『FOTOGRAFIA』(フォトグラフィア) テレパスの少年が異郷の星を旅するSFノベルゲーム 感想 ※ネタバレ注意
寿命の残り少ない少年が異郷の惑星を訪れるノベルゲーム、『FOTOGRAFIA』(フォトグラフィア)の感想&考察記事です。制作者はソラトビサカナ様。作品のダウンロードページ(Vector)はこちらです。 → FOTOGRAFIA -フォトグラフィア-
FOTOGRAFIA
『FOTOGRAFIA』は、選択肢のない一本道のSFノベルゲームです。主人公は16歳のテレパスの少年。約2時間半で読み終えました。
ちなみに、タイトルの「FOTOGRAFIA」はイタリア語で「写真」を意味します(タイトル画面でもそうですが、本来はFOTOGRAF“Í”Aのようです)。
同じ制作者様による『月の扉』は少し昔の英国が舞台でしたが、この『FOTOGRAFIA』の舞台は文明度の低い惑星(おそらく架空、もしくは過去の地球?)の海辺の街です。白い石造りの街並みと青い海から推測するに、モデルは地中海沿岸地域でしょうか。
『FOTOGRAFIA』をプレイしたのは、「自分があと一週間の命と知っている少年が、最期の時を過ごす物語」という紹介に惹かれたからです。感想としては、「プレイしてよかった」に尽きます。
異邦人であり最期の時を待つ人間であるリューと、彼の事情を知り得ない現地の人々。両者の1週間にも満たない交流と交錯の中で、「永遠とも呼べる何か」が生じるストーリーでした。淡々とした描写にどんどんと引き込まれ、恥ずかしながら何度か泣きました。
以下はゲームの詳細な感想やちょっとした考察です。下に行くほど物語の核心的なネタバレが含まれます。未見の方はご注意ください。
※同制作者様の作品、『月の扉』もプレイさせていただきました。
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『FOTOGRAFIA』のあらすじ
『FOTOGRAFIA』のあらすじを説明します。
FOTOGRAFIA
惑星コロニー育ちの主人公・「リュー」は、予知能力や精神感応能力を持つ生まれつきのテレパスです。その能力のために、彼は幼い頃から自分の命が尽きる時期を明確に把握していました。
16歳になりタイムリミットがわずか1週間先に迫ったある日、リューは故郷に母と叔父を残し、未開の惑星PK-19に降り立ちます。惑星PK-19は、亡きリューの父が最期の時を過ごした地でした。父のことを何も知らないリューは、母や叔父がひた隠しにする父の秘密を知りたいと思ったのです。
広大な海を擁する惑星PK-19の海辺の街で、リューは旅人として様々な人たちと知り合います。銅像を見上げる赤毛の人。金色の瞳を持つ少女。かつての父を知る老いた神官長。そして、自分と同じ名前を持つ女性。
彼らと交流する中で、リューは父親と自らの過去に秘められた真実を知ることになります。
第一章~第四章の感想
『FOTOGRAFIA』は5章仕立ての作品です。出会いと別れ、愛と悲しみ、刹那と永遠。それらが淡々と交錯する、整った構成をもつ作品だったと思います。以下はネタバレをガッツリ含む感想です。未見の方はご注意ください。
第一章 The Name of The Rose
FOTOGRAFIA
第一章は本作の導入部に当たります。この一章で『FOTOGRAFIA』のストーリーと舞台設定にぐっと引き込まれました。
第一章ではまず、主人公リューがテレパスであり、特殊な立場にある(異星人である)ことが提示されます。リューはどのような能力を持っているのか。わずかな命が尽きる前に、リューはこの惑星で何を見出すのか。そういったことが自然と気になり、プレイヤーとしてはクリックの手を止められませんでした。
この章のキーパーソンは、燃えるような赤毛が印象的な「ナダ」という女性です。ナダは"Nada(何もない)"を意味し、もちろん彼女の本当の名前ではありません。しかしナダは「その名前が今の自分にはふさわしい」と言うのみで、自分について多くを語ろうとはしません。
もしリューが普通の人間であったなら、謎めいたナダに深入りすることなどできなかったでしょう。しかし彼はテレパスであり、心優しい少年です。ナダの強い思いを知り得たリューは、短い命をさらにすり減らしてでも彼女を生に引き留めようとします。
