『月の扉』 19世紀英国が舞台のゴシックホラーADV 感想&考察&攻略 ※ネタバレ注意
19世紀英国が舞台のミステリ風味なホラーADV、『月の扉』の感想&考察&攻略記事です。制作者はソラトビサカナ様。ゲームのダウンロードページ(Vector)はこちらです。 → 月の扉
月の扉
『月の扉』は、若き花嫁ジェインが嫁ぎ先である奇妙な屋敷の謎を探るお話です。タイトル名は作中でジェインが出入りする「月の装飾が施された扉」を指しています。エンディングは計6つです。
「月の扉」というミステリアスなタイトルと「19世紀の英国」という舞台設定にまず心惹かれました。資産家と望まぬ結婚をした美しい女性が、奇妙な屋敷に閉じ込められて夜な夜な謎を探る。なんともゴシックホラーっぽいシチュエーションで興味をそそられます。
ストーリー展開は淡々としていますが、本編で明かされない範囲も含めて設定が作り込まれている作品でした。前日譚や後日譚も存在します(制作者様のサイトで読むことができます)。クリア後にそれらのお話を読めば、少し違った角度から『月の扉』のエンディングを眺められること請け合いです。
以下は、ストーリーとエンディングのネタバレを含む『月の扉』の感想です。トゥルーエンドのヒントとなる攻略情報、および公式サイトに掲載されている関連小説の感想なども書いています。ゲーム・小説のそれぞれについて、未見の方はご注意ください。
※ソラトビサカナ様の他の作品についても、感想記事を書いています。
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『月の扉』のあらすじ
『月の扉』のあらすじを書きます。
月の扉
舞台は19世紀の英国。主人公の「ジェイン」は、実家が破産したために顔も知らない資産家の男に嫁ぐことになった年若き女性です。
沈んだ気持ちで嫁ぎ先にやってきたジェインは、使用人の「ミセス・ホール」に先導され、館の一室に通されます。その部屋には男性の肖像画が一枚ありました。なんとミセス・ホールは、「その肖像画こそがジェインの夫だ」と言うのです。
思わず自分の耳を疑ったジェインに、ミセス・ホールは屋敷における2つのルールを教えます。すなわち、けして部屋から外に出ないこと。そして、毎日出されるお茶を飲むこと。ミセス・ホールはそれ以上詳しい説明をせず、退出して外から部屋に鍵をかけてしまいます。
あまりにも異常な状況に打ちひしがれるジェイン。しかし夜も更けた頃、部屋の外から女性の声が響きます。「・・・ジェイン様・・・お可哀想に。ここから出して差し上げますわ・・・。」と。次にジェインが耳にしたのは、扉の鍵が開く音でした。
ジェインはなぜ閉じ込められてしまったのか? 使用人たちの思惑とは? そして彼女を娶った肖像画の夫の正体とは? 屋敷の謎とジェイン自身の秘密にどれだけ迫れるかによって、物語は6つのエンディングに分岐します。
『月の扉』の感想
『月の扉』について、全エンディングを回収した上での感想を書きます。まず、ミステリアスな導入にプレイ欲をそそられました。どうして肖像画が夫なのか。なぜ部屋から出てはいけないのか。毎日必ずお茶を飲まねばならない理由は何か。夜ごと扉を開けるのは誰なのか。謎ばかりの状態からゲームはスタートし、エンディングを迎えるごとにヒントが提示されていきます。
すべての謎が解けるのは、最もクリアが難しいトゥルーエンドを迎えた後です。謎めいた様々なオブジェクトやバッドエンドの意味がきれいに明らかになります。情報の開示の仕方が堅実であり、たとえ真相についてある程度察することができても、完全な答えを求めて最後までプレイを続けてしまいました。面白い作品だと思います。
物語は淡々と進み、大げさな脅かし要素はありません。しかしそのことが逆に、屋敷の異常性やジェインの不安感を際立たせていた印象です。ストーリー全体の質実として落ち着いた空気感や、トゥルーエンドの幸福で爽やかな余韻が個人的には好きでした。
ADV面の雑感
『月の扉』は、選択肢を重ねてストーリーを進行させる形式のアドベンチャーゲームです。色々な場所を訪れてイベントを起こし分岐を重ねるゲームが好きなので、『月の扉』のシステムも遊んでいて楽しかったです。
ただし、攻略(特にトゥルーエンドを目指す上で)の難易度がかなり高いゲームであるとも感じました。その理由は以下の通りです。
