『かげろうは涼風にゆれて』 夏の孤島を舞台にしたSF青春ADV 感想&攻略 ※ネタバレ注意
夏の孤島を舞台にした中編サスペンスADV、『かげろうは涼風にゆれて』の感想&攻略記事です。制作サークルは言ノ葉迷宮様。制作者様のHPはこちらです。 → 言ノ葉迷宮
かげろうは涼風にゆれて
『かげろうは涼風にゆれて』は、恩人である博士に協力してとある実験に参加した少年が奇妙な出来事に見舞われるお話です。季節は夏、舞台は孤島。SF要素が含まれます。
かげすずは言ノ葉迷宮様の作品の中では4番目に(『deep-sea fishes in gloom』の次に)プレイしました。そしてとりわけ印象に残ったゲームです。タイトル画面の爽やかな夏空も目に鮮やかです。
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「SF」、「青春」、そして「分岐の積み重ねの楽しみ」をじっくりと味わえるゲームでした。特に選択と展開の変化が密に連動するストーリー展開は、本作品の一番の魅力と言ってもいいと思います(この作品の後発である『world rewinder』も、同じ傾向を持つ青春SF作品です)。
プレイ中はあれこれと試行錯誤し、失敗すればがっかりし、成功すれば新しい展開を食い入るように見守る……という有様でした。一喜一憂する時間が非常に楽しかったです。トゥルーエンド(と言うべきエンディング)にたどり着いたときの達成感には、格別のものがありました。
それでは以下、ゲーム内容に関する詳しい感想を書いていきます。攻略情報も含みます。ネタバレにご注意ください。
『かげろうは涼風にゆれて』のあらすじ
最初に、『かげろうは涼風にゆれて』のあらすじを書きます。
かげろうは涼風にゆれて
主人公の「陽ノ原少年」は、夏休みにとある小さな島へやってきます。家族の恩人である「涼炎寺博士」の研究に協力することが彼の目的でした。
涼炎寺博士は、「閉鎖実験を行う」と説明します。一定期間閉鎖された空間に被験者を隔離し、どのような影響が出るかを調査するのが実験の主旨です。陽ノ原はこれを承諾し、博士の娘で同じ年頃の「青海」と共に、十数日に及ぶ実験を開始します。
ところが実験初日、博士は「閉鎖実験を中止する」と言い出します。代替として提示されたのは、アンケート実験でした。島内の3つの「スポット」を訪ね、その場所についてのアンケートに答えるという内容です。
スポットを訪問するのは1日1回、同じスポットには二度と行ってはいけない、アンケートは「リジェクト」されないようきちんと回答すること……諸々の制約を受け入れ、陽ノ原と青海はアンケート実験を始めます。
しかし、島内を見回ったり近隣住民と話をするうちに、陽ノ原と青海は身辺で奇妙な出来事が起こっていることに気づき始めます。さらに実験を進める中で、軽度の記憶障害に見舞われるようになりました。
かげろうは涼風にゆれて
アンケート実験の狙いとは? 博士は何をしようとしているのか? 記憶障害の原因は何か? 陽ノ原と青海が真相に近づくか否かによって、エンディングは5つに分岐します。
『かげろうは涼風にゆれて』の概要
『かげろうは涼風にゆれて』には、以下の3つの特殊なシステムが存在します。
- オートセーブ
- ファーストタイム・ノーセーブ……①
- ファーストタイム・ノーリトライ……②
特に「ファーストタイム」の縛りは、プレイヤーに独特の緊張感を与えてくれます。ただでさえ手探りの1周目に縛りを入れることにより、ミステリアスな物語への没入感が更に増します。
①「ファーストタイム・ノーセーブ」は、初回プレイ時は任意セーブ不可という縛りです。分岐を試すのが難しくなり、②と合わせてやり直しが効かない緊張感を味わうことができます。
②「ファーストタイム・ノーリトライ」は、初回プレイ時は途中でその周回を諦めて「最初から」を選ぶことができないという縛りです。つまり、いったん本編を始めれば最初からやり直すことができなくなり、何らかのエンディングを見なければならなくなります。選択の方向性を真剣に考えるようになったり、陽ノ原と青海への感情移入が高まったりと、プレイヤーの緊張感と臨場感が普通のプレイとは違ってきます。
