『ほろびのゆりかご』 未来選択型サスペンスADV 感想&考察 ※ネタバレ注意
未来選択型サスペンスADV、『ほろびのゆりかご』の感想&考察記事です。制作サークルはCHARON様。制作サークル様の公式サイトはこちらです。 → CHARON
ほろびのゆりかご
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『ほろびのゆりかご』は、白い閉鎖空間で生まれ育った1人の少年の「選択」をめぐるお話です。エンディングは8つ。クリアまでの所要時間は約3時間でした。
『ほろびのゆりかご』は昨年末に公開された作品です。CHARON様のゲームはいくつかプレイさせていただいていますが、今作をプレイして感じたのは、「これは紛れもない力作だ」ということでした。トゥルーエンドを見終えたとき、自分の中に湧き上がる感情の大きさにハッとしました。本当に気迫のこもった「希望」のあるゲームでした。
けっこうフィーリングで物事を捉える人間なので、普段記事を書くときは理屈先行で書こうと努力することが多いです。しかし今回は、あえて感じたことを優先して書こうかなと思います。
以下は、ストーリーやエンディングのネタバレを含む詳細な感想です。特に「3つのルート、8つのエンド」では、Aルート/Bルート/Cルートそれぞれのエンディングについて感想を書きました。未見の方はご注意ください。
『ほろびのゆりかご』のあらすじ
『ほろびのゆりかご』のあらすじを書きます。
ほろびのゆりかご
主人公の少年・ホタローは、「白い場所」に住んでいます。他の場所には行ったことがなく、「白い場所」以外のところは知りません。
ホタローには優しくて頼もしい「ママ」がいます。ママの他に年上の女の子たちも何人か一緒に暮らしています。白い場所は平和で穏やかで、ホタローたちにとっての「楽園」でした。
しかし、ママがホタローを残して地下通路に食料を取りに行ったある日から、楽園の幻想は脆くも崩れ去っていくことになります。
人生は選択の連続で、後戻りすることはできない。白い閉鎖空間の中で、ホタローは何度も究極の選択を迫られることになります。
つらく苦しい「現実」に直面しながら、選択を重ねた先にあるものとは何か。ホタローの選び取るものによって、エンディングは6つのバッドエンドに分岐します。すべてのエンドを見たのちに、ただ1つのトゥルーエンドへの道が開けます。
『ほろびのゆりかご』の感想
『ほろびのゆりかご』は見事な作品でした。繰り返しになりますが力作であり、現時点ではCHARON様の傑作ではないかと個人的には思います。
プレイしていてひしひしと、「何かを伝えたい」という作り手としての執念を感じました。その執念が正のオーラをまとってゲームに宿り、プレイヤーに響いてくるような印象を受けました。ストーリーがいいとかキャラクターがいいとかそういった要素に還元する必要もないくらい、『ほろびのゆりかご』には「訴えかける力」があったような気がします。
これをなんと言い表せばいいのか……とあれこれ考えた結果、「凄み」という表現に落ち着きました。覚悟、執念、気迫、見事に三拍子揃っていたと思います。
「伝える」「見せる」ことへのこだわり
同制作者様の作品では、「選択」と「未来」はいつも重要なテーマとして扱われていました。そういう意味で、『ほろびのゆりかご』は今までの作品のテーマを踏襲していると言えます。閉じた世界の中、魅力的でちょっと病んでいる女の子たちに翻弄されながら主人公が選択を繰り返す……という大枠も同じです。
しかし今作は今までの作品よりもずっと「外に開いて」いて、たとえ舞台が閉鎖空間であっても展開されるストーリーや世界観が大きく広がっていくような印象を受けました。ありていに言えば、「伝えること」と「見せること」にとことんこだわっているような気がします。プレイヤーと真摯に向き合った上で、何が何でも伝えたいことを練って練ってメッセージにしている……そんな風に感じました。
