『霧と太陽の王』 深い霧に包まれた城をめぐる探索ADV 感想 ※ネタバレ注意
探索アドベンチャーゲーム、『霧と太陽の王』の感想&考察記事です。ネタバレ(軽い攻略情報など)を含みます。制作者はゆきはな様。制作者様のサイトはこちらです。 → Paper Moon
霧と太陽の王
『霧と太陽の王』は、黒い羽を持つ「異形の王」と金髪の少女が朽ちた城を探索するゲームです。エンディングは4種類、全エンド回収までの所要時間は2時間と少しでした。
モノクロのイラストレーションに惹かれてプレイさせていただいた『霧と太陽の王』。一言でいうなら、めくるめく白黒の世界に圧倒されました。プレイしている間中、霧に満たされた空気を感じ取れるような心地すらしました。まさに「幻想」的な、ほの暗いファンタジー世界を堪能できる作品だと思います。
『霧と太陽の王』舞台は主に古色蒼然とした城の中です。個人的に古い遺跡を探索するようなゲーム(最近だと『人喰いの大鷲トリコ』とか)が好きなので、この作品に漂う雰囲気もかなり好みでした。
以下は、ストーリーやエンディングのネタバレを含む『霧と太陽の王』の感想と考察です。軽い攻略情報も含まれます。未見の方はご注意ください。
『霧と太陽の王』のあらすじ
最初に、『霧と太陽の王』のあらすじを書きます。
霧と太陽の王
はるか昔、人々は太陽の神を信仰し、その恩恵を受けていました。人々の信仰を支え導いたのは、「太陽の女神」と呼ばれる存在でした。
しかしある理由から、太陽と太陽の女神は失われてしまいます。太陽の消えた国を跋扈し始めたのは、「霧の一族」と呼ばれる異形の者たちでした。異形たちに抗えず、人々は泣く泣く国を捨てざるを得ませんでした。
かくして月日は流れ、深い霧に包まれた王城には、「異形の王」が住まうようになったのです。
太陽が失われてから約五百年後、「王」は久々に目覚めました。彼は朽ちた城の中で、倒れ伏す金髪の少女を見つけます。話すことのできない彼女に王は「ルシャナ」という仮の名を付け、2人で城の中を巡り始めます。
王の過去とは? 「異形の王」と呼ばれながら、王になることを拒む彼の真意とは? そしてルシャナの正体とは? 王とルシャナの選択により、エンディングは4通りに分岐します。
『霧と太陽の王』の感想
霧と太陽の王
『霧と太陽の王』は探索アドベンチャーゲームです。舞台は古城であり、城の外に出ることを目指してキャラを動かすことになります。
探索部分について感想を書くと、調べるポイントが豊富でメッセージが細やかでした。ストーリーの進行に応じてNPCの会話内容が変化するのも丁寧だと思います。
ただ、中盤(料理番→司書→時計番)まではおつかいを繰り返すだけなので、やや単調に感じました。1Fに下りてからはストーリーにかなりの動きがあり、エンディングまで集中してプレイできました。
ストーリー雑感
『霧と太陽の王』の視点人物は、「王」と「ルシャナ」の2人です。ストーリーを概観すると、出会い→2人で行動→分断される→物語の核心に接近→合流→城の外へ(エンディング)……という流れになっています。全体的に物語は淡々とは進みます。イラストのタッチも相まって、いい意味で「おとぎ話のような作品」という印象を受けました。
本編のミステリー要素として挙げられるのは、「異形であり王と呼ばれながら、『異形たちの王』にはならないと断言する王の真意と過去」、「王の回想の意味」、「ルシャナが城に来た理由」などでしょうか。
城の住人である異形たちの言葉は、ミスリードを誘う含みのあるものです。プレイしながらその裏の意味を予想したりするのも楽しかったです(たとえば、ルシャナ=王妃と関わりのある人物なのかなーと最初は思いました。城の住人は人間のルシャナに否定的で、かつ王妃と呼ばれる存在に非常に冷淡な態度をとっていたので)。
ところで、『霧と太陽の王』の根幹には輪廻転生の思想があります(「前世」という概念が主要キャラ間に共有されているらしいという意味で)。
