『A Date in the Park』 カタリナの目的は「復讐」か――彫像に刻まれた“A”と復讐の女神アドラステイア 考察 その2
短編ホラーアドベンチャーゲーム、『A Date in the Park』に登場する女性キャラクター、「カタリナ」の目的を考察する記事です。ストーリーやエンディングのネタバレを含みます。制作サークルはCloak and Dagger Games様。制作者様の公式サイトはこちらです。 → CLOAK AND DAGGER GAMES
A Date in the Park
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先週、『A Date in the Park』の感想記事をアップしました。
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『A Date in the Park』の内容を簡単に説明すると、「ポルトガルのリスボンに越してきた男性が、魅力的な女性に誘われて公園デートに出かけるアドベンチャーゲーム」です。90年代デジタルゲーム風のグラフィックや、実際にリスボンに存在する自然公園を舞台として採用していることなどが特徴と言えます。
今回はゲーム内に登場する「彫像の頭部の“A”」の意味するものについて考えてみました。感想記事に追記するには長くなったので、考察記事という形で補足することにしました。普段の記事よりはボリューム少なめだと思います。
以下、『A Date in the Park』のストーリーやキャラクターに関する核心的なネタバレを含みます。ゲームの性質上ネタバレは致命的なので、未見の方はご注意ください。
彫像の額の"A"が意味するものとは
今回の記事を書くきっかけになったのは、『A Date in the Park』の感想記事に頂いた、「彫像の頭部に刻まれた"A"にはどういった意味があったのか」という疑問コメントです。
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「彫像の頭部」は、『A Date in the Park』の後半に出現する重要なオブジェクトです。公園北エリアの丁字路西にて、ハトの大群が去った後に出現します。
くだんの彫像の頭部は、おそらく公園北東エリアにある"Priapus(プリアーポス)"の彫像の頭だと思われます。北東エリアには彫像が2体ありますが、建物に向かって右側(画面の手前)に位置する、頭部のない像がそれです。
また、この頭部は、黒幕であるカタリナ自らが切り離したものだと推測されます(2枚目の手紙より。どうやって切断したのか方法は不明)。
打ち捨てられた頭部を発見した主人公ロウは、その額に"A"と刻まれているのを発見して不思議に思います。たしかに、"A"は一見脈絡のない謎のメッセージです。
いったいこの"A"は何を意味するのか。私自身プレイ中に気になったものの、クリア後にはうっかり忘れてしまっていたので、今回じっくりと考えてみました。最初に、色々と考えた末の結論を書きます。
"A"とは、"Adrasteia(アドラステイア)"の頭文字である。そして、Priapusの彫像の額に刻まれた"A"は、黒幕カタリナによる一種の犯行声明である。
それでは以下、上のように考えた理由と過程を順番に書いていきます。
公園内に存在する4体の彫像の詳細
なぜ"A"="Adrasteia"の頭文字と発想したのか。また、どうして"A"がカタリナによる犯行声明であると考えたのか。そういったことを説明する前に、まずは園内に存在する4体の彫像についておさらいしたいと思います。
主人公であるロウは何度か、「カタリナは(おそらくギリシャ・ローマの)古典に興味を持って勉強している」と話します。そして園内にある「4体の彫像」は、そのどれもがギリシャ・ローマの神々をかたどったものです。
つまり、ロウに謎解きを仕掛けるにあたって、カタリナが彫像の元ネタや意味を考慮に入れた可能性はかなり高いと言えます。
下準備として、まずは公園のマップと彫像の位置を以下のように簡略化して図示しました。
公園中央東にSancus、北東エリアにPriapusとVejovis、そして北西エリアの「アドラステイアの家」の中にAdrasteiaの彫像があります。マップ内の青字は男性の神、赤字は女性の神の名前です。
それでは、「彫像のモチーフとなった神の名前」や「それぞれが司るもの」について順に書いていきます。一応調べましたが、情報に間違いがあったらすみません。
Sancus / Priapus / Vejovis / Adrasteia が司るものとは
まず、公園東の建物の傍にあるのは、"Sancus(サンクス)"の彫像です。Sancusは忠誠や誓約を司る男神。主人公ロウいわく、このSancusの彫像は非常に古いとのことです。
