『SAVE』 復讐者がクトゥルフ神話ワールドを往くRPG 感想&攻略&考察 ※ネタバレ注意
クトゥルフ神話をモチーフにしたRPG、『SAVE』の感想&攻略記事です。制作者はあたりめ様。作品のダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → SAVE
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『SAVE』は、クトゥルフ神話を題材に、とある復讐者の暗く長い旅を描いたゲームです。テーマ上、ややグロテスクな描写が含まれます。主人公は男女どちらかの性別を選択可能。クリアまでの所要時間は約4~5時間でした。
「クトゥルフ神話」といえば、基本的には、H・P・ラヴクラフトを始めとする作家たちが創り出した作品群の世界全般を指します。名状しがたい宇宙的恐怖や畏怖すべき旧支配者たちに彩られたラヴクラフト作品は、熱狂的なフォロワーを世界中に生みだしました。
たとえば、「クトゥルフ神話TRPG」は根強い人気を誇っていますよね。そこからクトゥルフ神話を知ったという方はけっこう多いのではないでしょうか(私はその口だったりします)。
フリゲジャンルにおいてもクトゥルフ神話のエッセンスは様々な形で取り入れられているようです。例を1つ挙げるなら、クトゥルフ神話をテーマとした『クトゥルフの弔詞』(ノベルゲーム)でしょうか。読み物としても面白く、クトゥルフ神話のビギナーにも細やかな配慮がなされているのでオススメです。
他にも、『Ruina 廃都の物語』(長編RPG)だったり『かげろうは涼風にゆれて』(ADV)だったり、神話的生物(らしきもの)がチラッと見え隠れするフリーゲームは色々とあります。
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作品の話題からはズレますが、ラヴクラフト作品は面白いのでオススメです。単語がけっこう難解で翻訳でも読みづらいのがネックですが、人間の存在を内からも外からもじわじわと攻めていくホラーが楽しめると思います。
また、『クトゥルフ神話TRPG』のルールブック(いわゆるルルブ)もオススメです。クトゥルフ神話の基本情報が詳細に書かれていて挿絵も豊富。TRPGをする予定はないけど興味はある……という方でも、読み物として十分に楽しめる情報量と構成です。
「クトゥルーの呼び声」(ラヴクラフト)が巻頭に載っているので、作品世界の雰囲気を軽く知ることもできます。個人的には、ちょくちょく載っているラヴクラフト先生の肖像画は一見の価値ありだと思います。長く見つめているとSAN値が減少しそう。
以下は『SAVE』の感想です。ストーリーやエンディングに関する詳細なネタバレを含むので、未見の方はご注意ください。
『SAVE』のあらすじ
まず、『SAVE』のあらすじを簡単に説明します。
SAVE
ゲーム本編は突然に始まります。ベッドで目覚めた主人公(ウズラ/メジロ)は傷だらけ。彼/彼女は身内らしい老人に見送られて旅に出ますが、プレイヤーに旅の目的は明かされません。
様々な怪異に巻き込まれ、危険な狂信者たちと対立しつつ各地をさすらう主人公。彼/彼女は目的のためには手段を選ばず、自身の体を怪物に変えることもいといません。そうまでしなければならない理由が主人公にはあるのです。
主人公は何を追いかけているのか? なぜボロボロの体で目覚めたのか? 人ならざる者に変貌していく主人公の末路とは? 物語が進むにつれ、主人公を駆り立てる過去が明らかになっていきます。復讐者である主人公の選択により、エンディングは3つに分岐します。
『SAVE』の感想
『SAVE』は、露骨なホラー表現はなく、怪奇あり人間ドラマありの物語展開が魅力的なゲームです。
ストーリーやグラフィック等の各要素のクオリティーが高く、丁寧に作り込まれているという印象を受けました。特に、全体のストーリーラインとRPG的要素(戦闘など)が噛み合っているのが巧いと思います。以下、項目ごとに書いていきます。
