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『お茶会への招待状』 田舎育ちの女性が大都市ロンドンで暮らす恋愛SLG 感想&レビュー ※ネタバレ注意

2016/07/03
恋愛(乙女ゲー/ギャルゲ―) 0
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英国を舞台にした女性向け恋愛シミュレーションゲーム(乙女ゲーム)、『お茶会への招待状』の感想&レビュー記事です。制作サークルは.aihen様。作品のダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → 『お茶会への招待状』

お茶会への招待状 スクショ タイトル画面

お茶会への招待状

『お茶会への招待状』は、田舎からロンドンへ来た女性が、亡き祖母の主催していたお茶会を通じて都会育ちの男性たちと出会う乙女ゲームです。攻略キャラクターは隠しキャラ1人とおまけキャラ1人を含めて計7人。

『お茶会への招待状』は、同サークル様制作の『AliceNightmare』から(多分)二十数年ほど経った時代の物語です。某ダウンロードサイトで偶然見かけ、素敵な絵に一目惚れしたのがファーストコンタクトでした。前作(『AliceNightmare』)と繋がりがあるということで、前作を事前にプレイした上で遊ばせていただきました。

AliceNightmare(アリスナイトメア) 19世紀英国の貴族家を舞台にした乙女ゲーム 感想記事

『AliceNightmare(アリスナイトメア)』 19世紀英国の貴族家を舞台にした乙女ゲーム 感想 ※ネタバレ注意

女性向け恋愛(?)SLG、『AliceNightmare(アリスナイトメア)』の感想記事です。ネタバレを含みます。制作サークルは.aihen様。作品のダウンロードページ(Vector)はこちらです。『AliceNightmare』の舞台は一九世紀の英国。伯爵家に生まれた「アリス・シャロット」の過酷な運命とその克服に焦点を当てた作品です。全年齢対象ですが、猟奇的表現・鬱展開が含まれます。...

沈鬱で耽美な印象の前作とは打って変わって、『お茶会への招待状』は明るく躍動的な作品です。目の前にパッとカラフルな色彩が広がるような世界観というか、主人公の活動範囲が広いことが前作とは良い意味で対照的でした。

作品内の年代は、20世紀初頭を想定しているそうです。様々なものが流動的かつ不安定になり、新しいものが古いものに目まぐるしく取って代わっていった時代の空気感がストーリーによく反映されていた印象です。ストーリーもイラストも素晴らしく、楽しくプレイさせていただきました。

以下、各キャラルートとエンディングの感想を書いていきます。ネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。

『お茶会への招待状』のあらすじと概要

最初に、『お茶会への招待状』のあらすじを簡単に説明します。

主人公の「ドナ・フロイド」は、田舎で大農園を営む家庭に生まれた女性です。社交を大の苦手とするドナは、「林檎の木が恋人」と揶揄されるほど華やかな事柄に縁がありません。ところが突然亡くなった祖母の遺産整理をするため、家族の代表として単身大都会ロンドンに赴くことになってしまいます。

『お茶会への招待状』の本編は、ドナが社交好きで通っていた祖母の「お茶会」を通じ、一癖も二癖もある男性陣と知り合うところからスタートします。

『お茶会への招待状』のエンディングは計21個です。内訳としては、「ダニエル」・「ハロルド」・「クロード」・「フレッド」・「隠しキャラ」のエンドがそれぞれ3つ(つまり5×3=15)。攻略キャラのうち、「ライナス」のみキャラエンドが4つ用意されています。そのほか、おまけキャラのエンドが1つ、キャラなしエンドが1つ存在します。

攻略的な話をすると、本編導入部の選択をミスするとキャラなしエンドになり、正しく通過するとキャラルートに入ります。また、3つのキャラエンドの内訳は、トゥルー(恋愛)・友情・バッド。正規のトゥルーエンドルートから選択肢を1つでも外すとバッドエンドになります。

「友情エンド」は、導入部の選択肢のチョイスからして恋愛エンドのそれとは異なっています。自力でトゥルーなり友情なりのエンドに行き着くのは難しいかもしれません。公式サイトの「Hints and Tips」欄に攻略情報が完備されているので、バッドエンド続きの方は無理せずに参照した方がいいと思います。

『お茶会への招待状』のレビュー

この項目では、『お茶階への招待状』をいくつかのトピックに分けてレビューします。ちなみに21種のエンディングはすべてコンプ済です。キャラルートを一周するのに5~6時間ほどかかります。ボリュームたっぷりで嬉しかったです。