- 選択肢が多い
- (トゥルーエンドを狙う際の)正しい行動に関するヒントが少ない
- 最大のヒントとされる詩の解釈が難しい
- 2日目(実質初日)の段階でトゥルーエンドへの分岐が決まる
1つ目の「選択肢の多さ」についてですが、『月の扉』は1日単位で区切りのあるゲームです。2日目から探索が始まり、9日目の夜には終了します。実質的な活動期間は8日間であり、特定の日に特定の部屋で特定のイベントが発生する仕組みになっています。
「○日目に××の部屋に行くとイベント発生」という形式については、何回か周回すれば覚えられる&メモを取ればいいので気にはならなかったです。しかし、1日に突きつけられる選択肢の量が多すぎるとは思いました。
トゥルーエンド攻略の難しさは、【1日ごとに】正しい行動を【完璧に】選ばなければならない点にあります。加えてそれらを間違えずに繋げていかなければいけません。この仕様と「1日に直面する選択の量が多い」ことをかけ合わせると、試行する上での難易度はぐんと上昇します。端的に言って大変です。
たとえば、1日の中の大きな選択肢は「お茶を飲むor飲まない」・「部屋から出るor出ない」の2つです。この2つの選択肢の組合せは、①飲む&出る、②飲まない&出る、③飲む&出ない、④飲まない&出ないの4通りになります。
1日だけの試行ならともかく、これらを何日も適切に繋げなければならないと考えると正直尻込みします。トゥルーエンドを目指す上では「お茶を飲むor飲まない」を適当なタイミングでスイッチする必要があるので尚更です(タイミングのヒント自体は分かりやすいものの、切り替えた後に合ってますよサインが無いので不安になったり)。
選択肢を1つ漏らしただけでも、トゥルーエンドを狙っている場合はアウトです。だから心情として、一定攻略情報を頼らざるを得ない部分がありました。
2つ目の「ヒントの少なさ」と3つ目の「詩の解釈の難しさ」についてはまとめて書きます。
トゥルーエンドを目指す上で最大のヒントとなるのは、1日の始まりに提示される詩です。この詩に注目して行動することでトゥルーエンドへのフラグが立ちます。しかし、肝心の詩の解釈が難解だと言わざるを得ません。
たとえば、詩の中で重要なのは「自分の子供」に関する部分です。「自分の子供」に関する詩が提示される日には、その詩に沿って行動することを求められます。
しかし問題は、「自分の子供に注目しなさい」というヒントが作中に見当たらないことです。もっと言うと、普通にプレイしていても「子供」の影は見えません。ジェインと「子供」の繋がり、あるいは「子供」がキーパーソンであることは、単純に10日間をプレイし5つのバッドエンドに到達するだけではわかりません(見落としていたらすみません)。
では、「子供」に関する表現が登場するのはどのタイミングなのか。それは、トゥルーエンドルートに入った直後です。「子供」らしきものの声が聞こえてくるのは、トゥルーエンドルートに分岐する選択肢を正しく選んだ後のことです。というより、トゥルーエンドルートに入らないと「子供」はゲーム中に現れません。
「ジェインと子供には関係がある」/「子供は重要人物」といったヒントは、できれば他のルート中、もしくはバッドエンドで匂わせてほしかったです。そうでないと、「詩の中の子供に関するパートが重要なのかな?」と発想しにくいのではないでしょうか。プレイヤーにとってジェインは結婚したばかりの花嫁(しかも夫に会ったことがない)でしかないので。
「子供が出てきた」=「今までと展開が違う」=「トゥルーエンドルートだよ」とプレイヤーに報せる意図があるのだろうとは思います。しかし、トゥルーエンドルートに入るための重要なヒントが実際に該当ルートに入らないと出てこないのは、構成として矛盾しているような気がします。
また、「自分の子供」という部分を脇に置いても詩の解釈はなお難しいです。「百合のような白い服」→「百合」→「温室の百合」あたりはパッと連想できたのですが、ヒントとしての解釈が恣意的じゃないかなーと感じる部分が多かったです。
これはたぶん、展開に合わせてヒントとしての詩を作ったわけではなく、既存の詩を分割して1日ごとのヒントに当てているからだと思います。攻略で見ると「ああなるほど」と思うのですが、実際に自分1人でこういう風に解釈できるかと問われれば、相当難しいと言わざるを得なかったです。