第一章は、傍観者であり異邦人であるリューの立ち位置、およびその性格の優しさを印象づける章だと言えるかもしれません。実際、第一章で示されたリューの立ち位置と性格は、物語の最後に至るまできっちりと堅持され続けます。
キーパーソンであるナダと彼女が強い思いを抱く「ヘラルド」については、直接ゲーム中では語られない設定がいくつかあります(公式サイトのおまけ小説で詳しく知ることができます)。
個人的には、2人の(描写の量的な意味で)抑制的なやりとりは逆に想像の余地があっていいなと思いました。たとえばヘラルドの登場シーンは少なめですが、いくつかの印象的な挿話から彼の悔恨の念と優しさはよく伝わってきます。要点を押さえた描写がうまいなと思いました。
ナダが過去と折り合いをつけ、本当の名前と口づけを残して去る結末には爽やかな感動がありました。彼女はリューに「あなたのことは忘れない」と言い残してくれます。リューがまもなく訪れる最期の時を待っていることを、ナダはもちろん知りません。だからこそ、彼女の記憶の中で善き旅人としてのリューが生き続けるだろうことに感じ入りました。
第二章 Grow old with you
FOTOGRAFIA
第二章は、一章からの流れ(第三者の旅人リューが惑星PK-19の人々を助ける)を引き継ぎつつ、リューのパーソナリティーがさらに掘り下げられる章です。詳しくは後述(「ストーリー中の伏線と考察」)しますが、リューの身体的特徴と神殿の伝説に興味を引かれたことを覚えています。
この章でリューに救済を求めるのは、第一章でも登場した「神官長」です。個人的にはこのゲームで一番好きなキャラです。柔らかな物腰と他者への寛容さの後ろに、ぬぐいきれない諦観や葛藤がちらついて見えるのがいい感じです。まだわんぱくな少年だった頃の彼を回想で知ると尚更、人生の苦楽を知ってすっかりと落ち着いた姿にグッとくるものがあります。
神官長はリューの父親であるルシアスを覚えている数少ない人物でもあります。実はそれだけでなく、ルシアスが超常的な力を持っていたことも知っています。彼がルシアスやリューの存在を抵抗なく受け入れられるのは、彼自身が長年同じような存在と接してきたからなのでしょう。
第二章のキーパーソンは、金色の瞳を持つ猫族の少女・「イオ」です。リューは通称「猫族」と呼ばれるシュイユエ星出身の人間にはなじみがあります。彼自身、猫族の人間を母親に持っているからです。この猫族の生態は、SF的な意味でかなりユニークだなと思いました。
しかし神官長とイオにとっては、猫族特有の生態が乗り越えられない壁となって2人を隔てることになったようです。末期のイオが神官長に告げる、この章のタイトル通りの願いを聞いたときは涙腺が緩みました。
神官長ことエミリオとイオは、二重の意味で結ばれ得ない2人だったのだと思います。少女の姿のまま成長できなかったイオは、社会的にも物理的にもエミリオと結ばれませんでした。しかしたとえイオが成人できたとしても、エミリオとまっとうに添い遂げることは難しかったのではないでしょうか。というのも、猫族は成人後、寿命が尽きるまで若い姿を保ち続けるからです。猫族の生態がまったく知られていない惑星PK-19では、イオのそんな有り様は人々の恐怖と好奇の的になるはずです。
しかし、そんなシビアな現実が匂わされているからこそ、60年間イオの傍にあり続けたエミリオの思いが胸を打つのだろうなと感じました。
見捨てることも投げ出すこともきっとできたのでしょう。実際、彼と一緒にイオの目覚めに立ち会ったハビは、イオへの責任を背負うことに挫折したようです。しかしエミリオは最後までイオから離れませんでした。ルシアスからいったんはイオを隠したという事実に、彼の葛藤と愛情がよく表れていると思います。
全体を振り返っても気になる二人だったので、Anoter Storyには本当に心打たれました。今から振り返ると昔の人たちは不自由で不幸に思えるかもしれない。でも彼らにだって、「もうこれで終わりになってもいい」と思えるほどに強烈に幸福な瞬間があったはずだ……という言葉を以前に聞いたことがあります(進歩主義批判の文脈で)。エミリオの心情を知ったときに、ふとその主張を思い出しました。
イオと出会った人生と、イオと出会わなかった人生。エミリオにとってどちらが幸福でどちらが不幸か、あれこれ比較して結論づけることは可能だと思います。しかしエミリオ自身は、自分は間違いなく幸福だったと納得しているんですよね。イオの孤独な身の上を思うと、エミリオのその心持ちが胸に沁みました。
