『WIZMAZE』(ウィズメイズ) マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説 その1
マルチシナリオ型ダークファンタジーRPG、『WIZMAZE』(ウィズメイズ)のレビュー記事(感想込み)です。ネタバレを含みます。制作者はJakalope(ジャカロープ)様。作品の公式サイトはこちらです。 → WIZMAZE
WIZMAZE
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『WIZMAZE』は、マルチシナリオ形式のダークファンタジーRPGです。主人公は見習いウィザード。正式なウィザードへの昇格を目指し、仮想領域“ウィズメイズ”の試練に挑みます。
エンディングは3つ。全エンディングクリア(とアイテム収集)には10時間弱かかりました。
『WIZMAZE』は、第11回ふりーむ!ゲームコンテスト最優秀賞受賞作品です。以下に挙げるような、ファンタジーRPGとして理想的な要素を多く兼ね備える作品だと思います。
- 完成度が高く奥行きのある世界観設定
- 主人公の選択によってガラリと様相を変える緻密なシナリオ
- クオリティーの高いイラスト群
- 魅力的なキャラクター
『WIZMAZE』の感想を一言で言うなら、「超面白い!」でした。時間を置いて違うバージョンで2回全クリしましたが、2回目も夢中になってプレイしました。特に2回目は追加要素を拾っていくのがすごく楽しかったです。
『WIZMAZE』に関しては、現在追加コンテンツの制作が進行中だそうです。詳細は公式サイトや制作者様のブログに掲載されています。新規シナリオも追加されるらしいので非常に楽しみにしています(個人的には、アルガンの掘り下げがありそうな「ガンジールの英雄編」がすごく気になります)。
この記事は、「追加コンテンツに向けた世界設定&キャラ設定のおさらい」および「『WIZMAZE』の魅力について考える」を主な目的として書きました。最近再プレイしたので、早い話がそのまとめメモのような内容です。
※『WIZMAZE』感想記事一覧
・その1:『WIZMAZE』 マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説(現在閲覧中)
・その2:『WIZMAZE』 ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート/Bルート/Cルート)
・その3:『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男)
・その4:「人間界の王」とは何か? 『WIZMAZE』の伏線&元ネタ考察
『WIZMAZE』のあらすじ
最初に、『WIZMAZE』のあらすじを書きます。
WIZMAZE
主人公は帝都クレルモフェランの魔道士養成所、≪宵闇の学院≫に所属する見習いウィザードです。物語が始まるその日、主人公は正式なウィザードへの昇格を目指し、ある試練に挑むことになります。
その試練とは、仮想領域“ウィズメイズ”の通過。
仮想領域“ウィズメイズ”は、立ち入る者の力量や記憶に応じてその姿を変える異空間です。かつて学院に在籍した天才魔道士の傑作であり、その開発によって、見習いウィザードの生命を危険に晒すことなく資質を試せるようになりました。
試験当日、他の見習い2人より少し遅れて試練を開始した主人公。ウィズメイズを探索する彼/彼女は次第に、「絶対安全」と謳われる仮想領域の内部に存在する不穏な気配とほころびに気づき始めます。
WIZMAZE
仮想領域の最深部に潜むものとは? 仮想領域の開発の裏にある真の目的とは? そして、主人公自身に秘められた真実とは?