ちょっと珍しく感じたのは、前世を完全に肯定する展開でしょうか。ストーリー自体、視点キャラの2人が過去の記憶を取り戻して結ばれる方向へと向かうものです。
若干不思議だったのは、実質五百年生きている王はともかく、転生を繰り返したルシャナにまったく葛藤がなさそうなことでした。物心ついた頃から記憶があり「ルシャナ」としての意識があるのなら、受容の度合いが高いことにも納得できます。しかしルシャナは城に来てから記憶を取り戻した様子なので、そんなにさっくりと「過去の自分=今の自分」として同一視できるものなのかと思いました。
まあルシャナは隔離されて育てられた&まだ幼いために、自我が比較的希薄で、過去の自分を受容できるスペースが大きかったのかもしれませんが。
精緻なイラストレーションで表現される世界
グラフィックに関してはあれこれ言う言葉も浮かびません。それだけ見事です。圧巻でしかありません。キャラの立ち絵からマップまでもが独自のイラストで構成されているほか、アニメーション要素まで存在します。
無料でプレイできるゲームでこれほど力の入ったイラストを、しかもこんなに大量に見せてもらっていいのだろうかとすら思いました。ここまでグラフィックに凝った作品も珍しい気がします。
モノクロのイラストが印象的なフリゲ作品というと、たとえば『排気ガスサークル』が思い浮かびます。同作品でもイラストの緻密さとユニークさが相まって独特の世界が構築されていました。量的にも圧倒されるものがあった覚えがあります。
ただ、『排気ガスサークル』は、LiveMaker2製なんですよね。それがゲームの形式とあまり噛み合っていなかったというか、少なくとも周回プレイには優しくなかった気がします。他に類を見ない一風変わった作品であるのは間違いないのですが。
『霧と太陽の王』の場合、比較的プレイしやすいRPGツクールMV製であるためか、グラフィックのクオリティーとプレイのしやすさが両立していた印象があります。
ヴィジュアル面で個人的に印象に残ったのは、「アルタール族の用いる文字のデザイン」と、「合間合間に挟まれるおとぎ話の挿絵風イラスト」でしょうか。あと、階段を降りるときの移動モーションがちゃんと段差を意識したものになっているのも細やかですごいなーと思いました。
部屋のインテリアにしてもちょっとした装飾にしても細部まで凝っています。けっこうマップが広めですが、いつでもどこでも素敵なイラストを楽しめるので気にならなかったです。
ところで、舞台となる王城の寂れた廃墟感がツボでした。特に鳥籠を戴く塔のところどころ崩れた感じとか、たまらないものがあります。プレイしていてふと『人喰いの大鷲トリコ』を思い出しました。
『人喰いの大鷲トリコ』は、見知らぬ遺跡の中で目覚めた少年が「トリコ」という有翼の大型生物とともに脱出を図るアクション・アドベンチャーゲームです。
少し前にようやくプレイしましたが、独特で面白い作品でした。絵的にも惹かれる場面が多く、スクショが捗りました。『霧と太陽の王』にしても『人喰いの大鷲トリコ』にしても、古い石造りの建物の中を歩き回れるので本当にワクワクします。
城に登場するキャラクターたち
先ほども書いた通り、このゲームの視点キャラは「王」と「ルシャナ」の2人です。基本的には王を操作しますが、一部の場面でルシャナに視点が切り替わります。
ここから、『霧と太陽の王』は「人外&人間」あるいは「青年&少女」のバディものと言えるのではないでしょうか(王は五百年以上生きていますが、まあ青年と言っていいと思います)。
王様は、穏やかで優しい性格をしているのが見た目とギャップがあって良かったです。黒い羽毛ももふもふとして気持ちよさそう。ただ、仕立て屋イベントを経ると、「たしかに王様すっぽんぽん」とちょっと笑ってしまいました。他の名前ありの異形たちはよく考えればみんな服を着ているんですよね。着飾ることにこだわらない性格ゆえでしょうか。