結果として『ほろびのゆりかご』は、「選択によって変わる未来、それに伴う責任と痛み」といった従来のテーマをあくまで推し進めつつ、より映像的な表現を採用し、複層的なストーリーを持ったゲームになっています。
ゲーム内で分岐を繰り返し、選択を積み重ねた末に、いつの間にか物語はプレイヤーの次元にまで引きつけられていきます。プレイし終えた後、「すごいな」と思わずつぶやいてしまうくらいにスケールの大きな話でした。
「人生は選択の連続である」というテーマは何度も繰り返され、最終的にはフィクションバレとの併せ技でストレートに昇華されます。正直なところ、この格言を何度も出しすぎではないかと途中は思いました。しかし最後の最後までこうも真摯に追求されると、プレイヤーとしても感服してメッセージに向き合わざるを得ませんでした。
希望のあるフィクションバレ
『ほろびのゆりかご』はメタ発言とフィクションバレを含む作品でもあります(もっとも、フィクションバレとはいってもゲーム世界オチではなく夢落ち系のオチです)。けっこう取り扱いに注意を要する要素だと思うのですが、それらの演出・組み込み方も巧みでした。
いくつかプレイした制作者様の他作品だと、メタ要素に直面したときに気まずくなってしまうことがありました。理由は作品ごとに違うのですが、そのメタ要素がおおよそ直線的で負のオーラをまとっていたからかもしれません。
一方、今作では、ラストのメタ発言は作中でもっとも希望に満ちているように聞こえました。あくまで「メギ→ホタローのメッセージ」という体裁を保っているおかげで、ワンクッションあってプレイヤーも受け止めやすかったのではないでしょうか。
ラストのラストに虚構バレを入れ、しかも作品の雰囲気を壊さずにテーマをより深化・拡大している点は本当に見事だと思います。
ミクリについて
ほろびのゆりかご
クリア後にゲーム内容を振り返ったとき、ミクリへの好感度の高さに自分でも驚きました。冷たい態度とぶっきらぼうな物言いに反して正義感に溢れ、いざという時には自己犠牲も辞さないキャラクター。外見的には全キャラが出揃った時点で一番好みでしたが、表面と内面のギャップがこれほど良いキャラだとは思いませんでした。
最初にBルートに進んだのですが、デモニカの拷問ショーで強調されるミクリの強さと優しさに色々と持っていかれました。
生贄にミクリを選んだときは、プレイヤーの心情としては思い切り罵ってもらった方がまだ気が楽でした。しかしミクリは、「お前は悪くない!」とむしろホタローの罪悪感を必死で軽減しようとしてくれます。こんなに格好いい大人はめったにいないなと心底思いました。
また、たまに垣間見える可愛らしいところも好きです。メギと腹を割って話す前の落ち着かない様子や、ツナにプレゼントをもらったときの動揺にはニヤニヤしました。
青色のイヤリング
ミクリは赤い髪/黒い服の女性で、他の女の子たちと同じく金色の装身具を身につけています。しかし、もっとも目を引くのは右耳につけた大きな青い石のイヤリングではないでしょうか。
「青色」は主人公ホタローやホタローママ(とブルースター)、そしてCルートを象徴する色というイメージです。
もちろん単に差し色かもしれません。しかし青いイヤリングは、AルートとBルートにおいて惨劇に関与せずホタローに示唆するミクリの立ち位置を暗示しているのかもしれないなーと感じました(メギの青い目もホタローとの距離の近さを表している印象です)。
男性的な言動
ミクリの特徴の1つは、「俺」という一人称と男性的な言動だと言えます。最初は戸惑いましたが、的確な言葉と強い意志で主人公を鼓舞する役回りにはハマっていたと思います。かつ自らの意志を曲げてまでホタローたちを生かそうとする情の厚さも、意外性として際立つ結果になったのではないでしょうか。
ミクリは「性別不詳」と主人公から思われていますが、実際には女性のようです。本人も自身を女性だと認めています。ただ、幼い頃から一人称=「僕」で男の子っぽい見た目をしていたらしいので、精神的に男性寄りな部分があるのかもしれません。
あるいはほぼ女性ばかりの閉鎖空間でバランスをとった結果、男性的な言動をするようになった可能性もあります。