第二章のラストでは、物語の「転」が訪れます。イオの存在によってSF要素が強まり、第三者であったリューの心境に変化が起こり始めます。
このラストですが、一章から親交があったリージャがリューを迎えに来たところで涙が止まらなくなりました。エミリオとイオの今生の別れと、視点人物のリューに残された時間も残り少ないこと。重苦しい現実が土砂降りの雨に象徴されているようで、プレイヤーとしてもすごく悲しくて不安な気分になっていたんですよね。
正直なところ、リージャが迎えに来てくれるんだろうなーと予想はできていました。それでもなおリージャが現れたときは本当に嬉しくなり、自分でも不思議なくらいに涙が出ました。あの不思議な感慨は、リージャの存在に「救い」を感じたからかもしれません。今振り返ってみても感情移入の度合が半端なかったなと思います。
第三章 Eternity
FOTOGRAFIA
第三章は、第二章からの「転」を受け継ぐ章です。リューと同じ意味の名前を持つ女性・「リージャ」がキーパーソンとなり、前半でその過去が掘り下げられます。それだけでなく、後半ではリューの存在に関わる真実が明らかになっていきます。
二章のラストでリージャへの好感度がうなぎ上りだったので、リューにリージャが心を開いたシーンには胸が熱くなりました。しかし同時に、鱗の肌を気持ち悪くないと言われたにしては冷静すぎるリューの反応が気になりました。リージャとのロマンスに参加する気はなく、あくまで彼女の思いを受け入れるに留めようとする姿勢が感じとれたというか。
そこからの神殿奥の秘密開陳&露天商フェルとの会話には、「???」状態で最初は頭がついていかなかったです。「リューってリューじゃなくてルシアスなの?」とぼんやりと呑みこみつつも、「でもじゃあリージャのことはどうするんだよリュー」と単純に思ってしまいました。だから、リューが宿屋を黙って去ろうとする展開に最初は「マジかー」と思いました。
もちろん、リューとリージャが恋愛的に結ばれることを期待していたわけではないです。リューには時間が残されていないし、そもそも本人に異邦人ポジションを崩すつもりがなさそうだったので。
しかし、リューが別人格に目覚めて他の男にリージャを託す展開になるとは思わなかったんですよね。もうちょっと葛藤が欲しいというか、リューの方にもリージャへの好意があってくれるとよかったのに、と反射的に思いました(この時点では)。特にあの未来予想図には複雑な気分になりました。イバンは好感の持てるキャラですが、それでもプレイヤーとして微妙にNTR感を味わいました。
たぶんプレイヤーとしての自分がリージャに好意を持っていたから、主人公のリューもきっとそうであるはず(そうであってほしい)と思ってしまったのだと思います。あと、二章ラスト~三章冒頭の流れを見て、「こうなればさしものリューもリージャのことを意識せずにはいられないんじゃないか」と感じたことも大きいです。
もちろんリューの対応は理性的で優しいものです。あの時点で、そしてリューの立場で選択できる最善の答えだったと客観的には思います。
第四章 Mi Luz
第四章では、すべての真実が明らかになります。リュー=ルシアスであり、リューは物語スタート以前からミャオのことを愛していたと明かされ、プレイヤーとしては気持ちが追い付かない部分はありました。ヒロインポジションがそれまで伝聞のみで語られていたミャオに突然移行したことにも戸惑いました。しかし、オリジナルのルシアスとミャオの重く深い愛情が丁寧に掘り下げられたので、最終的には受け入れられました。
「ミャオを母として生まれたかった」というルシアスの発言にはかなりのインパクトがありました。リューの赤子姿が事前に提示されたからでしょうか。ルシアスがどんな嫌悪と拒絶に晒されてきたのかに想像が及び、ミャオがルシアスを全肯定して受け入れたことの重要さがよく理解できました。
ルシアスについては、やはりまずはミャオのところに帰ってあげるべきだったんじゃないかと若干思いました。それだけ寿命が残りわずかで、「今を逃せばもうイオを救う機会がない」くらいの切迫した状況だったということでしょうか。きっとリューと同じで優しい人だったのでしょう。ミャオの気持ちを考えても、今回はリューが帰ることを選んでくれてよかったです。
