『雨雲』 連続女性失踪事件の真相を追うADV 感想 ※ネタバレ注意
ノベル形式のサスペンスADV、『雨雲』の感想記事です。ネタバレを含みます。制作者はちゃんとする/サム様。作品のダウンロードページ(Vector)はこちらです。 → 雨雲
雨雲
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『雨雲』は、「連続女性失踪事件の真相」と「ある女性の謎」を追う物語です。クリアまでの所要時間は約2時間でした。
R-15指定のゲームです。流血シーンおよび暴力的・犯罪的表現が含まれています。一部グロくてホラーチックな場面があるので、苦手な方は心構えをしてからプレイした方がいいかもしれません。
「サスペンスアドベンチャー」という説明に惹かれてプレイさせていただきました。サスペンスものってかなり好きです。
『雨雲』は、起承転結を踏まえたストーリー展開、的確な演出、生き生きとしたキャラクターなどが印象に残る作品です。血と弾丸が入り乱れるド派手な事件が発生するわけではないですが、「日常に潜むシリアルキラー」や「生活感のあるホラー」といった要素が好きな方には楽しいゲームだと思います。私自身、のめり込んで話を追ってしまいました。
以下、ゲーム内容やエンディングの詳細な感想を書きます。特に「印象に残った3つのポイント」から下には、具体的な犯人のネタバレも含まれます。未見の方はご注意ください。
『雨雲』の概要
『雨雲』の概要を簡単に説明します。
『雨雲』はノベル形式のADVです。物語は序章~終章までの5つ(番外編を含めると6つ)の章に区切られ、おおむね章ごとに視点人物が異なります。途中の選択肢によって、エンディングは4つに分岐します。エンディングの分岐については、下にまとめました。
物語の本筋では、相次ぐ女性失踪事件の真相とその影に潜むある女性の謎に迫ることになります。
序章から2章までは、その「ある女性」の掘り下げパートです。3章は失踪事件の解決パート、なんとか事件を解決して終章へ……という流れになります。
三章の探偵役2人。彼らの偶然の出会いが失踪事件を解決に導く。
雨雲
ポピュラーな探偵ものとは違い、「犯人と目される女性の掘り下げ>事件解決」であることがこのゲームの特徴です。
たとえば物語の構成も、犯人の手口や日常や過去の説明→探偵役のキャラ登場……という風になっています。事件があって探偵役がいて、調査をする中で犯人が浮かび上がる……という流れではありません。
『雨雲』の魅力――印象に残った3つのポイント
『雨雲』をプレイして特に印象的に残ったポイントは、①ストーリー展開、②演出、③キャラクターの3点でした。ここから、文字と画像によるネタバレを含みます。
その1:ストーリー展開
『雨雲』をクリアして、まず全体の物語が起承転結をしっかりと踏まえて作られていたことが印象に残りました。
不気味な序章でプレイヤーを引き込み、第1章で穏やかな日常の中にも不穏な空気を引き継ぎ、第2章の過去編でガラッと雰囲気を変えつつネタばらしをし、第3章・終章で事件を解決し物語をまとめにかかる……きれいで明快なストーリーラインだと思います。最後まで集中してプレイできました。平穏な日常の描写と狂気的なシーンの混在により、物語に緩急がついているのも読みやすくていいなと思います。
その2:演出
『雨雲』は、演出が巧妙なゲームだと思います。個人的に印象に残ったのは、ホラーシーンと推理パートでした。
前者のホラーシーンは、「とにかく怖い」の一言に尽きます。BGMが消えて無音になる瞬間、一瞬の絵の変化とそれに合わせたメッセージ送り、豊富なイラスト差分など、ゾクゾクしたりハラハラしたりするシーンが非常にうまく演出されていました。
個人的な一押しホラーシーンは、やはり第3章終盤の「犯人と目が合う」場面でしょうか。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、あれには本気でゾワッとしました。
後者の推理パートについては、警察の独自システムの説明から始まり、雰囲気やBGMや画面の構成をガラッと変える演出に引き込まれました。視点が交代したことや事件の核心に迫っていることをはっきりと示すという意味でも巧かったですが、プレイヤーとしては何よりノリノリな気分でプレイできて楽しかったです。
西久保パートでは失踪事件の情報を集めて考察できる。
雨雲
システマチックに事件を考察し情報をまとめていくゲームが個人的には好きです。『雨雲』の推理パートをプレイしていてふと思い出したのは、『THE 鑑識官』シリーズでした。事件の概要を視覚化してまとめつつ推理していく流れに似たものを感じて懐かしくなったのかもしれません。
その3:キャラクター
『雨雲』におけるキャラクターの造形と描写の巧妙さは、実際にプレイしてみるとよくわかると思います。それぞれの現在の状況やひととなりなど、短い時間にそのキャラの個性が伝わるようにしっかりと肉付けされていました。何気ない日常を読者の興味を引けるように描くのは難しいと思うので、尚更素晴らしいなと思います。
個人的には第1章の児島や古畑、第3章の三森の描写が印象に残りました。また、好きなキャラは三森と西久保です。いいコンビだと思います。
※以下、犯人のネタバレを含みます。
