『AliceNightmare(アリスナイトメア)』 19世紀英国の貴族家を舞台にした乙女ゲーム 感想 ※ネタバレ注意
女性向け恋愛(?)SLG、『AliceNightmare(アリスナイトメア)』の感想記事です。ネタバレを含みます。制作サークルは.aihen様。作品のダウンロードページ(Vector)はこちらです。 → 『AliceNightmare』
AliceNightmare
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『AliceNightmare』の舞台は一九世紀の英国。伯爵家に生まれた「アリス・シャロット」の過酷な運命とその克服に焦点を当てた作品です。全年齢対象ですが、猟奇的表現・鬱展開が含まれます。
以下はストーリーやエンディングに関する詳細な感想です。下へ行くほど具体的なネタバレを含むので、未見の方はご注意ください。
※同じく.aihen様の作品である『お茶会への招待状』では、『AliceNightmare』のあるエンディングから数十年後の物語が描かれます。攻略対象キャラは一新されているものの、特定のルートでは『AliceNightmare』に登場したキャラクターのその後を知ることができます。
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『AliceNightmare』のあらすじ
『AliceNightmare(アリスナイトメア)』のあらすじを説明します。ネタバレを含みます。
AliceNightmare
『AliceNightmare』の主人公の名は、「アリス・シャロット」。英国の伯爵家に生まれた、心優しく明るい性格の少女です。
しかし、アリス・シャロットは父である伯爵から「不義の子」と罵られ、夜な夜な酷い虐待を受けています。一方の母親は当の昔に狂気に囚われ、娘を見れば「悪魔の子」と叫んで錯乱する始末です。
アリス・シャロットを表立って庇うことができない伯爵家の住人(兄、執事、メイド、家庭教師その他)は、彼女の現状を憂える毎日を送っています。
ところが当のアリス・シャロットは、自分が虐待を受けていることを認識していません。彼女にとって虐待を受けているのは、双子の妹である「アリス・イヴリン」であり、けして自分自身ではありません。アリス・シャロットは父親から肉体的苦痛を受け続ける「妹」のアリス・イヴリンを案じ、常に心を痛めています。
もちろん、アリス・イヴリンなる人物は伯爵家に存在しません。彼女はアリス・シャロットの心の中だけに存在する自己防衛のためのもう一つの人格です。
アリス・イヴリンが実在しないことに気づいていないのは、アリス・シャロットただ一人。いもしない妹に話しかけ、その影を追うアリス・シャロットを見るにつけ、伯爵家の住人の不安と危惧とは高まっていきます。そして、アリス・シャロットの別人格であるアリス・イヴリンもまた、「アリス」が不幸のどん底にある世界に見切りをつけようとしていました。
はたしてアリス・シャロットは救われるのか。あるいは、彼女自身が自己を救済することはできるのか。プレイヤーの選択によって、物語は12のエンディングに分岐します。
『AliceNightmare』の感想
『AliceNightmare』は、ダークかつ耽美な世界とドロドロとした家庭内ドラマが楽しい作品です。一九世紀英国の貴族家というのは多くのプレイヤーにとって非現実的な世界でしょうが、この作品では一定のリアリティーを以て活写されています。
主人公と攻略キャラの個性の強さの釣り合いもあって、プレイ中はまるでドラマを観ているような気分で作品に没頭できました。重苦しく閉鎖的な雰囲気は人を選ぶかもしれません。しかしシナリオ・イラスト・演出など、個々の要素の質の高さに唸らされること請け合いです。
攻略対象は男女含め5名、エンディングは全12個です。内訳としては、トゥルーエンドが1つ、攻略キャラハッピーエンドが4つ、攻略キャラバッドエンドが5つ、正規エンドに未到達のバッドエンドが2つ。
攻略キャラ1人につき、エンドはハッピーとバッドの2つ存在します。例外は主人公の兄であるクリストファーであり、彼に用意されたエンディングはバッドのみです。
※アリス・イヴリンの2つのエンドについては、アリス・シャロットが眠る(主体がイヴリンに変わる)方をバッド、そうではない方をハッピーとしてカウントしました。