同年代のメギとエンゼリカは、ホタロー視点でそれぞれ「ママ」「おばあちゃん」と思われている、かなり女性的なキャラです。一方ミクリはクールな一匹狼タイプで、肉体的にもメンバーの中でもっとも屈強そうなので(実際、Cルートで荷物持ちよろしくねとメギに言われていた記憶があります)。
また、ミクリは同じ女性であるエンゼリカを愛しています。Cルートの同行役には最初ミクリを選んだのですが、ミクリのエンゼリカへの語りかけには心を打たれました。感情をあまり表に出さないミクリが打ち明けるからこそ、彼女の愛情の深さがよりいっそう伝わってくるような気がしました。
トイレと枕をくんかくんか
シリアスな『ほろびのゆりかご』ですが、けしてお遊び要素がないわけではありません。シェルター内にはホタローと女の子4人の個室があります。実はそれぞれの個室で、女の子たちの「トイレ」と「枕」のにおいを嗅ぐことができます。くんかくんか。
4人全員のトイレと枕をそれぞれ嗅ぎ終えると、「称号」が手に入ります。どっちも面白いタイトルです。トイレの方は直球すぎて笑います。
しかし注目すべきは、女の子たちのにおいの方です。我ながら変態くさくてアレですが、チェックポイントとして用意されている以上はすべて調べました。
メギのにおいは、花や植物好きで調香もする彼女らしい香りです。ツナのにおいは、元気いっぱいで運動量の多そうな彼女らしい香りでした。ミクリのにおいに関しては、「枕:懐かしい香り」の内容がとても気になりました。
しかし問題は、エンゼリカのにおいです。枕の香りもツッコミどころだと思うのですが、それ以上にハッとしたポイントがあります。それは、トイレに関する以下のメッセージです。
トイレ:ミルヒオーレのようなにおい
ほろびのゆりかご
ミルヒオーレのようなにおい。「ミルヒオーレ」と聞いて思い浮かぶのは、やはり同制作者様の作品である『みっくすおれ』に登場する彼女です。
初プレイ時は、食堂に行くよりも前に全員の部屋を調べてトイレと枕をチェックしました。そのときに上記のメッセージを見つけ、うっすらとですがエンゼリカに対して嫌な予感を抱きました。
そのままBルートに突入したので、デモニカが降臨。上記のメッセージのことを思い出し、あれはもしかして遠回しなヒントだったのか……とちょっと思いました。
3つのルート、8つのエンド
※以下には、『ほろびのゆりかご』の全ルートとエンディングの完全なネタバレが含まれます。ご注意ください。
『ほろびのゆりかご』には3つの世界線(A、B、Cルート)が存在し、6つのバッドエンド+1つのトゥルーエンド(+アナザーエンド)が用意されています。以下、各ルートとエンディングを簡単におさらいしてみました。
Aルート(条件:メギ生還)
Aルートでは、メギが行方不明になりません。惨劇の黒幕と言えるのはメギです。食料不足問題が彼女の凶行のトリガーとなりました。また、このルートのメギはおそらく人間です(バッドエンドの1つより)。
Aルート由来のバッドエンドは、計4つです。
BAD END「持たざる者の結末」
初日のメギの問いに対し、「間違ってると思う」を選択すると、BAD END「持たざる者の結末」に到達できます。メギをはじめとする女の子たちが全員死に、少年ホタローも死んでしまいます。理由は不明。
初見で「どういうこと?」状態になったエンドです。「その日」に死亡ということは、この夜に死ぬはずだったエンゼリカ(デモニカ)が関わっているのでしょうか。メギがホタローの答えによってエンゼリカの殺害に踏み切れず、デモニカの方から何か事を起こしたのかもしれません。
Cルートのエンゼリカの「心の氷」に、「デモニカによって皆が殺され、唯一残ったメギがデモニカに理由を問う」というシーンがありました。あれこそがこのバッドエンドの内容を映したものなのかもしれません。
「持たざる者」が誰を指すのかについても気になります。未熟なホタローのことなのか、それとも決意ができなかったメギを指すのか。
BAD END「優しいゆりかご」
