『Ulitsa Dimitrova』 ロシアのストリートチルドレンを操作するアドベンチャーゲーム 感想
ロシアのストリートチルドレンを題材にした短編ADV、『Ulitsa Dimitrova』の感想記事です。制作者はLea Schönfelder&Gerard Delmas様。作品の公式サイトはこちらです。 → Ulitsa Dimitrova
Ulitsa Dimitrova
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『Ulitsa Dimitrova』の主人公は、「7歳のストリートチルドレン」です。プレイヤーはいつでもゲームを終わらせることができます。
『Ulitsa Dimitrova』は2010年にいくつかの賞を受賞したゲームです。一言で言えば、社会風刺的で(良い意味で)アンハッピーな作品でした。ちなみに、タイトル名の“Ulitsa Dimitrova”は、「ウーリツァ・ジミトロヴァ」というサンクトペテルブルクに実在する通りの名前だそうです。
以下はネタバレを含む感想です。記事を書くにあたって、GAMASUTRAのInterview: Ulitsa Dimitrova And The Street Children of St. Petersburg(制作者様へのインタビュー)を参考にさせていただきました。
『Ulitsa Dimitrova』のあらすじ
"You are Pjotr, a homeless child in St. Petersburg, Russia. Smoke, snitch and visit your mom, the prostitute! For if you stop doing it, things get even worse..."
Ulitsa Dimitrova
あなたはピョートル、ロシアのサンクトペテルブルクにいるホームレスの男の子だ。タバコを吸い、盗みをして、娼婦のお母さんに会いに行こう! というのも、もしあなたがそうするのをやめたら、状況はもっと悪くなるだろうから……(引用者による和訳)
『Ulitsa Dimitrova』でできること
『Ulitsa Dimitrova』は、ひたすらぐるぐるとストリートをループするゲームです。
主人公は7歳の少年、ピョートル。彼は重度のチェインスモーカーであり、常にタバコを求めています。プレイヤーは彼を操作し、様々な場所でタバコを手に入れ、喫煙することができます。
通りにたたずむ人たち
以下では、主人公と通りにたたずむ登場人物の動きや反応について簡単に説明します。
ピョートル:主人公。ゴミ箱から登場。クリックするとコートの内側のコレクションを見せてくれる。窓をクリックするとバーボンやシンナー、車(メルセデス・ベンツ)をクリックするとボンネットマスコット(スリーポインテッド・スター)をゲットできる。
娼婦:ピョートルの母親。バーボンを持った状態でクリックすると、紙幣と交換してくれる。バーボンを持たずにクリックすると、バーボンを持ってくるように示し、やってきた客についてどこかへ去っていく。
スニッファー:常にシンナーを吸っている。シンナーを持った状態でクリックすると、タバコと交換してくれる。
神父:強面。伝統的な僧衣を着用。ボンネットマスコットを持った状態でクリックすると、タバコと交換してくれる。
店の老婆:紙幣を渡すとタバコを買うことができる。
女の子:身なりが良い。クリックするとキスできる。タバコをあげようとすると母親がやってきて、怒った様子で女の子を連れていく。
通行人:しかめ面。クリックすると物乞いができ、紙幣を一枚恵んでくれる。
『Ulitsa Dimitrova』でできないこと
プレイヤーはピョートルを操作し、次々と反社会的なアクションを行うことができます。しかし、このゲームにクリア条件は存在しません。どれだけタバコを吸っても何も変化しません。ゲームが明確に終了するのは、プレイヤーが操作をやめたときだけです。
どういうことかと言うと、プレイヤーが操作をやめるとピョートルは寒さに震え始めます。そしてその場にうずくまり、横たわり、やがては凍死してしまうのです。
『Ulitsa Dimitrova』の舞台は極寒の地ロシアの雪降る街角です。動きを止めることは死に直結します。寒さで息絶えたピョートルの上に、しんしんと雪が降り積もってエンドです。
Ulitsa Dimitrova
『Ulitsa Dimitrova』では、プレイヤーはハッピーエンドを迎えることができません。
制作の経緯まとめと作品の感想
※以下の内容は、記事冒頭に記載したのインタビュー記事を参考にしています。
7歳にしてチェインスモーカーの主人公、アルコール中毒の母親(娼婦)、メルセデス・ベンツのボンネットマスコットと交換にタバコをくれる聖職者……と、『Ulitsa Dimitrova』は一見するだけでも社会風刺的な色合いの強いゲームでした。
とはいえ、制作者であるSchönfelderさん的には、それほど強い社会的な主張を込めたつもりはないらしいです。このゲームのプレイヤーに対して望むのは、「嫌な気分になること」や「不幸せな気分になること」。映画ではなくPCゲームを表現の媒体として選んだのは、プレイヤーを物語に参加させる必要があったからだそうです。つまり、ピョートルになってプレイしてもらうことで、ピョートルの運命にショックを受け、エンディングでアンハッピーな気分になってほしかったからだ、と。
一方で、ピョートルたち登場人物のユーモラスな反応に笑っちゃってもかまわない、と寛容な感じでもあります。
上にも書いたように、『Ulitsa Dimitrova』は社会批判的な趣きの強い作品ですが、たしかに主人公たちの細やかなリアクションや表情はどことなく笑いを誘うんですよね。もちろんエンディングにはやるせない気分になったものの、一個のイラストレーション作品として魅力的だと思いました。
Ulitsa Dimitrova
ちなみに、制作者のSchönfelderさんは昔実際にサンクトペテルブルクを訪れたそうです。その際ストリートチルドレンの状況を見聞きしインスピレーションを受け、それがゲーム制作に繋がったという話でした。
ロシアの街には一般にストリートチルドレンがたくさんいる、サンクトペテルブルクだけでざっと30000人はいるだろう、彼らの多くは経済的な理由から家族に捨てられ、使用禁止の建物や下水道に住んでいる……とインタビュー記事の中では言及されています。
*****
上記のインタビューの中に、「街を描き出す青色を見つけるのにかなりの時間を費やした」というくだりがあります。ロシアという北の地とSchönfelderさんが育った南の地とでは、光の見え方がかなり異なることが印象に残ったそうです。
たしかに、『Ulitsa Dimitrova』の世界を象る青色は、白色とマッチして冷えた空気や淋しげな印象を見事につくり出しています。ピョートルたちの行動がそこまで悪趣味に見えないのは、コミカルなモーションと色の与える印象のせいかもしれません。
非常に短いですが面白いゲームでした。短時間でプレイできるので、実際に自分でプレイしてみてほしい作品です。
※「厳しい状況に置かれた子供たち」をテーマにした作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『カルィベーリ』 感想 考察(見捨てられた都市で、無人のホテルに忍び込んだ孤児の少女が主人公。おそらくはロシアの一地方が舞台)
・『アイシャの子守歌』 感想 考察(廃屋の地下に閉じ込められた少女の物語。主人公とその兄は両親を亡くしている)
・『盲愛玩具』 感想(優しい養い親に引き取られた少女が真実を知り、厳しい選択を迫られる物語)
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