また、一周目でトゥルーエンドに至ることはできません。二周目に選択肢が追加され、特殊なフラグ立てを経てトゥルーエンドに行けるようになります。選択肢の選び方については、公式サイトにそのものズバリの答えが掲載されています。
SLG面の不満点を挙げるとすれば、ストーリーの共通部分が長すぎることでしょうか。既読スキップがあるのでそれほど気になったわけではありません。伯爵の退場がストーリー進行上必須なので、どのルートでも、ある程度本筋を追わなければならないのだろうと思います。
主人公アリス・シャロットとシナリオの構造
この項目では、主人公アリス・シャロットのシナリオ上の立ち位置について考えてみました。ちょっと長くなったので、「キャラクター感想」を見たい方は青文字をクリック(タップ)して飛んでください。
ギャルゲーでも乙女ゲーでも、恋愛SLGはプレイヤーによって楽しみ方がかなり異なるものだと思います。主人公に一人称で感情移入して楽しむ人もいれば、第三者視点で主人公と攻略キャラの恋愛模様を見守るのが楽しい人もいることでしょう。
ちなみに、私の場合は後者です。そして、『AliceNightmare』は第三者視点での楽しみが大きいゲームだと個人的には思います。「主人公アリス・シャロットの精神的or物理的な行く末を様々に掘り下げた作品である」とプレイしていて感じたからです。
『AliceNightmare』の面白いところは、攻略キャラよりも主人公アリス・シャロットの方に焦点が当たっている点だと思います(個人的な印象)。もっと具体的に表現するなら、同作品は「主人公アリス・シャロットとその家族の行く末」にスポットライトを当てています。
大抵の恋愛SLGでは、攻略キャラクターの掘り下げが優先して行われることが多いと思います。多くのプレイヤーは「攻略キャラクターとの恋愛」を求めてプレイを始めるわけですから、攻略キャラの描写をどんどんと増やし、彼/彼女の個性やアピールポイントを見せていくのはごく自然なことです。
一方、主人公個人についての言及はひかえめになることが多いと思います。主人公に求められる役割は、第一に「攻略キャラの一挙一動を映すカメラ」だからです。
もちろん、ただのカメラを好きになる人はいないため、主人公には癖のない良識的な言動(※例外あり)と、諸々の不自由な制約を無くし話を作りやすくする理由づけ(お金持ちである、特殊な血筋の人間である)などが付与されます。
しかし、主人公の掘り下げの優先度が攻略対象のそれに比べて低く、したがって主人公のパーソナリティーに割かれる描写が相対的に減少することは確かだと思います。
そういう観点からアリス・シャロットを見てみると、彼女はとても平凡とは言えない主人公です。テーマ上その精神性は複雑であり、外見もシナリオの要請より、「銀髪&オッドアイ」という非常に特殊なものに設定されています。
そして性格や外見が非凡なだけではなく、作中におけるアリス・シャロットは常に物語の中心にいます。ストーリー上、「攻略キャラとの恋愛模様」ではなく「アリス・シャロットがどうするのか」に大きな比重が置かれている……とでも言えばいいでしょうか。
ともかく『AliceNightmare』は、アリス・シャロットとキャヴェンディッシュ伯爵家の有様を描くことを第一とした作品であるというのが個人的に強く感じたことでした。主人公の兄クリストファー、両親の伯爵夫妻、執事のアルバート……という風に、アリス・シャロットに近しいキャラほどストーリーにおける重要度が高くなるあたりも顕著だと思います。
乙女ゲームには、「カウンセリングゲー」と揶揄されるタイプの作品がけっこう多いイメージです。攻略キャラが何らかの問題を抱えていて、主人公との交流によってそれが解消され、愛情が芽生える……という構図の作品ですね。攻略キャラの個性を掘り下げつつドラマを描くには、そういう構図にするのが手っ取り早いです。
ところが、この作品において誰よりもカウンセリングを必要としているのは主人公であるアリス・シャロットです。そして攻略キャラは、基本的にアリスを心配し彼女の問題を解決してやりたいと願っています。そのためか、攻略キャラとの恋愛は大事な要素ではあるものの、「あくまでアリス・シャロットの救済の一手段である」という印象を受けました。
