『mix.』(ミックス) 攻略対象キャラ4人のルート&エンディングの感想 その2 ※ネタバレ注意
バーテンダー恋愛ADV、『mix.』(ミックス)に登場する攻略対象キャラ4人の感想記事です。制作者は工場長様。作品のダウンロードページ(Vector)はこちらです。 → mix.
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前回の記事では、ストーリー概要やゲーム全体の魅力、好きなポイントなど、レビュー的な内容を書きました。
≪関連記事:『mix.』(ミックス) 見習いバーテンダーが主人公の乙女ゲーム レビュー その1 ※ネタバレ注意≫
今回の記事その2では、『mix.』の4人の攻略対象キャラ(夜野、間昼、朝倉、末明)について、個別ルートのストーリー&エンディングの感想および攻略情報をまとめました。以下、ガッツリとネタバレを含むので未見の方はご注意ください。
『mix.』のキャラ個別ルートとエンディングの見取り図
『mix.』のエンディングは8つ存在します。内訳は、キャラエンド×4、仕事エンド、接客エンド、ノーマルグッド、ノーマルバッドです。
まず、攻略対象キャラクター4人の個別ルート&エンディングについて、個別に感想と攻略方法をまとめました。その後、キャラエンドに該当しない4つのエンドの感想も書きました。以下、攻略やストーリーに関する詳細なネタバレが含まれます。
攻略順は、朝倉陸→間昼翔太→夜野拓海→末明夏樹 でした。事前に情報を入れていなかったので、適当に行動して気になった順に進めました。拓海を翔太の後に回したのはメインキャラっぽいから、夏樹が最後なのは隠しキャラで登場させるのに手こずったからです。
余談ですが、偶然にも「朝→昼→夜→未明」と時系列順に攻略したことになります。こういうネーミングの法則って個人的には好きです。各キャラの名前と立ち位置の関連については記事その1に詳しく書きましたが、字面の印象からキャライメージが深まる点がすごくいいですね(特に翔太や拓海)。
今回は攻略順ではなく、人物メモのリストの順番に沿って感想を書きます(つまり、夜野→間昼→朝倉→末明の順)。また、主人公のことは基本的にデフォルト名の「未来」呼びで統一しています。
▼夜野拓海(バー・ノクティルーカのマスター)
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夜野拓海の概要:主人公が働くバー「ノクティルーカ」のマスター。腕利きのバーテンダー。カウンターでは常に冷静かつ穏やかに対応し、きめ細かに接客をこなす。私生活では無愛想でややずぼらなところもある。弟子である主人公を厳しくも温かい目で見守っている。
攻略方法:ひたすらノクティルーカに出勤し、そのたびに「拓海さんと話をする」を選ぶことでイベントが進展します。進行に合わせて自宅で休むと、番外編イベントが発生します。
「夜野拓海」は主人公の師匠です。主人公の(バーテンダーとしての)憧れの人であり、主人公が大好きなノクティルーカのマスターでもあります。
憧れの人兼師匠という立場上、『mix.』における拓海の存在感は非常に大きなものです。攻略対象キャラ一番手であることはもちろん、主人公と接する場面が多いので、一番スポットライトの当たるキャラだと思います。
拓海の葛藤
拓海は主人公の未来よりも10歳以上年上です。そして、自分の立場を強すぎるくらいに意識しています。実は未来に恋愛的な意味で惹かれているものの、年齢差や師匠という立場を考えて自制し、好意を容易には表に出しません。ただし過保護ではある。
大人としての冷静さゆえか、あるいは過去に経験した恋愛面の挫折ゆえか、拓海は未来への気持ちを抑制しすぎて守りに入っているきらいもあります。拓海ルートはかなり長く、その間ライバル・ストーカー・元カノが次々に登場するなど波乱万丈です。ただそれは、そのくらい揺さぶらないと拓海の自制心が崩れないからなんだろうと思います。
弟子の未来にとっても、師匠への恋心を認識するにはある程度の刺激が必要だったのでしょう。実際、南編の終盤でようやくはっきりと拓海のことを意識し始めた様子でした。
未来につられて「拓海さん」と呼んでしまうくらいには、拓海さんは良識的で大人なキャラだと思います。年齢だけではなく精神的にも大人で、未来が彼に全幅の信頼を置いている理由もよくわかります。好きな人と同居しているのに「師匠だから」、「保護者ポジだから」で自制できる鋼の心がすごい。