「お茶会」と英国

お茶会への招待状 スクショ 5つのお茶の入物は攻略対象キャラの好きなお茶と対応している

お茶会への招待状

何よりもまず、「お茶会のメンバー」という形で様々な社会的身分を持つ攻略キャラをまとめている点がユニークだなと思いました。英国のお国柄と少しレトロな時代感がよく伝わってきます。

また、お茶の好みによって各キャラを印象付け、ルート選択の目安にしている点もお洒落です。この中からお茶を1つ選ぶと、ほとんどの場合そのお茶に対応した攻略キャラが一番に家を訪ねてきます。誰が来るか分かっていても、いざ玄関口に現れるまでの数秒間はかなりドキドキします。

出会いの流れは共通ですが、初対面時のドナへの対応は当然ながらキャラごとに異なります。共通部分を逆手に取り、個々人の性格をプレイヤーにうまく印象付ける良いシーンだなと思いました。

ストーリーとキャラクターについて

ストーリーは安定して質が高く、細やかなつくりです。シチュエーションは様々ですが、ドナと攻略キャラとの交流が丁寧に描かれていました。

基本的にはすべてのキャラルートに他の攻略対象キャラも登場します。野次馬役をやったり、アドバイザーをしたり、情報屋になったり、ピンチのときに助太刀してくれたり。登場がそのまま各キャラの掘り下げにもなるほか、キャラ間の関係もきっちりと描写されます。和気藹々とした雰囲気と世界が繋がり広がっていく感覚が個人的には好きでした。

脇役も「ジェナ・バージェス」を筆頭に数多く登場し、物語に華と笑いを添えてくれました。脇キャラとはいえそのほとんどに立ち絵があるので混乱することもありません。直接関係のないキャラルートにも名無しでチラッと出たりするので、愛着も湧きやすかったです。個人的には「サンドラ」(主人公ドナ・フロイドの姉)と「クレランド」(ハロルドの部下)が好きでした。

最後に、主人公の「ドナ・フロイド」は前作のアリス・シャロットよりも乙女ゲーの主人公らしい主人公だと感じました。暴走しがちなところはあるものの、基本的には親しみやすかったです。

イラストや前作との繋がりなど

『お茶会への招待状』のイラストの素晴らしさは一目瞭然です。立ち絵は差分が多く、一枚絵も豊富で嬉しい限りでした。キャラごとの衣装は個性を出しつつセンス良くまとめているものばかりで、立ち絵だけでも眼福です。

また、前作にあたる『AliceNightmare』との関わりはライナスルートにおいて顕著でした。ライナス自身が前作由来と言ってもいいキャラなので自然なことかもしれません。『お茶会への招待状』は『AliceNightmare』のとあるエンドと地続きの作品なので、ライナスルートには前作のネタバレが多分に含まれています。

最後に、一点不満があるとすれば、一部のシーンでキャラの言葉遣いがぐっと悪くなることでしょうか。悪い言葉遣いがいただけないというわけではなく、作品への没入感がすっと失せてしまうことが残念でした。強くて直接的な詰りは悪い意味でインパクトが大きかったです。

各キャラルートとエンディングの感想

ここからは、攻略対象キャラの個別ルートについて感想を書いていきます。隠しキャラとおまけキャラについては、名前と一言感想のみです。繰り返しになりますが、詳細なネタバレを含むので未見の方はご注意ください。

攻略した順は、ハロルド、②フレッド、③ダニエル、④クロード、⑤アキラ、⑥イームズ、⑦ライナスでした。

アキラとイームズ子爵を除き、感想も同じ順に書きます(アキラルートは、ドナのお姉さんっぽさと2人の初々しさが可愛らしかったです。イームズルートについては「お似合いの2人」と言うほかないです)。最初にことわっておくと、キャラによって感想の量に差があります。

ちなみに、攻略順は事前に公式サイトのキャラ紹介を参照して決めました。「最初にメインっぽい(そして前作と関わりの深い)ライナスを攻略するのはちょっとなー」と思い除外。弟属性枠っぽいフレッドと年の差枠っぽいクロードも後に回したいと思った結果、ダニエルとハロルドが残りました。

