『ダージュの調律』 英雄になれない少年の苦悩を描くポエトリーRPG 感想&レビュー ※ネタバレ注意
アンチヒロイック・ポエトリーRPG、『ダージュの調律』の感想&レビュー記事です。制作者はローゼンクロイツ ◆Mvhdw.2dlc様。ゲームをプレイできるページ(ゲームアツマール)はこちらです。 → ダージュの調律 ゲームアツマール
ダージュの調律
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『ダージュの調律』は、の内気な少年ダージュ「苦悩と足掻きと希望の軌跡」を描いた作品です。クリアまでの所要時間は4~5時間ほど。コンプまでは5時間半かかりました。
使用ツールはツクール2000。ツール本体が同梱されていないので、他のフリゲ等からゲームフォルダ内にコピーして起動する必要があります。
追記:Yahoo!ジオシティーズのサービス提供に伴いダウンロードできなくなっていた『ダージュの調律』ですが、2021年5月、ニコニコ動画のゲームアツマールにてめでたく再公開されました(ローゼンクロイツ様の他の作品もプレイ可能)。コメントを通じて教えてくださった方、ありがとうございました!
「ダージュの“調律”」というタイトル通り、本作では主人公の適性を「調律」し、幅広い戦略を楽しむことができます。短編ですがストーリー面戦闘面ともに素晴らしく、非常に面白いRPGです。プレイ当時はあまりに面白くて一気に最後まで進んでしまいました。
フォントの粗さを見て「そういえばツクール2000作品だった」と我に帰るくらいに、随所に創意工夫が凝らされたセンスの良い作品だと思います。
以下は、『ダージュの調律』のストーリーのネタバレや攻略情報を含む感想です。未見の方はご注意ください。
『ダージュの調律』のあらすじ
『ダージュの調律』のあらすじを簡単に説明します。
ダージュの調律
『ダージュの調律』の主人公は、ダージュ(dirge:「葬送歌」)という名の内気な少年です。銀鉱山の経営者の長男ですが、これといった取り柄もなく本の虫になって書庫に閉じこもっています。友達は元野生動物のペット、エレジット(elegy:「哀歌」)だけです。
ダージュの鬱屈の大きな原因は、1歳年下の弟・セインツ(saint:「殉教者」)の存在でした。セインツは剣の達人であり、誰からも好かれる魅力的な少年です。ダージュは才能溢れるセインツに引け目を感じ、近頃はセインツを避けてばかりいます。
平凡な人間がどれほど足掻こうと、天才は涼しい顔でその先を行き、世界は知らぬ顔で進み続けます。それでは、苦悩と足掻きの果てにダージュが見つける希望とは何なのか……といったあたりが、ストーリーの見どころです。
ユニークな「調律」&戦闘システム
この項目では、『ダージュの調律』の特色である「調律」システムを中心に、戦闘システムやその他の独自要素について詳しく書きました。
ユニーク要素の「調律」について
お洒落なメニュー画面。左中央のPOWは体力、EXTは知力、SPDは敏捷。
ダージュの調律
『ダージュの調律』の戦闘面の特徴は大きく分けて2つ。1つ目の「調律」は、タイトル名に使われていることからもわかるように、このゲームでもっともユニークかつ重要なシステムです。
『ダージュの調律』には、「ギフト」と呼ばれる成長ポイントが存在します。「調律」を行うことによってこのギフトを【体力】【知力】【敏捷】のいずれかに割り振り、主人公を自由に強化することができるのです。
育成の自由度が高いゲームにおいては、「ポイントを好きな能力に割り振って強化する」というシステムは珍しくありません。しかし『ダージュの調律』のユニークさは、【敵や状況に応じて】ポイントの割り振りを【いつでも】変更できる点にあります。たとえば、魔法耐性の高い敵が出てきた場合は、直前にギフトを組み直して主人公をPOW特化の剣士にすればいいのです。
いわば好きな時に好きなジョブに転職できるようなもので、「育成の自由度が高い」というよりは、「戦略性が高い」と言うべきかもしれません。
いかに臨機応変に敵に合わせてギフトを割り振れるかどうかが攻略の鍵を握ります。ギフトはストーリーを進めることで手に入るほか、各エリアのサブイベントをこなしたり買い物をしたりすることでも入手できます。
魔法スキルと装飾品
衝撃魔法特化のボタン、属性魔法のボタン、補助効果のボタンなど。
ダージュの調律