そんな大人の拓海さんにも心の傷があり、臆病さがあり、割り切れない感情がある……そんな事実がルートを進めると明らかになっていきます。メインキャラなだけあり、師弟が心を通わせる過程が丁寧に描かれていた印象です。
芽衣子編の意味
拓海ルートにはゲストキャラが何人か登場します。その中で、芽衣子および彼女の登場するエピソードについては2周目に大きく印象が変動しました。
芽衣子が登場したときは正直「?」となり、完結後も「いったいこのパートはなんだったんだろう」と最初は思いました。拓海の「特別な人間になる必要はない」という言葉は心に響いたものの、恋のライバルとしても弟子の座をめぐるライバルとしても芽衣子はあまりにも役者不足というか、ぽっと出の唐突感が否めなかったので。
しかし、拓海ルートをクリアしてからもう一度芽衣子編を見直すと、「芽衣子はかつての未来だったのかもしれない」と感じました。かつ、ノクティルーカと拓海につかの間の休息を求めて去っていった芽衣子と、両者に運命を変える何かを感じて離れなかった未来を対比しているのかな、と。
拓海の経営理念の根本には「人の心を癒やしたい」という願いがあるようです。ノクティルーカを訪れた人たちは、居心地の良さと拓海の心遣いに癒やされ、昼の世界へと帰っていきます。言い換えれば、ノクティルーカは一時の安らぎの場であっても終の住処ではないのです。拓海自身、それは当然であり普通のことだと考えています。
しかし、かつて止まり木を求めてノクティルーカに身を寄せた未来は、そこから離れるどころか現在も拓海のもとに留まり続けています。「いつかは離れていくだろう」と自分を戒めつつも、拓海が未来に淡い期待と恋心を抱いてしまったのも納得だなと思いました。
エンド「2人の関係」
拓海ルートの恋愛エンディングに至る流れは、しっとりとしていてとても良かったです。2人とも色気がありました。
拓海さんは1年間もよく耐えたなあとまず思いました。自制心の強いキャラが葛藤している姿は、こういうのもアレですが見ごたえがあります。ラストが「ようこそ、ノクティルーカへ!」で結ばれるのも、拓海とノクティルーカのことが大好きな未来らしくていいですね。
▼間昼翔太(同い年の幼なじみ)
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間昼翔太の概要:主人公の友人。中学時代からの腐れ縁で、高校、大学と同じところへ進学した。突然休学してしまった主人公を案じている。やや不器用だが実直で明るい好青年。就職活動中。
攻略方法:翔太はイタリアンレストラン・「アズーリ」に出勤すると登場します。そのまましばらくアズーリに通っていると、指定の曜日に翔太がノクティルーカに来てくれるようになります。進行に合わせて自宅で休むと、番外編イベントが発生することがあります。
「間昼翔太」は未来の幼なじみです。翔太ルートでは、未来の中学・高校時代や、彼女が大学を休むようになったいきさつが描かれます。
『mix.』は夢と現実の配合が絶妙だと思いますが、翔太ルートは現実成分が強かった印象です。未来の葛藤が自分の経験と重なるところがあり、プレイしていて若干苦しくなるくらいでした。
とはいえ、ストーリー的には一番好きなルートです。疎遠になっていた2人がそれぞれの問題に向き合い、最終的には一緒に歩き始める結末に感動しました。過去が現在に影響を与える点も、幼なじみの2人ならではという気がします。
翔太の良いところ
翔太はとても良い人です。良いヤツそうな雰囲気があるというだけでなく、真に良いヤツです。というのも、翔太は昼の世界と夜の世界の中間にいる未来の葛藤を真摯に理解しようとしてくれるからです。
「昼の世界」、「夜の世界」と書くと若干詩的でわかりにくいですが、要するに「平常な普通の世界」と「そうではない世界」ということです(一応ですが、【それまでの未来にとって】というただし書きがつきます。けして夜の仕事が普通ではないと言いたいわけではないです)。
未来は現在通っていた大学を休学中です。「普通の」昼の生活からは遠ざかっています。もともと「普通の」大学生だった未来にとって、現状は一種の「逸脱」に近い状態なのではないでしょうか。