その後、2人に絞ったはいいものの決めきれなかったので、制作サークル様のブログにて簡単なルート紹介を拝読。「ダニエルルートはちょっと話が複雑そう」という印象を受けたので、後に回そうと判断。結果、最初にハロルドを攻略しました。隠しキャラやおまけキャラについては存在を知らなかったので、登場に合わせて順次攻略しました。

ハロルド・リスター/Harold Lister

「ハロルド・リスター」はお茶会の常連の1人であり、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進する豪商、リスター商会の跡取り息子です。性格は気さくで快活、活動的な自信家。

新規事業を開拓しつつバリバリ働いているビジネスマンのハロルドは、働き詰めで最近は睡眠時間もろくに取れません。頭がスッキリする独特の渋みのあるジャパニーズ・ティーを好む彼は、一時の憩いを求め、仕事の合間を縫ってフロイド家にやってきます。

お茶会への招待状 スクショ ハロルド・リスター 近年成長著しいリスター商会の跡取り息子

お茶会への招待状

先述した通り、最初に攻略したキャラはハロルドでした。攻略順を決めた理由を先ほど書きましたが、もともと見た目的にはハロルドが一番好みでした。また、もし情報をシャットアウトしてお茶(キャラ)選択場面に来ても、おそらくジャパニーズ・ティーを選んだだろうと思います(薄いピンク色の缶が可愛い)。ということで、ハロルドを最初に攻略するのはある意味既定路線でした。

シナリオ的にはもっと好きなルートが他にありますが、プレイしていて一番楽しかったのはハロルドルートでした。最初にプレイしたせいでもあると思いますが、ハロルドだけでなくドナの内面の掘り下げがあること、脇キャラ(クレランド、サンドラ、エイミー)が揃っていい味を出していることなどが主な理由です。

ストーリー前半は特に波風なく、後半にエイミー嬢が登場したあたりから時代物のロマンスっぽい流れになっていきます。家第一に生きてきた男と惹かれ合うが、あるとき男に好意を持つ貴族の女性が現れ、彼の立場を理解する平民出身の主人公は身を引こうとする……あたりの展開は特に。

恋愛ルートの大きなテーマは、「恋か仕事か」と「三角関係」だったように思います。三角関係の渦中に巻き込まれたドナとハロルドの思考や行動は、けっこうリアル寄りだと思いました。どちらの葛藤も理解できるだけにバッドエンドが悲しく、またトゥルーエンドが気になって仕方なかったです(最初は攻略情報が公式サイトにあることに気づかず四苦八苦していました)。

先ほど「ドナの内面の掘り下げがある」と書きました。ハロルドルートでは、恋による心情の「変化」がドナとハロルドの両者について描かれていて印象深かったです。

たとえばドナは、社交好きな姉のサンドラや祖母のドリーと比較されながら育ちました。そのため、誰かと比べられることや土俵に上がることを避けてしまいがちです。「私には向いていないから」と社交の場から逃げていたのも、本当は比較されて惨めな気持ちになるのが怖いからです。だから完璧なお嬢様であるエイミーが恋敵として現れると、ドナは争うことすらできずに戦意喪失してしまいます。

問題は、それでもドナがハロルドへの恋心を諦めきれなかったことです。諦められないからこそ敵わないと思っているエイミーへの妬みや羨みに心を支配され、普段は隠している醜い自分が顔を出してしまいます。そういう自分の心理に気づいたことが、恋によるドナの変化だったのかなと思いました。変化って必ずしもいいことばかりではないので。ドナが田舎に帰ろうとしたのはハロルドと、何より自分のためだったのだろうと思います。

またハロルドもハロルドで、三角関係の発生によって恋による気持ちの変化に向き合わざるを得なくなります。

ハロルドは仕事を愛する根っからの商売人です。家第一と教え込まれて育ち、多くの従業員の生活や祖父と父の血のにじむような努力を両肩に背負っている自覚もあります。

だからこそ、ハロルドは家の発展を第一に考えて生きてきました。母親をないがしろにした父に思うところはありつつも、いずれは自分も父と同じような態度で家庭に臨むのだろうという諦めめいた予感も抱いています。そんな「ハロルド・リスター」にとって、侯爵家の令嬢であるエイミーを取らない選択肢は本来ないはずなんですよね。

ところが、1人の男としてのハロルドはドナに好意を持ってしまった。自分の心を省みずに働いてきたハロルドに、ここで初めて迷いが生じます。「家を取る」という無私の一択しかないはずなのに、「好きな女性を取る」という個人的な一択が出現してしまったからです。

