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『Papers, Please』 入国審査官アドベンチャーパズルゲーム(+実写映画) 感想&レビュー ※ネタバレ注意

2019/01/12
海外・Steam系 0
感想 レビュー 考察 攻略 パズルゲーム サスペンス 海外 Steam 映画

入国審査アドベンチャーパズルゲーム、『Papers, Please』の感想&考察記事です。攻略情報や実写映画(“Papers, Please - The Short Film”)のレビューを含みます。制作者はLucas Pope氏。作品の公式サイトはこちらです。 → Papers, Please

papers, please 入国審査アドベンチャーパズルゲーム スクショ タイトル画面

Papers, Please

『Papers, Please』は、海外でいくつかの最高賞を受賞し高い評価を得た作品です。舞台は架空の共産主義国、アルストツカ(Arstotzka)。プレイヤーは入国審査官となってグレスティン国境検問所に赴任し、入国希望者たちを厳しく審査することになります。エンディングは20種類。そのうち、特別なエンドは3つです。

お試しでβ版をプレイした後、すぐにSteamでの購入を決めました。非常に面白い、傑作と言っていいクオリティーのゲームだと思います。パズル面、ストーリー面ともによく練られていて、その2つの絡ませ方も見事です。すべてのエンディングをクリアするまでとことん熱中してプレイしてしました。

私の場合、検問所という狭いブースの中で繰り広げられる濃厚な人間ドラマに魅了されました。

パズルゲームという観点から見ても、主人公の仕事は言ってみれば単純作業の繰り返しです。しかしその単調な作業によって、生命と人生を直接的に左右される人たちが存在します。

「無機質な仕事」に対する「血肉の通った生身の人の嘆きと訴え」。両者の間に横たわるギャップ、そのあまりの大きさを感じるたびに、プレイヤーとしても迷い悩まずにはいられませんでした。

制作者のPopeさんは、架空の共産主義国家を描いた名作、『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)に影響を受けたそうです。なるほどなーと納得しました。グレスティン国境検問所で展開されるドラマは、アルストツカという非情な国家があってこそ映えるものだと思います。

「フィクションだから」という前置き付きで、『Papers, Please』の舞台設定はかなりツボに入りました。ディストピア社会を背景設定に持つ作品はけっこう好きです。

以下は、ストーリーやエンディングに関する感想です。ルート分岐についての攻略情報も含みます。ネタバレが含まれるので、未見の方はご注意ください。

『Papers, Please』のあらすじ

最初に、『Papers, Please』のあらすじを書きます。

papers, please スクショ 主人公はアルストツカの入国審査官に任命される

Papers, Please

舞台は架空の共産主義国、アルストツカ(Arstotzka)。このたび入国審査官に任命された主人公は、「グレスティン国境検問所」に勤めることになりました。

入国審査官の給金は、完全歩合制。容赦なく課される罰則・罰金に怯えつつ、主人公はパスポートや書類をチェックし、入国の可否を振り分ける日々を送ります。対峙する入国希望者たちは一筋縄ではいかない人間ばかり。加えて職務内容はだんだんと複雑化しハードなものになっていきます。

頻発するテロ。暗躍する密輸業者。手を変え品を変えて行われる文書偽造。主人公を味方に引き込もうとするレジスタンス組織。主人公の身辺を嗅ぎまわる情報省の役人。そして、働けど働けどなお楽にならない暮らし。

末端の役人でしかない主人公は、入国審査官として様々な人間の思惑と誘惑に翻弄されることになります。そのとき、彼はいったい何を選択するのでしょうか。入国審査官たる主人公の選択によって、エンディングは20種類に分岐します。

『Papers, Please』の概要

papers, please スクショ トークンをくれる入国希望者

Papers, Please

『Papers, Please』は、簡略化すれば下記の流れを延々と繰り返すゲームです。

  1. 入国希望者を呼ぶ
  2. パスポートや書類(の記載)に不備がないかチェック
  3. スタンプを押して入国許可or拒否を決定

的確に目線を移動させ、自分なりに効率の良いチェックパターンを見つけることがカギになる、間違い探しにも似たパズルゲームと言えます。

ただし『Papers, Please』の面白さは、日を重ねるごとにどんどんと細かい作業が増えていく点にあります。

「外国人か自国民か」だけをチェックすればよかった初日から、「パスポートの期日が切れていないか」「必要な許可証は揃っているか」「許可証の期日は守られているか」「写真と人物の顔は合致しているか」「不正な性別や氏名ではないか」「指定の街で公式に発行されたパスポートか」「発言と許可証の内容は矛盾していないか」「スタンプはあるか、かつ公式のものか」……という風に、チェック項目は加速度的に増加していきます。