エンジンルームでツナが落ちそうになったとき、「手をはなさない」を選ぶと、BAD END「優しいゆりかご」になります。
間一髪でメギに助けられたホタローとツナは、言いつけを守るとあらためて約束します。月日が流れ、ちっぽけな箱庭の中で生きるホタローとツナの間に子供が生まれる……という結末です。
ホタローがツナの手をあくまで離さなければ、ホタローまで落ちて死んでしまいます。だからこそメギはあのタイミングで姿を現したのでしょう。つまり、メギはツナが落ちそうになっているのをホタローの背後で傍観していたことになります。
このバッドエンドでは、食糧不足問題はそもそも発生していないか解決したようです。デモニカという爆弾を抱えるエンゼリカが死亡済なので、案外平和なエンドかもしれません(だからホタローとツナが大人になるくらい長く平穏に暮らせたのか)。
ただ、外に焦がれていたミクリをどうやって諦めさせたのかは疑問でした。ミクリはエンゼリカの遺体の処理方法に気づいていた節もあるので尚更です。それもまた別の世界線ということなのでしょうか。
BAD END「最後の晩餐」
白いシェルターを「楽園」と表現するメギと、「地獄」だと言い捨てるミクリ。2人の対決時に「ミクリを撃つ」と、BAD END「最後の晩餐」になります。
撃たれたミクリは「お前の選んだ道を行け」と笑って事切れます。しかし、白い箱の中に未来はありません。最後までホタローに食料を譲りつつ、メギはママの死体を食べるようにと言い含めて亡くなります。ホタローは後悔の念に苛まれつつ、涙ながらに言いつけを守るのでした。
このエンドは色々な意味でショッキングでした。「外の世界を知っている」というメギの発言はどこまでが本当なのか。それによってシェルター生活に病的に固執するメギの印象も変わる気がします。
餓死確定と知ってなお頑なに留まるのは相当だと思うので、外の世界の過酷さを知っていたか、シェルター生活に執着し過ぎて狂気に駆られていたかのいずれかでしょうか。仲間の命を奪う選択肢を取った時点で後者に近い気はします(ツナ死亡後のメギと会話すると、彼女の精神状態がかなり悪化していることが分かります)。
良い意味でも悪い意味でも「母の愛は海よりも深し」と言いたくなるエンドでした。このバッドエンドから、Aルートのメギは肉の身体を持つ人間らしいと推測しました。
ところで、このルートでもミクリは最期までカッコよかったです。メギとやり合う一枚絵の目つきの悪さがツボです。「メギがエンゼリカとツナを死に追いやった犯人である」と知った後にひとまずはメギをなだめて最善策を取ろうと動くあたりも、リアリストなミクリらしいと思います。
BAD END「滅びゆく北の大地」
メギとミクリの対決時、「メギを撃つ」とBAD END「滅びゆく北の大地」になります。
メギはホタローに謝り、ミクリは事切れたメギに謝ります。ホタローはミクリと外を目指すものの、地下通路のギミックは脱出に1人の犠牲を強いるものでした。ミクリはホタローに「先に進め」と諭します。ホタローはミクリの促しを受けてシェルターに別れを告げ、一人で北の大地・ホツカイドへ出ていくのでした。
Aルートの正規バッドエンドとでも言うべきエンディングです。このエンドを経由する形でCルートへの分岐が発生します。メギにしてもミクリにしても、ホタローをまったく責めないんですよね。メギのホタローへの底なしの愛をあらためて実感しました。
また、「どうして言ってくれなかったのか」というホタローの言葉はCルートへの布石でしょうか。仲間内の相談は大切(ひぐらしの罪滅ぼし編を思い出しました)。
ただ、地下通路のギミックは若干無理やりな気がしました。たとえば人と同じ重さの荷物で代用はできなかったのか。もしかして生体反応センサーなんかがついているのでしょうか。メギの遺体を使わせてもらえば……とも少し思ったのですが、ホタローの手前ミクリは思いとどまったのかもしれません。
Bルート(条件:メギ行方不明)
Bルートではメギが行方不明になります。惨劇の黒幕は、エンゼリカのもう1つの人格である「デモニカ」です。デモニカについての種明かしはCルートを待つことになります。
