『部屋を越ゆるもの』 ミスカトニック大学を舞台にしたクトゥルフ神話ADV 感想 攻略
クトゥルフ神話を題材にした探索ADV、『部屋を越ゆるもの』の感想&攻略記事です。制作者はsayuki様。作品の紹介ページ(ふりーむ!)はこちらです。 → 『部屋を越ゆるもの』
部屋を越ゆるもの
『部屋を越ゆるもの』は、神話生物が跋扈する異空間を2人の少女がさまよい歩くお話です。エンドは4つ。クリアまでの所要時間は1時間超の短編作品です。
『部屋を越ゆるもの』は、まとまりがよくサクサクとプレイできる面白い作品でした。キャラ同士の会話のテンポがとにかく良いことが印象に残ります。クトゥルフ神話を知っている方はもちろん、知らない方でも楽しめるのではないかと思います。
以下は、ストーリーやエンディングのネタバレを含む詳しい感想です。未見の方はご注意ください。
『部屋を越ゆるもの』のあらすじ
最初に、『部屋を越ゆるもの』のあらすじを書きます。
部屋を越ゆるもの
時は1929年。物語の舞台となるのは、アメリカ合衆国マサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学です。主人公であるサミーラとリヤは、アーミテッジ博士に面会するために大学図書館を訪れます。
しかし、図書館内はなぜか神話生物が闊歩するおぞましい異空間と化していました。どこまでも続く部屋から部屋へ、2人の少女は果敢に突き進みます。
なぜ図書館は異空間と化したのか? 博士はどこにいるのか? はたしてサミーラとリヤは無事に異空間を突破できるのか? 恐れを知らぬ少女たちの選択によって、エンディングは4つに分岐します。
『部屋を越ゆるもの』の感想
『部屋を越ゆるもの』は、「クトゥルフ神話」を題材にした探索アドベンチャーゲームです。クトゥルフ神話を知っている人はより楽しくプレイできるのではないかと思います。
個人的に、まずタイトル名に惹かれました。「部屋を越ゆるもの」。シンプルなのにどこか怪しい、見かけた人の興味をそそるネーミングだと思います。作品の内容を端的に表しているのも巧いです。
『部屋を越ゆるもの』では、プレイヤーはタイトル通り、空間がごちゃまぜになった図書館内を次々に部屋を越えて進んでいくことになります。目的は、図書館内のどこかにいるアーミテッジ博士に会うこと。ストーリーラインはごくシンプルです。
各部屋にはクトゥルフ神話由来の怪異が待ち受けているので、アイテムを使用するなどしてパスします。一部屋ごとに趣向は異なりますが、ギミックはさほど複雑ではありません。そのためサクサクと進めることができました。
作中に登場するクトゥルフ神話要素
ゲームをプレイし始めてまず目を引くのは、「ミスカトニック大学」および「アーミテッジ博士」という2つのワードだと思います。
舞台となるアーカムのミスカトニック大学といえば、クトゥルフ神話ワールドでもトップクラスの知名度を誇る施設です。ゲームのキーパーソンであるアーミテッジ博士もまた、ラヴクラフトの原作(『ダンウィッチの怪』)に登場する有名人です。
『部屋を越ゆるもの』の時間軸は、『ダンウィッチの怪』の後のようです。そして図書館が異空間と化した理由に、アーミテッジ博士と同作品の宿敵が大きく関わっています。
さらに、この作品のエンディングを大きく左右するのは、これまたポピュラーな「深きもの」です。インスマスをひそかに支配していた「深きもの」は、中央政府の一斉検挙によってその勢力を失いました。作中時間は1929年なので、一斉検挙から1年ほどが経過していることになります。
しかし、深きものどもは滅びてはいません。インスマス復活をもくろむ彼らの企みを阻止できるか否かによって、エンディングが分岐します。
その他、何柱かの邪神たちもエキストラとして登場します。たとえば「バースト」、「チャウグナー・フォーン」など(農業の神に関してはいま一つ謎です。ニャルっぽくもない気がします)。下位の種族だと「ティンダロスの猟犬」、「ネズミ人間」などが出てきます。
また、クトゥルフ神話由来の重要アイテムも出てきます。「無名祭祀書」や「水晶」、「ハチミツ」などにテンションが上がりました。