恋愛要素よりも主人公の再起に重きが置かれている点において、『AliceNightmare』は普通の恋愛SLGとは少し毛色の違う、独特の面白さがある作品だと思います。
アリス・シャロットは個性こそ強いですが、稀に見る善良な主人公です(その善良さにもちゃんとした理由がありますが)。そして、この上なく不幸な主人公でもあります。伯爵家の住人(両親除く)がアリス・シャロットを心底愛しているのも納得であり、まっとうに好感の持てる主人公でした。
プレイヤーが寄りそう恋愛SLGの主人公は、好感の持てる人柄であることが何より大切(というより無難)だと私は思います。一人称で楽しむにしても、第三者視点で応援するにしても、一旦主人公に嫌悪感を抱いてしまうと気持ちよくプレイできないからです。
アリス・シャロットについては、プレイ中に彼女の言動が気に障ることはなく、物語が彼女の救済を目指して進むことに対し何の異議もありませんでした。
キャラクター感想
この項目では、印象に残った攻略対象キャラのルート&エンディングについて感想を書きます。すべてのキャラの感想はありません。また、派生のボイスドラマは未視聴です。ルートやエンディングの内容に言及しているので、再三の注意になりますが、ネタバレにご注意ください。
ちなみに、好きなキャラは「クライド・レッドフォード」と「アリス・イヴリン」です。また、好きというかついつい注目してしまったのは「クリストファー・アーネスト・キャヴェンディッシュ」でした。
アリス・イヴリンについて
AliceNightmare
「アリス・イヴリン」は、もう一人のアリスです。伯爵家という鳥籠に囚われたアリス・シャロット、その心の中に閉じ込められているアリス・イヴリン……という関係性。哲学めいたことを言う達観したキャラクターです。
自己防衛のための人格であるアリス・イヴリンが、終盤に強い自我を持って湿っぽいことを言い始めたのにはやや違和感を覚えました。しかし、個の人物として見るならアリス・イヴリンはとても魅力的なキャラクターだと思います。
アリス・イヴリンの言い回しはどこか詩的なので、含みのある台詞を見るのは楽しかったです。表の人格である良い子ちゃんのアリス・シャロットを少しだけ妬みつつ、それでも惹かれずにはいられないところも人間臭くて好きでした。
二人して狂気に囚われるアリス・イヴリンエンドは、イヴリン自身も狭い世界に閉じ込められている囚人であることが浮き彫りになる結末だったと思います。「アリス」の救済のためにアリス・イヴリン自身が取れるアクションは少なかったのだろうな、と。
もう一つの「計画通り」エンドは、アリス・シャロットの人格が眠った(消えた?)こともあり、あまり好きではないエンドです。
個人的には、圧倒的光属性のクライドで闇属性のアリス・イヴリンを攻略したいと思ってしまいました。楽しそう。
クリストファー・アーネスト・キャヴェンディッシュについて
AliceNightmare
「クリストファー・アーネスト・キャヴェンディッシュ」は、アリス・シャロットの兄(伯爵家の長男)です。シナリオにおけるバッドエンド要員であり、彼に近づくほどアリス・シャロットの運命はよくない方向へと転がることになります。
当初はガチ近親キャラだとは思いもよらず、「言動が不穏だな」、「目つき怖いな」、「ちょっと愛が行き過ぎではないかな」と思っていました。一周終わってみれば、ヤンデレるのもシスコンになるのもやむなしの、不幸の星の下に生まれた兄貴だということが分かりました。
このゲームで一番驚いたのは、クリストファーは(ある意味)攻略対象キャラではないことを知ったときでした(制作スタッフ様のコメントより)。
どういうことかというと、クリストファーにはハッピーエンドがないんですね。他の男性キャラを攻略すると、ほぼクリストファーは亡くなります。クリストファーを攻略しようとすると、アリスが命を奪われるバットエンドに行き着きます(おそらく兄貴もその後を追って命を落とします)。
八割命を失い、一割妹を失い、一割悲惨な家庭生活に入り、ワンチャンまともに生きているかもしれない。それがクリストファーというキャラクターです。
そもそもアリス・シャロットは不幸、クリストファーも不幸なので、この2人がくっつくと不幸×不幸の泥沼一直線。救いようのない相乗効果が発生してしまいます。もっと言うと「兄と妹」という関係上、倫理的あるいは社会的にクリストファーが報われてはならないという根本的な問題もあります。