次に、公園北東エリアの建物正面には、2体の彫像が並んでいます。これら2体の像については、門扉横に説明板が用意されています。
2体のうち、建物に向かって左(北側)に位置するのは、"Vejovis"の彫像です。Vejovisはローマで最も古い神々のひとりであり、治癒を司る神です。基本的に若い男の姿で書かれ、矢の束をその手に持っています。
また、建物の向かって右(南側)にあるのは、"Priapus(プリアーポス)"の彫像(※頭部なし)です。Priapusはカタリナの謎解きにも登場する重要な彫像なので、詳しく書きます。
プリアーポスは豊穣の男神です。ゲーム中では「庭園の守護者」であると説明されていました。プリアーポスは家畜や果樹園などを守護する神でもありますが、特に重要なのは、かの神が男性器(男性の生殖力)の守護神と見なされていたことです。
"Priapus"で検索して適当に画像を見ていただければわかりますが、プリアーポスはたいてい巨大な生殖器を露わにした姿で描かれます(苦手な方は検索しない方がいいかもしれません)。場合によっては男性器そのものの形で表されることもあるそうです。
詳しいことは「3.神々の彫像と登場キャラクターの対応関係」の中で後述しますが、プリアーポスが上記のようないわれを持つ男神であることと、カタリナがプリアーポスの頭部を切り落としたことはおそらく無関係ではないと私は思います。
そして最後に4体目の彫像ですが、実は作中ではっきりとは登場していません。というのも、4体目の"Adrasteia(アドラステイア)"の彫像(胸像)は、北西エリアに位置するドーム状の建物、すなわち「アドラステイアの家」内のアルコーブ(影が差してよく見えない)にあるからです。
A Date in the Park
ロウの説明を聞いて初めてアドラステイアの彫像の存在に気づいたプレイヤーの方も多いのではないでしょうか。目を凝らせばたしかに輪郭は見えるものの、「女神像」とまで判別するのは難しいのではないかと思います。
「アドラステイア」と呼ばれる女神は、神話に2人ほど存在するそうです。1人はゼウスを育てたニンフのAdrasteia、そしてもう1人は、"inescapable"の異名を持つAdrasteiaです。ゲーム中のアドラステイアは、その象徴するものを考えるに後者ではないかと私は思います(以下、「作中におけるアドラステイアは『不可避』の異名を持つ女神である」と仮定して話を進めます)。
"inescapable(不可避)"のアドラステイアは、賞罰を司る女神だそうです。同時に「復讐と報復の女神」とも見なされ、人間の傲慢を罰する女神ネメシスと同一視されることもあるようです。
「免れ得ない」という異名を持つ「復讐」を司る「女神」。しかもその彫像は暗闇に潜んではっきりとは現れず、主人公ロウの目を通してようやく確認される。カタリナとの関連性も踏まえつつ、アドラステイアとその彫像についてまとめるとそういった説明になるのでしょうか。実に示唆的だと言えます。
以上、"Sancus"、"Vejovis"、"Priapus"、"Adrasteia"の順に4体の彫像について説明しました。続いて、彫像とキャラクターの対応について考えていきます。
神々の彫像と登場キャラクターの対応関係
そもそもなぜ公園内の彫像に着目したのかと言えば、ゲーム本編の事件の全容が4体の彫像に暗示されている可能性があり、カタリナの犯行動機や正体を考える上で役立つのではないかと考えたからです。
ざっくりと結論を書くと、「復讐の女神アドラステイア=黒幕のカタリナ」であり、「男性の生殖力の守護神Priapus=庭師の青年(と男性そのもの)」ではないかと私は考えました。
まず、4つの彫像を「性別」で分けてみると、内訳は女神1体と男神3体です。
意図してのものかは分かりませんが、黒幕のカタリナが作中に登場する唯一の女性である一方、ゲーム本編で亡くなったのは計3名(庭師の青年、ロウ、警官)の男性です。ここから、彫像とキャラクターの性別がリンクしていると考えることは可能だと思います。
単に性別が対応しているのみならず、カタリナと彫像アドラステイアには「本編中にはっきりと目に見える形で姿を現さない」という共通点があります。
女神アドラステイアの彫像は、プレイヤーには手の届かない建物の奥に潜んでいます。アルコーブの暗闇に女神像があるということは、主人公ロウの言葉によってようやくプレイヤーの認識するところとなります。その有り様は、園内で暗躍しエンディングでようやく姿を現す、ロウの脳内で運命の人として理想化されたカタリナを彷彿とさせます。
また、庭師の青年とプリアーポスの彫像にもやはり共通点があります。作中にて「彫像の頭部を切断された」プリアーポスは「庭園の守護神」と見なされています。これは、カタリナについてロウに警告を発した「庭師」の青年の遺体が「首を切断された状態で」見つかったことと無関係ではないと思います。