こうしてハロルドは身動きが取れなくなり、エイミー嬢には愛想よく接するのにドナを突き放すでもないという、どっちつかずの思考放棄男になってしまいます。

「この不誠実野郎め」という父親やお茶会仲間の指摘はまったくもってその通りです。ただ、ハロルドの背負うものの重さや子供の頃からの教育を考えると、そういう状態になるのも一定仕方がないのかなと思いました。自分を優先することへの躊躇いや、「そうすることは正しいのか」、「許されるのか」といった葛藤や恐怖は理解できます。

実を言うと、恋することで煮え切らない態度になり、自信を無くしていくハロルドを見ているのは面白かったです。最初から野心溢れる自信家の態度を崩さないキャラだったからでしょうか。「何事にも自信を持てば上手くいく」と豪語する人が、肝心の自分個人の感情については自信を持てないっていう。

間男を演じるクロードに嫉妬を隠さないところを見て「なんという優柔不断」と思いつつ、恋することで気弱になり悩むようになったハロルドには正直ぐっときました。ギャップっていいものですね。

最後までハラハラした分、なんとか二人の恋が成就してホッとしました。トゥルーエンドのいちゃつき加減が最高。プレイヤーとしても頬が緩みました。お茶会メンバーのみならず、ジェナ、クレランド、サンドラ、エイミー、リスター会長といった脇キャラもこぞって助けてくれたことが有り難かったです。

特に、トゥルーエンドの立役者はサンドラとエイミーだと思っています。2人の介入がなければドナとハロルドは不毛な関係に陥って自然消滅したような気もするので、本当に彼女たち様様です。

特にサンドラの格好良い姉っぷりには感服しました。前向きなところ、社交的で面倒見がいいところなど、サンドラにしかない魅力があることが提示されていたことも良かったです。丁寧な描写だと思います。

エイミーは徹頭徹尾素晴らしいお嬢さんで非の打ち所がなかったです。あの場面でドナを友達と言ってくれるあたり、もはや聖女の域に片足を突っ込んでいるような気がします。罪悪感さえ感じたので、ハロルドがきちんとエイミーに本音を伝えた上で平謝りしたことが救いと言えば救いでした。

ハロルド友情エンドも、個人的にはかなり好きです。可能性を自分で潰していた節があったので、ドナが思い切れて本当によかったと思いました。もともとハロルドルートの序盤は恋愛色が薄いので、雑貨屋会話などを見ていると大いに納得できる展開でもありました。

このエンドでは末永く友人兼仕事仲間として付き合うらしいとはいえ、公私ともにべったりなわけで、その後のことを考えるのはちょっと楽しかったです。

体格的にも言動的にも頼もしげな大人に見えるのに、どこか青臭いのがハロルドの良さだと思います。平民出身ゆえか視点や思考がドナに近く、等身大の男っぽさを感じたので親しみやすいキャラでもありました。

フレッド・バージェス/Fred Burgess

「フレッド・バージェス」は、マダム・フロイド(ドナの祖母)の元使用人です。姉のジェナとともに幼い頃からマダム・フロイドの家に住みこみで働いています。愛嬌のある明るい性格で、ややのん気。しかし案外よく気のつく青年です。しっかり者の姉にしょっちゅう怒られていますが、姉弟仲はとても良いようです。

家庭菜園を手掛けていてガーデニングやハーブに詳しいフレッドは、効能重視の特製ハーブティーを好みます。

お茶会への招待状 スクショ フレッド・バージェス 主人公ドナの祖母であるマダム・フロイドの使用人だった青年

お茶会への招待状

フレッドルートは、途中までは「フレッド+ジェナ」ルートという印象です。バージェス姉弟の幸薄さを見るにつけ、「そういえばこのゲームの前作って『AliceNightmare』だったな……」と遠い目になりました。

フレッド自身はとても可愛いキャラでした。可愛いのにたまに大人びた表情を見せるのがいいですね。よく気がついてマメなところも素敵です。

ヘラヘラ笑って明るいように見えて、ふとした時の顔は真面目なので、もしかしてわざと能天気に振る舞っているのかなと思っていました。後日談のモノローグでそのあたりのことが掘り下げられていて、自分の中のフレッド観と相違なかったのでなんとなく嬉しかったです。