ストーリーについて
クトゥルフ神話絡みの話と言えば、原典のラヴクラフト作品からして基本的に救いがありません。「名状しがたい恐怖」があり、それに対して右往左往する人間の愚かしさや矮小さが冷笑まじりに描かれる……とでも言えばいいのでしょうか。
そういう作風は個人的には嫌いではないです(血の因縁がクローズアップされる初期の作品は好みでもあります)。そして、そんなクトゥルフ神話がベースと言うからには、『SAVE』の結末も後味が悪いんじゃないかなーと最初は予想していました。
実際にプレイして抱いた感想は、一つ一つのエピソードはもの悲しいが、全体としては、主人公にとって十分に救いのあるラストだったというものです(バッドエンドを除く)。
ゲームを始めてまず驚くのは、主人公がすでに負傷し無残な姿になっていることだと思います。何も始まっていないのにもうボロボロです(真相を考えると、主人公にとってはただ1つを除いたすべてが「終わってしまっている」状態なのかもしれませんが)。
プレイヤーに負傷の理由は一切明かされませんが、少しプレイを続ければ、彼/彼女が執念とでも言うべき気概を持って「何か」を追い求めているらしいことは充分に伝わってきます。
外見を損なうほどの「怪我」と、その怪我をおしてでも旅に出なければならないほどの「理由」、そして主人公の暗く強い「覚悟」。この3つが揃った状況が、主人公がクトゥルフ神話由来の力に手を出す契機となるのです。
か弱いヒトでしかない主人公は、邪神やその狂信者たちに対抗すべく、自分の身体のパーツを怪物のそれと交換することによって超常的な力を手に入れていきます。そうすることで一歩一歩怪物に堕ちていくとしても、主人公は躊躇うことがありません。
「クトゥルフ神話RPG」と聞いたときは、「敵はモンスターや邪神で、主人公は好奇心旺盛な人間の探索者なんだろうな」と単純に想像しました。だからこそ、主人公がダークヒーロータイプでだんだんと怪物になっていく展開には意表を突かれました。
「怪物化=人間であることをやめること」なので、こういったハードな展開は主人公の覚悟の強さを強調することにつながります。また、クトゥルフ神話の探索者は、神話的生物と比較すれば圧倒的に火力不足であることが多いです。だから戦闘込みのRPGとなると、主人公が神話由来の力に積極的に手を出すのは当然の流れなのかもしれません。
総括すると、怪物化する「動機」と「必要性」をストーリー面からしっかりと補強し、展開の意外性につなげている点が非常に好印象でした。
また、主人公の行く町々では、小エピソードが展開されます。引き裂かれて亡くなったナキモノと女主人の話、アトラック=ナチャの娘にされた奴隷の話、チャコタに喰われた少年の話、イゴーナロクの虜となった司書の話……など、各エピソードの雰囲気は基本的に重苦しく陰鬱でした。
敵対する怪物はその多くが元人間です。そして主人公が駆けつけた時にはもはや手遅れで、とどめを刺してやるしかない状況に陥っていることがほとんどです。キャラの悲しい末路を見るにつけ、せめて主人公の希望だけは損なわれないでほしい……と中盤以降はひたすら祈るばかりでした。
クトゥルフ神話のエッセンスを活かしつつ、独自の物語として描き切っていると感じました。演出・構成も良かったです。
戦闘について(※バージョン1.06)
詳しくは後述します(「プレイ記録&苦労したポイント」)が、意欲的に雑魚狩りができる工夫をしてほしかったという感想を持ちました。金策のために戦闘を繰り返す必要があるのですが、何度も戦闘するとなるとややテンポが悪くなる印象です。
戦闘のテンポが悪くなるのは、敵の火力が高いせいでもあります。しかし、根本的には下の3点のコンボが原因だろうと思います。
- パーティメンバーの3分の2が状態異常になりやすい
- 敵の状態異常攻撃の頻度が高い
- そのわりに状態異常を防ぐ装備がない(らしい)