他の見習いたちと協力して歩むか、それともただ一人で試練の突破を目指すか、あるいは血に塗れた覇道を選び取るか。主人公の選択によって、『WIZMAZE』のストーリーは3つのルートに分岐します。
領域・領域存在・ヒト勢力 『WIZMAZE』世界の概要
この項目では、魅力溢れる『WIZMAZE』の世界(観)設定について自分なりにおさらいしてみようと思います。「アーカイブ」で閲覧できるゲーム内資料のネタバレを含みます。
最初に、「『WIZMAZE』世界の外枠」を確認しましょう。魔道士たちは古くから、「宇宙(アーグカマル)には様々な世界(=領域、カマル)が存在し、その領域ごとに神(=領域存在)がいる」と考えてきました。
たとえば、主要な領域である星霜界(エタニティ)・虚無界(ヴォイド)・喚鳴界(レゾナント)には、それぞれ「アドラール」・「虚眼ノ王」・「ダァト」という固有の領域存在がいます。
ただし例外として、『WIZMAZE』の舞台となる人間たちの領域(=人間界、衆生界、モータリティ)には、領域存在が存在しません。そのため、人間界とヒトは古くから他の領域による後援・干渉を受けてきました。
ヒトの栄枯盛衰の歴史は事実上、人間界に干渉する領域存在(神)の変遷の歴史でもあります。過去の大きな戦争ごとに人間界の支配者は移り変わってきました。そしてそれに合わせて、支配者を後援し人間界に強い影響を及ぼす領域存在も交代してきたのです。
では『WIZMAZE』の宇宙には、具体的にどのような「領域」および「領域存在」が存在するのでしょうか。また、人間界にはどういった「種族」が暮らしているのでしょうか。
まずは、「領域」および「領域存在」についてまとめてみます。物語中で話題になる領域はだいたい以下の6つです(実は領域はもう1つほど登場しますが、まだまだ発展途上らしいのでここでは省きました)。
宇宙の6大領域
①真理界(ウィズメイズ)
謎に包まれた原初の領域。人間界と同じく、例外的に領域存在がいない。すべて領域に生きるものは、真理界から来たりて真理界へ還ると伝えられている。
②星霜界(エタニティ)
星霜王アドラールが支配する領域。アドラールは現在アーケンを統べるクレルモフェラン帝国、および≪宵闇の学院≫の後援者である。アドラールに選ばれた人間は、光の使い手≪サーニルン≫と呼ばれる。
③虚無界(ヴォイド)
虚眼ノ王(コガンノオウ)ことオグドル・ヤハドが支配する領域。虚眼ノ王には3人の子がおり、それぞれがヴォイド内に自らの領域を持っている。虚無界の力を用いる者は「虚眼の魔道士」と呼ばれ、現在の人間界では忌み嫌われている。
④喚鳴界(レゾナント)
金色竜ダァトが支配する領域。ダァトはアルガンを始めとする獣人たちに信仰されているが、その詳細は謎に包まれている。ダァトに選ばれたアルガンはゴールデンスケイルとなり、半人半竜のドラゴノイドとして無類の強さを発揮する。
⑤人間界(モータリティ)
物語の舞台。帝国人、腐海人、獣人など様々なヒトが暮らしている。人間界にはなぜか領域存在がおらず、他の領域と比べて特殊な点も多いらしい。
⑥精霊界(アストラル)
火・水・空・土・無の五大精霊が司る領域。他の主要領域と比べ劣ったものと見なされていたが、近年研究が進み、六つ目の大きな領域として認知されつつある。腐海の呪術師であるラビの一族は、精霊界の火の精霊と特別な結びつきを持つ。
続いて、「人間界の各勢力」を書き出してみます。
人間界の勢力
Ⅰ.クレルモフェラン帝国
現在アーケンを支配している国。初代皇帝リアトリスは、星霜界の王アドラールに選ばれて光の使い手となり、アルガンを打ち破ったとされる。成立の経緯から魔道士ギルドとの関わりが深い。かつて奴隷制を敷いていたが、二十年前の「刻月戦争」の勃発と終戦後の条約締結により、階級制度を撤廃した。
Ⅱ.アルガン
背中に翼を持つ屈強な獣人たち。いくつかの部族に分かれている。ダァトを主神とする竜神教を信仰し、数百年前にはアーケンの覇者であった。刻月戦争では、奴隷身分の第三階級として腐海人などと提携しつつ帝国軍と戦った。中心勢力である「北の修道院」は、現在北方のガンジールを実効支配している。
Ⅲ.腐海人
疫病と貧困の巣窟である、腐樹海に住む者たちの総称。刻月戦争では、土着の呪術師一族である「ラビ」が取りまとめ役となって帝国軍と戦った。戦後は支配構造の変化により腐海人内部で対立が生じているらしい。また、犯罪と麻薬のはびこる悲惨な生活状況はほとんど改善されていないという。