また、色々なエンドに到達することで、「戻る」機能と「運命の俯瞰」機能が解放されます。特に「運命の俯瞰」機能は、複雑なシナリオの秘密を呑みこむ上でとても役に立つ機能です。
ストーリーの感想
『かげろうは涼風にゆれて』は、サスペンス、ミステリー、SFなど様々な要素が溶かし込まれた非常に面白い作品でした。夏らしいジュブナイルな雰囲気も好きです。
不可解な出来事の連続、記憶の欠落といった描写でプレイヤーを悩ませつつ、後半からパッと核心を明かして最後まで惹き込む構成が見事でした。
たとえば「○○○○」と警備員に言われた瞬間には、「そういうことか!」と脳内でシュパシュパと線が繋がっていく気がしました。霧が晴れる感覚です、完全に。一日の終わりに挿入されることのあった描写の真相にも思わず戦慄してしまいました。
また、博士の提唱するアンケート法の仕組み、「陽ノ原」と「青海」の図った運命からの脱出方法といった発想は、ただ素直になるほどなあと納得してしまいました。
「○○○○」というテーマゆえか、科学と倫理、運命への反抗などに触れた重いシナリオでもあったと思います。エンド05後に流れる厳かなBGMを聴いても、「絶対的な絶望を静かに受け入れつつも、ちっぽけな人の意志とかすかな希望を両手にあがく物語」という印象です。
もっとも、シリアスなストーリー展開に反して湿っぽさはあまりありません。ほどよい感傷をしのばせつつも、登場人物は過度に悲観に流れない。これは言ノ葉迷宮様の作品に共通する良さだと思います。
また、BGM&SE演出はいつものことながら素敵でした。タイトル画面の風鈴のSEを聴いた時、すでにゲームに浸る準備は充分という感じでした。エンド05のエンドロールにあの厳粛な印象のBGMを持ってくるセンスも素晴らしいです。
ところで、「翼あるしもべ」ってクトゥルフ神話体系における「バイアクヘー/ビヤーキー(Byakhee)」なのでしょうか。「超未来と超過去に君臨するこの星の真の覇者」という呼称もクトゥルフっぽいワードチョイスだと思いました。
また、時間超越や優れた科学技術力といった要素を抜き出すと、団体が信奉しているのは「イースの大いなる種族(Great Race of Yith)」のような気もします。過去と未来の地球に栄えた種族なので、上記の呼称にも合致します。スポット保護に用いられるテクノロジーは、彼らの発明品である「停滞キューブ」の大規模版という印象です。
ADV面の感想
実際のプレイ時は、11回目の周回でエンド05(一番難しいエンド)に到達しました。
次の展開を導くフラグ立てに無理がなく、ほどよい歯ごたえのある作品という印象です。最初はどうあがいても研究所から逃げ出せない状況に混乱しましたが、情報を一日持ちこすことの重要性に気づいてからは、比較的スムーズに試行できるようになりました。
個人的に一番テンションが上がったのは、開かずの扉の向こうに「翼あるしもべ」がいないと気づいたときです。「どうして居ないんだろう」と思った次の瞬間に昨日の出来事を思い出し、「昨日の陽ノ原と青海」の行動が次に繋がったことにドキドキしました。こうも筋道立った展開を見ると興奮します。
振り返ってみれば、トゥルーエンドとも言えるエンド05に到達するには日数をフルに使う必要がありました。バランス調整と構成の組み立てが見事だと思います。
エンディング05の攻略方法
この項目では、エンディング05の攻略過程をメモしました。ストーリーの内容(真相)のネタバレを含みます。一部伏せましたが、未見の方はご注意ください。
エンディング05への道筋
- 谷浦の話を聞く→「研究所で燃やされている何か」「開かずの扉に出入している博士」の情報を入手
- 携帯の基地局へ行く→明らかに超自然的な力によって壊されたアンテナを確認
- 同一スポットを二回訪ねようとして「翼ある生き物」に遭遇する→「逃げ出す」を選択
