『美術空間』 芸術に満ちた世界を往くサイドビューRPG レビュー その1 ※ネタバレ注意
芸術×戦闘なサイドビューRPG、『美術空間』のレビュー記事です。攻略情報も含みます。制作者はふーみん様。ゲームの紹介ページ(ふりーむ!)はこちらです。 → 『美術空間』
美術空間
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『美術空間』の舞台は、1人の男の芸術が具現化された異空間です。主人公フレディーは怪しくも美しいその世界で目覚め、与えられた使命を果たすべく奔走します。裏エンディング含め、クリアまでの所要時間は約10時間でした。
とことん創意工夫が凝らされたヴィジュアルに惹かれてプレイしました。ややダークな世界観やヴィジュアルの尖り具合に対して、ストーリーは意外にも王道的。キャラ同士のかけあいも楽しく、何より戦闘が面白いゲームでした。
今回の記事は、『美術空間』のあらすじ、魅力(好きなダンジョンや技)、戦闘の感触に関して感想を交えつつレビューを書きました。「ストーリー&キャラクター感想」と「裏エンドのプレイ記録と攻略」については、記事その2に書きました。
≪記事その2:『美術空間』 ストーリー&キャラクター感想 裏エンド攻略 その2 ※ネタバレ注意≫
『美術空間』のあらすじ
まず、『美術空間』のあらすじを書きます。
美術空間
「悲願の絵筆」と呼ばれる不思議な道具がありました。売れない芸術家ロドリゲスの手に渡ったとき、絵筆は彼の芸術を具現化した異空間を創り出しました。
絵筆によって維持される異空間は、ロドリゲスの絵を見た者を自らの中へと引き込み始めます。そしてロドリゲス自身も含め、多くの人間が現世から姿を消すことになったのです。
この異空間は偶然にも現世と魔界の間に位置し、両者を繋ぐ空間となってしまいます。迷い込んだ人々は、徐々に異空間を侵食し始めた魔物に心身を脅かされつつ、いずれ現世に戻れることを願って日々を送るほかありませんでした。
主人公の「フレディー」は、大剣を片手に異空間で目覚めます。名前を除く一切の記憶はないものの、彼は自身に果たすべき「使命」があることを知っていました。その使命とは、「悲願の絵筆」を破壊し、異空間を消滅させること。
折しも魔物は異空間を足がかりにして現世の侵略を企んでおり、タイムリミットは刻一刻と迫っていました。
フレディーを突き動かす「悲願」とは何か? そして、フレディーの行く手に待ち受ける運命とは?……といったあたりがストーリーの見どころです。
「美術空間」の魅力
この作品の舞台は、1人の男の芸術が具現化された世界です。つまりプレイヤーは、文字通りの「美術空間」――怪しくも美しく恐ろしい芸術の世界――を冒険することになります。この舞台設定は『美術空間』の大きな魅力の一つです。
タイトル通り、このゲームのグラフィックは素晴らしいものです。世界を埋め尽くす芸術は場所によって様々に変化します。マップから戦闘演出までとことん凝っているので、じっくりと眺めながらプレイしてしまいました。
この項目では、好きなダンジョンと好きな技をいくつか挙げようかなと思います。
好きなダンジョンその1:目玉の迷宮の最下層
美術空間
「目玉の迷宮の最下層」は、だいたいベルフェゴールがいるエリアです。上はハイウェイスターがいたりとポップな雰囲気ですが、最下層が近づくにつれて幻想的な風景になっていきます。
上は特に綺麗な場所だと思います。クレヨンで適当に色を塗り、その上から黒のクレヨンで塗りつぶし、それから釘で黒い部分を削って絵を描く「スクラッチ」という画法がありますよね。最下層付近の風景を見ているとそのスクラッチで描いた絵を連想しました。
その他、ベルフェゴールの家近くの景色も眼福でした。暗闇に花が咲き群れ、川流れ……と、どことなく彼岸っぽい印象を受けます。
好きなダンジョンその2:雪原
美術空間
「雪原」は、おおまかに言うと「掃き溜め」に至るまでに通過するダンジョンです(マンモンの家があるあたり)。
この雪原、オブジェクトが非常に可愛らしいんですよね。特に大きなツリーのあるエリアは、いつまでも眺めていたいほどにキュートでした。プレイ時は意味もなく歩き回ってしまいました。マップ全体的に雪の降った日特有の空気のキラキラ感があり、凍った水面への映り込みも丁寧に表現されていると思います。すごく好きです。
好きなダンジョンその3:死都アースガルズ
美術空間
「死都アースガルズ」は、『美術空間』を最も濃厚に体現しているダンジョンのような気もします。最初に立ち入ったときはその異様な雰囲気に圧倒されました。