もちろん、アイテムをどんどん使えば安定します。しかしアイテムを極力使いたくない性質なので、装備で耐性をつけるという選択肢が欲しかったなーと思いました。
もっとも、状態異常を防げないのは、圧倒的に強い邪神と弱いヒトである主人公を対比する狙いがあるのかもしれませんが。
キャラクターについて
『SAVE』のメインキャラは4人……というより、見た目に限るなら2人と2匹です。
まず主人公ですが、男女どちらかを選択可能であり、過去回想の中で選ばなかった方は死亡済みであることが明かされます。
主人公が子持ちの大人であるというのは、フリゲではけっこう珍しいのではないでしょうか。単に珍しいだけはでなく、親であることにちゃんと意味がある主人公だったのが印象的でした(『フラスコのゆめ』というフリゲの主人公も、ちょうどこの作品と同じような感じだったなと思ったり)。
主人公は喋りませんが、その行動から身勝手な狂信者への憎しみと娘への愛情はひしひしと伝わってきます。「善人になるか悪人になるか」はプレイヤー次第です。とはいえ、ダークヒーロー系主人公には怪物に身をやつしても心までは堕ちない姿勢が映えるのではないかと個人的には思っています。ということで1周目は善人プレイ一択でした。
主人公の同伴キャラ2匹は、下位の奉仕種族である「ビヤーキー」と「ショゴス」です。マスコット的なグラフィックも相まって、律儀に主人公を慕う姿が可愛かったです。
個人的に一番印象深かったのは、「黒服の男」でした。黒服の男は主人公の行く先々に現れ、露天商として怪しいものを売りつけてきます。選択次第ではパーティ入りし、主人公を助けたりもします。当初から人間ではないんだろうなとは思っていましたが、あまり深くその正体を考えることはありませんでした。
黒服の男の正体に気づいたのは、「にぎやかなまち」あたりです。図書館にて、「首のない怪物」と聞いて這い寄る例の邪神を連想したんですよね(図書館の怪物自体はイゴーナロクでした)。「そもそもあの邪神は首じゃなくて顔がないんだっけ」→「あれ、もしかしなくても黒服の男の正体って……」という流れでした。
特にTRPGシナリオにおいて、傍観者orトリックスターと言えば例の邪神の十八番です。後で公式サイトをチェックしたところ、わりとモロバレの紹介が載っていて笑いました。個人的にトゥルーエンドが一番好きですが、その理由の1つは、主人公たちとこの邪神との珍道中がしばらく続きそうだからです。続編があればその部分を見てみたいなーとも思います。
各町のキャラについては、境遇の悲しさに心惹かれました。ごく平凡に幸福に暮らしていた人間が、ある日ふと道を踏み外し、誰かの悪意に絡め取られて死んでいくわけです。プレイヤーをやるせない気持ちにさせる描写が上手いなあ、と。「たすけて」の縦読みには絶望しました。
グラフィックについて
特に異形の怪物がそうですが、全体的に「可愛い」の一言でした。デフォルメが巧くて素晴らしいなと思います。基本的におぞましい見た目のモンスターが多いクトゥルフ神話なのに、このゲームでは恐ろしくも可愛らしいビジュアルに落とし込まれているんですよね。
個人的に好きだったのは、ダゴンとハイドラです。登場するエリアも原作っぽくていいですね。
プレイ記録・苦労したポイント
この項目では、主に戦闘面を中心に、実際のプレイ時に感じたことや考えたことについて書きました。※バージョン1.06での感想です。
戦闘関連の雑感
『SAVE』の戦闘はシンボルエンカウント制です。そのおかげで探索がサクサクと進みますが、結局は積極的に戦ってレベルを上げないと後がつらいと思います。
ビヤーキーが仲間になった後は、「いなかまち」に帰って無料で全回復できます。これがかなり有り難かったです。ホテル代にけっこうな費用を割いていたので、中盤あたりで「そらをとぶ」の有用性に気づいたときは小躍りしました。
戦闘の詳しい感想ですが、敵の攻撃力が序盤からわりと容赦なかったです。雑魚敵にもザクザクと体力を削られる上に回復手段に乏しいので、序盤~中盤は回復アイテムを常備しつつ、こまめに「いなかまち」に戻って回復することを心がけました。