犯人の半田はいい意味で怖いキャラクターでした。理解できないところもあり同情できるところもあり、なかなか複雑です。『雨雲』の(裏)主人公と言ってもいい存在なんでしょうね。「隣の部屋にいるシリアルキラー」としてのホラー感は十分に出ていた気がします。
個人的には、飯塚さんだけは私のことを見てくれている→実は半田を通して引きこもりの姉を見ているだけだったというすれ違いを一番痛ましく思いました。
もっとも、半田はちょっと可哀想な描写が多すぎたような気がして、そこは引っかかりました。末路を考えるとバランスは取れているのかなとも思いますが。被害者キャラの方々が本当の意味で一番気の毒ですね。特に、飯塚彩夜奈のエピソードはかなり悲しかったです。
エンディングの分岐と感想
第3章の三森パートでの選択によって、4つのエンディングに分岐します。終章(ゲームクリア)へと繋がるエンディング以外の3つはアナザーエンドです。
ちなみに、「推理パートで集中力ゲージが0になる」あるいは「V.S.半田のときにミスをする」と、単にGAMEOVERになります。
まず、選択肢による分岐をざっくりとまとめました。
- 食欲が勝る→戸締り確認○ 「何も知らない」
- 食欲が勝る→戸締り確認× 「邪魔者」
- 責任感が勝る→戸締り確認○ 「破滅の始まり」
- 責任感が勝る→戸締り確認× ゲームクリア!(※推理や戦闘を完遂)
以下は、それぞれのエンディングに対する感想です。ネタバレを含むのでご注意ください。
「何も知らない」
「何も知らない」は、西久保と知り合わず、半田とも再会しなかった場合のエンディングです。
三森は無事に新社会人としての生活を続けていくことになります。隣の部屋はいつの間にか空き家になっていたので、金杉に成り代わった半田は、早々に引っ越したのでしょうか。三森にとっては間違いなくハッピーエンドですが、今後も半田の凶行が続くことを思うと、一概には喜べない結末でした。
「邪魔者」
「邪魔者」は、西久保と知り合わずに半田と再会した場合のエンディングです。三森は半田に騙され、まんまと口封じされてしまいます。おそらく最悪のパターン。
「破滅の始まり」
西久保と知り合い、半田と再会しなかった場合のエンディング。三森は西久保と仲良くなり、何度か食事をする仲になります。一方西久保たち警察は、被害者の一人である女性(金杉)の遺体を発見するのでした。
このエンドでは、ついに事件の存在が露呈します。おそらく半田は、遠からず被疑者として捜査線上に浮かびあがるのではないでしょうか。半田のわりと大胆な犯行はもっと早くにバレそうなものですが。
終章、ゲームクリア
西久保と知り合い、半田と再会した場合のエンディング。三森は九死に一生を得、半田によって引き起こされていた一連の事件に終止符が打たれます。
このエンディング、三森と西久保の意見の対比がいいなと思いました。三森は半田が犯罪に手を染めていった時期の彼女を知っていて、本人から直接に詰られたり助けを求められたりしています。危害を加えられたとはいえ責任を感じて打ち沈むのも仕方のないことです。
しかし西久保は、「たとえ事情があってもそれを理由に誰かを傷つけていい訳はない」ときっぱりと断じます。そして、「人には出来ることと出来ないことがある」と三森を諭します。さすが西久保さんだと思いました。
実は、終章で提示される報道が半田自身よりも彼女の家庭を責めるものに偏っていたのが気になったので、西久保が半田本人の責を指摘してくれてなんとなく安心しました。バランスが取れたと感じたからかもしれません。警察官として社会人として、また三森のそれに対峙するものとして真っ当な意見だったと思います。
「幸せは結局自分の認識次第」という三森のモノローグには、半田の人生を思い返してつい感じ入ってしまいました。てっちゃんは普通の感覚を持った普通の人ですが、それが彼女の強さなんだろうだと思います。前向きで明るい締め方と、エンディングで広がる快晴の空がとても印象的でした。
ところで、てっちゃんと西久保さんは本当にルームシェアする気なのでしょうか。西久保さんやるぅ。2人の今後も気になるなーと思いました。
*****物語以外のことについてですが、クリア後に閲覧できるボーナスコンテンツ内の充実ぶりが嬉しかったです。キャラ説明はもちろん、アーカイブやミニゲーム、特典CGまで。ミニゲームはドットで打たれていたりと非常に凝ったつくりでした。
「他人に成り代わって生きる」とか「○○さんは実は○○さんじゃなかった」って、現代社会においては、暗い夜道でお化けに会うことよりも身近にあるホラーではないでしょうか。ちょっと前に『火車』(宮部みゆき)を読んだせいかよけいにそう感じます。
そういう意味で、『雨雲』は現代的な恐怖を的確に表現した作品だと思いました。
※「サスペンス」or「犯罪」を題材にした作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『ある夏の日、山荘にて……』 感想 攻略(孤立した山荘を舞台にした、硬派なサスペンスミステリADV)
・『Her Story』 感想 考察(膨大なビデオクリップを手がかりに凶悪事件の真実に迫る。海外発の新感覚ADV)
・『輸送艦ちぐさ殺人事件』 感想(戦時下の宇宙空間で発生した不可解な事件の真相を追え。SFサスペンスADV)
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