『ダージュの調律』の戦闘のもう1つの特徴は、主人公の「魔法スキル」がほぼ完全に「装飾品」に左右されることです。主人公が装備できるアイテムは、以下の3種類に分けられます。
- 「得物」:特殊スキルに関係する
- 「石」:耐性を備える
- 「装飾品」:魔法スキルを秘める
上記3つのうち、もっとも重要なものが「装飾品」です。装飾品は、「腕輪」と「ボタン」の2つに大別されます。
装飾品にはそれぞれ最大3つの魔法が備わっています。主人公を含む人間は、装飾品からインスピレーションを受けることでその魔法を使うことができます(ちなみに、この原理には裏設定があります)。長く特定の装飾品を身につけていれば魔法スキルが習得できるわけでもなく、魔法スキルの構成は、ただ装飾品の組合せによって決定されます。
『ダージュの調律』では、魔法による状態異常が攻略の要となることが多いです。主人公ダージュ自身も魔術師タイプであるため、知力特化の魔術師として運用することを一定推奨されている感があります。
よって戦闘する上で、装飾品の構成はギフトの割り振り方に次いで臨機応変に考える必要のある要素です。攻撃魔法特化の魔術師にするもよし、仲間がいる場合は回復魔法とバフ魔法を扱う補助役に回るのもいいと思います。
装飾品ありきで魔法スキルの構成が決まるぶん、方向性を見失うことなくより的確な強化ができ、制限の下戦略を練って切り抜ける楽しみも味わえる点は、『ダージュの調律』の大きな魅力の1つです。
戦略性と自由度、『ダージュの調律』における戦闘の楽しさ
以上のように、「ギフト」と「装飾品」の2つが『ダージュの調律』の戦略性と自由度を高めているユニーク要素だと言えます。
そんなゲームの独自要素をプレイヤーに楽しんでもらうためでしょうか。ギフトとスキルの切替えが必要になる場面が多く用意されていたことは印象的でした。初期装備品が産廃になるといったRPGにありがちなこともなく、終盤になって初期装備固有のスキルが必要になるなど隅々まで工夫が凝らされているなあと感じました。
特に、事前にルールを説明された上で挑むことができる特殊ボス戦は、戦略を考えるという点において一番楽しかったです。ギフトを調整し装備品をあれこれといじった上で見事勝利したときなどは、他のRPGで漫然と強い装備で倒した場合とは達成感や喜びが段違いでした。
ツクール2000のコマンド制ターンバトルをこんなにも楽しめたのは久々でした。ありきたりではないゲーム独自の要素が存在し、そのわかりやすさと独創性によって、戦闘を面白いものにすることに成功していると思います。RPGの戦闘で「あーこれ楽しい」と純粋に思えるゲームはそう多くないですが、『ダージュの調律』は文句ナシに「戦闘が楽しい」と言える作品でした。
ストーリー&キャラクター感想
RPGに欠かせない要素と言えば、やはりストーリーの面白さではないかと思います。『ダージュの調律』はその点も抜かりない作品でした。
才能なき者の苦悩と希望を描くストーリー
制作者様の説明通り、『ダージュの調律』は「無才能者の苦悩と足掻きと希望」を描いた物語です。そのテーマ上、主人公が周囲に称賛されたり特別な力を得たりといった華々しい展開はありません。ままならない非情な世界をじっと見据えながら話は展開します。
簡潔に言えば、『ダージュの調律』は主人公がままならない現実を認め、自分自身を認めてあげるまでの物語です。つまりは、ダージュが現実に折り合いを付けて自分の居場所を見つけるまでのお話だと言えます。だからこそ作品のラスボスを務めるのは、現実に存在するケモノである巨熊なのです。
平凡なダージュにとっての「ままならない非情な世界」を象徴するのは、実の弟であるセインツです。1歳下のセインツは才能と魅力に溢れた非凡な人間であり、そのことが余計にダージュを卑屈にしました。
たとえば、ダージュとその相棒が必死になって倒した魔物を、セインツは短時間で何匹も仕留めて涼しい顔をします。もちろんセインツにはダージュを貶めようとする意図はありません。しかしそのことによって尚更、「凡人と天才の差」がくっきりと浮き彫りになるのです。
右端がダージュとエレジット、中央がセインツ。残酷な実力差。
ダージュの調律
凡人がどれだけ足掻こうと卑屈になろうと、天才、ひいては世界はどこ吹く風で我が道を行きます。だからこそ、終盤にダージュがセインツを受け入れることは、そのまま彼が自分を見つめ前に歩き出すことに繋がりました。