場合によっては、「特定の国民はスキャンで武器を携帯していないかチェックしろ」「指名手配犯を捕まえろ」「常備されている銃でテロリストを撃ち殺せ」といった特殊命令が下されることもあります。

また、チェック方法も多彩です。間違い発見機的なボタンを使用するほか、指紋を認証したりスキャンを行ったりします。問題が発見されれば警備兵を読んで取り押さえることも可能です。

後半になると間違いを見つけて即拒否スタンプを押すのではなく、間違いを指摘して問答する必要もあります(問答の結果、名前違いで指紋認証→本人確定でOKになったり、体重違いでスキャン→武器なしと確定してOKになったりする。そういった入国希望者の場合、尋問せずに拒否すると政府からミスを指摘される)。

チェック項目が増えるということは、主人公のやるべき仕事が増えるということ。細々とした指令が下るたびに、日々の暮らしに汲々とする主人公は時間を割かれて給料をすり減らすことになるわけです。

パズルと物語、両者のマッチング

『Papers, Please』はゲーム内時間で約30日間のプレイを想定しています。上でも述べたように、初日は非常に簡単だった職務内容は、勤務日数が20日代に及ぶと格段と難しいものになります。

「日数経過に伴って作業内容が複雑・膨大になる」という構成は、パズル的にもストーリー的にも巧いなーと思いました。以下、その2つの観点から感想を書きます。

パズルゲームとしての魅力

パズル面に関して述べたいのは、難易度の上げ方の巧さです。

チェック項目の少ない序盤でプレイヤーを操作に慣れさせ、後半に移行する中でチェック項目を増やし、難易度をどんどんと上げていく。その難易度の上昇具合がぬるくもなくきつくもなく、ちょうど良い歯ごたえに仕上がっていました。

リミットまで同じ作業を正確に繰り返すことを要求されるゲームの場合、作業内容を複雑・膨大にしすぎるとプレイヤーのストレスがいたずらに上がってしまうものだと思います。つまり、単純にやることをバンバン増やすだけではゲームの面白さが損なわれてしまいがちです。

『Papers, Please』の場合は、難易度が急激に上がるわけではなく、銃でテロリストを狙う特殊パートを入れたりギリギリまで上げた難易度を少し下げたりと、プレイヤーのやる気を削がない工夫がされているように感じました。

そういった難易度に関する工夫以前に、『Papers, Please』はパズルゲームとして純粋に面白いです。慣れるまでにはもちろん時間がかかります。しかし逆に言えば、いったん慣れてしまえば誰にでもできる、中毒性の高いパズルゲームだと思います。

当初散漫に泳いでいた目線は、見るべきポイントを理解する過程でだんだんと研ぎ澄まされていきます。プレイ中はすっかりと入国審査官気分に浸り、発行地やスタンプを素早く確認し、写真と本人を見比べている自分がいました(面白いことについつい目つきも鋭くなったり)。

注意力を振り向けるポイントを掴めるようになっても、チェックすべき項目は日に日に増えていくのでマンネリ状態には陥らないんですよね。全体の構成とバランスの取り方が本当に巧妙だと思います。

ストーリー進行と難易度の上昇について

次にストーリーに注目して眺めてみると、日数経過に伴って主人公がカバーすべき仕事の種類はどんどんと増えていきます。プレイヤー的にはやることが増えて楽しいわけですが、主人公にとってはたまったものではありません。

ゆえに、作業内容の煩雑化は、末端の役人にどんどんと仕事を押し付けるアルストツカの非情ぶりを際立たせます。

テロ事件が起これば、「外国人には一時的に入国チケットを提示させろ」と指令が下ります。労働省が移民による自国民の就労不能を危惧すれば「外国人労働者については労働許可証を提示させろ」とのお達し、コレチナ人によるテロ事件が起これば「コレチナ人に限っては問答無用でスキャン撮影を行え」、情報省で漏えい騒ぎが持ち上がれば「スタンプ偽造の恐れがあるからチェック項目を増やせ」……と万事このような調子です。