もちろん、中途半端な自分を脱却したくてバーテンダーを志した彼女の気持ちは本物だと思います。しかし現状、未来が自己の不安定さを認識し、「普通の」生き方から外れてしまったことを意識しているのも確かです。親とも古い友達とも気まずくて顔を合わせられず、「普通の」生活を送っている大学生たちと接することに引け目を感じてしまうのは、その証左ではないでしょうか。
翔太はそんな未来の心境を察知しつつ、未来を「普通の」大学生との交流の場に誘ってくれるんですよね。今の未来では及び腰になって絶対に近寄れない場所に、やや強引にでも引っ張り出してくれるわけです。そして未来が気まずい質問を受けて口ごもれば、すぐに察してフォローを入れてくれます。
ここから翔太は「昼の世界に戻ってこい」と未来を諭すのですが、このあたりの翔太の誠実さと未来への思いには心打たれました。良い人でしかない。
これはけしてオーバーな称賛ではないです。未来くらいの年齢のときに未来っぽい状況に置かれたことが一度でもあれば、翔太のような人の貴重さがよくわかるのではないでしょうか。たぶん拝みたくなるレベルの有り難さです。有り難すぎて、恋愛ADVとして翔太個人にときめきを感じるどころではなくなるのがネックです。
最終的に、未来は夜の世界から昼の世界へ戻っていくことになります(ここで拓海が未来の背中を押してくれることにもグッときます)。未来が徐々に翔太と昼の世界に心引かれていく過程が丁寧に描かれていたので、納得のラストでした。
その他のイベント雑感
個々のイベントの中では、メジロジジイのお話が印象的でした。特に、ビデオテープの内容には胸を締め付けられるような気持ちになりました。未来と翔太が自分たちの認識を反省して謝りに行けるような子たちで本当によかったです。
「必要のないものなんて誰が決める?」という問いが10年近く経って翔太に響くことも含めて、余韻のある良いイベントだったと思います。
翔太ルートに不満があるとすれば、「翔太のサッカー大好き具合を途中でもっとアピールしてほしかった」くらいです。サッカー少年だったことは確かに描かれていましたが、かなりの思い入れがあったことを終盤に知ってやや驚きました。
エンド「隣り合わせ」
翔太ルートのエンディングについては、学食での告白というのがこの2人らしいですね。つくづく日の光と日常感が似合う男だと思います、翔太。
翔太と未来の距離感は、古い友達としてはリアルだとあらためて思いました。関係が気まずくなって離れていた時期もあり、なんという理由もなく遠ざかった時期もあり、でも縁が切れたことを受け入れられない気持ちから恋心に気づく……という。
一瞬中学時代のシーンが入って今の二人に重なる演出には感動しました。2人の再出発をひたすらに祝福したい気分でした。
▼朝倉陸(意外性No.1の「王子様」)
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朝倉陸の概要:主人公と同じ大学に通う、「顔よし家よし性格よし」の三拍子揃った有名人。ファースト・コンタクトの衝撃から、主人公は朝倉にまったく良い印象を持っていない。休学中の現在、主人公は意外すぎる形で彼と再会することになる。
攻略方法:朝倉の登場条件はやや複雑です。以下のように進めます。
- ゲームスタート直後に休み、「街に出る」を選択。朝倉とガイアのママに遭遇する。
- ノクティルーカに出勤。ママが来店する。
- ノクティルーカに出勤。ママが新人の「くりか」を連れて来店する。
- ノクティルーカに出勤。「くりか」が男性客を連れて来店する。ここで選択肢が出るので、「知っている」を選ぶと朝倉ルートに突入。
- ノクティルーカに出勤。ガイアのヘルプに行ってくれと拓海に指示される。「くりか」こと朝倉と取引をし、月曜と木曜にノクティルーカに来てもらう約束を取りつける。
以降は指定の曜日(月・木)にノクティルーカに出勤し、客として来ている朝倉と話すことでイベントが進展します。
実は、『mix.』で最初に攻略したキャラクターが「朝倉陸」でした(なんとなく休んで外出したら遭遇しました)。
未来に衝撃的かつ最悪のファーストインプレッションを与えた朝倉は、プレイヤーに対しても手加減なしのジャイアントインパクトを食らわせてくるキャラクターです。朝倉との遭遇後、ニューハーフバー・ガイアのママが新人の「くりか」の話題を出したときは「まさかね」と思ったものの、実際にくりかが登場したときは「!!??」状態になりました。