農園を切り盛りしなければならない立場のドナにとっては、フレッドはかなり良い相手なのではないかと思います。農園生活にも問題なく馴染みそうだし、おそらくあの家族なら自然にフレッドを受け入れてくれることでしょうし。

恋愛ルートのフレッド奪還作戦は、完全に他の4人の独壇場だった印象です。4人ともさすがの機動力と行動力でした。ダニエルのクリケットの腕前がここで炸裂したことには笑いました。

フレッドは見せ場を持っていかれた感が否めないですが、これはマダム・フロイドの発言(「私を一番に愛してくれている、それ以上何を~」)を踏まえた前振りだったのかなーとも思います。財力や地位がないからこそ、フレッドは思いの強さに拠って立つしかないんですよね。個人的には、フレッドが他の4人に引け目を感じるような性格ではなくてよかったと思いました。

また、フレッド友情エンドは良くも悪くも衝撃的でした。あの恐ろしい姿を見せられたらフレッドは二度とドナを女性として意識できないし、ドナもドナでフレッドを比護対象としてしか見られないだろうなと納得しました。

恋をするまでのフレッドは、お気楽に笑うことで姉に守られる立場に甘んじていたのかもしれません。姉であること、弟であることを自分自身に課すことによって、バージェス姉弟は互いに支え合ってきたのではないでしょうか。

ドナを意識し始めたあたりからフレッドの弟分としての態度がだんだんと崩れていき、お別れの時にはしっかりとした態度で話すようになるという「変化」が印象的でした。

ダニエル・ボーウェン/Daniel Bowen

「ダニエル・ボーウェン」はお茶会の常連の1人であり、ボーウェン子爵家の跡継ぎです。ライナスの親友である彼は常に穏やかで礼儀正しく、まさに貴族といった印象の好青年。その優しく細やかな人柄ゆえか、社交界での評判も上々です。ただしダニエル自身は、公園の散策など自然の中にいることを好んでいます。

ダニエルの好きなお茶はアッサムです。時折ひどく疲れた様子を見せる彼は、飲むとホッとできるティー・ウィズ・ミルクを愛飲しています。

お茶会への招待状 スクショ ダニエル・ボーウェン 優しく穏やかな佇まいの没落しつつある子爵家の嫡男

お茶会への招待状

フレッドルートでのダニエルの描写(社交界での顔の広さの理由、ライナスとの関係など)に惹かれるものがあったので、3番目にダニエルを攻略しました。

ダニエルルートのシナリオは、個人的には一番満足度が高かったです。2人の関係の進展がつぶさに描かれていたこと、選択肢と分岐の結びつきに納得が行ったことなどが理由です。物語としてもドラマチックな展開が多く、最後までどうなるのかと固唾を呑んで見守ってしまいました。

ダニエルのキャラ自体も一番好きです。このキャラ癖がありそうだなと感じていましたが、見事に予想が当たりました。人当たりは良いのになかなか本心を悟らせてくれない、家庭的に不幸、案外冷めている……といったあたりが好みでした。面倒くさい系(褒め言葉)のキャラはいつも気になります。ライナスとの気の置けない友人関係を眺めるのも楽しかったです。

「御家騒動」ならきっとドロドロした展開が見られるんだろうなと楽しみに攻略しましたが、予想とは一味違う泥沼加減にびっくりしました。「後妻前妻で争っているのか?」、「お姉さんと確執があるのか?」など色々と想像していましたが、まさか毒親方向だったとは。

高圧的でヒステリックな姉、愚鈍で周囲に関心の薄い母、前時代的で厳格な父……とわりと役満ですが、ここに母姉の並外れた浪費癖が加わり、子爵家の内情は最悪に近い状態になっています。価値観が急激に変わりゆく時代にあって、ボーウェン子爵家は貴族としての見栄や矜持を捨てられず、破滅に向かって突き進んでいるのです。

そんな家庭に生まれたダニエルは、幸か不幸か正常な感覚と判断能力を持ってしまいます。まさにライオンの穴に投げ込まれたダニエル(元ネタ?)。狂人の中に放り込まれた人間の悲哀とでも言うべきでしょうか。

