『少林サッカー』 少林拳×サッカーな痛快アクション映画 感想&レビュー 【香港映画】
「少林拳」と「サッカー」がミラクルな化学反応を起こした痛快アクション映画、『少林サッカー』のレビュー&感想記事です。
「あー気分が沈む、やる気が出ない……」 そんなとき、無性に見返したくなる映画が1本あります。チャウ・シンチー(周星馳)監督作品、『少林サッカー』(原題:『少林足球』)です。
2001年、香港発。キャッチコピーは「君はまだ、究極のサッカーを知らない」。名作エンタメ映画なので、ご存じの方は多いのではないでしょうか。
内容を説明すると、「少林(拳)」を使って「サッカー」をします。そのまんま、少林拳の達人たちが一念発起してサッカーをする映画です。だから『少林サッカー』(タイトルがこれでもかというくらいに分かりやすく潔い!)。
本場のキレッキレな少林拳アクションに見とれ、容赦のないギャグにお腹がよじれるほど笑い、主人公たちの快進撃に熱く盛り上がり……と見どころがてんこ盛りの作品です。
鑑賞後の気分はスカッと爽やか、元気になれます。これぞエンターテインメント。
ちなみに『少林サッカー』は、レベルファイブ製作の『イナズマイレブン』シリーズの元ネタではないかと言われていたりもする作品です。いくつかの技が似ていますし、無印のラスボスチームの強化方法も似ています(まあ定番かもしれませんが)。
私自身は謎の宇宙人が襲来する『イナズマイレブン2』までしかプレイしていません。しかしこの映画でもイナズマイレブンでも、超次元サッカーが展開されるのは確かだと思います。
以下は映画内容の詳細な感想です。ネタバレを含むので、未見の方はご注意ください。
『少林サッカー』のあらすじ
『少林サッカー』のあらすじを簡単に書きます。
『少林サッカー』の冒頭で語られるのは、かつて名サッカー選手として活躍していた「ファン」という男の転落の模様。彼は金の誘惑に負けて八百長試合に協力し、結果として選手生命を絶たれるようなケガを負ってしまいます。
実はファンの転落を画策したのは、ファンが見下していたチームメイトの「ハン」でした(音だけだと超ややこしい。味方がファンで、敵がハン)。ファンを蹴落としたハンはその後も成功を積み重ね、現役を退いて以降は押しも押されぬサッカー界の実力者となります。
『少林サッカー』の本筋はその数十年後、ハンのお情けで雇われていたファンが、ケガの真実を知らされた上で解雇されてしまった日からスタートします。
やけになって街中をうろついていたファンは、偶然汚い身なりの奇妙な青年に出会います。彼の名は「シン」。幼い頃から少林拳を学んだ少林拳の達人でした。
少林拳の普及を夢見るシンですが、現在の都会ではそれは夢のまた夢。熱心に修行を続けるシン自身も日銭を稼ぐのがやっとの状況です。かつてシンとともに少林拳を学んだ兄弟子たちも、日々の暮らしに汲々とする毎日を送っていました。
シンの卓越した武術と驚異的な身体能力を目の当たりにしたファンは、「サッカーをやってみないか」とシンを勧誘します。かつて道半ばで諦めた夢を、シンと一緒になら再び追えるかもしれないと思ったのです。シンもまたサッカーが少林拳の良いPRになるかもしれないと考え、ファンの誘いを承諾します。
紆余曲折を経て、2人はシンの兄弟子たちを口説き落とすことに成功。ここに少林拳の達人たちが集い、前代未聞の少林拳サッカーチームが誕生します。しかし快進撃を続けるシンたちの前に、最強のチームを抱えるハンが立ちはだかり……。
はたしてシンたちは、強大なハンとそのチームを倒すことができるのか? 少林拳の達人たちが繰り広げるサッカーとは? ファンとシンの夢は叶うのか?