最後に、4つ目の「序盤でトゥルーエンドルートに分岐」ですが、具体的には初日周辺のフラグ立てがやや難しいように思いました。
簡単に言うと、2日目に「お茶を飲まない」かつ「部屋から出ない」ことがトゥルーエンドを狙う上では必要になります。加えて翌日、翌々日も同じことをする必要があります。しかし、屋敷のルールとして申し渡されるのは「お茶を飲む」かつ「部屋から出ない」の2つです。
「両方とも破る」or「両方とも守る」ならまだしも、「一方を破ってもう一方を守ることが正解」とはなかなか発想しにくいのではないかと思いました。部屋に留まるor留まらないについて、もう少しわかりやすいヒントが欲しかったところです。
また上でも書いたように、選択場面の多さが2~4日目のフラグ立てを難しくしているところもあると思います。
その他気になったこと
周回前提の作品なのでそれを踏まえて書きます。気になったのは文字送りのウェイトの長さでした。場面転換ごとに、あるいは人物の立ち絵が現れる前に長いウェイトが入るので、スキップ機能があってもサクサクとはプレイできなかった印象です。
また、1日ごとの詩と日数表示の演出もかなり長いように感じました。両方とも表示速度がゆっくりで、1日の区切りの演出に10秒近くかかるときもあります。
日数はもちろん詩についても周回していれば覚えられるものなので、この演出についてもスキップできればいいのになあと思いました。
エンディングと攻略について
この項目では、エンディングの攻略方法について書きます。『月の扉』のエンディングは6つ存在します。そのうち、エンド01~05の5つがバッドエンド、エンディング06がトゥルーエンドです。
ちなみに、5つのバッドエンドは以下の3つのカテゴリに分類可能です(あくまで主観)。
- エンディング01、02:フレッドと深く関わった場合のバッドエンド
- エンディング03、04:特別なフラグを立てなかった場合のノーマルバッドエンド
- エンディング05:トゥルーエンドに肉薄したバッドエンド
先にも述べましたが、攻略の難易度は低いとは言えません。特にトゥルーエンドに至るには複雑な分岐が必要とされます。おそらく公式サイトの攻略情報を見ない限りクリアは難しいのではないでしょうか。
この項目ではざっくりとした攻略込みの感想を書きます。ただし、エンディング06(トゥルーエンド)の攻略にはほとんど触れません。制作者様のサイトに詳しいヒントと手順が記載されているので、そちらをご参照ください。以下、ネタバレにご注意ください。
エンディング01 違う人
エンディング01は、フレッド由来のバッドエンドその1です。大広間に佇む謎の青年フレッドとジェインが駆け落ちしてしまいます。
エンド01の攻略ですが、まずは5日目の大広間でフレッドに会いましょう。大広間は部屋を出て右へ右へと進んだところにあります。この日は謎のメイドの誘導も入るので、大広間にはたどり着きやすいと思います。
さて、フレッドは5日目に「お茶を飲むな」とアドバイスしてきます。これに従い、6日目はお茶を飲まないようにしましょう。そして夜になったらまたフレッドに会いに行きます(ちなみに、6日目にお茶を飲んでから会いに行くとエンディング02のフラグが立ちます。つまりフレッドが怒ります。注意しましょう)。
7日目もフレッドに会いに行くと駆け落ちを提案されるので、これを承諾します。ちなみに、断るとやはりエンディング02のフラグが立ちます(フレッドが怒る)。
最後に、8日目に大広間に向かいましょう。駆け落ちが始まってエンディング01に到達できます。
このエンディング01が最初に見た結末でした。フレッドに激しい違和感を抱くジェインのモノローグを見て、「失敗したな~」とようやく気づきました。初見でお茶を怪しいと感じていたので、「お茶を飲むなとアドバイスするフレッド=悪い人ではない」と考えていたんですよね。まんまと見た目の良さに騙されました。
真相を考えると、フレッドが大広間から出られたことがちょっと驚きです。このあと駆け落ちした2人はあてもなくさまよい続けることになるのでしょうか。
エンディング02 水滴
エンディング02は、フレッド関係のバッドエンドその2です。大広間に行くとフレッドが……という、おそらくゲーム中屈指のショッキングな表現が含まれる結末だと思います。