また、バトルでの一番の悩みどころは「状態異常」への対処に尽きると個人的には思います。上でも書きましたが、基本的に装備などによって状態異常を防ぐことができないっぽいんですね。これはけっこうつらい要素でした。
というのも敵が状態異常攻撃を使うことが多く、ショゴスを除いた主人公とビヤーキー(つまりパーティの3分の2)はけっこうな頻度で状態異常に陥ってしまうからです。ここで耐性の高いショゴスまで状態異常になる(大抵「錯乱」)と、もはやプレイヤー的には地獄絵図でした。回復アイテムも序盤ではそう手に入らないので、低レベルで恐怖・錯乱・鬱状態にされるとそのまま逆転負けすることも少なくなかったです。
高レベルになってもなお、状態異常攻撃は主人公パーティの鬼門であり続けました。具体的に言うと、ラスボス戦はコツを掴むまで地獄だった記憶があります。あくまで体感ですが、ラスボス戦はチートアイテム・神水がないと安定して進められないのではないかと思います。
主人公のステータスについては、ステータスの成長とスキル習得がかなり独特だと思いました。レベルが上がるとHP・精神力は上がりますが、攻撃力と防御力は上がりません。また、ただ単にレベルを上げたり呪文を探すだけでは使えるスキルが限られてきます。これはあくまでも主人公がか弱いヒトだからなのでしょう。
攻撃・防御を上げる&新しいスキルを覚えるには、主に「露天商」から該当商品を購入する必要があります。
ただし注意すべきなのは、露天商から買い物をするたびに怪物度が1つ加算されるという点です。「怪物度が10以上になる=露天商から10回買い物をする」と、主人公はもはや人としての生活には戻れず、3つあるエンディングのうちのハッピーエンドには到達できません。
つまり、ハッピーエンドを狙うなら「低ステータス&スキル制限&黒服の男の加入なし」での攻略が必要となります。
ハッピーエンドを狙う際のラスボス攻略
何も考えずにプレイした1周目も、ハッピーエンド狙いの2周目も、最大の難所はやはりラスボスの攻略でした。
1周目については神水に頼らずチャレンジしたため、【ALLレベル32+露天商最大限利用】なのに詰みかけました。そこで、黒服の男を仲間にし、開き直って神水を使ってクリア。状態異常攻撃の連続がつらかったので、状態異常にならない黒服の男がいると格段に楽でした。
2周目は最初から神水とMP回復アイテムを貯め、出し惜しみせずにじゃんじゃん放出しました。結果、【ALLレベル32(黒服の男なし)】でクリア。「1周目の苦労は?」と思わず言いたくなるほどのサクサク加減でした。
以下、ハッピーエンド狙いの2周目に関する感想&考察です。
最初からハッピーエンド狙いで攻略してみたところ、【メンバーのレベルがALL32&露天商で8回買い物をする】で余裕をもってラスボスに勝つことができました。
ハッピーエンドの条件のためか、露天商に頼らずともある程度は進行可能です。これは、旅の武闘家から習得できる物理スキルがかなり強力で、かつそのスキルが終盤手前のダンジョンまで通用するためです(この物理スキル群は、必要MPがゼロなのが非常に有り難い)。
肝心のラスボス戦については、以下の能力アップ&バフスキルがあればそこそこ安定する印象です(※神水必須/装備はSHOP仕様で最高のもの)。
- ・攻撃力×3
- ・防御力×3
- ・ノイズミスト(防御上昇)
- ・憎悪の歌声(攻撃&精神上昇)
進行的には、最初に「憎悪の歌声」を連続で使用し、第二形態に移行する前に「ノイズミスト」を使用して物理対策をすると比較的楽でした。
ただし、主人公とビヤーキーは状態異常に陥りやすいです。そのため、ちょっとしたダメージでも放っておくとあっという間に全滅しかねません。そこで、状態異常になりにくい&物理攻撃特化でダメージソースにはなり得ないショゴスを回復・アイテム係とします。その上でこまめに「りんぷん」で全体回復し、神水を使用させるとかなり安定します。