そして、最大の謎であるプリアーポスの彫像の額に刻まれた"A"の意味ですが、これは最初に書いた通り、復讐の女神アドラステイアの頭文字だと私は考えています。
プリアーポスは庭園の守護神であるとともに、男性のシンボルを守護する神でもあることは先に述べた通りです。
カタリナはそれを知っていたがために、ロウたちを葬るにあたって、男性性を象徴するとも言えるプリアーポスの彫像を選んで利用したのではないでしょうか。そしてその際、復讐の女神アドラステイアに自らをなぞらえ、彫像の額に"A"を刻みつけたのではないでしょうか。
"A"を額に刻印された彫像の頭部は、庭師の青年の死に様を暗示するものであり、もっと言うと男性であるロウへの犯行予告でもあったのではないかと思います。
カタリナの目的と正体について考える
ここからは推測というか、こじつけや妄想多めの個人的な想像です。上に書いたことに基づき、カタリナの素性について発展的に考えました。
"A"=Adrasteiaの頭文字であり、アドラステイア=カタリナであると仮定してここまで考えてきました。その仮定に基づくと、ただの悪趣味な快楽殺人鬼としか解釈できなかったカタリナにも、もしかすると「目的」があったのかもしれないと思えてきます。
いったいどんな目的かといえば、ズバリ「復讐」です。もちろん、主人公ロウ個人への復讐を企図したものか、男性そのものへの復讐を目指したものかまでは分かりませんが。
実は、プレイ中に気になったことが1つあります。それは、「カタリナは英語が堪能である」という事実です。ポルトガル語がまったく話せないのにリスボンへ引っ越してきたロウは、現地の人々と満足にコミュニケーションを取ることができません。しかしカタリナだけはその例外でした。というのも、彼女は完璧な英語を操れたからです。
もちろん、お話の都合上カタリナは英語に堪能なのかもしれません。しかし、「もしかするとカタリナはかつて英国にいたのではないか、そして何らかのきっかけでロウと接点を持ち、彼に恨みを抱いたのではないか」……と今回記事を書く中でふと思いました。つまり、ロウに復讐を果たすために引っ越した彼をポルトガルまで追いかけてきたのではないか、と。
ロウに対するカタリナの極悪なサプライズを見ていると、単なるお愉しみ以上の悪意が潜んでいる気もします。警察の登場タイミングといい、唯一の出口である入り口で待ち構えていたことといい、ロウをどん底に突き落としていたぶるだけではなく、「逃れ得ない」罠を仕掛けて確実にその命を奪おうとしているように感じられるというか。
そういう視点から見ると、ロウが冒頭でロンドンでの人間関係に失敗したらしきことを匂わせているのも気になるポイントではあります。
とはいえ、ロウはゲーム開始前夜に初めてカタリナに会ったと話しているし、そもそも人とあまり打ち解けずに今まで過ごしてきた青年です。面識がないのにそれほどの恨みを買うというのは考えにくい話かなーとも思います。カタリナの方が一方的にロウに恨みをつのらせていた可能性もゼロではないとは思いますが。
まとめ:「彫像のAはカタリナの犯行声明である」
色々と書きましたが、ことわるまでもなく憶測と直感多めの考察です。もしかすると彫像の頭部の"A"は、映画や小説に元ネタがあるのかもしれません。しかし自力で思い当たる作品がなかったので、今回は上のように考えてみました。
最後にまとめると、今回の記事では、『A Date in the Park』に登場する「彫像の頭部に刻まれた"A"」について考えてみました。
まず「園内の4体の彫像とそれらが司る意味」についておさらいし、その中で、「復讐の女神アドラステイアと彫像の頭部を切断された男神プリアーポス」に注目しました。そして最大の謎である彫像の頭部の"A"について、以下の結論を出しました。
カタリナは「復讐の女神アドラステイア」に自身をなぞらえ、犯行声明および犯行予告のようなものとして、男性性を司る男神プリアポスの彫像の額に"A"を刻みつけた。
その後発展的に、カタリナの目的がロウ(あるいは男性そのもの)への「復讐」にあったのではないかというところまで想像してみました。
*****とりあえず、色々と考えるのが楽しかったです。満足しました。『A Date in the Park』を初見でクリアしたときは、ピタゴラスイッチ的な悲劇への連鎖がまず印象に残りました。しかし今回彫像のいわれなどを調べてみて、背景設定もしっかり練られているんだなーと感じ入りました。あらためて面白い作品だと思います。
※『A Date in the Park』の感想&攻略記事はこちらです。
関連記事:『A Date in the Park』 ポルトガルの公園で奇妙なデートを楽しむアドベンチャーゲーム 感想&攻略
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