゃ興奮しました。可愛い絵面からは想像もできない、というより、バツグンに可愛い絵面だからこそ際立つ素敵な殺伐感だと思います。
リリアンV.S.店員の仁義なきルーパー対決を象徴するかの如く、リリアン勝利エンドには「アウトライブエンド」というタイトル名が冠されています。"outlive"は、「~よりも長生きする」の意。宇宙船から脱出して生還成功!という単純な話ではなく、敵対者の破滅こそが生存の必須条件だったことが明々白々になるこの命名、シンプルにシビれるほかありません。
ハンドガンで倒されてもなお店員は諦めていなかったし、今後も2人はどこかの世界線でループし続けるのではないか……という想像ができてしまう点も良い後味の悪さでした。アウトライブエンドのリリアンは興味本位でテディの忠告を無碍にしてしまったわけで、その結果地獄のループ合戦に巻き込まれていく構図も、理不尽ではあるものの納得はできるという印象です。
たぶん、どちらかが諦めない限りルーパー同士の命の獲り合いは終わらないんだろうなーと思います。ルーパーとルーパーの対決が血みどろの泥仕合にもつれこむことを、リリアンが諦めずに生還を目指し続けた本編が何より雄弁に裏書きしてしまっているわけなので。諦めない心が奇跡の生還を呼び寄せた本編からそういう邪悪な推測をしてしまうのってアレですが、そういう見方も可能という点で、あらためて「構成が巧すぎる~!」と感じました。
*****『MinuteGlass』、一言で言えば洗練された作品でした。気になった点と言えばキャロちゃんの存在くらいでしょうか(友人属性がテディとかぶるし出番が限定的、キャラデザが可愛いだけにもうちょっと絡みたかったし生還のための具体的な活躍・アシストをしてほしかった感)。グラフィックやサウンド面のこだわりはもちろん、プレイヤーを驚かせる仕掛けをストーリーに複数仕込んでいる点がお見事です。かつその仕込みの見せ方も上手いんですよね。最後の最後まで楽しめるゲームでした。
※「宇宙空間が舞台」・「SF」・「タイムループ」といった要素を持つ作品について、いくつか感想記事を書いています。
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