後で調べましたが、アースガルズは北欧神話に登場する神々の世界だそうです。ロキや巨人が出てくるのはそういうことなのかーと腑に落ちるものがありました。
アースガルズにはあちこちに巨大な骸骨のオブジェクトがあり、その不気味な美しさは「死都」の名にふさわしいものです。一方で、その内部はこれでもかというほど濃い「美術」で埋め尽くされています。
彫像を大胆に置いた通路やなぜか骸骨に登れる通路なども好きですが、初見で圧倒されたのは上のエリアです。もはや鳥肌もの。SUGEEEEEの一言でした。ステンドグラスやモザイクって無性に好きなんですよね。リアルでこんな素敵な空間に出入りできたら感動ものだろうなーロドリゲスって多彩だなーとうっとりしました。
番外編:好きな演出
ダンジョンそのものとは関係がないのですが、ラストダンジョン内のとある中ボスの戦闘導入演出が非常にカッコよかったです。
教会めいた場所へ→薄明りの中で敵と対面→不意に暗闇に包まれる→「祈りはもう済ませたのか、人間?」……という流れなんですが、初めて見たときはカッコよすぎてしびれました。文章にしても伝わりにくいのですが、渋くてドキドキする演出だと思います。
好きな技その1:トロイメライ
美術空間
次に、好きな攻撃技を3つ挙げていきます。一番手はレナの「トロイメライ」です。ザ・大技。終盤はお世話になりっぱなしでした。レナ強い。
トロイメライは確率で変化する技です。変化時のフィールド演出が出たときはキターとテンションが上がります。通常/変化のどちらの場合も、強力そうなエフェクトがゾクゾクものです。
好きな技その2:タロットカード
「タロットカード」は、何が飛び出すかは運任せのグレートな博打技。レナ強い(2回目)。この技を使うたびに、どんな絵柄と効果が発生するのか楽しみでなりませんでした。技発動時のルーレットとSEにいつもドキドキします。
もしかすると大アルカナの数だけ変化があるのかもしれませんが、自分で見られたのは6つだけでした。「戦車」と「魔術師」がよく出ました。せっかくなので「星」「隠者」「教皇」「愚者」も見たかったです。
HPが少ないときに出て嬉しかったのは、4桁回復+味方リジェネ付与の「力(ストレングス)」、4桁回復+完全防御付与の「塔(タワー)」です。強ダメージ+呪い付与の「死神(デス)」もカードにピッタリの強い効果でいいですね。
また、1回しか見たことがないですが、「世界(ワールド)」が出たときはテンションが上がりました。時が止まりそう。ちなみに5000ダメージ出ました。さすがに強い。
好きな技その3:プレデター
美術空間
アキラの「プレデター」は、「絶対にベルゼブブの巣でインスピレーションを得たんだろうな」と思わされる技でした。
SE・エフェクトともに迫力がダンチです。腕から解き放つ感じが邪気腕っぽくてカッコいいですね。ダメージ+HP吸収という使い勝手の良さに加え、変化時のおぞましさがソーグッドです。
また、フレディーの技の中では「サタンレイジ」が好きです。変化時のエフェクトがカッコいい。敵だとハーゲンティの大技が好きでした。演出が派手なのもそうですが、「ハァーッハッハッハッハ……」と遠くで響く笑い声に笑います。
戦闘における7つの楽しいポイント
『美術空間』は戦闘が楽しいゲームでした。最初から最後まで楽しめました。難易度は低くはないですが、戦闘で工夫するのも面白く、レベル上げも苦になりません。
この項目では、戦闘に関して魅力的に思ったポイントを以下にざっと挙げてみます。
1.「指輪」と戦略性
主人公パーティは全3名です。それぞれについて育成方針が大きく2つに分かれます。というのも、キャラクター登場時に、固有スキルを秘めた2つの指輪のうち1つを選び、バトルの戦略の方向性を定める必要があるからです
たとえばレナの場合、威力は低いがコスパの良い氷炎魔法の指輪を取るか、コスパは悪いが威力の高い光影魔法の指輪を取るかという選択を迫られます。
指輪には固有の強力な技が備わっているので、キャラクターは指輪を介してその技を習得することになります。
一応、技を覚える手段は他にもあります。a. 敵が落とす「魂」を一定期間装備する、b. 街のスキル屋さんで購入する、などです。しかし、敵への攻撃に使う強いスキルは、最後に至るまで指輪由来のものとなります。だから最初の選択はとても重要です。パーティメンバー間のバランスを考えつつ選ぶのがいいと思います。
また、指輪には、固有の戦闘効果が備わっています。たとえばレナの光影魔法の指輪には、「5ターン目に強力な攻撃を放つ」という効果が付随しています。この効果をうまく組み込むことで、戦闘を有利に進めることが可能です。
2.戦闘演出が多彩で細やか&キャラドット絵が可愛い