源氏名の由来は、「りく」→「くり」→「くりか」なのでしょうか。元のルックスが端正なだけあってくりかさんは品のある美人です。正直言って超好みです。
その変身っぷりがあまりに巧いので、プレイヤー目線で「くりか=朝倉」だとすぐにわかっても、未来目線では到底気がつかないだろうなと思いました。この時点で「攻略対象キャラがニューハーフバーの売れっ子キャストってなかなかすごいゲームだな」と大いに興味をそそられたことを覚えています。
もっとも、朝倉はトランスヴェスタイトではありません。好きになる相手も同性ではなく異性です。女装してオジサンたちに接客することにはバリバリ抵抗があるものの、実入りがいいからと割り切っている感じですね。
朝倉のキャラクター
攻略対象キャラの中では朝倉が一番好きでした。朝倉は表向き「素敵な王子様」を演じています。しかし本来は、「性格が良い」というより「いい性格をしている」と言った方がいいキャラだと思います。
プライドは山のように高いものの、それに見合うだけの才覚と華のある外見を持ち、努力もしている。つまり、実力のある自信家タイプです。主人公の複雑な事情には無理に触れず、「人生色々だからな」でスルーするさっぱりしたところもあります。
朝倉について印象的なのは、その(基本的には)合理的な思考です。外見イメージに合わせて自分を偽っているあたりはその最たるものでしょう。「綺麗なルックスをしているならそのイメージに合わせて振る舞った方が楽」という割り切りっぷりはお見事。他人に理解されないトラウマを抱えているわけでもなく、「内面は身近なヤツに見せればOK」という柔軟な考えを持っています。外見と内面に意図的なギャップがあるキャラにしては、考え方が潔くて好感が持てました。
個人的に好きな朝倉の台詞は、「この俺が夜あくせく働いてるなんて、死んでも知られたくないね」でした。このにじみ出るプライドの高さがイイ。バイトをいくつも掛け持ちしつつ勉強していることを褒められて、「まーな、もともと素養あったんだろうな」とそっけなく返すところも好きです。
目的のためには努力を惜しまず、しかし周りには絶対にその努力を知られたくない……「白鳥か」とツッコミたくなるド根性です。とりあえず、朝倉は大物になりそうな気がしました。若干ナルシスト気味なところも面白くていい感じですね。
朝倉と未来のやりとり
主人公である未来との絡みについては、「第一印象が最悪」という恋愛ものの黄金パターンを押さえつつ、「再会時は女装姿」というひねりの効かせ方がいいですね。全体的に朝倉の方からさりげなく未来にアプローチしては空回りする流れが多くて面白かったです。
他ルートと同じく恋愛色は薄いですが、【シミュレーション】は手練れの朝倉がやっと本気を出した感のあるイベントでした。さすがは売れっ子キャスト。その他、休みの日に呼び出されるイベントと、夜の仕事帰りに助けられるイベントが好きでした。
また、お父さんと朝倉の和解イベントは、バーテンダー(見習い)未来の面目躍如だったと思います。朝倉父子にふさわしいカクテルといい、朝倉不在時のお父さんへのフォローといい、ナイスアシストです。個人的にはお父さんの朝倉への思いにジーンとしました。
ところで、朝倉ルートだと未来に気弱な印象があまりないんですよね。せいぜい最初の回想くらい。あとは遠慮なくポンポンと言いたいことを言っています。そのため、他のルートで「気弱な私」的な心中語を見たときは、そんなに気弱だったっけと思ってしまいました。
エンド「それぞれの道」
最後の空港での告白は、どちらも「相手に振り回された」と認識しているのが良いなーと思いました。未来の朝倉への評価が、「本音はなかなか言わないけれど、誰よりも芯が強くてたくましい」に落ち着いたことにもうんうんと頷きたくなりました。朝倉の魅力は、とことん負けず嫌いで根性のあるところだと思います。
この思いを伝え合うシーンで一番グッときたのは、いつか迎えに「行く」という朝倉の言葉です。「迎えに『来る』」ではなく「迎えに『行く』」なのが、それぞれ目標を持って研鑽しているこの2人らしくてすごく好きでした。
後日談では、未来がすっかり自立した女性になっていたのが印象的でした。拓海さんの自宅からも引っ越した様子です。朝倉が本当に毎日電話しているらしいこと、さりげなく「朝倉」から「陸」呼びに変わっていることにニヤニヤしました。
▼末明夏樹(女嫌いの医者)