攻略については、まず5日目にフレッドに会いに行きます。そして、7日目にフレッドの駆け落ち提案を断るか6日目にお茶を飲んでから大広間に行くか、どちらかの行動をとりましょう。フレッドを怒らせ、その翌日に大広間を訪ねるとこのエンドです。
物語の真相から考えるに、最もジェニイのトラウマスイッチを押す結末だろうなと思います。意識を失ってエンド到達となることに最初は拍子抜けしましたが、トゥルーエンドを見た後は、「たしかにこれは目撃した時点で行動不能になるだろうな……」と納得しました。
エンディング03 5年後
エンディング03は、ノーマルバッドエンドその1です。特にフラグを立てずに10日目の朝を迎えましょう。
ミセス・ホールの顔がスーザンに変化するシーンはじわじわとくる系のホラーでした。ようやく10日経ったと思いきや、なんと5年も経過していてジェインと一緒にびっくりです。ラストのスーザンの台詞は、ジェインの現状のヒントになり得るものだと思います。
エンディング04 バンシー
エンディング04は、ノーマルバッドエンドその2です。ちなみに、「バンシー」はアイルランドの伝承などに登場する泣き叫ぶ女妖精です。
攻略については、特にフラグを立てずに9日目の夜を迎えましょう。あとは部屋を出て左へ進み、温室まで到達すればOK。ジェインが狂気に駆られて屋敷から脱走します。
注意点として、トゥルーエンドルートに入っていて温室の「彼女」を見ているとこのエンドには到達できません。「彼女」を見た後だと、温室に恐ろしいものがないことに安心してジェインが自室に戻ってしまいます(その後エンディング03に到達)。
エンディング04は月が綺麗なホラーエンドでした。いきなりジェインが霊体になっていることに驚きましたが、これも真相を知ると納得の一言です。
エンディング05 呼吸
エンディング05は、トゥルーエンドに肉薄するバッドエンドです。先述したようにトゥルーエンドからうまく外れるとこのエンドになります。
基本はトゥルーエンドの攻略通りの手順を踏みます。その上で、「4日目にメイド2人の会話を聞かない」ようにしましょう(この日の2人の会話は、赤ちゃんについてのものです)。下記を満たせば、エンディング05へのフラグはきっちり立っています。
- 8日目にメグの後を追ったときの展開が「トゥルーエンドルートと同じ」
- 9日目にバルコニーに出たときの展開が「トゥルーエンドルートと異なる」
実を言うと、このエンドは一番最後にクリアしました。どういう風に攻略すればいいのかさっぱりわからなかったんですよね。けっこう攻略の難しいエンディングだと思います。
あれこれ試行錯誤して諦めかけていたのですが、公式サイトのBBSを覗かせてもらったときにヒントを発見しました。すなわち、「鏡に映らなくなっていることを確認しない」・「メイドの変わり果てた姿を見ない」・「赤ちゃんについてのメイドの会話を聞かない」のいずれかを満たすとエンディング05になる、と。
そこで3つすべてを試し、最終的に一番最後の条件でヒットしました。嬉しかったです(上記のイベントはそれぞれ7日目、6日目、4日目に起こるので、分岐がゴールに近い順から試していきました)。
内容的にも「あと一歩及ばず」という雰囲気のエンドでした。何気にジェインの肉体が危険に晒される(おそらく命を落とす)エンドはこのエンディング05だけかもしれません。
エンディング06(トゥルーエンド)
エンディング06は、『月の扉』における唯一のトゥルー(ハッピー)エンドです。詳しい攻略やエンド名については伏せました。
トゥルーエンドをクリアするにあたっては、公式サイトの攻略情報を参照させていただきました。悔しいことに1日区切りバージョンまで見ないと自力ではたどり着けなかったです。
肖像画の夫、女中たちの不可解な態度、メイドの声、フレッドの正体、謎の少女メグ、そして「月の扉」。このエンドではすべての謎が明かされます。
プレイヤーとしては非常にスッキリしました。ジェインの幸せが取り戻されて良かったです。閉塞感のある屋敷から一転、青空の下で口ずさまれるピパの歌に少なからず感動しました。とてもいい詩です。
ところで、トゥルーエンドで気になった点があります。それは、トゥルーエンドの立役者とも言えるメグの存在感が薄いことです。
トゥルーエンドルートにおいて、最初にジェインを「月の扉」から外に導くのはメグです(巧い構成だと思います)。エンディング05への分岐条件を見てもメグの存在はトゥルーエンドに不可欠のようです。