後半になればいくらか裁量の幅は広がるとはいえ、ミスをすれば罰金を課せられる仕様は変わりません。暖房・食費を自分持ち、かつ完全歩合制で生活している主人公に対し、光栄なるアルストツカはまったく容赦がないわけです。

それでも養うべき家族がいるから、主人公は指令に従い、無心で働き続けなければなりません。日々そのページ数を増すルールブックを見ていると、人間性を一顧だにしない国家のあり方を心で理解できるような気がしました。

とはいえ、作業内容が増えることで選択肢が増え、主人公にまっとうなプラス効果を及ぼす場合もあります。そのあたりの正負織り交ぜた展開も含め、なんとも細やかに作り込まれているゲームだなと思いました。

ストーリー感想

上でパズル要素と絡めた感想を書きましたが、この項目ではストーリーそのものに関する感想を書きます。パズルゲームとして面白いことはもちろん、『Papers, Please』はストーリー的にも見どころの多いゲームでした。

プレイヤーが操作する主人公は検問所に鎮座して動きません。しかし日々更新されるルールブックや新聞から、あるいはブースを訪れる入国希望者や同僚や上官やレジスタンスの使者から、主人公は様々な思惑や示唆を含んだ情報を受け取ることになります。

"合理的"な国家と割り切れない人間模様

『Papers, Please』では、対国家というマクロレベルにおいても、検問所のブース内での対人間というミクロレベルにおいても、非常に見ごたえのあるドラマが用意されています。

たとえばマクロに眺めてみると、共産主義国アルストツカと隣国コレチアとの間には、長年続いた戦争による抜きがたい緊張状態が存在します(この戦争によって作中でおなじみの「グレスティン」という街は東西に分断されたようです)。

作中におけるテロ事件の多くを引き起こすのも、やはり隣国コレチアの国民です。アルストツカ-コレチア間の政情の変化に伴い、主人公はコレチア国民への抜き打ちスキャンチェックを命じられたり、政治的駆け引きによってその命令が撤回されるのを目の当たりにすることになります。

コレチア以外の国家も、その政治状況によって主人公の職務内容に変化を及ぼすことがあります。主人公は一番大きな影響としてのテロ事件に日々接しつつ、アルストツカの命令に粛々と従うことになります。

また、アルストツカの国家転覆を企むレジスタンス組織もたびたび主人公に接触してきます。入国審査官を自陣営に引き込み、組織の活動に協力させようとするわけです。

祖国アルストツカに盲目的or諦念まじりの忠誠を誓うか、あるいは、面従腹背して革命組織に協力するか。それもまたプレイヤーの選択次第と言えます。

そしてマクロレベルのみならず、ミクロレベルでも濃厚な人間ドラマが展開されます。息子に会うために国境を越えようとする母、亡命しようとする夫婦、殺人罪で追われる陸上選手、悪徳斡旋業者の摘発を懇願する出稼ぎ売春婦、何度となく偽造パスポートでの入国にトライする謎の男性。

下っ端に過ぎない主人公が、彼らの生殺与奪権を握っているのです。

入国させるか、拒否するか、逮捕するか。良心に従うか、家族を養うために鬼になるか。主人公の選択はその後のストーリーに小さくない波紋を投げかけることがあります(新聞などでその選択の結果を追うことができるのも、このゲームの面白いポイントの一つです)。

"Papers, Please - The Short Film" ~実写映画感想~

ところで、『Papers, Please』が実写映画化されたそうです。びっくりしました。Kino-Domという映画制作会社が手掛けたとのこと。日本語字幕付きで、SteamとYoutubeで無料で視聴することができます。以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

実際に視聴しましたが、ゲームネタを活かした緊迫感のある短編作品に仕上がっていました。入国審査官役の俳優さんのクールでありながらところどころで葛藤を滲ませる演技が良かったです。

あと、地味にJorji Costava(ジョージ)が拒否の上捕縛されているらしいシーンがあって笑いました。主人公の家族写真といい金庫の中の銃といい、原作ネタの使い方が細やかです。