とはいえ、他キャラクターを攻略する横でバタバタと倒れていくクリストファーを見ていると涙を禁じ得ませんでした。父親の命をその手で奪った以上、一定仕方がないところはあると思います。しかし、大体において悪いのは親の伯爵夫妻です。散々心身をすり減らした挙句、唯一の救いであるアリスにまで捨てられる兄貴はぶっちゃけ可哀想でした。
もっとも、そういった不幸が映えるキャラなのは確かです。私の場合、「このキャラもしかしてバッドエンドしかないのか……」と気づいた瞬間、クリストファーのことが気になったので。
年の離れた妹を女性として好きになるクリストファーはちょっと歪んでいるとは思います。他の女性キャラに告白された後、本命のアリス・シャロットにペラペラと言い訳を並べ立てるシーンは面白かったですが。
アリスの歪みは「アリス・イヴリン」という形で表出し、クリストファーの歪みは「妹への恋心」という形をとって表れたのかなーと終盤になって思いました。子供たちに重すぎる業を背負わせた伯爵夫妻はつくづく罪深いです。
クライド・レッドフォードについて
AliceNightmare
「クライド・レッドフォード」は、ピアニストを目指す学生であり音楽の天才です。孤児院出身ですが、キャヴェンディッシュ伯爵に才能を認められ援助を受けています。
1周目になんとなく「音楽室」を選択し、そのまま攻略したキャラクターです。クライドを一言で言い表すなら、「光のアリスことアリス・シャロット並に性格のいい青年」でしょうか。個人的にはこのゲームの良心じゃないかと思っています。
クライドがどのくらい善良な人物かと言うと、あのアリス・イヴリンにも好かれるくらいです。辛辣な彼女が「クライドの曲が好き」と言うからもしや……と思っていましたが、本当にある程度好いていたと後で聞かされて驚きました(2人のアリスエンド手前の選択肢で、音楽室を訪ねると話を聞けます)。アリス・イヴリンの存在を真っ向から否定しなかったのはクライドだけなので、納得と言えば納得です。
アリス・シャロットと年が近いこともあり、クライドのルートではかなりの正統派純愛物語が展開されます。プレイ中はひたすら2人を応援してしまいました。
クライドの控えめながらも芯の強い性格とアリス・シャロットへの一途な想いは、一周回って新鮮な恋する青年像だったと思います。瑞々しい2人のやりとりは重苦しい雰囲気を一時払ってくれる清涼剤でした。
要所要所で男前かつ大人びた態度を見せるクライドですが、クリストファーとの対決シーンでは特に輝いて見えました。なぜかと言えば、クライドルートではアリス・シャロットがクリストファーを批判する隙がないからです。
他キャラのルートでは、最後の命綱である妹に批判されて大ダメージを受けるクリストファーが気の毒でならないところがあります。「展開上どうあがいてもバッドエンドが確定しているのに、クリティカルな追い打ちをかけなくてもいいんじゃないかな」と思ってしまうので。
その点クライドは、兄としてのクリストファーを立て、必要以上にやり込めることなく言葉での説得に成功します。まだ若いのに相手の気持ちを考えてしっかりとした対応ができるクライドの株が上がりました。
エンディングでは、ちょっと擦れて暗い大人になったアリスのもとに迷わず帰ってきたクライドにほっとしました。ある意味ではアリス・イヴリン要素の強いアリス・シャロットと結ばれたと言えるのでしょうか。おまけスチルの幸福感には思わず笑顔になりました。
アルバートとオスカーも素敵なキャラですが、少ししっくりこなかったので感想は省きます。
*****改めてまとめると、『AliceNightmare』は世界の狭さ、およびそこから生じる人間関係の濃さや重苦しい閉塞感が印象に残る作品でした。「鳥籠の鳥の話」という作品のキーワードから考えても、この閉鎖的な雰囲気は意図してのものなのだろうと思います。
もともと一つの家庭を舞台に展開する作品なので、物語世界の範囲は限定的です。しかし、作品世界の広さによってその作品の豊かさや面白さが決定されるわけではありません。『AliceNightmare』は、濃密な人間関係と複雑な人間心理を深く掘り下げたとても面白い作品でした。
※『AliceNightmare』の後日譚にあたる、『お茶会への招待状』の感想記事も書いています。
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