コマンド制バトルを楽しく魅せることに大きく貢献しているポイントだと思います。一つ一つの技のSEやエフェクトに見ごたえがあり、見ていて飽きませんでした。
また、敵味方ともに戦闘中にずっとドット絵が動き続けるのが可愛くて好きです。状態異常を喰らったときの差分も細やかでした(混乱したフレディーが腕立て伏せをしたり、アキラが承太郎の勝利ポーズっぽい立ち姿になったり)。
3.一部の技が確率で変化する
「サタンレイジ」「トロイメライ」「プレデター」などは一定の確率で技が変化します。変化するとダメージが2倍以上になることも。演出が派手になることもあり、クリティカル以上に興奮する要素でした。
4.「相殺」で攻撃を無効化
『美術空間』のバトルには「相殺」という要素があり、物理攻撃を一定の確率でいなすことができます。相殺の利点は、ダメージを軽減するどころか無効化できる点です。キーンというSEが聞こえるとニヤッとします。
特に、即死攻撃持ちのカマキリ戦では、相殺が発動するかどうかを固唾を呑んで見守ることもありました。また、目玉の迷宮ダンジョンに登場する相殺率が非常に高い敵には、かなり苦戦したのを覚えています(キーンキーンキーンと剣戟の響きが止まないのは熱かったです)。
5.どのキャラも回復・バフ技を覚える
これは地味に重要なポイントだと思います。「このキャラは回復技特化で~」といった偏りがないため、方針の幅が広がります。バフ技大好きプレイヤーなので、全員総出で補助魔法をかけまくることができて大満足でした。
6.ゲージを溜めると特殊な大技を繰り出せる
攻撃を受けるとゲージが溜まり、特殊な大技を繰り出せるようになります。技はキャラごとに異なり、フレディーは「ランページ」、レナは「タロットカード」、アキラは「ファイナルX」です。固有技に個性が出ているのもイイですね(ランページ:そうとうなパワー、そしてスピード/タロットカード:占い師のレナらしい神秘的な技/ファイナルX:中二カッコいい)。
十分に攻撃力を上げてから放てば、場合によっては一発逆転も夢ではありません。特殊技ということでエフェクトも派手なので一見の価値ありです。
7.準備と工夫
強力な炎攻撃を多用する敵には耐性装備をつける、即死技を使う敵には前もってのリバイブで対応、相殺率の高い敵には魔法攻撃で対処……など工夫が必要になる場面が多いです。試行錯誤しつつ戦闘の準備をするのが好きなので、『美術空間』のボス戦は特に楽しかったです。
以上の7つの要素があいまって、ラスボスまでずっと戦闘が楽しかったのが何より嬉しいポイントでした。もっと言うと、敵の変幻自在っぷりが魅力的なラスボス戦が一番楽しかったです(敵のお供にフレディー&アキラのニセモノが登場したりとユーモラスな一幕もあり)。
RPGではどちらかと言うとストーリーを重視する派ですが、戦闘も同じくらいに重要だと今回改めて感じました。戦闘が楽しいRPGは偉大だと思います。『美術空間』は、外見的にも実質的にも戦闘にこだわっていることがよくわかるゲームでした。プレイしていてワクワクしました。
*****
今回は、『美術空間』のあらすじ、魅力(好きなダンジョンや技)、戦闘の感触に関してレビューを書きました。記事その2では、「ストーリー&キャラクター感想」と「裏エンドのプレイ記録と攻略」について書きます。
・記事その2:『美術空間』 ストーリー&キャラクター感想 裏エンド攻略 その2 ※ネタバレ注意
※「ダークファンタジー」あるいは「グラフィックが独特」な作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『WIZMAZE』(ウィズメイズ) マルチシナリオ型ファンタジーRPG レビュー&世界設定を解説
・『Ulitsa Dimitrova』 感想(ストリートチルドレンを操作するアドベンチャーゲーム)
・『ダージュの調律』 感想(個性的なグラフィックと抒情的な語りが癖になるアンチ・ヒロイックRPG)
以下は拍手コメントへの返信です。(2017/07/26)
> 鳥草さん
はじめまして、コメントありがとうございます! 返事が遅くなって申し訳ありません。記事を読んでいただけて嬉しいです。
> 今回の記事の末尾、RPG紹介が~
お役に立てたようで幸いです。そうですね、追記的に紹介するのではなく、ゲーム紹介だけで独立した記事をアップすることも考えてみようと思います。貴重なご意見ありがとうございました。色々と幅を広げたいと思っているので、今後も当ブログをよろしくお願いします。
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