全体として、クトゥルフ神話要素を物語にうまく取り込んでいるなあという印象です。知識がなくても問題はないが知っているとニヤリとできる、そんな良いバランスだと思います。
「技能」の使用
また、これはTRPG的な要素ですが、このゲームでは「技能」を用いることができます。
目星、応急処置、言語、忍び足……といったCoCのTRPGにおなじみの技能のコマンドがあり、特定のアイテムに使用できるのです。コマンドを使用すると、サミーラとリヤの軽妙な会話が展開されます。
技能の使用はあくまでフレーバーというかお遊び要素で、シナリオには特に影響しません(たぶん)。とはいえ実際にTRPGをしているような気分を味わえる楽しい要素でした。もし次回作があればの話ですが、技能を使用することでシナリオが変化したらすごく面白いだろうなと思います。
難易度について
ストーリーライン自体はシンプルですが、分岐はやや複雑です。ポイントは「ハチミツを作ることができるか」、「深きものどもに何を投げつけるか」の2つです。これについては下の方に詳しく書きました(「エンディング分岐と感想」)。
基本的に分岐の作り方と誘導がうまい作品なので、何度か試行していればすべてのエンドにたどり着けるのではと思います。
サミーラとリヤについて
物語は終始「サミーラ」&「リヤ」の2人を中心に進みます。サミーラで明るくのんきな女の子であり、怪異には鈍感です(いわゆる視点キャラ、プレイヤーが操作するのは基本的にこの子)。一方、リヤはクールで賢く高い洞察力を持っています。リヤは別格として、どちらも8歳にしては頭のいい子どもだと思います。
このゲームで一番印象に残ったのは、サミーラとリヤの間で交わされるテンポの良い会話でした。技能を使用するとよくわかりますが、とにかくポンポンと会話が弾むので読んでいて楽しいんですよね。こんなに頭脳キレキレな8歳児がいるものかと最初はちょっと距離を置いてプレイしていたのに、次第に2人のやりとりの軽妙さに引き込まれてしまいました。
2人の関係性も個人的には好きです。基本的にはリヤが意図的にボケてサミーラがツッコむの繰り返しですが、要所要所では、無意識に危険な方へ進んでいくサミーラにリヤが振り回されている印象があります。
リヤはサミーラよりも察しが良く、大事な場面では常にサミーラをかばって救おうとします。エンディングや重要場面でのリヤの捨て身の献身を見るに、短い物語の中でも2人の仲の良さがよく伝わってきました。
エンディング分岐と感想
『部屋を越ゆるもの』のエンディングは4つ存在します。エンド分岐の条件は大きく分けて以下の2点です。
- ハチミツを呑むか否か
- 深きものに何を手渡すか
事前にハチミツを呑まなければ、エンドCとなります。ハチミツを呑んだ上で②を工夫することによって、エンドA、B、Dに分岐します。
①について、まずはハチミツの入手方法を説明します。
最初に「バースト」(猫の女神)から「空き瓶」をもらいましょう。猫の宝箱のある部屋で、手記を読まずにすべての宝箱を開き、猫を救出するとバーストが現れます。ちなみに手記を読むと、「ハチミツを呑めば溺れない」というヒントを手に入れることができます。
次に、クモの出る部屋で、「農薬」を手に入れます。クモを手で追い払って農薬を残しておけばOKです。
最後にキノコの人の祝祭に参加し、彼に空き瓶と農薬を手渡しましょう。キノコの人は空き瓶に「ハチミツ」を入れて返してくれます。
ゲームの終盤で、サミーラは必ず「深きもの」に海中に引き込まれてしまいます。事前にハチミツを飲んでいた場合は、サミーラは溺れることなく意識を取り戻すことができます。このとき、エンドA/エンドB/エンドDへの道が開かれます。
もし事前にハチミツを飲んでいなければ、リヤに救われてもサミーラは意識を失ったまま目覚めません。この場合、エンドCとなります。
②の深きものどもに何を手渡すかについては、リヤがサミーラを救い出すタイミングで、深きものどもに何を残すかを考える必要があります。ざっくりとエンド別に「残すもの」を分けるなら、以下のような分類になります。
- エンドA:深きものどもを破滅に導く道具を残す
- エンドB:特に影響力のない道具を残す
- エンドD:深きものどもの野望の達成を助ける道具を残す