そして、上述した「外領域」と「ヒト勢力」の結びつきをざっくりと図示すると、下の画像のようになります。
要するに、「星霜界」はクレルモフェラン帝国と、「喚鳴界」はアルガンら獣人族と、「精霊界」の火の精霊は腐樹海のラビの一族とそれぞれ深い繋がりを有していると言えます。
また、歴史上、人間界の支配者(と後援者たる領域)は、「虚月のトリトニア」(虚無界)→「アルガンin天空の古寺院」(喚鳴界)→「クレルモフェラン帝国」(星霜界)……と移り変わってきました。
支配者層が移り変わるごとに必ず戦争が起きていますが、それは「領域存在同士の代理戦争 in 人間界」と言ってもいい争いかもしれません。
ちなみに、主人公やメインNPCはみな「魔道士(ウィザード)」です。魔道士とは、他の領域から力を引き出し、魔法として用いることのできる人々の総称です。「どの領域からどれだけ力を引き出せるか(=領域親和性)」は、種族によって異なります。
正規の帝国魔道士はアドラールと縁の深い≪宵闇の学院≫に所属しているため、もっぱら星霜界由来の魔法を使います。一方、虚眼ノ王が支配する虚無界の魔術を用いる者は、「虚眼の魔道士」と呼ばれます。アドラールと虚眼ノ王は鋭く対立しているため、虚眼の魔道士は現在の人間界においては迫害の対象です。
仲間になるキャラクターとルート分岐
『WIZMAZE』には、様々なキャラクターが登場します。そのうち、主人公+メインキャラクター(ルートによってはパーティメンバーになってくれるキャラ)の4人について、「パーティ加入経緯」や「ルート分岐との関わり」を中心に説明します。
※「キャラクターの経歴」や「戦闘ユニットとしての評価」、「キャライベント」、「ギフト会話」を含む感想は、ネタバレ多めなので以下の記事の方に書きました。
≪関連記事:『WIZMAZE』 キャラクター感想(ナジーシャ・アルマヴィタ・痩身の男) ※ネタバレ注意 その3≫
主人公
プレイヤーが操作する主人公は、ウィズメイズの試練に挑む見習いウィザードの1人です。試験当日に遅刻してカレンに呆れられる大物でもあります。
黒いローブとフードに身を包んだ主人公。実は、性別も素性も明かされない謎の人物です。亜人(獣人)や腐海人ではないため一応帝国人として扱われているものの、どこの出身かは知られていません。主人公自身、自分のパーソナルデータを把握していない可能性さえあります。
そんな主人公の特徴は、他の魔道士とは異なり、なぜか全外領域に通じ自由にその力を引き出せる*こと。ヒトの中でも異質である彼/彼女の存在理由とは何か。その秘密もウィズメイズの試練を乗り越える中で紐解かれることがあるかもしれません。
*ヒトはもともと、全外領域と浅い繋がりを持っています。どの領域由来の魔法でも初歩レベルであれば使えるのは、ヒトのそういった性質ゆえです。
もちろん高度な魔法ともなると、その領域との親和性がなければ扱えません(例:アルマヴィタたちアルガンは喚鳴界との領域親和性が高く、ナジーシャたちラビは精霊界の炎の精霊と特別な結びつきを持つ)。だからこそ、虚無界・星霜界・精霊界の強力な魔法を同時に操ることのできる主人公は、ヒトの中でもとびぬけて特異な存在であると言えます。
ちなみに、ある領域に属するものは、基本的に自らの領域以外の力を使うことはできないそうです。たとえば、虚無界の住人は星霜界や喚鳴界由来の魔法を使用できません。唯一の例外は上にも書いたように「人間界に住むヒト」であり、微弱ながら全外領域に通じて力を使うことができます。これは人間界が全領域の中でも異質と言われる理由の一つです。
ガンジールのアルマヴィタ
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「アルマヴィタ」(以下「アルマ」)は主人公と同じ見習いウィザードであり、背中に翼を持つ「アルガン」の青年です。大柄な体躯を活かして触媒付のウォーハンマーを振るう一方、癒し手としてパーティの後方支援を担当します。
アルマは心優しく純朴なキャラクターです。争いを好まないものの、約20年前に勃発した「刻月戦争」(奴隷解放戦争)に従軍した経験があります。かつて帝国が敷いた奴隷制を批判する一方、故郷ガンジールと同胞のアルガンらに対しても複雑な思いを抱いています。
アルマはBルート限定の仲間キャラクターです。より正確に言うと、アルマ(or ナジーシャ)の仲間入りが確定すると、Bルートに分岐します。