駄目人間ダニエルさんってどういう感じだろうと思っていましたが、どちらかというと、「駄目」な周りに潰されるままになっている「人間」という印象でした。

ダニエルは家庭の包容力や温かみに縁がなく、子爵家に対する愛着はほとんどないようです。だから、「子爵家なんてこのまま潰れてしまえばいい」と思っている様子です。

そして悲しいことに、自分自身のこともあまり好きではないように見えます(精神的な受け皿が無い状態で育ったので無理もないと思います)。そのため、「子爵家と一緒に自分も潰れてしまっていい」と思っている節があります。時折刹那的な思考が顔を出すのはそのせいなのでしょう。

だからこそ、すべてを諦めているダニエルに必要だったのは心の底から大事だと思える他者の存在だったのだろうと思います。ドナがそれを理解してダニエルを受け入れ、ダニエルもそれに応じて覚醒する流れは構成的にとてもきれいでした。選択肢の方向性も「いたずらにダニエルに心労を溜めこませないようにする」という意識の下で統一されていた印象です。

ダニエルトゥルーエンドの落とし方は、「田舎に来るのか」と正直びっくりしました。ダニエルは生粋の貴族という感じで、パッと見では田舎で暮らせるように思えなかったので。とはいえあらためて考えると、自然の中でのびのびと生きる方が性に合ってるんだろうと納得できました。農園の頼れる若旦那に収まってしまうし、さすがはダニエルさんと言ったところでしょうか。

ともあれ、エンディングの一枚絵に漂う幸福感は波乱万丈のシナリオの締めに似つかわしいものだったと思います。子爵家から解放され、愛する人愛してくれる人を見つけたダニエルは、まるで憑き物が落ちたように幸せそうでホッとしました。

あと、ダニエル友情エンド「まーたドナさんが暴走したよ……」という感じでした。子爵はいきなり物わかりが良くなりすぎではないでしょうか。子爵家的には安泰そうですが、ダニエルの心が休まるときはまだまだ遠そうです。

また、ダニエルバッドエンドは悲しみと後味の悪さが絶妙な配分でした。あの家族に行く当てがあるのかと考えるとダニエルの今後の苦労がしのばれて気分が沈みますが、けっこう好きなエンドです。トゥルーエンドへの選択肢のヒントもチラッと示されているのがうまいです。

ところで、ダニエルルートでは親友のライナスの出番が多かったです。ひたすらダニエル(とドナ)のサポートに徹してくれます。なんていいヤツ……と思い、あとでライナスルートを攻略したとき、対照的なダニエルの引っかき回しっぷりに笑いました。友情の厚さ云々というより、これは2人の性格の違いゆえなのだろうと思います。ライナスとダニエルが仲良くなった経緯はかなり気になるところです。

ダニエルはプレイヤーから追いかけたり待ったりするタイプのキャラだと思います。なかなか本音を言ってくれないから、もっと知りたい、教えてほしいと思うんですよね。その性格の掴みにくさが好みでした。

クロード・オースティン/Claude Austin

「クロード・オースティン」はお茶会の常連の1人です。余裕のある大人の男性であり、知識階級の出身らしいと噂される謎の多い人物でもあります。常にお洒落な服を身にまとい、挨拶代わりに女性を口説く彼は、華やかな女性遍歴を持っています。

クロードは大の甘党です。お茶に関しては、味だけでなく香りを重視してシッキムを好みます。

お茶会への招待状 スクショ クロード・オースティン 華やかな女性遍歴を持つ知識階級出身の男性

お茶会への招待状

クロードは4番目に攻略しました。トリはライナスと決めていたので、クロードを優先しました。攻略中にアキラが出てきてびっくりしました。

クロードルートでは、他ルートからはまったくうかがい知れなかった情報がバンバンと出てきます。男やもめ、子持ち、その子がドナの数歳下あたりは正直言って驚きました。昔の女性を引きずっているか過去にいざこざがあったのだろうとは予想していました。しかし、子供がいたことには驚愕するほかなかったです。東洋、特に日本文化研究の専門家であるというのも意外ではありました。そうくるのか、と。

クロードの個人ルートでは、国籍・人種の違う人間同士の結婚の難しさや差別問題といった重いテーマが扱われていました。時代が時代なだけによけいにこじれる話でもあったのでしょう。そして、愛する人への罪の意識もクロードの苦悩の原因の1つでした。確かにあったはずの愛情が、突然の死別によって負の感情に塗りつぶされてしまうというのは悲しいことだと思います。