ちなみに、Bルートのメギはアンドロイドのようです。アンドロイドの記憶を持つ別の世界線のメギ(ベーシックバージョン、たとえばAルート)の前世に当たるのかもしれません。Bルート由来のバッドエンドは2通りです。
BAD END「箱庭の悪魔」
Bルート終盤には、デモニカによる残酷なショーが開幕。ホタローはツナとミクリの二択を迫られます。ここで生贄に「ツナ」を指定すると、BAD END「箱庭の悪魔」に到達できます。
結果としてツナは惨い死を迎え、ホタローもその次に拷問されて死亡します。幼い子供たちの死に絶望したミクリもやはり後を追うことになり、デモニカだけが生き残ります。
端的に言って、箱庭に降臨した悪魔ことデモニカ一人勝ちエンドでした。ツナを選んで「どうしてだホタロー」的な反応をするミクリは覚悟完了しすぎですね。
このエンドのデモニカはどことなくメタな発言をします。神に祈っているのか、白い箱の外の傍観者たち(=プレイヤー)に語りかけているのか。目を覚まして泣くホタローで締めくくられるので、夢落ちエンドっぽい印象もあります。
BAD END「希望の翼」
デモニカによるショーの最中、二択で「ミクリを殺す」とこのバッドエンドです。
ミクリは足を切断されます。しかし間一髪で助けに来た壊れかけのメギがデモニカを殺害し、そのまま壊れてしまいます。歩けなくなったミクリはホタローとツナに思いを託し、2人にシェルターを出ていかせるのでした。
「希望の翼」は、Bルートの正規バッドエンドっぽい気がします。ホタローが仲良しのツナを生贄に選ぶ感じもしないので。
上でも書きましたが、このエンドのミクリの献身と覚悟には心打たれました。メギの思いを受け継いで子供たちにすべてを託そうと決意する流れもいいですね。幼い頃の回想(父親の思い出)もしんみりとします。僕っ子ミクリ可愛い。
また、「メギ=アンドロイド」バレにはびっくりしました。使った得物はAルートでも持っていた拳銃でしょうか。機械の内側が露わになっている一枚絵が凛々しくて好きです。
このエンドで見られるツナの一枚絵は神々しいの一言でした。ミクリ視点では見送るときにああいう風に見えていたのかもしれません。シェルターを出た2人はどうなるのか。切なさと希望が良いバランスで、個人的には好きなエンドでした。
以上のA、Bルートの6つのバッドエンドをクリアすると、Aルートのバッドエンド後のホタロー(おそらく)を見ることができます。シェルターを出たものの……というシナリオです。
そして、ここからCルートへ派生します。
Cルート(ホタロー覚醒)
Cルートの主人公は「周回者ホタロー」です。スキルもバッチリ変化。全ルートの記憶を持っているため、惨劇を回避するすべも知っています。
ほろびのゆりかご
メギとミクリの和解。ツナのエンジンルーム行きの阻止。エンゼリカの説得。すべてを平和裏に解決したホタローとメギたちは、シェルターを捨ててトウキョを目指すことを決定します。
Cルートには、「トゥルーエンド」と「アナザーエンド」の2つのエンディングが存在します。
TRUE END「胎児の夢」
Cルートにおける最後の日、メギはホタローに衝撃的な真実を告げます。この世界も私たちも現実には存在しない、ホタローは母親のお腹の中に居る胎児なのだ、と。
『ほろびのゆりかご』は、「胎児の夢」だったわけです。
メギの諭しを聞き入れ、夢の世界(=ゲーム世界)とお別れするとトゥルーエンドに到達できます。メギの最後の言葉に背中を押されるようにして、胎児は産声を上げます。母親は生まれてきた我が子(ホタロー)を愛おしそうに抱きしめるのでした。
いきなりのメタ発言、そしてフィクション世界バレ。しかし希望に満ちた結末です。
ホタローの背中を押しその成長に涙を流す人が、Aルートで白い箱の世界にこだわったメギであるのが実に乙な話だと思います。自分を含めすべての思い出が無に帰すことを知りながら、いつまでもホタローの味方だと言い切ってくれるメギの愛には感動の一言でした。