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末明夏樹の概要:バーの常連兼拓海の友人。職業は医者。最近は忙しさからノクティルーカに顔を出せずにいる。屈折した女性観の持ち主であり、女性を苦手視している。
攻略方法:夏樹の登場条件は、2週間休まずに働くことです。月曜から土曜まではノクティルーカで、日曜はアズーリで……と働いていると、未来が体調を崩して倒れます。次に意識を取り戻すのは病院であり、未来はそこで初めて夏樹に出会います。
以降はノクティルーカに出勤していると、特定の曜日に夏樹が登場するようになります。
末明夏樹は、登場させること自体にけっこう苦労したキャラクターです。隠しキャラ的な出現条件だと思います。実際、彼はカテゴリとしては「ノクティルーカの常連さん」なんですよね(つまり、香里菜や汐や立原と同じポジション。一方で、拓海や翔太や朝倉は「知り合い」にカテゴライズされている)。
夏樹は女性嫌いのキャラクターです。過去にあまり良い女性経験をしてこなかったようで、私生活で女性と関わること自体を拒絶している節があります。そのため、未来に対しても「飲み屋の女は特に嫌い」と直球で言ったりします。未来の方もお客さんだからと我慢するものの、内心では夏樹の女性蔑視的な態度にカチンときます。
けしてお互いに対して良い印象を持っていなかった2人が、仕事への向き合い方を通じて相手を見直し、共感を抱き合う……というのが、夏樹ルートのざっくりとした流れです。
夏樹の決断力
夏樹ルートについて、個人的には「もう1イベント欲しかった!」という感想を抱きました。もう1つイベントがあれば、夏樹が未来に結婚を前提とした交際を申し込むラストに違和感がなくなったかな、と。
ちょっとズレている夏樹のキャラ的には、ああいう行動に出るのもおかしくはないと思います。ただ、それでもやはり唐突だった気がします。そこまでのイベントが恋の予感を匂わせるレベルのものだったので、もうちょっと仲を深めてからでもよかったんじゃないかなーと感じました。
とはいえ、恋愛でもなんでもタイミングと思い切りが大事ですよね。もう少し、もう少しと先送りにしていれば、二度と掴めなくなる事柄は多いです。かつ、大人になればなるほど思い切ることは難しくなる気がします。
だから、これだと思った人に迷わず思いを伝えに行く夏樹は果断な人だなと思いました。未来がOKを出したのも、ストレートに思いを伝えてくれた夏樹にほだされ、自分の気持ちに素直になった結果だと思います。
エンド「大切な人」
夏樹のキャラエンドは、ハッピーなのにどことなくビターな味わいでした。未来と夏樹のエンドというよりは、夏樹と暮らし始めた未来が、師弟関係を清算して再び拓海と新しい関係を始めるエンド……という印象です。
拓海から贈られたカクテルグラスは、いまだに未来に複雑な思いを抱かせます。未来の方に拓海への恋愛感情はないとはいえ、師弟双方の心情を考えるとほろ苦いものがありました。
夏樹エンドを裏返すと、ある意味「拓海失恋エンド」になる気がします。夏樹と拓海は友人同士であり、どちらも年下の未来に思いを寄せていました。拓海にしてみれば、ぐずぐずしているうちに未来をかっさらわれたような構図です。翔太や朝倉といった未来と同年代の男ならまだ諦めがついても、自分と立場が近い夏樹が相手では、すぐには心の整理がつかないだろうなーと想像してしまいました。未来と夏樹を引き合わせたのは、ある意味拓海と言えなくもないので。
とはいえ、気まずかった拓海と未来の関係は、夏樹という仲介人を経て再び息を吹き返しました。もはや師弟には戻れない2人ですが、これからは友人として親しく付き合ってほしいなと思います。
このエンドの夏樹は、余裕のある大人ですね。拓海が未来を好きだったことを夏樹はたぶん知らないのだろうと思います。しかし、未来にとって拓海が特別な人間だったことは同居していればある程度わかると思うんですよね。拓海の家に下宿していた事実もあるし。
それにもかかわらず、夏樹は気まずい2人を仲直りさせようと自分から働きかけました。こういうことは心に余裕があるか、よほど愛されている確信がないとできないんじゃないかと思います。
未来がカクテルグラスに寄せるわだかまりの内容を、夏樹は察していないようです。それでも彼は、未来に必要な慰めの言葉を与えてくれます。隣に寄り添ってくれる夏樹という存在を、未来はあらためて「大切な人」だと感じたのではないでしょうか。