クロードの妻だった「ユリコ」の末路は想像以上に酷いもので、途中の気の毒な過去回想とも併せていたたまれなかったです。あれはクロードもユリコもどちらも悪くないと思います。責任の所在を言うなら多大なアドバンテージを持っていたクロードにあるのでしょうが、積もり積もってああいう対応をしてしまうのも致し方なし。まさか通り魔が出てくるとは思わないでしょうし。

クロードは、わかりにくいようでわかりやすいキャラという印象です。だんだんと余裕が消え、後半はお茶会メンバー総出でいじられているのが面白かったです。また、クロードルートは一枚絵にかなり気合が入っていた気がします。クロードの伊達男っぷりを充分に堪能できました。どうしてドナを好きになったのかという点がやや不明瞭だった気はしますが、起伏に富んだストーリーだったと思います。

少しクロードから話が逸れます。ハロルドルートではクロードが目立っていましたが、クロードルートでもハロルドの出番が多かったです。同じ平民出身ということで、貴族であるライナス&ダニエルペアとの差別化を図りやすいのでしょうか。

「お茶会仲間が一堂に会したのは実はドナがロンドンにやってきた日が初めて」とこのルートで聞いてびっくりしました。フレッドルートやハロルドルートでのあの息の合ったチームワークはそんなに即席のものだったのか、と。ハロルドとクロードにいたっては互いに話には聞いていても面識さえなかったそうです。なんとも運命的な話ですね。

ハロルドは、クロードルートにおける情報屋ポジションを担っていた印象です。つまり、アキラの情報やオースティン家の事情、クロードの亡き妻の実家である男爵家の企みといったディープな話をドナに教えるのがすべてハロルドでした。野次馬シーンにも他の2人と一緒に必ずハロルドの姿があります。

登場シーンが多いぶん、ハロルドルートのフリっぽいやりとりが多いのは興味深かったです。父と息子の関係の難しさに言及したり、女2人男1人の修羅場を見て「そういった痴情のもつれはご免だ」とぼやいたり。特に後者は笑いました。

一番ふーんと思ったのは、「男爵家を継げるのはまたとないチャンスじゃないか」、「男は誰しも金や地位や名誉を手に入れたいという野心を持つものだ」という自信満々な発言です。

野心むき出しのある意味俗っぽいところが好きなのが1つ。もう1つは、ハロルドルートのグダグダっぷりを思い出してニヤニヤせざるを得なかったです。「家のために自分を犠牲にする」あたりは狙って入れているんだろうなと感じました。

ティールームでのやりとりは、ハロルドが歯に衣着せずに正論を言っているのも好きなポイントです。普段は気さくで礼儀正しいですが、男ばかりの環境で育ったらしいはっきりと物を言うところがハロルドの素ではないかと思います。

C・ライナス・キャヴェンディッシュ/C. Linus Cavendish

C・ライナス・キャヴェンディッシュは、お茶会の常連の1人です。貴族の名門である伯爵家の若き当主であり、実業家でもあります。古い家柄ながら保守的な考え方を嫌う実力主義者であり、率直かつ現実的な性格をしています。そのため、階級主義的な貴族の中では敵を作りやすいようです。一度認めた相手に対しては面倒見がよく慕われてもいます。また、女性にはとても礼儀正しいです。お茶はダージリンのストレートを好みます。

お茶会への招待状 スクショ ライナス・C・キャヴェンディッシュ 名門貴族家の若き当主で実力重視の実業家である青年

お茶会への招待状

キャラ紹介順が1番&前作にルーツを持つという要素を鑑み、ラストにライナスを攻略しました。その判断は半分正しく、半分は間違っていたという印象です。

ライナスは前作『AliceNightmare』の主人公アリスの息子であり、父親の分からない私生児として生まれました。当然幼い頃から親戚を始めとする貴族たちの悪意に晒されてきたライナスですが、母親の姿勢に影響を受け、周囲の陰口をものともしない強気な青年に成長します。

その生い立ちゆえか自らの障害となる人間に容赦がなく、多少不穏当な手段を使ってでも排除してきたライナス。母のアリスや親友のダニエルは、敵を作りやすい強引なやり方を不安に思い、忠告もしています。しかし当のライナスはどこ吹く風。

