『ライブラリウム』 水と青に満ちた美しい図書館を探索するADV 感想 ※ネタバレ注意
本格的図書館探索アドベンチャー、『ライブラリウム』の感想記事です。ネタバレを含みます。制作者はsinononn様。ゲームのダウンロードページ(ふりーむ!)はこちらです。 → 『ライブラリウム』
ライブラリウム
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『ライブラリウム』は、「図書館×水中」な短編探索ADVです。主人公は図書館好きの幼なじみと一緒に、謎の建物からの脱出を目指します。エンディングは3種類。クリアまでの所要時間は、1時間と少しでした。
『ライブラリウム』の主題は「図書館」。「ライブラリー」と「アクアリウム」をかけたらしいタイトル通り、ゲームの舞台は水に満たされた不思議な図書館です。プレイヤーは青に彩られた館内を探索することになります。こういう青を基調としたデザインのゲームってすごく好きなので、ワクワクしながらプレイさせていただきました。
以下は、『ライブラリウム』のストーリーやエンディングに関する詳細な感想です。ネタバレを含むので、未見の方はご注意ください。
『ライブラリウム』のあらすじ
『ライブラリウム』のあらすじを書きます。
ライブラリウム
主人公の女子高校生・「マコ」は、水で満たされた不思議な図書館の中で目覚めます。どうして、またどのようにこの建物に行き着いたのか、マコにはまったく思い出せません。
マコは混乱しつつも、一緒に閉じ込められた幼なじみの「ヒロ」とともに、外界への脱出を目指すことにします。ヒロは図書館をこよなく愛する博識な高校生であり、探索においても頼りになる存在でした。しかし探索中、マコはヒロが時折不穏な言動を見せることに気づきます。
はたして、美しい水中図書館を進んだ先にある真実とは? マコとヒロの選択によって、エンディングは3通りに分岐します。
『ライブラリウム』のADV部分&グラフィックの感想
先述したように、『ライブラリウム』の主題は「図書館」です。本の分類(マップ)から謎かけ(ギミック)まで、その主題に沿って統一されている点がユニークかつ魅力的でした。
また、探索時の会話が細かく作り込まれているので、色々な場所をチェックするのが楽しかったです。あちこちにヒロの本心を匂わせるヒントが隠されているのも細やかでした。
謎解きで詰まりそうなのは、暗号解読の謎でしょうか。ヒロが正解寸前のヒントをくれるので、ゆっくりと考えれば分かる難易度だとは思います。あと、エンディング分岐に関するアイテム(マコ視点時に見つける方)は、探索ADVにある程度馴染みがないとうっかり見落とすかもしれません(分岐と攻略については後述します)。
次にグラフィックですが、「アクアリウムのような図書館」というコンセプト(たぶん)が徹底されている点がすごくよかったです。
水に満たされた空間を表現するエフェクト、薄青い建物の壁や灯火、床に映り込む海面上から差し込む陽光のようなステンドグラスの模様、空色のネモフィラの花、そして水と空が一つに溶け合ったかのようなウユニ塩湖……と、「水」と「青」を基調にしてすべての空間が設えられていました。「グラフィックの統一感とこだわりが素晴らしいな、綺麗だなあ」とプレイ中に何度も思いました。
『ライブラリウム』のストーリー&キャラクターの感想
「高校生の男女が不思議な空間に閉じ込められ、2人で脱出を目指す」というのが『ライブラリウム』の物語の本筋です。幼なじみの2人は互いを意識し合っているものの素直になれず……といった、青春ストーリー的な要素も含まれます。
「思春期の2人のすれ違い」というテーマ自体は、それほど珍しいものではないと思います。ただ、マコとヒロのキャラクター設定がしっかり練られている&よく描写されているので、キャラや彼らを取り巻くストーリーにかなり感情移入できました。以下、核心的なネタバレを含むのでご注意ください。
水中図書館が描き出す"こころ"
ライブラリウム
このゲームのキーパーソン(といっても主要登場人物は2名ですが)は、マコの幼なじみの「ヒロ」です。彼はADVにおけるアドバイザーを担う同伴キャラですが、実は『ライブラリウム』の黒幕的な人物でもあります。匂わせや不穏な描写が散りばめられているので、序盤から「ヒロは何か企んでいそう」、「マコがこの図書館に来たのはおそらくヒロのせい」と察したプレイヤーの方も多いのではないでしょうか。
このゲームの魅力は、ヒロの深層心理と美しい水中図書館の見事なリンク具合だと私は思います。
ヒロは一見したところ賢く物腰柔らかな男子高校生です。しかし実は生まれつき病弱であり、まともな生活を送れない自分の身体を呪い、自分がマコの足手まといにしかなれないことを厭わしく思っています。「マコとずっと一緒に居たい、しかし自分にはそれができない」という思い込みがヒロをがんじがらめにしているわけです。