アルマが初めて登場するのは、ウィズメイズ上層を抜けた先の「セントラル」です(各ミニ領域への魔法陣があるエリア)。その後、先に腐樹海ではなく「天空の古寺院」を選んだ場合、セントラルで声をかけてもかけていなくても、ダンジョン入り口でアルマに呼び止められます(セントラルで話したか否かで会話内容がやや変化)。
アルマの協力の申し出を承諾するとBルートに突入し、2人パーティで進むことになります。天空の古寺院をクリア後、「腐樹海」攻略の途中でナジーシャも確定でパーティインします。
また、ダンジョン入り口でアルマの申し出を断ったとしても、ダンジョン終盤で傷ついたアルマと再会したときに助ければ、Bルートに戻ることが可能です。その場面でもアルマを見捨てた場合、見習い仲間と協力しないCルートに突入します。
ちなみに先に「腐樹海」を攻略した場合、ナジーを仲間にすればアルマも後々パーティインします。逆に言うと、ナジーと協力しなければ「天空の古寺院」でアルマを仲間にできません。
ラビのナジーシャ
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「ナジーシャ」(以下「ナジー」)は主人公と同じ見習いウィザードです。腐樹海に住まう呪術師の一族・「ラビ」の女性であり、漆黒の肌と赤い瞳を持っています。種々の炎魔法を使いこなすほか、一族独自の刺突剣を用いた物理攻撃にも長ける魔道士です。
勝気な性格でハングリー精神旺盛なナジーは、同じラビである黒のオブシディアに憧れており、彼と並び立つ強いウィザードになることを望んでいます。
アルマと同じく、ナジーはBルート限定の仲間キャラクターです。より正確にはナジーの仲間入りが確定するとBルートに分岐し、同時にアルマの加入も確定します。
ナジーが初登場するのは、セントラルから左の魔法陣で「腐樹海」にワープし、いくらか進んだ大沼手前のマップです。野営中の彼女をスルーしてもしなくても、大沼に入る直前で呼び止められます(事前に話しかけたか否かで会話内容が変化する)。
ナジーシャの協力の申し出を承諾するとBルートに分岐し、以降は2人パーティで攻略を進めることになります。腐樹海をクリアした後、「天空の古寺院」攻略の途中でアルマもパーティインします。
アルマと同じく、序盤で協力をはねつけてもダンジョン終盤で再会することができます。衰弱したナジーシャを助けてあげればBルートに戻ることが可能です。そのまま見捨てた場合はCルートに分岐します。
また、先に「天空の古寺院」を攻略した場合、アルマを仲間入りさせなければ後の「腐樹海」でナジーを仲間にできません。
痩身の男
WIZMAZE
「痩身の男」は、仮想領域内の錬金術師の小屋に住んでいます。フードと包帯で顔と身体を隠し、古風な言葉遣いを用います。冗談好きで酒好きのミステリアスな人物です。
痩身の男は、Cルート限定の仲間キャラクターです。見習いウィザード(アルマorナジー)との協力を拒否すると、彼が終盤でパーティインし助けてくれます。
もう少し詳しく書くと、セントラルから天空の古寺院に進んだ場合はアルマが、腐樹海に進んだ場合はナジーシャが、それぞれ主人公に協力を持ちかけてきます。最初に声をかけられたときに誘いを断り、ダンジョン終盤で再会したときにも傷つき衰弱した彼らをスルーすると、Cルートに分岐します。
2回目の拒否シーンでは、「アルマorナジーを治療せずに進んでOK?」と確認されます。承諾すると2人は息絶え、Cルートへの道が開かれます。
Cルート確定後、腐樹海の左奥に位置する「錬金術師の小屋」を訪ねると、痩身の男に会うことができます(Cルート以外ではこの小屋は無人です)。錬金術師の小屋では、痩身の男と話をしたり、彼からアイテムを購入したりすることができます。
また、ここで「試練の突破を手伝ってくれ」と頼むこともできますが、この時点では痩身の男は首を縦に振ってくれません(ここで手伝いを頼んだか否かで、のちにパーティインするときの会話が変化)。
ウィズメイズ上層、天空の古寺院、腐樹海。3つのダンジョンをすべてクリアした後にウィズメイズ下層へ進むと、痩身の男が現れてパーティインしてくれます。
痩身の男には、特定の選択肢を選ぶことで発生する重要なキャライベント(主人公の秘密とも絡む)が用意されています。選択肢の選び方は、アーカイブにヒントが記載されています。