ところで、「クローンその人のことが好きなのか、それともオリジナルのクローンだから好きなのか?」という問いは、クローンものの定番難問というか、切り口の難しいポイントだと思います。
ミャオ本人は、「(リューを)息子としても愛している」し、「リューとの16年はルシアスと過ごした2年と同じくらいの重みがある」と述べています。しかしプレイヤーとしては、ミャオは後者寄りであるという印象を受けました。つまり、息子としてのリューを愛しつつも、異性としてリューを意識するときにはルシアスを投影せずにはいられないような印象があります(あくまで主観)。
一方のリューはと言うと、異性としてミャオを愛しています。しかもかなり早い段階から。もしリューが一個人としての人生や意思にこだわるのなら、確実にひと悶着ありそうな構図だと思います。
ただこの物語では、リューは自分がルシアスであることを積極的に受け入れた上で、遺伝子レベルの愛を訴えるんですよね。だから、うまいこと上記の問題が解決(というか回避)されているなと感じました。そもそも真実を知った時点でのリューの余命が短すぎたから、クローン・オリジナル問題で悩んでいる暇すらなかったのかもしれません。
ストーリー中の伏線と考察
第四章の結末まで読むと、第一章から丁寧に伏線が張られていたことがよくわかります。たとえば、リューが繰り返し見ていた誰かの記憶はすべて、遺伝子レベルでの最愛の女性を指し示すものでした。一方で、大昔に神殿に封じられた災いなど、謎のままで残されている出来事も存在します。
以下では、『FOTOGRAFIA』をラストまで読んでなるほどなーと膝を打った設定や、興味を引かれたことについて書いてみたいと思います。
すべての道はミ・ヤオに通ず
物語をその最後まで見届けてから振り返ると、『FOTOGRAFIA』のすべての章は「ルシアス(リュー)のミャオへの愛」を示唆するものでした。
第一章のキーパーソンであるナダの燃えるような赤毛は、ミャオの髪の色です。また、彼女の母イレーヌとその夫、彼女のいとこであるヘラルドの三角関係は、どことなくミャオとルシアス、ルシアスの弟であるカイの三角関係を彷彿とさせます。
第二章のキーパーソンであるイオは、猫族の血を受け継いだ金色の瞳の持ち主です。猫族であるミャオもまた、金色の瞳を持っています。「あなたと一緒に年をとりたい」というイオとエミリオが共有する願いは、寿命が残りわずかなルシアスやリューのミャオへの思いと重なって響いてくるものです。
そして、第三章でのディアゴのラウラへの悔恨と嘆きは、そのままルシアスを失ったミャオとのそれと重なるものだと思います。あなたが生きていてくれさえすればいいのに、他の誰でもないあなただけを愛しているのに……という。
髪と瞳の遺伝
第一章~第三章で、髪と瞳の遺伝に関するヒントがさり気なく述べられているのも巧いなと思います。
ナダの母イレーヌを襲った悲劇の原因は、赤毛の隔世遺伝でした。ともに黒髪のイレーヌとその夫の間に、イレーヌの父から受け継がれた赤毛を持つ娘が生まれてしまったこと。それが誤解と悲劇を呼び寄せたわけです。この場合、黒髪の遺伝子が優勢遺伝子、赤毛の遺伝子が劣勢遺伝子だったということになります。
また、第二章と第三章で、イオは金髪青目の父と赤毛金目の母(猫族)を持つミックスであることが明かされます。つまり、イオの父母の髪と瞳の色の組合せは、リューの父母のそれとまったく同じだったわけです。しかしイオは金髪金目であり、一方のリューは金髪青目です。
イオを見るに、金目の遺伝子は青目の遺伝子に対して優勢なのではないか。では、どうして自分は、金色の瞳ではなく青い瞳をもっているのか。その引っかかりがリューに、自分と父の関係についての重大なヒントを与えることになるわけです。
竜と光り輝く者
1000年前の人らしいイオの父母については謎が残ります。神殿には、「大昔に竜が災いを持ってきて、使いが来るまで封印しておくようにと命じた」との伝承が伝わっています。また、その使いについては詳しい姿形が伝わっていません。長い年月をかけて神殿はその使いを偶像化し、「光」として信仰するようになったようです。
災い=コールドスリープ状態のイオということなら、大昔にイオを連れてきたドラゴンが、リューやルシアスそっくりのイオの父親ということになるのでしょうか。そしてイオのコールドスリープを解く際に、「光り輝く者」として神殿を再訪しようと考えていたのでしょうか。