あとは、主人公には低コストの「光の鉄槌」を(主人公も回復はできます。が、絶え間ない状態異常攻撃が続くラスボス戦ではその役目を期待できません。すぐに恐怖するか鬱になるのでぶっちゃけ信用できません)、ビヤーキーには「かまいたち」を使用させるのがいいかと思います。
全体を振り返ってもラスボス戦周辺で難易度がぐんと上がる印象です。やはり、MP回復アイテムと神水をたくさん(各20個?)持ち込んで積極的に使用していくことが、戦闘を安全に進める鍵だと思います。
資金繰りについて
プレイ中は慢性的に資金不足だったので、資金繰りはある意味戦闘以上に悩まされた要素だったかもしれません。
『SAVE』ではレベル上昇によるステータスアップがあまり見込めません。そのため、戦うにあたって店の装備品と露天商の商品頼りになり、必然的にお金はあってもあっても足りない状態になります。しかしお金を稼ぐ手段は、敵を倒してドロップした品物を店で売却するくらいしかありません。
よって、かなりの量の雑魚戦をこなさなければならないわけです(このゲームに限らず、ドロップアイテム目当てでの戦闘の繰り返しはやはりちょっとつらいですね)。
まめに露店を利用した1周目が自転車操業だったので、ハッピーエンド狙い(=露店でほとんど買い物をしない)の2周目では余裕ができるのではないかと最初は思っていました。念のために装備の費用を抑え、アトラック=ナチャの教団で多めに貯金をしたりもしました(敵から直接現金をドロップできるのはおそらくこのダンジョンだけ)。
しかしやはり最後は1周目と変わらず、金銭的にかつかつの旅になりました。なぜかと考えた結果、「ハッピーエンド狙いなら金欠になるのは必然だった」と後で気づきました。
というのもハピエン狙いだと露天商で買い物ができず、主人公パーティの火力が制限されて長丁場になるので、どうしても神水が一定数必要になるんですよね。そして神水は、1個1500円の高価アイテムです(それに見合うチート性能ではありますが)。
一応、地下洞窟の敵は高価な換金アイテムを落とすので、資金繰りのための配慮はされています。しかし、いかんせん戦闘の連続が楽しいとは言えないゲームなので、もう少しストレスフリーに金策ができるつくりだとなおよかったなーと個人的には思いました。
エンディングについて
この項目では、『SAVE』のエンディングについて攻略と感想を書きます。『SAVE』にはエンディングが3つ存在しますが、分岐に関わる条件は、主人公の「怪物度」と「善人度」です。
「怪物度」は露天商から買い物をすることで増加し、「善人度」は各町での行いや文鳥への返答によって変動します。
バッドエンド
「怪物度10以上」かつ「善人度1以下」でバッドエンドに分岐します。
主人公は探し求めていたはずの我が子を喰らってしまいます。ダークサイドへ一直線。心が荒み、怪物化する体に引きずられてしまったのでしょうか。SEが恐ろしかったです。
ハッピーエンド
「怪物度9以下」でハッピーエンドに分岐します。善人度が低くても、おそらくはこのエンディングに入ります。
ギリギリで人の体に踏みとどまったためか、キティは主人公を父/母と認識してくれます。無事にキティを「いなかまち」へ連れ帰った主人公は、老人と2人だけで話し合うのでした。
初見では、娘のキティと離れ離れになってしまう結末なのかとパッと思いました。しかし、親は子供のためならなんだってやってしまう、儀式を執り行う、終わったらここから去って新しい生活を……といった老人の言葉を考えると、むしろ逆なのかもしれないと気づきました。
つまり、老人がなんらかの形で主人公の呪いを引き受け、主人公はキティとともにいなかまちを離れて新しい生活へ……という終わり方なのかな、と。主人公の怪物度が高くないことも、まだ処置を施せることを示唆しているような気がします。
ラストの墓に花束を添えた一枚絵は、老人の墓のような気もしました。おそらく老人は主人公の父親でしょうし、「子供の為なら親はなんだってする」という言葉をその通り実行したのかな、と。