このトゥルーエンドでのメギの言葉は、その一つ一つが印象深いです。フィクションはリアルではない、しかし偽りのこの世界にも真実はあった……という語りと涙は特にグッときます。
メギ→ホタローを通じ、『ほろびのゆりかご』は「勇気を持って選択し自らの人生を生きていけ」と語りかけてきます。メッセージは直球、しかし「それがいい」という印象です。
アナザーエンドについては後述します(「アナザーエンドについて」)。
トゥルーエンドで感じたのは、このゲームはさり気なくホタロー≠プレイヤーを前提としているのかなーということでした。
メタ発言も内実はどうあれ形式的にはメギ→ホタローであり、プレイヤーは表面には出てきません。アナザーエンドを見てもわかりますが、ホタローとプレイヤーは重なることはあっても同化はしません。アナザーエンドでホタローの未来を断ち切ったのは、ホタローではなくプレイヤーという扱いになっています。
自分=ホタローというよりは「ホタロー頑張れ」という目線でゲームをプレイしていたので、ホタロー≠プレイヤーはしっくりきました。複雑なルート分岐的にも、俯瞰的に眺めるタイプの作品だと思います。プレイヤーとホタローが同化しない方がゲームの寓話性が際立つ気もしました。
トゥルーエンドについて
トゥルーエンドを見ると、ゲーム冒頭の「時計の音」や「水音」の意味もわかってなるほどなーと思いました。母の子宮という「ゆりかご」は、十月十日の間胎児を育みその役目を終えます。だからこそ胎児をはらむ子宮も、その胎児が見る夢も、どのような形であってもいずれは終わりを迎える「ほろびのゆりかご」なのでしょう。
「母親の見せる夢」という点に注目すると、シェルター内のホタロー以外の人間がすべて女性であることも納得の一言です。メギやミクリたちキャラクターは母親の性格の様々な側面と捉えることも可能かもしれません。たとえばメギは母性の象徴、ミクリは男性的な一面の象徴……といった風に。
込められたいくつものメッセージ
『ほろびのゆりかご』の優れた点は、その寓意性だと思います。1つの世界からいくつものイメージをリンクさせ考えを巡らせることができるからです。
「ほろびのゆりかご」というタイトルは、直接には「いずれ生存者が全滅するシェルター」を指しているのだと思います。しかし同時にそれは、「胎児の見る夢」のことでもあります。
トゥルーエンドのラストでは、この地球自体が「ほろびのゆりかご」であることも示されます。PC内の1つのゲームの世界から宇宙規模へ……と、実に壮大なお話です。
また、「白い箱」という言葉は直接にはメギたちの住むシェルターを指す言葉です。しかしプレイヤーには、すぐに「白い箱=PC」と連想できるのではないでしょうか(まあ最近は白い箱のようなPCに馴染みのない方も多いかもしれませんが)。
「白い平穏な箱を出て厳しい外界へ行く」というゲームの大筋の流れから、「PCゲームに浸るのをやめて現実世界と向き合いなさい」というやんわりとしたメッセージを読み取ることもできると思います。降り止まぬ雪の降るホツカイドという過酷な北の大地は、人の心を傷つける厳しい現実世界を投影したものと見ることもできるでしょう。
「夢から目覚めて現実世界に生を受けなさい」というトゥルーエンドのメギの諭しについても、やはり同じような解釈をすることは可能だと思います。
真・ホタローの行く末
上のようなメタ的な話を離れると、トゥルーエンド後のホタローはどうなるんだろうとも思いました。胎児のホタローが見た夢、シェルターで暮らす少女たちの夢は完全にフィクションなのでしょうか。それとも生まれた後のホタローは、AルートやBルートで描かれたのと同じように悲惨な道をたどるのでしょうか。
Cルートのホタローは周回者であり、彼が導いた世界は「奇跡」と言ってもいいものです。一番の爆弾であるエンゼリカの中のデモニカを封じ込めることに成功したのも、そもそもホタローが他の世界線の記憶を持っていたからです。
そうなると、まっさらな状態で生まれる真・ホタローは惨劇を回避できないのではないか……と思ってしまいます。