そんな彼が恋に落ち、自分の生き方を改める必要に迫られるのがライナスルートの主旨と言えます。

展開としては色々と驚きがありましたが、他キャラ2名の出番が多かったこともあり、恋愛相手としてのライナスにそこまで魅力を感じられませんでした。恋に目覚めて頭の中が春一色になるライナスは可愛かったです。しかしイームズ子爵とのドタバタバトルは、その尺の一部を真面目なシーンに回してほしかったと思わなくもなかったです。あと、導入部でのキスにはちょっとついていけませんでした。女性への礼儀正しさとは噛み合わない行動のように思えました。

また、ライナスルートは、キャヴェンディッシュ伯爵家のその後のお披露目ルートとしての意味合いも強かった印象です。もちろんアリスのその後は気になっていたので、隠居するところまでしっかりと描かれてホッとしたのですが。諸々の事情により結果的にライナスがわりを食ったというか、主にライナスとの恋愛的には物足りないルートでした。

ところで、ライナスルートにはトゥルーエンド・友情エンド・バッドエンドの他に「三角関係?エンド」(正式には「友情エンド1」ですが、こう表現しても差し支えないと思います)があります。これはライナスエンドにダニエルが絡んでくる特殊な結末です。

ルート中にそういう気配というか、ライナスの比較対象としてダニエルを引っ張り出す流れはありました。ルートにおける最大の問題はライナス自身の評判の悪さであり、対するダニエルはどこに出ても歓迎される信用のある人間という設定なので、自然な展開だったとは思います。

ただ、ダニエルがあそこまで介入してくるとは思いませんでした。「ダニエルさんやけに出張るなあ、まあダニエルルートでもライナスは結構登場してたっけ」と思っていたらまさかのそれでびっくりしました。

ダニエル視点では、ライナスを焚きつけようと思ったら自分も好意を持ってしまった感じなのでしょうか。ルート途中の「僕でもいいよね」は冗談としても、伯爵家での「ライナスが羨ましい」はわりとガチな発言に思えました。ラストでひょっこりと旅行鞄をもって現れるダニエルにはついつい笑ってしまいます。

とはいえ、ダニエルがそれほど好きではない人にはなかなかつらい展開のような気がしました。ダニエルが好きな私でさえ、さすがに出張りすぎではと思ってしまいました。正直言って非常に面白かったですが。

その他、キャラ紹介1番手ポジションということもあってか、ライナスルートには他キャラルートの布石になる情報がまんべんなく出ていた気がします。クレランドさんが名無しで出たときには思わずテンションが上がり、美術品オークション絡みの話題でボーウェン家の台所事情が匂わされたときにはおおっと思いました。

ライナストゥルーエンドの締めは、前作の『AliceNightmare』をプレイしていると感慨深いものがありました。「一つの時代が終わって新しい時代が来るんだな」、と。前作ではアルバート以外のキャラが好きだったので、最初はやや複雑な気持ちでした。しかし、最終的には「アリスが幸せならそれでいいのかな」と思いました。

*****

全エンドクリア後の外伝の内容には良い意味で驚きました。ドリー・フロイドは二重の意味でドナとお茶会メンバーの縁結びをやっていたんですね。まさかのキャヴェンディッシュ伯爵夫妻との繋がりにも驚きました。こういった時間の連続性を感じられるストーリーは大好きです。

記事冒頭にも書いた通り、『お茶会への招待状』のテーマは「変化」だそうです(後書きより)。情勢が移ろいやすかった時代に舞台が設定されているのも偶然ではないのでしょうか。環境の変化や人間関係の変化、それに伴うドナたちの微妙な心情の変化をワクワクしつつ見守ることができました。

振り返って思うに、『お茶会への招待状』は新しいもの、知らないものに出会う前の期待感や不安感やその他諸々の感情を、箱詰めにして綺麗にラッピングしたような作品でした。お茶のいい香りと異国情緒もたっぷり。プレイしていてとても楽しかったです。

『お茶会への招待状』の前日譚にあたる『AliceNightmare』(アリスナイトメア)の感想記事も書いています。

・関連記事:『AliceNightmare』 19世紀英国の貴族家を舞台にした恋愛SLG 感想(主人公は伯爵家に生まれた少女、アリス・シャロット。不幸のどん底にいる"アリス"の救済に焦点を当てた恋愛ゲーム)

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かーめるん
Admin: かーめるん
フリーゲーム、映画、本を読むことなどが好きです。コンソールゲームもプレイしています。ジョジョと逆転裁判は昔からハマっているシリーズです。どこかに出かけるのも好きです。草木や川や古い建築物を見ると癒されます。

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