あと、バッドエンドでの覚醒バージョンの王様はカッコよかったです。バッドバッドエンドでの人型バージョンも和風な衣装でカッコイイですが、気の毒なルシャナの姿がまず脳裏を過るせいで、そこまで好きにはなれませんでした。また、王様に関してはおまけシナリオのキャラ付けがわりと好きです。「ルシャナラブのゆるい苦労人お父さん」(今のところは)という設定に和みました。
「ルシャナ」については、なぜか異形の王にすんなりと懐いたことも含め、最初は「金髪で美少女で民族衣装だなんてあざといな~でも可愛いな~」という印象でした。
ただ、ルシャナはエンディングでよく命を落とすんですよね。あんなに幼くて健気なのに。そのため、最終的には「ルシャナが幸せになりますように」と思いながらプレイしていました。これに関してはシナリオ構成が巧みなせいでもあるかもしれません。
王もルシャナもそこまで目立つ個性があるわけではありませんが、おとぎ話調のファンタジー世界なので、むしろ強い個性は必要ないのだと思います。2人がすぐに仲良くなったのは前世補正ということで後で納得しました。
あと、ルシャナのルックスは非常に可愛らしかったです。ゆったりとしたアルタール族の民族衣装とボリュームのある束ね髪がイイですね。ヴィジュアル的には、ちらっと現れる百年前のルシャナが一番好みだったりします。後ろでまとめた髪とおくれ毛がすごく可愛いです。
霧と太陽の王
王とルシャナ以外のキャラについて、異形たちの中で一番印象に残ったのは「仕立て屋」です。ボイスアクターさんの演技がキャラを掴んでいて上手いなーと思います。第三者的な立場で道化を演じているものの抜け目のなさもある、美味しい役どころのキャラだと感じました。
また、クールキャラなのに王に執心する「宰相」も印象的でした。おまけシナリオでの絶妙なキャラ崩壊には笑いました。
仕立て屋と宰相については、単純にキャラデザインが好きだということも大きいです。特に仕立て屋の衣装はオシャレで素敵でした。王様も服を着ればいいのに。
BGM感想
『霧と太陽の王』はBGMも印象に残る作品でした。OP曲やED曲が用意されるなど種類も豊富です。おまけ部屋で色々と視聴できて嬉しかったです。
ところで、おまけシナリオ2では専用BGMをいくつか聴くことができます。どれもつい口ずさみたくなるテンション高めで独特な曲だと思いますが、そのうちの♪『からあげハイスピードライヴ』を聴いたときに強い既視感を覚えました。「これどこかで……」と十秒ほど考えた後、『きらきら星の道しるべ』というフリゲ作品が思い浮かびました。
≪関連記事:『きらきら星の道しるべ』 幽霊とひと夏の旅をするRPG 感想 ※ネタバレ注意≫
実際に調べてみたところ、同作品内で使用されている♪『ヌカヌカ★スーン』と♪『からあげハイスピードライヴ』は、同じ方(ぽて子様)が制作された楽曲でした。やっぱりなーとちょっと嬉しくなりました。ちなみに、ぽてこ様のサイトはこちらです(以下のバナーから飛べます)。

また、塔の上の鳥籠で流れる♪「懐かしい音色」というBGMがすごく好きでした。だいたい中盤~終盤くらいに流れますが、哀感溢れる綺麗なハープの音色に誘われるように、どんどんと作品世界に没入していったことを覚えています。
プレイ後にReadMeを参考に調べたところ、「PeriTune」で配布されている♪『A Wish3』というハープ曲がそれでした。こういう「癒し」や「許し」を感じられる曲調ってすごく好きです。気になった方はぜひPeriTuneさんに聞きに行ってみてください。
4つのエンディング感想
この項目では、『霧と太陽の王』に存在する4つのエンディングの感想を書きます。プレイ時は下記の順にエンドを確認しました。感想も同じ順に書きます。各エンディングのタイトル名は伏せました。以下、エンディング内容のネタバレがガッツリ含まれます。ご注意ください。
BAD END