決戦当日、試合会場では、想像を絶する究極の少林拳サッカーが繰り広げられることになります。
見どころその1:負け犬たちの下剋上ストーリー
映画でもなんでもそうですが、ストーリー面がしっかりと充実しているからこそアクションやギャグに心の底から見入ったり笑ったりできるものだと個人的には思います。そして、『少林サッカー』は真剣にバカをやっている映画ですが、そのぶんストーリーにだってド真剣です。
いつ見ても思うことは、ツカミがバッチリだということ。OPから回想に入り、主人公たちの監督になるファンの過去と因縁、そしてラスボスがさっさと提示されます。ラスボスは気持ちいいほどにあくどい人物で、敵チーム名は「デビル(悪鬼)」。その分かりやすいにもほどがある善悪の構図はいっそ清々しいです。(あと序盤の見どころとして、「黄金右脚」という刺青を入れたファンさんの腹が回想時点ですでにたるんたるんなのもシュールで好き)
『少林サッカー』のストーリーをざっくりと説明すると、社会的地位の低い主人公たちと夢破れた元サッカー選手の監督が出会い、互いに刺激を与え合いつつ大会優勝を目指す……というもの。
主人公やファン監督、兄さん達は皆「人生の落伍者」と言ってもいい人達です(行き交う人々の靴を映して貧富の差を表現するシーンは印象的)。証券マンの兄さんはともかく、他は今の生活に苦労してくすぶっているような青年とオッサン達ばかり。
そんな彼らが少林拳という最大の強みを活かして快進撃を始めるのです。これほどまでに胸躍るドリームがあるでしょうか。
主人公が兄弟子や弟弟子をスカウトに行くシーンからの再結集シーン、初試合でボコボコにされるシーンからの仲間の覚醒……など「ガッツリ下げてしっかり上げる」を踏まえたカタルシス溢れる構成は見事です。
特に、再結集シーンの格好良さは、実際に映画を観た人にしか分からないと思います。無駄にサングラスをつけ、無駄にヒラヒラしたものを着て、無駄に格好つけてやってくる。それなのに凄まじく格好良い。カメラワークが抜群に良いせいでもあるんですが、とにかく痺れます。
また、明快かつ王道的に進む物語とはいえ、それは序盤や要所にきちんと伏線が仕込まれているからこその予定調和だと言えます。
たとえば、「少林拳を世間に広めたい!」という主人公による熱い街頭プレゼンテーションは、映画のラストにこれ以上なくきれいな形でオチが付きました。「主人公1人いれば勝てるのでは……」という認識がバイオレンスな練習試合を通して変化し、仲間の意識変革と覚醒を導く流れも非常に綺麗です。
振り返ってみれば、ストーリー関連で無駄な要素はないと思います。あるとすれば、ボリウッドかと思うような唐突なミュージカルシーンくらいでしょうか。あそこのシュールさと悪ノリ感はむしろ大好きですが。
見どころその2:キレッキレの武術アクション
武術とサッカーの融合という観点から、個人的には「旋風脚の兄さん」が一推しです。
手を地面につき、脚を自在にぐるぐると回す姿には口を開けて見惚れるしかありません。あん馬をする体操選手じみた脚力と体幹です。ボールはさすがにCGですが、脚の動きは役者さんの自前らしいので尚更驚きました。攻撃という点でも防御という点でも、旋風脚の兄さんの技は手堅く華麗だと思います。
また、単純に武術単体のシーンを言うなら、ヒロインである「ムイ」の太極拳の動きが好きでした。まさに柔よく剛を制す。伸びやかでしなやかな彼女の(饅頭づくりの)技はいつ見ても印象的です。
たとえば、饅頭屋の店主のビンタをいなしまくって最後に打ちのめすシーンは最高にクールでした。クライマックスのスーパーセーブは言うまでもないです。ムイと主人公のシンが戦った場合、どちらが勝つのか少し気になります(個人的にはムイに100ルピー)。
見どころその3:抱腹絶倒のギャグシーン
ギャグを解説するのは無粋な行いだということは重々承知の上で、個人的に大笑いしたシーンを7つ、箇条書きで挙げておきます。マジメな話、数分おきにギャグが挟まれるのでかなりチョイスに悩みました。
①小芝居を織り交ぜた、シンによる街頭少林拳プレゼンテーション