エンドAに当てはまる道具は、たとえば「未来を見ることのできる水晶」です。この水晶は、時間の「角」に住むと言われる「ティンダロスの猟犬」にまつわるアイテムです。時間に干渉した者と接触したとき、ティンダロスの猟犬はその者を獲物と認識し、執拗に追いかけて仕留めます。
もし深きものが上記の水晶を用いれば、彼らは猟犬に襲われて自滅することでしょう。したがってエンドAは最良のエンディングと言えます。
一方Dエンドに当てはまる道具は、たとえば「無名祭祀書」です。とんでもない呪文がたくさん書きこまれたこの本が深きものどもの手に渡れば、最悪のバッドエンドが訪れます。エンドBについては、エンドAとDに当てはまらないアイテムを残せばOKです。
エンドA 冒険は続く
ハチミツを呑み、水晶を投げつければエンドAです。儀式を行おうとした深きものどもは、何かの影(おそらくは猟犬)を水晶の中に見てしまいます。
一方のサミーラとリヤは図書館内に漂着し、無事にアーミテッジ博士と再会します。図書館内の時空間や次元がゆがんだのは、彼がとある人物の襲撃を懸念して防御策を講じたためでした。
後日、政治活動を行っていたダゴン教団の関係者たちが行方不明になったことを知り、アーミテッジ博士は一安心。そこにやってきたのはサミーラとリヤです。2人はまた別の異空間へ出かけ、博士にお土産を持ってきたのでした。
爽やかなハッピーエンドです。ラストでドリームランドに行って帰ってきたらしいサミーラとリヤに笑いました。この8歳児2人はタフすぎる。 幼くして神話世界と通じてしまった彼女たちは、今後どのように成長していくのでしょうか。個人的には探索者となった2人の冒険をまた見てみたいと思いました。
エンドB 冒険の終わり
ハチミツを呑み、深きものどもに影響力を及ぼさないアイテムを投げつけるとエンドBになります。2人はボストン近くの浜辺に漂着します。サミーラはハチミツのおかげですぐに目覚め、少女たちは元気に日常に帰っていくのでした。
エンドBはグッドエンドっぽい終わり方です。とはいえ、もし水晶を所持したままだとすると後が怖いですね。
エンドC 誘われしものたち
ハチミツを呑まないとサミーラが溺れてしまい、エンドCになります。
二人はボストン近くの浜辺に漂着します。しかしサミーラは意識を取り戻しません。サミーラを病院に連れていこうとしつつも、「もう遅いのかもしれない」とリヤは呟きます。彼女には自分たちを呼ぶ「声」が聞こえていました。
エンドCは「日常にはもう帰れない」という、いかにもクトゥルフらしい終わり方でした。いつか2人は完全に向こうの世界へ呼ばれてしまうのでしょう。このエンドで流れるもの悲しげなBGMと、リヤの憂いのある語り口が好きでした。
エンドD インスマスよ永遠なれ
ハチミツを呑み、深きものどもから逃げる際に「無名祭祀書」を置いてくるとエンドDです。
エンドDでは、画面が暗転したのちにラジオ放送が流れてきます。魚のような肌を持つミック・マーシュ氏がボストン市長に当選、同市では彼そっくりの風貌の住民が激増しつつある……という内容です。
エンドDは紛れもないバッドエンドです。深きものどもの計画が進行し、インスマスは再び復活してしまいました。今後ボストンは彼らに乗っ取られてしまうのでしょう。「無名祭祀書」は読み終えれば最高でクトゥルフ神話技能が15%加算されるレベルの代物なので、この展開はさもありなんといった感じです。
*****ゲームの内容そのものとは関係ないですが、BGMも印象的な作品だと思います。たまにクトゥルフ神話TRPGのリプレイ動画を見ますが、好きなシリーズで流れる楽曲がこのゲームでも使われていて、つい一人で嬉しくなりました。
上でも書きましたが、『部屋を越ゆるもの』は分岐の作り方と誘導が上手なゲームです。そういう意味でとてもADVらしい作品だと思います。続編がもし出るならぜひプレイしたいなーと思いました。面白かったです。
※「クトゥルフ神話」を題材にした作品について、他にも感想記事を書いています。
・『SAVE』 感想 攻略 考察(復讐者は自ら怪物と化す。クトゥルフ神話を題材にしたダークRPG)
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