ルシャナ操作時にあるものを受け取らない場合、BAD ENDになります。
最初に見たエンドがこのバッドエンドでした。予想はしていたものの、ルシャナがぐっさり射貫かれる一枚絵にはうわーと思いました。
とはいえ、完全に闇落ちし覚醒した王様はカッコよかったです。これから蹂躙する予定の人間たちに向け、「もう二度と太陽は戻らない」と宣告するシーンにはゾクゾクしました。王の覚醒を待ち望んでいた宰相としては、この結末こそがトゥルーでハッピーなエンドなのかもしれません。
NORMAL END
ルシャナ操作時にあるものを受け取り、王操作時に先を急ぐと、NORMAL ENDになります。
ノーマルエンドではまさかの王が犠牲になるなんて……と悲しんだのもつかの間、ルシャナがすぐさま身を投げて呆然としました。本当にびっくりしました。この時点では輪廻転生システムをまだはっきりとは確信していなかったんですよね。だからルシャナの最後の言葉にも戸惑ったし、あんなに幼い子がボロボロになって命を絶つ結末にショックを受けました。
インパクトで言うなら倫理的にアウト感漂うバッドバッドが一番でしょうし、燃えで言うなら王が覚醒するバッドが一番なのだろうと思います。しかし、個人的にはこのノーマルエンドが一番心に突き刺さりました。トゥルーエンドを観てあそこまで感動したのは、喪失感が半端ないこのノーマルエンドを見たからこそだと思います。
BADBAD END
以下の手順を踏むと、最悪のBADBAD ENDになります。時限イベントに要チェックです。
- 時計番イベントの後、1Fに下りて右へ進み、仕立て屋イベントを起こす(※先に左へ行って玉座の間イベントを見ると、仕立て屋イベントが発生しなくなるので注意)
- ①のイベント内で、仕立て屋の好感を得られる選択肢を1つ以上選ぶ
- ルシャナとの合流時、塔の上の鳥籠部屋を、メッセージが変化しなくなるまで調べる
バッドバッドについては、特殊エンドということでりどみに詳しい攻略情報が載っていました。最初の周回では完全に仕立て屋イベントをスルーしてしまったので、ありがたいご配慮でした。
バッドバッドエンド、単純な感想としては「完全にアウト」と感じたエンディングでした。まさにバッドバッドの看板に偽りなし。
人間との対立に関しては、王様がそういう方向に吹っ切れる気持ちは分からないではなかったです。バッドエンドやノーマルエンドでルシャナと王の末路を見たプレイヤーとしては、むしろもっともな考えだとさえ思いました。「優しい王様に戻って」というルシャナの訴えも、まだ幼いから仕方がないとはいえ王の心境を斟酌できていない気もしました。
王とルシャナは戒律を破ったがために死に追いやられました。それ自体は国の価値観に照らせば応報的なものかもしれません。しかしその後に2人が味わうことになった五百年の苦しみは、彼らの行いに端を発するものとはとても言えないと思います。
だから、「かつては生贄の儀を大義として自分たちの命を奪い、今なお同族の少女を犠牲にする醜い人間たちのために、どうして耐え忍ばなければならないのか」……と、王が怒りや憎しみを抱く理由は理解できます。
とはいえ、エンディング終盤の流れ的に、王の吹っ切れ方は悪いものであり闇落ちでしかないのだろうと思います。ここでがんばって待ってるからね……とか呟いてベッドでうつろに微笑むルシャナを見て色々と察するものがありました。ガチで可哀想です。完全に精神が崩壊している。
ノーマルエンドのボロボロなルシャナにはちょっとドキドキしましたが、このエンドのルシャナはひたすら気の毒でしかなかったです。イラストに迫力があるだけに受ける精神的ダメージも大きかったです。
TRUE END
ルシャナ操作時にあるものを受け取り、王操作時にルシャナと話をするとTRUE ENDになります。