順当に考えるなら、イオの父はルシアスの一族の先祖なのかなと思います。彼がなぜ娘を惑星PK-19に連れてきたのか。どういう経緯でドラゴンとして伝承されるに至ったのか(鱗の皮膚と関係あり?)。かなり気になりますが、シリーズの続編で明かされたりするのでしょうか。
最終章のもたらす感動
最終章の視点人物はリージャです。「ルシアス(リュー)のミャオへの愛」というテーマとは独立した趣きのある章だと感じたので、項目を分けました。
最終章では、「フォトグラフィア(写真)」というタイトルが綺麗に回収されます。リューって写真撮ってたっけと少し思いましたが、この最終章のオチには素直に泣きました。もはやリージャが登場するだけで涙が出てくる不思議。
ルシアスとミャオが主役とヒロインになった第三章後半と第四章では、リージャの存在は未消化のまま後景に退いた感がありました。だから、最終章がこういう形で締めくくられたことが本当に嬉しかったです。
リューがリージャにとって救いの人であり、たとえ短い間でも心から好きになった人であったこと。そしてリューがリージャの輝きを見出し、言葉としても形としても彼女に伝え続けたこと。
そういった事実が自然と胸に沁みて、物語を追ってきたプレイヤーとしては救われるような思いでした。リューとリージャの交流は、けして一方通行なものではなかったんだろうな、と。エンディングロールで額縁に入った写真が出てきたときは、「めっちゃええ話やん」と呟かざるを得ませんでした。
たった一週間にも満たない交流は、長い人生の中では一瞬の夢のようなものかもしれません。しかしリューは、リージャの記憶の中で永遠に生き続けます。それもおそらく、リュー自身が意図したよりもずっと意味のある形で、彼女の心の片隅に存在し続けるはずです。本当に良い終わり方だった……とプレイ後にしみじみと感じました。
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感想記事を書くためにプレイメモを見直していて、「プレイ中の自分泣きすぎ」とツッコみたくなりました。基本的に泣いたとか涙が出たと書いている箇所は、誇張ではなくリアルにそういう状態になっています。
一応弁解すると、どんな作品に対してもこんなに涙腺が緩くなるわけではないです。たしかにわりとすぐに感動して泣く性質ですが、それにしても『FOTOGRAFIA』はその頻度が高すぎるなーと自分でも驚きました。たぶん、フィーリングにバッチリ合う作品だったんだろうと思います。個人的な泣きのツボを的確に刺激してくる雰囲気があったというか。
『FOTOGRAFIA』は、BGMのチョイスもすごく良いノベルゲームでした。SF&しっとり系で統一感があり、何より物語の雰囲気にぴったりでした。音楽と場面のマッチングのよさに思わず感じ入ってしまう瞬間が何度もありました。
不満は、章ごとに読み始められないことくらいでしょうか。先の話が気になってついセーブがおろそかになってしまったので、任意の章の頭から読み直せる機能があればいいのになと思いました。
制作者様のお話によると、『FOTOGRAFIA』は時系列的に三部作の最終話にあたるエピソードだそうです。次作、次々作と時系列をさかのぼるそうなので、ルシアスとミャオとカイの三角関係や、謎多き露天商フェルのエピソードはそこで出てくるのでしょうか。
余韻のある素敵な作品でした。また機会を見つけて、他のシリーズ作品もプレイさせていただきたいなと思います。
※ソラトビサカナ様の他の作品についても感想記事を書いています。
関連記事:『月の扉』 19世紀英国が舞台のゴシックホラーADV 感想 攻略 ※ネタバレ注意
※また、「SF要素」を含む作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『かげろうは涼風にゆれて』 感想 攻略(謎の実験と記憶の消失。夏の孤島を舞台にしたSF青春ADV)
・『輸送艦ちぐさ殺人事件』 感想(戦時下の宇宙空間で発生した奇怪な事件の真相とは。近未来SFサスペンスADV)
・『ほろびのゆりかご』 感想 考察(シェルター生活を送る少年少女を悲劇が襲う。未来選択型サスペンスADV)
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