いきなり「儀式」というワードが出てぎょっとしましたが、よく考えるとこの老人、チュートリアルで異形を呼びよせ主人公にスキルを伝授していたんですよね。
自宅の棚には、「……我々一族は呪いを請け負うことで居住を許可された……」と語る本もありました。また、老人の家の扉に赤いバツ印がつけられていたことも印象的です。もともと主人公の家系は、クトゥルフ神話の世界に縁のある人たちだったのかもしれません。
トゥルーエンド
「怪物度10」かつ「善人度2以上」でトゥルーエンドに分岐します。黒服の男を仲間にしていると、特別なシーンが発生します。
異形と化した主人公を、娘のキティは父/母とは認識してくれません。主人公は正体を明かさずに、「いなかまち」の家に娘を連れ帰ります。助けてくれた理由を尋ねるキティに、「幸せになって」とだけ言い残す主人公。そして主人公の正体に気づいたらしい娘を残し、その場を立ち去るのでした。
黒服の男を仲間にしている場合、彼は「もう私たち仲間じゃないですか」とあちこちで人助けをしようと考えているらしい主人公についてきます。まずは、商人たちの国(チャイナ?)に行きたいらしいです。もちろんビヤーキーとショゴスも一緒。「1人と2匹と邪神の珍道中は続くよどこまでも」といった感じのコミカルな結末でした。
「クトゥルフらしさ」でいうなら、救いのないバッドエンドが一番それらしいのだと思います。しかし個人的な好みですが、ほろ苦くて希望のあるこのトゥルーエンドこそ、最も『SAVE』の雰囲気に似つかわしいような気がしました。
幸福を奪われた状態からスタートし、そこからあらゆるものを捨てていった主人公なので、けして元通りの幸せを取り戻すことはできないんですよね。伴侶の死は不可逆性の象徴なのかもしれません(伴侶が生き残っていたとしたら、はたして主人公は異形に身をやつす覚悟をし得たでしょうか)。
しかし大切な人(=娘)が幸福でいてくれれば、彼/彼女は寂しいけれどきっと幸せを感じられるし、これからも生きていけるのです。自己犠牲精神と親の深い愛情が心に残るエンディングでした。
主人公を見守る謎の小鳥・ぶんちょについて
SAVE
主人公の行く先々には、人語を話す謎の文鳥が先回りして待っています。黒服の男を仲間にすると、この文鳥が待つ謎の空間へと行くことができます。
主人公を見守り、試し、果ては戦いを挑んでくる文鳥。「この鳥は何(者)なんだろう」と考えました(メタ的に言えば制作者様の分身なのだろうとは思いますが、物語的にはどういうポジションにあるのか気になったので)。
黒服の男(=ニャルラトテップ)の顔見知りだから、単純に邪神の一柱なのかと最初は考えました。しかし、善人度が低かった場合の豹変ぶりと末期の台詞を聞くに、もっと「神様らしい神様」のような気もします。
というのも、ぶんちょは「人間を救いたい」、そして「(人間には)救うに値する善なる存在であってほしい」的な期待を抱いていて、その期待を主人公が裏切ると、命を奪おうとしてくる感じなんですよね(バッドエンドで主人公が娘を襲ってしまうことを思うと、主人公を排除しようとするその判断は正しいのかも)。
善人度の高い回答をすると、文鳥は意味深なことを言います。端的に言うと、「どうしてこのゲームのトゥルーエンドがああいう終わり方だったのか」について、そのものズバリの理由を述べているように感じました。
「酷いことをされたからといって周りにも同じことをするのか」と文鳥は旅の途中で主人公に尋ねます。文鳥は旅の間中、「酷いことをされた」後の主人公をじっと見守っています。そしてもし主人公が悪行に走るのなら、「裏切られた」と言って断罪しようとします。一方、あくまで主人公が善い人であろうとするのなら、その行動を祝福します。
上記の事情から、文鳥にとって主人公の存在は一種の試金石だったのかもしれないと思いました。人間を信じたいが、はたして人間は善い存在であり続けることができるのか。どん底に落とされた主人公を見守ることで試したかったのではないか、と。