とはいえ、このゲームにおいては世界線がいくつも存在するようです。惨劇が起こる未来があればホタローママが死なない未来やデモニカ(生身)が死なない未来もあり、ホタローたちがハッピーになれる未来だってあるかもしれません。
結局のところ、ホタローの本当の人生はゲームが終わると同時に始まるのです。ルートは3つどころか無数に用意されていることでしょうし、エンディングだってそれこそ大量に存在することでしょう。
だから、ホタローがどのような道をたどるのかは彼の選択次第です。メギの励まし(諦めないで、最後まで走って)がかすかにでも記憶に残っていれば、ホタローは少しでもよりよい方向へと自らを導くことができるかもしれません。
トゥルーエンドのメギの言葉
ところで、トゥルーエンドでのメギの台詞の中でとりわけ心を揺さぶられたものがありました。「たとえ偽りでも、この世界で過ごした記憶はきっと、本物なのね」という一言です。
『ほろびのゆりかご』の世界は、ホタローにとって現実ではなく夢にすぎませんでした。それはプレイヤーにとっても同じであり、『ほろびのゆりかご』はフィクションのゲームでしかありません。
私はゲームが好きです。面白い展開には笑い、悲しい展開には泣き、腹の立つ展開には怒り……とけっこう素直に感情移入しながらプレイするタイプです。大好きなゲームを終えるときは寂しくもなります。しかし、「こんなに感情移入しても結局はフィクションなんだよな」といった虚しい気持ちになったことはありません。ゲームと現実は当然ながら別物だからです。
ゲームは作りごとです。それは別にゲームに限った話ではなく、小説でもマンガでもアニメでもドラマでも映画でも何でもそうです。リアルとフィクションはもともと違うものです。でもだからといって、フィクションの世界で感じた思いや感情>がまやかしになるわけではありません。
私たちは物理的にも精神的にも多くの制約に縛られて生きています。フィクションの世界は私たちに、違う人間に寄り添って生きる、あるいは違う人間となって生きる機会を提供してくれます。様々なシチュエーションを描き出し、それに応じた様々な感情を想起させてくれます。
だからフィクションに浸って感情を波立たせるのは特に恥ずべきことではなく、むしろ好ましいことではないかと私は思います(それを現実に引きずり過ぎるのはよくないですが)。そこで感じた喜びも悲しみも怒りも、偽りではなく本物です。記憶を伴うその人だけの豊かな感情だと思います。
そういう意味で、上のメギの言葉は心に響きました。普段あまり意識しないことをこんなにつらつらと書いてしまうくらいには、メギが感動し涙した気持ちが分かる気がするなーと思いました。
アナザーエンドについて
Cルートには、トゥルーエンドだけでなく「アナザーエンド」と呼ばれる結末も存在します。
メギの言葉を聞き入れず、あくまでゲーム世界に居残る(夢から醒めない)ことを選ぶと、アナザーエンドに行き着きます。母親の心を理解しないホタローに失意と絶望の眼差しを向けるメギ。プレイヤーはまたベッドで目覚めるものの、世界は徐々に暗転。倉庫で出迎えた「ホタロー」は、白い箱の夢に留まって胎児を殺したプレイヤーを恨み、そのままゲームは終了します。
6つもバッドエンドがあるのにこう言うのもアレですが、アナザーエンドは最悪のバッドエンドだと思います。
『ほろびのゆりかご』の世界は、母親の心の傷を反映した夢らしいです。現実に傷つきつつも我が子が生まれてくることを待ち望み、「強く生きてほしい」と願う母の気持ちがゲーム内世界を創り出したわけです。
しかしプレイヤーは、母親の気持ちを裏切って胎児が生まれる未来を消してしまいました(Cルート手前の異空間に、一つだけ所有者の分からない心の氷がありました。我が子を失い悲嘆する母の心です。もしかするとあの心こそ、アナザーエンドにおける母親の心なのかもしれません)。
このエンディングの中で一番動揺したのは、タイトルに戻って灰色一色の画面と対面したときでした。セーブデータ画面もおかしい感じになります(ホタローのアイコンが消え、該当セーブデータが使い物にならなくなる)。