『WIZMAZE』の魅力
『WIZMAZE』は、「ダークファンタジーな作風」と「マルチシナリオ形式」が特徴的なRPG作品です。
クリアまでの所要時間を基準にするなら、ボリュームは中編程度です。しかし、プレイ中の体感ボリュームはそれをはるかに超えるものでした。内容がとにかく濃密でルートによって物語の雰囲気がまったく違うため、「これはなんとしてもすべてのエンディングとイベントと資料を見なければ」とつい夢中になってしまいます。
物語内資料が豊富に揃っている、歴史・神話の掘り下げバッチリ、主人公の選択が細やかに会話・シナリオに反映される……等、『WIZMAZE』は個人的に好きな要素がバッチリ網羅されているゲームでした。洋ゲーやファンタジー映画っぽい空気感もあり、非常に面白いRPGだと思います。
広大な"世界"の描き方
『WIZMAZE』のストーリーはほぼ、仮想領域"ウィズメイズ"という名のバーチャルリアリティーを舞台に展開されます。しかし当然、仮想現実の外には現実の世界(人間界)があり、その世界の外にもまた別の世界群(星霜界、虚無界など)が存在します。
ゲームで活動できる範囲は、「宇宙(アーグカマル)>人間界>仮想領域"ウィズメイズ"」と入れ子状になっている世界の一端でしかありません(世界の構造に関しては、先ほど「領域・領域存在・ヒト勢力――『WIZMAZE』世界の概要」で述べた通りです)。
『WIZMAZE』の世界は、「宇宙レベルの話」(領域間の関係や成り立ち)と「人間界レベルでの話」(国の盛衰やヒトの歴史)が複雑に絡み合って創り出されています。このゲームの最大の魅力は、そういった土台となる世界(観)設定がよく練られているところだと個人的には思います。
世界がどのように構成されているのか。キャラクターたちはそれぞれどのように世界を眺めているのか。何を疑い何を信じているのか。
マクロレベルからミクロレベルまで背景設定を固めた上で、それらがプレイヤーの興味をそそるように過不足なく描き出されています。世界設定の掘り下げとキャラの掘り下げが絶妙にリンクしている(NPCの目と口を通して世界を物語りつつ、同時に各キャラの思想や信条を描き出している)点も見事です。
ところで、プレイ中に仮想領域の外に行く機会はほとんどありません(導入とAルート終盤を除く)。しかしそれが逆に、プレイヤーの想像と知識欲を絶妙に刺激し、作品世界に興味を持たせることに繋がっている気がします。
というのも、さまざまに与えられる資料や情報、ダンジョンの攻略を通し、プレイヤーはおのずと外の世界に興味を持つことになります。アルマと話すことでアルガンやガンジールや天空の古寺院に、ナジーと話すことで腐樹海やラビに……と、興味の対象は広がり、やがては、不完全な仮想現実ではなく「実際に外の世界に出て冒険してみたい」と思うようにもなります。
そういったゲーム中では叶えられない欲求を抱いた時点で、『WIZMAZE』への没入度はかなりのものになっているはずです。
あくまで個人の意見ですが、「この地図の外にも行ってみたい」と思わされるRPG作品はたいてい良作だと思っています。同じフリゲRPGで例を挙げると、たとえば『Ruina 廃都の物語』をプレイしているとき、「ホルム領を出てネス公国内や西シーウァ王国にも行ってみたい」と心底思いました。
≪関連記事:『Ruina 廃都の物語』 感想 考察≫
「実際に行けないところも旅したい」とプレイヤーに思わせるRPGは、「ここまでしか行けない」という舞台の制限をうまく利用し、プレイヤーの作品への興味をかき立てることに成功していると思います。
『WIZMAZE』の場合、仮想現実設定を活かし、外の世界の見どころをトリミングして配置しているのも巧いです。そしてやはり、「仮想領域"ウィズメイズ"」に舞台が限定されているからこそ、逆に世界の広大さを感じられるつくりになっていると思います。仮想領域"ウィズメイズ"はいわば、大陸アーケンのリッチなツアーカタログみたいなものかもしれません(特典付録:虚無界ツアーチケット)。
プレイ中は、帝都クレルモフェランや北方のガンジール、陰惨な現実が広がる腐樹海に行ってみたいなーとうずうずしました。今でもその思いは鮮やかなので、追加シナリオで見て回ることができればいいなと期待しています。
シリアスなファンタジー世界