ただ、セルジュとエリサはちょっと悲しい感じになっていました。セルジュは気のいい好青年から真面目な堅物っぽいキャラになっていたのが残念です(仕事上の演技かもしれませんが)。あと、原作だと主人公とセルジュは(フランクな会話を交わしているので)年が近めのイメージでした。とはいえ主人公は妻子持ちなので、セルジュよりもずっと年上なのかもしれませんね。

10分と少しの時間で観られるので、ゲームをプレイされた方は視聴なさってみてはいかがでしょうか。
PAPERS, PLEASE - The Short Film (2018) 4K SUBS(YouTubeのページに飛びます)

革命/報国/亡命エンディングの感想

エンディングの分岐から逆算して、ストーリーの流れは大きく3つに分かれているように思いました。

便宜上、以下ではそれぞれの流れを、革命ルート/報国ルート/亡命ルートと呼びます("革命"は単語の使い方としてちょっと違うかなーという感じもありますが、語呂が良いので採用しました)。

1つ目は、レジスタンス組織に全面的に協力するルート(革命ルート)。EZIC(The Order of the EZIC Star)という国家転覆を企む反体制組織の依頼を4件こなす必要があります。

2つ目は、EZICになびかずに職務を全うするルート(報国ルート)。情報省の役人の疑いをかわすべく、EZICからの依頼をすべて無視する必要があります。

そして3つ目は、オブリスタンに亡命するルート(亡命ルート)。ストーリー分岐の鍵を握るのは、謎多き不法入国者、Jorji Costavaとの親交です。陽気でうさんくさい彼と終盤まで関わりを保っていると、オブリスタンへの亡命を手助けしてもらえます。

以上の3つのルートをそれぞれ突き詰めると、各ルートのトゥルーエンディングとでも言うべき3つの結末に到達できます。すなわち、革命ルートではエンディング19、報国ルートではエンディング20、亡命ルートではエンディング18へと。

ちなみに、上記の3エンディングを見ると、"VICTORY"なミュージックが流れ出します。20あるエンディングのうち、そのBGMが流れるのは上記3つのエンドのみです。

それでは以下、各ルート(革命ルート/報国ルート/亡命ルート)とエンディングの感想を書いていきます。ストーリーの核心的なネタバレが含まれるので、未見の方はご注意ください。

1.革命ルート(エンディング19)

エンディング19に至る「革命ルート」は、政治腐敗が深刻なアルストツカの打倒を目指すレジスタンス組織、"EZIC"に協力するルートです。

papers, please スクショ 革命エンド

Papers, Please

入国審査官たる主人公は、EZICのメンバーから何度も「依頼」を受けることになります。それらの依頼を遂行することでフラグが蓄積し、依頼達成数に応じてエンディングが変化します。

EZICの依頼の中にはまともに実行してはならない(悲惨なエンディングになる)ダミー依頼も含まれているので、賢く取捨選択して最終日にたどり着きましょう。

ストーリー上の重要な依頼を漏らさずに実行すると、エンディング19に到達できます。主人公はよりよい待遇を受け、工作員として引き続きEZICのために働くことになります。

EZICの依頼を実行するのはスパイになったような気分で楽しかったです。特定の人物を通したり、毒を盛ったり、パスポートを取り上げて工作員に渡したり。

とはいえ、主人公に自己犠牲精神と無謀な計画を押し付ける上にアフターケアも不十分なEZICはイマイチ支持しがたいところがあります。

特に「赤い人物を殺せ」→実行した主人公が逮捕、処刑される→「新しい入国審査官が非協力的だからEZICは活動を凍結します。これ以上の援助はできません」というオチには呆れました。無計画すぎて「しょせん主人公は使い捨てじゃないか」という感想しか出てきません(それは鬼畜な指令を課した上で主人公をこき使うアルストツカに対しても言えることですが)。

そもそも新アルストツカがよい国になる保証はどこにもないですよね。EZICに任せて本当に「平和」は訪れるのでしょうか。不誠実な対応が多くてそのあたりに確証が持てなかったので、自分と家族の命を危険に晒してまでテロリスト集団(言ってしまえば)の手伝いをする義理はないかなあと思ってしまいました。

2.報国ルート(エンディング20)