初めてトゥルーエンドルートの流れを見たとき、「このエンドでもルシャナが死ぬの?」と絶望しました。だからこそ、ラストの蘇り展開には素直に感動しました。2人が報われてよかったーと涙腺が緩みました。最後の最後に太陽の神との約束の内容が明かされる演出がとても良かったです。
「死んだ→生き返った」という流れは展開としては嫌われることもあるものだと思います。でもこのゲームの場合、バッドバッド、バッド、ノーマルとすべて攻めた内容なんですよね。順番に「王闇落ち&ルシャナ精神崩壊」、「王闇落ち&ルシャナ死亡」、「王死亡&ルシャナ死亡」……と誰も救われていません。
また、おまけシナリオを読むとよくわかりますが、王とルシャナが背負わされた五百年の償いは彼らの行いに比して大きすぎる罰だと思います。言ってしまえば、人々が五百年重ねてきた罪への贖いをたった2人で背負わされたようなものです(まあ国民も太陽のない世界で散々に苦労しているとは思いますが)。
だからルシャナが還ってきたこのトゥルーエンドには、「そうこなくっちゃあ」と歓喜しました。そうでないと悲しすぎるし、太陽の神が鬼畜無慈悲でしかないです。
後日談を見て感じたのは、今後は神への生贄は必要なさそうだなということです。王とルシャナに課せられた償いは、神の試しだったのかもしれません。五百年かけてその償いが成就されたとき、異形に身をやつした王は人の姿を取り戻し、今代のルシャナは一度死んで復活しました。
2人の今は太陽の神の御業あってこそのものです。償いを終え人として結ばれた2人は、もはや神の聖性をその身に宿した存在であると言ってもいいのではないでしょうか。
2人が王と王妃になったラストを見て、最初は「そんなにすんなりと元の身分を取り戻せるのか」とちょっと驚きました。しかしよくよく考えると、太陽の神を祀る国において、王とルシャナ以上の指導者は存在しないんだろうなと思います。国民は2人を通して神の存在を確かに感じることができるわけなので。
もし王が死後におくり名をされるとしたら、「聖人王」とか「神聖王」になるのかなーとか考えてしまいました。この作品に即して言うなら、「太陽王」なんて呼称もぴったりかもしれません。
おまけシナリオの感想
特定のエンディングを見ると、おまけ部屋に行けるようになります。おまけ部屋ではキャライラストやBGMなどを閲覧・視聴することが可能です。あと、ルシャナとおしゃべりできます(重要)。
おまけコンテンツの充実ぶりは嬉しかったです。じっくりと見回ってしまいました。部屋の中でセーブできるのもありがたかったです。個人的に興味深かったのは、色々と謎の多かった異形たちの裏設定(たぶん)です。作中で彼らが「王妃」に冷淡だったことが気になっていたので、そういう事情があったのかと納得しました。
さて、おまけ部屋では、おまけシナリオ1&2を読むことができます。以下、軽いネタバレを含むおまけシナリオについての感想です。内容に関する詳細な言及はなるべくひかえました。
おまけシナリオ1の感想
おまけシナリオ1は、五百年前の昔話です。「かつての国はどういう状態にあったのか」、「本当のところ神はなぜ太陽を奪ったのか」といった、本編で気になっていたことが分かってスッキリしました。
個人的に一番驚いたのは、アルクスがほとんどそのまんまだったことですね。輪廻転生って魂や記憶だけでなく肉体ごとなのか、と。こうなると、「転生」と言うよりも「蘇り」と言った方が的確なのかなと思いました(それとも、容姿まで酷似しているのはヴィジュアル的にわかりやすいようにという配慮なのでしょうか)。
このお話では、本編中の鳥籠で出てきた「彼女」の姿を存分に見ることができます。「彼女」の衣装と容姿はまさにザ・聖女ですね。聖性を司る者らしく露出が必要最低限に抑えられているのに、それがかえってセクシーです。こう書くとフェチっぽくてアレですが、それだけ素敵な造形だと思いました。
また、彼と彼女が最後に訪れる場所を見てハッとしました。トゥルーエンドの余韻が蘇りました。
おまけシナリオ2の感想