神や魔法が存在し、アルガンのような亜人もいる『WIZMAZE』のファンタジー世界。しかしプレイヤーに提示されるのはけしてお気楽な世界ではなく、シリアスでややダークな、言ってしまえばリアリティーのある世界です。
プレイし始めてまず興味を引かれたのは、階級制度や差別問題が背景設定に盛り込まれていることでした。現在大陸アーケンを支配しているのはクレルモフェラン帝国ですが、メインキャラには「帝国人」と呼べる人間はいません。。仲間枠と重要ポジションは、少数者(マイノリティー)で占められており、主人公は彼らの視点に寄り添ってストーリーを眺めることになります。
差別問題が垣間見えるのはなんといっても序盤、導入部の進行役である上級魔道士カレンが、その場にいないアルマヴィタとナジーシャを指して「獣人」・「未開人」と口にする場面でしょう。
カレン自身は特に毒のないキャラとして描かれています(先の発言に関しても、うっかり漏らしてしまったという感じですぐに反省する)。だからこそ、初見ではその差別的な発言に驚きました。元・被差別階級に対するクレルモフェラン人(帝国人)の差別意識をさり気なく示唆する、うまいシーンだと思います。
カレンの言葉からもわかるように、アルマとナジーの2人は、かつての第三階級(奴隷身分)にルーツを持っています。
背景設定として、約20年前に発生した「奴隷解放戦争」をきっかけに階級制度が廃止されたものの、いまだ差別意識は根深く、かつて奴隷だった人々の生活も上向かず……という経緯&現状があります。また、アルマとナジーは現在帝都の魔道士養成所で学んでいますが、マイノリティーとして不自由や不快感を覚えることが多いようです。
「帝国」および「帝国人」という「強者」に対し、アルマとナジーはそれぞれ複雑な眼差しを注いでいます。
『WIZMAZE』の本筋は、あくまで「仮想領域"ウィズメイズ"の通過」です。しかしその中途のイベントやギフト会話を通し、彼らはかつて起こった戦争や社会の現状について思うところを語ってくれます。立場を踏まえつつの芯の通った思いや意見に触れるたびに、『WIZMAZE』にどんどんと没入していく自分がいました。
どのイベントも興味深いですが、とりわけナジーと腐樹海関連の話は見ごたえがありました。帝国の分断統治によって内部対立している腐海人とか、安価な労働力確保のために人身売買をあえて取り締まらない帝国とか、なかなか現実味のあるエグい設定だと思います。
国同士、種族同士の対立を主軸にするストーリーは和製RPGでもよく見ますが、「階級制度」に焦点を当てているゲームって案外見ない気がするので、『WIZMAZE』のストーリーはけっこう新鮮でした。
異種族が共存する世界、仲間キャラの出自や容姿が多種多様、世界設定の作り込みがスゴイ……といった点も含め、どことなく「The Elder Scrolls」シリーズ系統の洋ゲっぽい趣きがあるなーと思いました。たとえばエドたち腐樹海の鱗人の設定(疫病の大沼に棲む/帝国人が発音できるような偽名を使用する)も、同ゲームの種族の一つである「アルゴニアン」を彷彿とさせるところがあります。
マルチシナリオ形式の骨太なストーリー
『WIZMAZE』は、マルチシナリオ&エンディング形式を採用しています。ストーリーは一本道ではなく、主人公の選択によって未来は大きく変化します。
あるルートでは仲間と協力する王道的な道を歩み、またあるルートではNPCを葬って孤独に覇道を突き進むことができます。またあるシナリオでは、主人公自身の秘密に分け入ることも可能です。
ルートによって物語の趣きや切り口がガラリと変わるので、プレイヤーは周回ごとに未知の事柄を知り、まるで異なる結末を迎えることができます。その振れ幅の大きさに魅了され、プレイ中は「ぜひともすべてのルートを見たい」と強く思わされました。
これだけ色合いの異なるルートを内包しつつも、『WIZMAZE』は全体として非常にまとまりのよいダークファンタジー作品に仕上がっています。
それは先述した背景設定の充実ぶりと、「人間界を巡って対立する外領域勢力」&「人間界の存亡の鍵を握る主人公」という、『WIZMAZE』の根幹を貫くブレのない設定のおかげでもあると思います。
縦軸となるのは、「宇宙における『真理界』と人間界における『主人公』」です。そして宇宙次元では「星霜界・虚無界・喚鳴界を巻き込む大規模な争いの予感」が、人間界次元では「帝国とそれ以外の人々の対立」(かつAルートで覚醒した主人公による波乱)が、それぞれ横軸として用意されています。ボリューミーなゲーム体験ができるのも納得の濃厚さと言えます。