いなかまちの村人の言葉。悪意からか哀れみからか
SAVE
ルート分岐との関係上、文鳥のもとへ来た時点で、主人公はまっとうな人間生活には戻れない体になっています。それなのに文鳥は、善良な彼/彼女に対し、「あなたはきっと幸せになれます」と予言します。
状況だけを見渡せば、「どこをどうしたら今の主人公が幸せになれる?」と尋ねたくなる台詞です。そもそもこのゲームが始まった時点で、主人公にとっては多くのことがすでに終わってしまっています。いわれのないことで伴侶の命を奪われ、娘を連れ去られ、自らもボロボロの体にされ、仮に娘を取り戻しても失ったものは元には戻らず、怪物になったために娘と一緒に暮らすことも許されない。客観的に事実だけを並べれば、主人公はこの先幸せにはなれそうもない気がします。
しかしそれでも主人公は、娘が無事でいてくれるならきっと幸せになれるのです。そして文鳥は、「主人公にとっての幸福=娘が生きていてくれること」を見越した上で、先だっての予言をしたのではないでしょうか。
つまり、本来救われず二度と幸せになれないだろう主人公の心の救済は、娘を救うことによってのみ果たされ得るということです。
主人公は一見娘の為にすべてを投げ打っているように見えます。マイナスにマイナスを重ね、ゲーム開始時点よりももっとボロボロの体になっていくわけですから。しかしそれだけの代償を払ってでも、娘を救うことがおそらくはめぐりめぐって主人公自身の「救い」となるのです。
主人公自身はおそらく、「自分なんて救われなくてもいい、幸せになんてなれなくてもいい」と思っているのでしょう。自分の命を含めたすべてを捨てるつもりで復讐の道を突き進んでいるのかもしれません。だからこそ、落ちるだけ落ちて娘を救った先に、主人公が現世で唯一得られるであろう救いと幸せがある……という構図に、妙に心を打たれました。
主人公は、ひたすらに暗闇の荒野を行く旅人のようだとも思います。行く手にまだ希望があるのかどうか、本人にもよくわからないような状態で必死になって進み続ける旅人です。
文鳥は、そういう主人公の心をそっと拾い上げて祝福してくれるんですよね。だから、やはり「神様」じみた存在だなーと思います(自分の期待に添わない悪人ならば容赦なく切り捨てようとするあたりも神様っぽい)。
あらためて、トゥルーエンドがああいう風に終わったのは娘の幸福を願う主人公の意向を強く打ち出した結果だと思いました。娘を救い復讐を果たした後、主人公は自らに救いが訪れたことを穏やかな気持で実感できたのではないでしょうか。
『SAVE』は主人公による娘の「救出」を描いた物語でもあり、本質的には主人公の心の「救済」を描く物語でもあったのだと私は思います。
*****『SAVE』は何よりも実現力に優れたゲームだと思います。絵にしても物語にしても。クトゥルフ神話のエッセンスを豊富に取り込みつつ、馴染みのない人にも受け入れられる形で表現している点が素晴らしいです。戦闘面にちょっと不満が残るものの、そもそも物語ることを重視している趣きのある作品で、その物語面がとても良いのであまり気にならなかったです。
デフォルメの効いた可愛いグラフィックで表現される薄暗い世界観、そして特定エンディングのどこか爽やかな余韻がクセになるゲームでした。
※クトゥルフ神話を題材とするorクトゥルフ神話要素が入っている作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『部屋を越ゆるもの』 感想 攻略(舞台はアーカム、ミスカトニック大学。少女2人が異空間を往く探索ADV)
・『かげろうは涼風にゆれて』 感想 攻略(偉大なる支配者の影が見え隠れする、硬派なSF青春ADV)
・『Ruina 廃都の物語』 感想 考察(シナリオの一部にクトゥルフ神話要素あり。ゲームブック風の長編ファンタジーRPG)
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