「報国ルート」は、EZICなど一顧だにせず、己に課せられた職責をまっとうするルートです。レジスタンス組織からのすべての依頼をはねのけることができれば、エンディング20に到達可能。ただし形だけ国家に忠実であれば多少の「怠慢」は許されます(つまり、人助けをしてもいいし賄賂を貰ってもOK)。

papers, please スクショ 報国エンドとVonelの労い

Papers, Please

入国審査官としての務めを果たした主人公に対し、アルストツカ情報省所属のM. Vonelは種々の疑惑を不問に付すことを告げます。主人公は翌年の1月1日からも引き続き入国審査官として勤務することになります。

実はこのルートは最後に攻略しました。だから、それまで散々主人公をいたぶっていたヴォネルの温情ある対応に思わず感動してしまいました。

「これだからアルストツカの犬は」と言われそうな気がしますが、「疑惑はあるが君は国に尽くした、不問に付す」なんてはっきり言ってくれるとは思いもしなかったので、本当にびっくりしたんですよね。ヴォネル氏も思うところがありつつアルストツカのために忠実に働いているのかなーと想像しもしました。

とはいえ、1月1日から主人公を働かせようとするアルストツカはやっぱりひどい(はたして振替休日という概念はあるのかどうか)。上層部からの命令に汲々とする日々は、これからも変わらず続いていくんだろうなと思います。

ちなみに、最後に攻略したこともあり、このルートでは主人公にコンセプトを作ってプレイしました(といっても大したものではないですが)。

一言で言うなら、「矛盾と開き直りの大人」。アルストツカという無情な国家に仕える者としてクールな態度を貫きつつ、でも自分の手の届く範囲の人はひたすらに助ける……みたいな感じです。

前提としては、アルストツカなんて大嫌いです。ただ、そんな大嫌いな国家に万歳しないと生きてはいけません。だから表向きは淡々と職務をこなすけれども、裏では「身近な人を自分の裁量で助けて何が悪い」と開き直っているわけです。

この頃になると『Papers, Please』のプレイ時間も長くなり、「知り合いだから助ける、他人だから助けないという区別は不平等なのでは?」と若干思うようになっていました。同じ書類不備の入国者であっても、主人公の意向一つで明暗が分かれてしまうというのは本来おかしいことじゃないか、と。

だからこそ、「助けられる人とそうでない人がいるのは仕方のないこと」と割り切って(つまりは自分の無力さと狡さに開き直って)このルートを進めました。そして助けたいと思った人のためにはルールを破ることもためらいませんでした。生活のために忠実なふりをしているだけで、(コンセプト的に)本当はアルストツカなんぞクソくらえだと思っているからです。

というわけで、ジョージを筆頭にトークンやクレジットをくれる人たちはバンバン通しました。人身売買の被害にあった子を助け、手術を望む女性も通しました。小金稼ぎをしたい警備兵のおじさんにも協力し、友人セルジュとその恋人エリサの幸せのためにも奔走しました。

一方、無関係の主人公にリスクの高い要求をしてくるEZICは突っぱね続けました。壁には常に息子の絵をかけ、上官のディミトリが来たときだけは賞状と差し替え、後でこっそりと舌を出しました。ディミトリの「友人」の女性は追い返し、彼が悪態をつく様子をちょっと良い気分で眺めたりもしました。

全体として、褒められたものではない鬱屈を抱えつつも表向きはクールな入国審査官に仕上がったのではないかと思います。こういうコンセプトプレイをしたからこそ、ヴォネルからの思ってもみない褒め言葉が妙に嬉しかったのかもしれません。

3.亡命ルート(エンディング18)

エンディング18に至る「亡命ルート」は、トゥルーエンドの風格を持つエンドです。ひょうきんな不法入国者、ジョージ・コスタヴァを終盤まで見逃して交流することで、オブリスタンへ亡命する道が拓けます。

papers, please スクショ 怪しい不法入国者ジョージを見逃し続けると亡命の手助けをしてくれる

Papers, Please

それまでお情けで助けてあげていたジョージに、今度は主人公が助けられる……という非常に熱い展開でした。亡命手段を提示し、パスポートを主人公に譲り、クレジットまで渡してくれるジョージは友情に厚いヤツだと思います。

一応このルートでも、アルストツカに残されることになる友人たちのために骨を折りました。EZICにもある程度付き合いました(1~3件。さすがに自分の手を汚すことまではできません)。

papers, please スクショ アルストツカから亡命した主人公は入国審査をされる側に回る

Papers, Please

亡命ルートのミソは、最後の最後に主人公が入国希望者として審査される側に回ることだと思います。

6時間かけて行列に並び、審査官にパスポートと再入国券を渡し、ひたすら祈りながら結果を待つ……そのとき脳裏をよぎったのは、今まで自分が審査官としてこなしてきた仕事の数々でした。