個人的に見事だと思うのは、用語や隙間設定が凝っている一方で、ストーリーの要点はシンプルで理解しやすい点です。
たとえば人間界には数千年規模の歴史があり、民族間の支配関係が様々に入れ替わってきました。しかしその歴史は、「『強大な支配者階級(民族)に対して奴隷が反乱を起こす』という事象が三度繰り返された」とシンプルに総括することができます。
そしてヒトの歴史に潜む摂理について、あるキャラは「ヒトがヒトを支配することを真理(ウィズメイズ)が決して許さぬからだ」とこれまたシンプルに(かつ的確に)書き表します。簡素に核心をつく発言にうならされるとともに、一気に作品への理解が進んだような気がしました。
『WIZMAZE』は、単に細部を難解にするのではなく、ストーリーをカッチリ編んだ上で合間の内容を充実させたゲームだと思います。その結果、奥行きと深みのある面白い作品に仕上がっている印象を受けました。
もちろんその合間の内容も濃くて複雑なので、世界観設定を把握するには、ある程度資料を読むことも必要です。しかし、そうやって理解を深めたいと思えるだけの魅力があり、実際に理解を深めることが非常に楽しいゲームでした。
私自身、アーカイブ内の資料を逐一メモったり、イベント&ギフト会話を網羅したりと楽しいプレイ時間を過ごしました。これだけ緻密にバックグラウンドが組まれているフリゲもなかなか無いので、つい熱も入ります(プレイ&クリア自体はけっこう以前に済ませて感想記事を書き始めたのに、実際の更新が大幅に遅れたのはだいたいそのせいです)。つくづく面白いゲームだと思います。
*****『WIZMAZE』はストーリーやキャラも良いですが、ユーザビリティーに優れた作品でもあります。実際にプレイされた方にはわかると思いますが、プレイヤーへの気遣いが細やかで、実に快適にプレイできるんですよね。
たとえば、ウィズメイズ上層での説明書きの見せ方とかスマートすぎてびっくりしました。始めたばかりなのに「これは良いゲームだ」と直感したレベルです。イベント発生地点が表示されていたり、イベントや戦闘前に確認を取ってくれるあたりも気が利いています。おつかい感やお節介感はまったくないのに、RPGをプレイしていていて引っかかりがちな「かゆいところ」に、ことごとく手が届いているような作品でした。
また、BGMや効果音の演出も見事です。石の床を歩いているとき、腐樹海の湿った地面を踏みしめるときなど、SEの良さや切り替わりの細やかさに感じ入りました。タメとスピード感を意識した音の演出も印象的です。
あと、リアル寄りのイラストや細やかなドット絵も好きでした。リアル調で凝ったキャラクターの立ち絵や、ドット絵でのアニメーションも素晴らしかったです(カリスとケイランの言い争いのシーンとか)。
ここまで色々と書きましたが、『WIZMAZE』はとにかく面白い作品でした。もはやこれしか言っていないような気がしますが、追加コンテンツが楽しみです。
次回の記事では、「3つのルート&エンディング感想」を中心に書く予定です。ネタバレがガッツリ含まれます。
記事その2:『WIZMAZE』 ストーリー攻略&エンディング感想(Aルート・Bルート・Cルート)
以下は拍手コメントへの返信です。
> 09/30にコメントをくださった方へ
コメントありがとうございます! お返事が遅くなって申し訳ありません。こちらこそ当ブログの記事を読んでいただけてとても嬉しいです。いつも励みになります。
> WIZMAZEは私もプレイして非常に~
おっしゃる通り、WIZMAZEはすごく楽しい&緻密で固有名詞の多いゲームですよね。私も最初は、どんどんと登場する見慣れない単語を大づかみで理解するのがやっとでした。本当に複雑かつ重厚で、理解が進むほどに面白さが増す魅力的なゲームだと思います。このまとめ方でOKかな? という不安があったので、分かりやすかったと言っていただけて安心しました。とても嬉しいです。プレイし直すと新しい発見があって楽しいですよね。私も追加コンテンツが発表されたら、おさらいプレイをしようかなーと思っています。WIZMAZEの感想は二日後(土曜日の午前)にアップする予定なので、よろしければまたご覧ください。コメントありがとうございました!
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