バナナの皮ですっころぶお姉さんの顔からして有無を言わせぬ笑いの迫力があります。「いやバナナ落ち過ぎやろ」、「植木の剪定に一年もかかってるんかい」、「ファンさん少林拳に詳しいな」といった細々としたツッコミは留まるところを知りません。個人的には、シンのイメージ映像にちゃっかりと参加し、終わったらしれっと服を脱ぐファンさんがツボでした。シンチー監督は天才。
②ケンカ後のかつあげ
蟷螂拳で対抗するのかと思いきや、あっさりとかつあげされる青年。シンの有無を言わせない態度や、青年の情けない泣き顔もシュールです。
③特訓シーン
卵キスの天丼には笑いました。三番目の兄さんが気の毒でならない。奥さんにはとても言えませんね。特訓開始直後にボールを天まで蹴り上げるシンと、「飛行機に当てて弁償できるのか」と真顔で詰め寄るファン監督も地味に笑えます。
④練習試合
終始お腹がよじれそうでした。メガネキャプテンが澄ましてレンチや金づちを落とす場面から、ウボァーと得物を振り回すシーンまでの流れは何度見ても腹筋にきます。また、『プライベート・ライアン』よろしくなぜかコートで銃撃戦が始まる展開は面白すぎると思いました。試合後の、敵味方「アッハハハハハ……」もシュールです。
⑤大手スポーツメーカーをスポンサーにするシーン
「ハッハッハ」と愛想笑いをして迎えるスポンサーを、シンたちが勢いよく殴り倒したところで噴出しました。あの勢いは真似できない。日頃の恨みでしょうか。センターのメガネの人は、序盤で汚い身なりのシンを追っ払った人だったような気がします。
⑥「ワイヤーアクションかよ!」
渾身の自虐ネタ。ブッ込み具合が秀逸。
⑦「お前は火星に帰れ」
クライマックスのこのタイミングで笑わせにくる、そのセンスに脱帽しながら笑うしかありませんでした。シンチー監督は美人を単なる美人として描かないのがユニークだなと思います。
音楽・カメラワークの感想
その他、『少林サッカー』は音楽も素晴らしいです。特にオープニングの勇壮なテーマ曲は、一度聴いたら耳に残るほどのインパクトがあると思います。
また、カメラワークもグッとくるものが多いです。コートをぐねぐねと蛇行する川のように鳥瞰で映していったり、涙まじりに話すムイをドアップで撮り続けたり、「そう撮るのか!」と痺れます。
加えて役者さんたちの演技が素晴らしいのは言うまでもないです。ファン監督や一番目の兄さんといった適度に情けないところを見せてくれるキャラは、役者さんの演技もあってより魅力的に見えました。「ちなみに」と言うまでもないですが、監督のシンチー氏は主人公シンを演じている方です。
ところで、大人になって改めて映画を観たとき、バイオレンスなシーンが意外と多いことに驚きました。おそらく地上波放送ではカットされていたシーンが多かったのだろうと思います。シンと一番目の兄さんがデュエットした後の暴力シーンなんかはけっこうな痛々しさです。
血の気が多いこともそうですが、『少林サッカー』には(けして悪口ではなく)独特の「汚さ」があるような気がします。整然とした大通りだけでなく、汚れたゴミ捨て場や雑多な屋台周辺の風景など人の生活がきちんと映っているからでしょうか。
香港にはまだ行ったことがないですが、中国圏には行ったことがあります。映画から感じ取れる乾いて雑然としつつも活気に溢れる空気感は、土地の雰囲気を写しとったようで個人的には大好きです。
*****※追記:「少林拳」と「少林寺拳法」は異なるものだそうです(参考:少林寺拳法と少林拳の違い | 一般社団法人 SHORINJI KENPO UNITY)。記事全体に2つのワードが混在していたので、「少林拳」に統一しておきました。
『少林サッカー』を観ていると、「笑いは偉大だ」と思います。面白い映画はいつ観ても面白いものだ、とも。
同じくシンチー監督作品の『カンフーハッスル』(原題:『功夫』)も、気軽に観られる作品ではないですがお気に入りです。弟とか眼鏡キャプテンとか、キャスト陣も『少林サッカー』とけっこう被っています。
『カンフーハッスル』はバイオレンス&アクション要素がより強く、かなりダークな作風です。しかしコミカルな表現とギャグの隙のなさは、『少林サッカー』に通じるものがあると思います。
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