入国希望者それぞれに家族があり、のっぴきならない事情があり、パスポートや書類の準備にお金をかけ、長い時間をかけて行列に並び、そうしてやっと審査官の前まで来ていたのです。狭いブースに引きこもっていたときには考えなかったその事実を、このラストになってはじめて突きつけられたような気がしました。

審査官だったときは、入国希望者の個々の事情を斟酌することなくクールに、かつ機械的に可否を振り分けていました。それが当然正しいことであり、生活の糧を稼ぐために必要なことだと思っていました。

ところが、いざ自分が入国希望者になってみるとどうでしょうか。「お願いです、どうか通してください!」「入国できなければ死んでしまう!」と切実な気持ちにならざるを得ないのです。
「あの人やあの人にもっと融通を効かせてやった方がよかったかもしれない……」などと今さら自分の仕事を反省してしまい、人は身勝手で都合の良い生き物だなーと我ながら思ってしまいました。

結果として、主人公たち家族のオブリスタンへの亡命は成功します。

主人公はオブリスタンのパスポートと再入国券を差し出しながら、「親戚を訪ねてきました」と答える凡ミスを犯しています(オブリスタンのパスポート持ちなのにどうして他国から親戚を訪ねに来るのか? 国内にいた証拠として再入国券を持っているのに、どうして「帰国する」ではなく「親戚を訪ねる」なのか?)。

しかし、オブリスタンの入国審査官は主人公たちを通してくれました。シャッターを下ろしてスタンプを押す間、彼はやや迷っていたような様子がありました。おそらく書類や応答の虚偽に気づいたのだと思います。それでも彼は、「オブリスタンへようこそ」*と主人公たちを迎え入れてくれました。

何人もの入国希望者を通し、また拒否してきた過去の積み重ねが一気に脳裏をよぎり、胸が熱くなるエンドでした。オブリスタン万歳!

*オブリスタンのパスポートを持っている主人公たちに対して、「ようこそ」と声をかけるのはおかしいと思います。おそらく審査官は、主人公たちが不法入国者だと気づいていたのではないでしょうか。

あるいは、ここでもジョージが手を回してくれた可能性はあるかもしれないなとふと思いました。ジョージから話のあった人間だと確認するために時間をとっていて、確認できたから「ようこそ」と言って通した、とか。あのふざけた言動に目を眩まされますが、ジョージはなかなかミステリアスなキャラクターだと思います。

*****

『Papers, Please』は、グラフィックも非常に良いゲームだと思います。特に画面上の国境付近にわらわらと並ぶ人々のドットグラフィックは、イベントの進行に応じて繊細に動くのでつい見入りました。矛盾発見機がぬるぬる動くことにも初見で感動しました。

アニメーション要素以外にも、画面の構成がユニークかつ見やすくていいですね。パスポート等のデザインも凝っていて、プレイのしやすさ(パッと見のわかりやすさ)とデザイン性を両立させている点がお見事だと思いました。

ただ、密輸品を身につけているキャラの写真は、肌に黒い品物が埋め込まれているように見えてときどき気持ち悪かったです。その他の裸写真は気にならなかったのですが。どう見ても男に見える(というか同じ顔の男性を前に見た)厳つい人物をスキャンしてみたら女性だったときにはちょっと笑いました。

また、『Papers, Please』は楽曲のバリエーションこそ少ないものの、タイトル画面のBGMは非常に印象に残る1曲だと思います。仰々しく厳格、でもどこかユーモラスな感じがこのゲームの雰囲気にピッタリで好きです。"VICTORY"も達成感のあるそれぞれのエンディングに合っているなーと思いました。

『Papers, Please』、口を極めて絶賛する方が多いのも頷けるゲームでした。とても面白かったです。

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かーめるん
Admin: かーめるん
フリーゲーム、映画、本を読むことなどが好きです。コンソールゲームもプレイしています。ジョジョと逆転裁判は昔からハマっているシリーズです。どこかに出かけるのも好きです。草木や川や古い建築物を見ると癒されます。

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