個人的に一番恐ろしいと思う事柄は「無」です。何の甲斐もなく何も残らず、すべてが断ち切られて消えてしまう……そういったことが何よりも恐ろしいと思います。
メギはトゥルーエンドで、この世界はそもそも存在しなかったことになると話します。ホタローはこの世界を忘れ、まっさらな状態で生まれるのだ、と。AルートとBルートの絶望やCルートの努力、そういったものがすべてなかったことになるわけです。
しかし、本当の意味ですべてが「無」に還るわけではないはずです。ホタローとプレイヤーが一緒にたどった道筋は虚構であるキャラクターの心にも、またそれを見ていたプレイヤーの心にも意味あるものを残したはずだと思います。たとえなかったことになる世界であっても、ホタローの努力と足掻きにはきっと意味があったのです(ジョジョ5部のローリングストーンみたいな話ですが)。
ところが、このアナザーエンドでは正真正銘何も残りません。メギたちは消え、白い箱に残った「プレイヤー」はひとりきりで暗い世界に取り残されます。タイトル画面も無を体現したような灰色になり、セーブデータからキャラアイコンは消え、すべてが無くなってしまいます。
「虚脱感や絶望感は残る」といった説明は、たぶんゲームのテーマ的に的を射たものではありません。問題は、一つの終点を目指して紡がれてきた物語がバッサリと断ち切られてしまうことです。3つのルートと6つのバッドエンドを経て進んできた『ほろびのゆりかご』のストーリーすべてが、次に繋がることなく完全に、突然に崩壊してしまうことです。まるで美しい織物を剣で無残に断ち切るがごとく。
白い箱の世界を捨てて厳しい外の世界に出ようとしたキャラクターたちの心、あえてつらい夢を胎児に見せた母親の心、そしておそらくはこのゲームを制作した制作者の心。最後の選択によって、彼らの思いをすべて「なかったこと」にしたのがこのアナザーエンドです。
ホタローの言葉や暗転演出といった直接的な表現以上に、「すべてが無意味になった」という事実が何よりの虚しさを突きつけてくるエンドだったと思います。
*****『ほろびのゆりかご』は、イラストなど画面作りにも力が入ったゲームでした。相変わらず女の子は可愛いし、周回者ホタローはカッコいいです。一枚絵がたくさんあって眼福でした。また、アニメーション的な表現が多かったことも印象的です。「見せる」ことにこだわった結果のようにも感じました。進行補助のアイコンもユニークでした。
個人的にはやはりCルートのOPが好きです。AルートとBルートで判明した女の子たちのパーソナリティーが絵と言葉で簡潔に暗示されていて、Cルートへの期待が否応なしに高まります。冒頭の気弱なママっ子ホタローが、最後に周回者ホタローに変化するという演出もワクワクします。
さらに印象に残ったのは、BGMのチョイスの良さです。作中では様々な楽曲が使われています。使用楽曲が公式HPに記載されているのでいくつか聞いてみました。OPに使われているものや『氷の世界の戦闘』『火山での戦闘』『エクラ』あたりがすごくいいなと思いました。あとデモニカ専用のBGMも好きです。ゲレゲレゲレ。
記憶に残る、力のこもった作品でした。りどみを読むと制作者様のゲーム制作の集大成と言ってもいいのかもしれません(もちろん現時点の話)。次の作品も楽しみです。
※「選択重視」あるいはメタフィクション要素を持つ作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『かげろうは涼風にゆれて』 感想 攻略(舞台は夏の孤島。選択肢を積み重ね、真実と未来を手に入れるADV)
・『SPIEGEL EI』 感想 考察(メタ視点を物語の根幹に組み込んだ、秀逸なプレイヤー巻き込み型ADV)
・『テオとセァラ』 感想 考察 攻略(戻れない過去を懐かしむ、"選択をやり直すことのできない"異色のADV)
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