だから、締めの部分でメグの扱いが控えめである(というよりジェインが夫との語らいに終始し、そこまでメグに注目していない)ことがやや引っかかっていました。
「母親なのだからもっと娘を気にするべき」とか「ジェインのメグへの愛情が足りない」とか、けしてそういうことを言いたいわけではありません。ただ単純に、作中でメグが見せた母への強い思慕に対し、エンディングのジェインは同じ熱量で応えていないような気がしました。母娘の気持ちに微妙なアンバランスさを感じたとでも言えばいいのでしょうか。
当初は「夫との和解に重点を置いたからメグの描写は少なめだったんだろうな」と考えました。しかし公式サイトに掲載されている後日譚を読むと、トゥルーエンドで感じたわずかな違和感は納得に変化しました。
もちろん制作者様がどこまで意図されたのかはわかりません。しかしあらためて、『月の扉』のストーリーはよく練られているなーと思いました。
『月の扉』と後日譚
公式サイトの【読み物】には、『月の扉』の「前日譚」および「後日譚」にあたる4つのお話が掲載されています。
以下は後日譚のネタバレを含む雑感です。内容に関する具体的な言及は避けました。しかし、どういう雰囲気の話だったのかは感じ取れる書き方になっています。未見の方はご注意ください。
「風の声」と「終焉」を読み終えて、「ああ……そういうことになるんだな……」と思いました。なるほどと納得しつつも、やるせないような悲しいようななんとも言えない気持ちになりました。でも正直なところ、こういう後日譚って好きです。
本編のトゥルーエンドでは、損なわれた愛の復活が果たされました。失われた幸福も蘇りました。でも、一度壊れたものすべてが完全に元通りになることはないんですよね。もの悲しいですが現実味のある話だと思います。
作中でメグがジェインを見つめる眼差しは、健気なだけではなくどこか不安げだなと個人的に感じていました。後日譚を知ると、メグは母に対していつもある種の予感を抱いていたのかもしれない……と思ってしまいます。
先ほど「メグとジェインの気持ちに微妙なアンバランスさを感じる」と述べましたが、「風の声」と「終焉」を読んで、私個人としてはその違和感に理由を見出せた気がしました(メグにとって切ない話ではありますが)。
ところで、ジェインは作中で「月の扉」を用いますが、彼女自身のモチーフは月ではなく「花」らしいです(ex. ジェインの部屋には花の扉、ハワードの部屋には太陽の扉)。
それでは「月」に擬されるのは誰なのかと言えば、他ならないメグその人なのでしょう。トロンプ・ルイユ(※だまし絵)の月の扉を使えたのは、ジェインの他にはメグだけです。また、彼女と同じ名前を持つ「マーガレット」は、月の女神アルテミスに捧げられる花だそうです。
母とは異なり月に例えられるような女性に成長したメグは、今後どのような人生を歩むのか。「終焉」のその後を思うと想像が膨らみました。
*****エンディングコンプ後に、「日記」が解放されます。読み応えがありました。「彼女」の言動と目的はプレイ中もずっと気になっていたので、そういうことだったのかと腑に落ちました。
トゥルーエンドをクリアして喜び、前日譚と後日譚を読んだ後でしみじみと感じ入り……と異なる感慨をいくつも得られる作品だったと思います。面白かったです。
※ソラトビサカナ様の他の作品についても感想記事を書いています。
関連記事:『FOTOGRAFIA』(フォトグラフィア) テレパスの少年が異郷の星を旅するSFノベルゲーム 感想 ※ネタバレ注意
※「謎の多い導入」or「人の精神の複雑さ」or「19世紀の英国」などの要素を持つ作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『カルィベーリ』 感想 考察(吹雪の夜、無人のホテルに侵入した少女の目的とは。探索ADV)
・『SPIEGEL EI』(シュピーゲルアイ) 感想 考察(少女の引き裂かれた精神とその行く末を描き出す、探索型サイコADV)
・『AliceNightmare』(アリスナイトメア) 感想(19世紀英国の貴族家を舞台にした、女性向け恋愛SLG)
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