以上の3点を満たすと、陽ノ原は青海に研究への疑念を打ち明け、それに応じた青海と二人で研究所を調べることになる。調査によって、a.博士と「団体」の関与、b.団体による「文化事業」、c.「翼あるしもべ」についての情報を入手。
「博士に問い詰めるか」「開かずの扉の奥を調べるか」という選択肢が出現する。今のところは、どちらもNOと答える。
翌日、陽ノ原は青海に博士の研究を力ずくで止めようと提案する。相談によって研究所を燃やすという選択肢が出現するのでこれを選ぶ。
放火しようとした二人を咎めた警備員の木田は、「○○○○」と二人を指して言う。博士に問い詰めると、○○○○を使ったアンケートの研究の全貌について明かされる。その上で研究への協力を命じられるので、これを承諾。
翌日、青海から「この島すべてを燃やしてしまおう」と持ちかけられる。これに応じ、島を燃やし尽くすための準備をすることになる。しかし、土壇場で爆弾を使うのを諦めて下山する(爆弾を使うとエンド03)。
途中「翼あるしもべ」が襲ってくるので、爆弾を使用する。
翌日、前日の陽ノ原と青海の活躍によって開かずの扉を塞ぐ「翼あるしもべ」が消えているので、改めて研究所を調べる。地下にいる人物から、保護されるスポットに潜り込めば死の運命から逃れられるかもしれないという情報を入手。
翌日、翌々日は、粛々と残っているスポットのアンケートを終える。最後に、「計画を実行してもいいか」と博士に尋ねて許可をとる。
保護されるスポットは、陽ノ原のアンケート結果に左右される。リジェクトを避けながら素直にプレイしていれば、おそらくは「渓流>竹林>鉄塔」の順に保護されやすくなるはず。
見事スポットを当てればエンド05に到達、間違えればエンド04を迎えることになる。
上に書いたプロセスを、以下のようにスケジュールにまとめました。「8月12日~8月15日における3つの予定」と、「訪問する3つのスポット」は順不同です。
エンド05へのスケジュール
- 8/12 携帯の基地局へ
- 8/13 谷浦の山小屋へ
- 8/14 「渓流」へ アンケートにきちんと答える
8/15 再び「渓流」へ 「翼あるしもべ」と遭遇し逃走
- 8/16 陽ノ原から青海への相談 研究所の調査実行 「団体」「文化事業」「翼あるしもべ」の情報入手
- 8/17 研究所への放火を計画 実験の真実を知る 博士への協力姿勢を示す
8/18 島の爆発を計画 断念し「翼あるしもべ」を巻き込んで爆弾を使用
- 8/19 研究所の開かずの扉を通って地下へ 地下の人物から情報を入手
- 8/20 「竹林」へ アンケートにきちんと答える
- 8/21 「鉄塔」へ アンケートにきちんと答える
☆8/23 スポットごと「○○○○○」へ
『かげろうは涼風にゆれて』の主役とヒロインのキャラクター性は、物語のミステリアスさや深刻さと絶妙にマッチしていますね。大人びつつもまだ若く未成熟な「2人」だからこそ、エンド05で静かに決心を固める場面がことさらに映えるのだと思います。
シリアス調の物語も試行錯誤の過程も、余すところなく楽しませていただきました。先ほども書きましたが、自力で全エンディングを見たときの達成感は格別です。エンド05の余韻は特に実際にプレイして味わってほしい類いのものだなーと感じました。
※「言ノ葉迷宮様の作品」について、いくつか感想記事を書いています。
・『deep-sea fishes in gloom』 「深海魚」をめぐる短編ミステリADV 感想&レビュー(幼い姉妹の誕生日を前に事件が起こる。しっとりとしたミステリADV)
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・『月屋形事件』 感想 攻略 考察 ※ネタバレ注意(甲賀三郎原作のパスティーシュ作品。歯ごたえ十分のミステリADV)
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