セインツのような天才にはなれない。そして世界は誰かがどんな悲劇に見舞われようとも知らん顔で進んでいく。だからダージュにできることは、何かを諦めつつ、それでも自分が納得できる生き方を求めて足掻くことだけでした。平凡な人間にはそれしかできません。しかし逆に言えば、それさえできれば自分なりの歩調で前へと歩き始めるのには充分だったのです。
自分を救って命を落としたセインツの仇を討つと決めたとき、ダージュは世界に居場所を得る資格を得たのだと思います。
背景設定や演出など
ダージュの調律
その他、物語上の役割を考えつつキャラが配置されていることが印象的でした。セインツだけでなく、ダージュにとってのエレジットやオラクルにもきちんと役割を見出せます(エレジットは大人になる上での避けられない別れの象徴、オラクルはつらくとも現実を生きるしかないと諭す夢の案内人)。
世界全体の姿についても裏設定があり、作中の描写と合わせて考えると腑に落ちる部分が多かったです。章仕立てでテンポよく進むので意識されませんが、全体の構成から細かい部分の整合性まできちんと練られている作品だと思います。
また、特徴的なのは、主人公の内省が多く差しはさまれることでしょう。周囲の人々の物言いが下劣だからこそ、ダージュの詩情に満ちた情感豊かな語り口がことさらに際立っていました。
ストーリー中にとりわけ印象に残ったのは、セインツの日記を読んだダージュがはらはらと落涙する場面と、敵討ちに向かう途中にダージュが朝日に輝く山岳を眺めて物思いに耽る場面でした。叙情的で心揺さぶる演出がとにかく巧く、ハッと胸を突かれることが多かったです。
もっとも、セインツは最初からいい奴オーラが出過ぎだった気がします。いざ対面しても物分かりが良すぎて1歳下の弟らしさはなかったです。セインツもダージュに思うところはあったでしょうから、「馬鹿だなぁ、兄貴は」くらい面と向かって言ってくれるとスッキリしたかもしれません。
また、レクイムについてももう少し踏みこんだ描写が欲しかったところです。たとえば夜会で誰を殺したのかを語ってくれていたら、もう少し感情移入できたかもしれません。
あと、これは不満ではないですが、モブキャラの口汚さと下品さに最初はびっくりしました。物語世界のナジル川流域はならず者が多い無法地帯らしいと知って納得しましたが、毒が強いことに変わりはなく。エログロお下劣な台詞が炸裂する一方、ダージュのモノローグはいつも詩的で美しいからギャップに戸惑いました。最終的にはそのアンバランスさがクセになりましたが。
分量としてはさほど長くないのにとても充実した内容でした。起承転結がきっちりとしていて、緩急の付け方や演出が上手いせいでしょうか。メッセージ性の強い、諦念と希望の交錯する印象的なストーリーだったと思います。
個性的なグラフィック
ダージュの調律
プレイ中はドットの美しさと可愛らしさに見入りました。ちょっとした小物のつくりもユニークで、動きも細かく見ていて飽きませんでした。人間等を猫として表し、ワンクッション置いて描写をまろやかにしようとする発想が秀逸だと思います。
また、魔物やオブジェクトのデザインもぐっとくるものが多かったです。たとえば銀鉱石のドットデザインは初見ですごいと思うばかりでした(実はあのUFO型に意味があるのも面白い)。あと上にも書きましたが、メニュー画面のデザインもオシャレで開くたびに良い気分に浸れました。
マップについてはコンパクトかつ様々な仕掛けが用意されたセンスの良いものばかりで、歩き回るのが楽しかったです。
*****『ダージュの調律』は、ギフトや空き瓶、装備品など収集要素が充実している点も嬉しいポイントでした。ストーリーを章で区切り、章内部でも細かくスタート地点を設けて見直しやすくしている点も有り難かったです。コンプが捗りました。
総括すると、「戦闘」と「物語」というRPGの二大要素をきっちりと押さえつつ、プレイヤーへの配慮も行き届いたクオリティーの高い作品だったと思います。ゲームをクリアして、最初と最後で同じ場所にいながら一回りも二回りも成長したダージュを感慨深く見つめてしまいました。
フリーゲームの面白さは、制作者様のセンスやメッセージが作品にダイレクトに反映されることだと個人的に考えています(かつ、それを楽しむことこそフリゲを遊ぶ醍醐味だとも思っています)。『ダージュの調律』は、その面白さを存分に味わえる作品でした。
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