ところで、人物メモの夏樹の欄がなかなか埋まらないなーと思っていたのですが、夏樹の告白を断ったら埋まりました。夏樹に関しては、攻略対象キャラとしてのエンドは用意されているものの、お断りして「バーテンダー対常連客」として末永くお付き合いしていくのが正規ルートなのかもしれません。
その他のエンディング感想
この項目では、キャラエンド以外の4つのエンディング(ノーマルバッド、ノーマルグッド、接客、仕事)について簡単に感想を書きます。
ノーマル・バッドエンド「今日もお小言」
最終日まで何もしなければ、自動的に「ノーマル・バッドエンド」になります。もっと言うと初手スキップで見られます。当然ですがテストに合格できずに終わります。
ノーマル・グッドエンド「一歩前へ」
常連客相手にお酒を一定回数振る舞うのか、攻略対象キャラ以外のエンドを複数見るのか……「ノーマル・グッドエンド」の条件はややはっきりしません。ノクティルーカに出勤し、カクテル作りを何度も成功させるとこのエンドになる気がします。もちろん、「キャラエンド」や「仕事・接客エンド」はこのエンディングに優先されます。
未来はテストに合格。拓海は弟子をねぎらい、初めて彼女に振る舞ったカクテルを差し出してくれます。拓海さんはマメで気の利く人だとあらためて思いました。真面目な話、厳しくて優しい理想の師匠ですね。キャラエンドとはまた別ベクトルで嬉しいエンドでした。
接客エンド「初仕事」
常連客3人の最終イベントをすべて見て、最後の選択で正解を選ぶと「接客エンド」になります。たぶん正解しないとダメだと思います。
テストの合格祝いに、常連客の3人が飲み会を開いてくれます。これもまた嬉しいエンドでした。香里菜さんって汐さんと顔見知りなんだーと新しい発見があったり。
3人とも年代や活動範囲が異なるので、まさにバー・ノクティルーカが繋いだ人間関係という印象です。だからこそ、未来が彼らの繋がりを保つ手助けをし、その働きを認められたことを我が事のように嬉しく思いました。
『mix.』のストーリーにほぼ不満はないのですが、常連客ルートについてはやや微妙に思いました。3人中2人のラストで拓海さんが美味しいところを持っていくからです。というより、3回中2回も未来のアクションがバッドチョイス扱いになるのがスッキリしませんでした。
拓海が人格者で素晴らしいバーテンダーであることは他のルートでよくわかります。だから、修行も兼ねた常連客ルートでは、主人公の未来にオチを締めさせてほしかったです。
もちろん、「アラフォーの香里菜や男同士で計画を練っていた恭一に対し、未熟だったり女性だったりする未来が的確な対応をしてしまうのは現実味に欠ける」という理屈は分かります。彼らはあくまで拓海が経営するノクティルーカの常連客でもあるので。それでもずっとイベントを追ってきたわけなので、最後まで未来に誠意ある対応をさせてほしかったなーと思ってしまいました。立原エンドはそういう意味でよかったです。
仕事エンド「私の居場所」
拓海ルートの最終日に「告白しない」を選ぶと、「仕事エンド」になります。まさかの一枚絵が見られるエンドでした。拓海さんはやはりイケメン。未来はバーテンダー一本でやっていくことを決め、師匠越えを目指し邁進します。
仕事エンドは拓海の気持ちに応えないエンドです。とはいえ、未来的には前向きな結末だったと思います。拓海は気の毒ですが、身を引くときの潔さにあらためてカッコイイなーと感じました。
*****『mix.』はおまけが充実している点でもうれしいゲームでした。没エンド集やバレンタインイベントは見ごたえがありました。南さん怖すぎる。また、おまけシナリオの攻略対象キャラ4人が偶然揃う話は、拓海による他キャラへのコメントが見られるので特に面白かったです。
あらためて、『mix.』はほろ苦い現実と甘い夢を「ミックス」させた素敵な作品でした。没頭できたし楽しかったです。
(あと、同制作者様の他の作品(『サイコロラブ』と『4*3』)もプレイさせていただきました。人間の描き方だったり演出だったり、『mix.』でも好きだった点を魅力的に思いました。面白かったです。)
※『mix.』感想記事その1:『mix.』(ミックス) 見習いバーテンダーが主人公の乙女ゲーム レビュー ※ネタバレ注意(ゲームのあらすじや魅力、好きなポイント、攻略対象キャラのポジション考察など)
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