おまけシナリオ2は、ほぼオールキャラのカオスなコメディーストーリーです。「バッドバッドなどを見た後に」とオススメされていた理由がよく分かる話です。最初から最後まで笑いながら読みました。
オールキャラのパロディーものって面白いかどうか意見の分かれるものもありますが、おまけシナリオ2はすごく面白かったです。メタ的なネタがてんこもりですが、プレイヤーが受容できるラインを測った上で、本編とのギャップをコミカルに演出している印象でした。制作者様のバランス感覚は見事だと思います。
たとえば宰相はかなりキャラ崩壊していますが、崩壊の方向性が引くようなものではなく一定納得できるというか、そのキャラの可愛げに繋がるようないじり方なんですよね。王様のツッコミも的確である一方くどくないので、そこも安心して読めた一因でした。
また、バッドバッドエンドやバッドエンドの要素を盛り込みつつ、笑いに昇華しているのも巧いです。特に、バッドバッドの王(闇堕ち)のキャラ付けには笑いました。ルシャナ人形(※目が死んでいる)に対する王様の反応もメタくて面白かったです。
その他、各キャラの部屋のインテリアが凝っていたのが印象的でした。コメントもコミカルなので逐一調べてしまいました。時計番手作りの人形には和みました。
♪『からあげたべたい』を聴きながら部屋を順々に訪問する中で、トゥルーエンドでも若干拭いきれなかったバッドバッドのショックが浄化されていくのを感じました。というか、「けっこうバッドバッドでダメージを受けていたんだな……」と自分で気づいたりもしました。このお話を読めて本当によかったと心から思いました。
おまけシナリオ2の中で一番ツボに入ったのは、「わあ!凄い! このからあげ色ついてるよ! 美味しそう!」というルシャナの発言でした。画面と一緒にこの発言を見ると本当に面白くて大好きです。最後の最後に特大のメタ発言を投げ込まれて大いに笑い、同時に癒やされました。
おまけ部屋を見ることで、作品への理解を深められました。何より非常に楽しかったです。からあげ食べたくなります。
*****『霧と太陽の王』は、ツカミもバッチリな作品だったと思います。タイトル画面とBGMのマッチが見事でした。個人的には、左斜め上から羽ペンポインタがスーッと滑ってくる演出が大好きです。
一応気になったところも挙げておくと、作品の文章表示の形式に関してはやや不満を覚えました。具体的に言うと、メッセージウィンドウ内の文章が一気に表示されないことが多かったのが少し不便でした。
読むのが速い方なので、Enterキーやマウスを長押しして文字を送っていましたが、「文章が表示される→読む→そこで終わりかと思い目を動かす→実はまだ文章は途中で、新しい文がその下に続く」……といったことが頻繁にありました。文章送りの際の微妙なラグが積み重なるとストレスになるので、同じメッセージウィンドウ内の文章はパッと一気に表示してほしかったです(もちろん演出として文章を分割表示している場面は除きます)。
あと、セーブスロットの表示ももう少し分かりやすくしてほしかったなーと思いました。本当にセーブされてるのかなと最初は不安になりました。
グラフィックの素晴らしさはもちろんとして、ストーリーや背景設定にも見どころが多く、丁寧に作られた力作でした。『霧と太陽の王』、面白かったです。
※独自のグラフィックが作品の雰囲気に強い影響を及ぼしている作品について、いくつか感想記事を書いています。
・『美術空間』 感想 攻略(一人の男の芸術が具現化した世界が舞台。圧倒的な芸術空間を往く異世界RPG)
・『ロマンピースを探して』 感想 攻略(みずみずしい水彩画風イラストが印象的なファンタジーRPG)
・『きらきら星の道しるべ』 感想 ※ネタバレ注意(ポップでキュートなドット絵がシュール可愛い世界を創り出す。ひと夏の旅を描いたシティRPG)
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