いずれマコと離れなければならないときが来る、そのときは笑って見送ろうとヒロは自分に言い聞かせています。しかし、いざマコに彼氏ができそうになると、理性的で優しい対応ができません。
思い詰め、生死の境をさまよう中、「いっそのことマコを騙して一緒に……」とヒロは願います。その切実な願望が、マコを黄泉路へと誘い込む水中図書館を創り出しました。ここだけを見ると、まさしく「恋は罪悪」です。
そういった経緯を見ても、水中図書館はヒロの"こころ"が投影されたものだと言えます。
図書館はヒロとともに、マコを建物の奥へ奥へと招き入れようとします。他方、ヒロの中には「マコを死なせたくない」という気持ちも存在し、それが「赤い金魚」や「男に狂わされ溺死したオフィーリア」となってマコに忠告を繰り返すわけです。このあたり、一枚岩ではない人の心がうまく表現されているなーと感じ入りました。
ウユニ塩湖など遠い場所を旅したいマコと、自らの心の投影として水中図書館を創り出したヒロは、幼なじみながら対照的な2人です。負の感情にとらわれたヒロは、物語の終盤に黒い魚に変化します。そこでようやく、どうして図書館内部が水に満たされているのかがわかったような気がしました。
おそらくヒロは、図書館の外の世界では(例えば陸に打ち上げられた魚のように)息苦しく生きづらい気分を味わっていたのではないでしょうか。そして自分が「水」を得た「魚」のように活動できるのは、図書館内に留まっているときだけだと思っていたのではないでしょうか。
つまり、水中図書館と黒い魚のとしてのヒロは、「現実世界におけるヒロの居場所が図書館の中にしかなかったこと」の暗示ではないかと私は感じました。
また、「黒い魚」と聞いて真っ先に思い浮かんだのは『スイミー』の主人公でした。自分と周囲との違いに悩んでいた小さな黒い魚に、ヒロもまたいたく共感していたのかもしれません。
マコとヒロの関係
個人的には、主人公のマコがけっこう好きでした。さっぱりとした性格かつ適度に女の子らしいところがいい感じです。素直になれない描写もくどくはなく、嫌味なところもありません。知識的にはヒロに劣るものの、体の弱いヒロを気遣って一人で探索するなど思いやりと行動力があるところも好感が持てます。
そして、そんなマコが主人公だからこそ、『ライブラリウム』のストーリーは前向きで後味の良いものになっている気がしました。生まれつきの体の弱さのせいでどうしても将来を悲観してしまうヒロに対し、マコは常にヒロと一緒にいることを考えて前を向いているんですよね。憧れのウユニ塩湖にしても、マコはヒロと一緒に見に行きたいわけです。
思春期ゆえに素直にはなれなくても、マコの揺るぎのない思いはトゥルーエンドまで一貫性をもって描写されます。ヒロに同情し気の毒に思ったプレイヤーにとっては、そういったマコのブレのなさは救いでした。
先ほども述べたように、すれ違う2人のやりとりはそれほど真新しいものではないと思います。ただ、キャラクターのバックグラウンドや関係性がちゃんと練られていて魅力的なので、2人の思いが通じ合うトゥルーエンドではしっかりと感動できました(マコの語りかけには目頭が熱くなりました)。
エンディングの攻略と感想
『ライブラリウム』のエンディングは、バッドエンド・ノーマルエンド・トゥルーエンドの3通りです。最初に、各エンドの分岐と攻略について説明します。
3つのエンディングの分岐点
まず、「BAD ED」への分岐を説明します。図書館の最奥で壁を吹き飛ばした後、「ヒロについていく」を選べばBAD EDに到達可能です。あからさまに怪しい雰囲気になるので、わかりやすい分岐点だと言えます。
次に、「NORMAL ED」と「TRUE ED」について。まずはヒロの誘いを蹴り、「もう少し図書館に残る」を選択。直後に始まる追いかけっこゲームをクリアし、誕生日パーティーの部屋でアルバムを見ましょう(回想が入る)。
その後、視点主がヒロになります。ヒロパートでは、あるアイテムを入手してマコのもとへ向かうことになります。
2人が対面すると、視点主は再びマコに戻ります。ヒロに詰め寄られたとき、「抵抗する」を選ぶとゲームオーバーになります(エンド未到達、一枚絵あり)。一方、「抵抗しない」を選ぶと、ヒロの行動によって水中図書館が崩壊し、マコは幻のウユニ塩湖へと飛ばされます。
さて、NORMAL EDとTRUE EDを分けるのは、【2つのアイテムを揃えるか否か】です。2つのアイテムとは、マコ視点とヒロ視点のときにそれぞれ入手できる、「折り鶴」と「リップクリーム」です。
「折り鶴」については、細かく探索しないとゲットできないので注意しましょう。図書館探索中、ヒロが救護室で休んでいるときが入手タイミングです。折り紙が一枚机に置かれている書庫エリアの棚をくまなく調べると、マコがヒロに折り鶴を折っていた頃の回想を見ることができます。回想を見るとフラグが立ち、机の上の折り紙を調べることで「折り鶴」を入手できます。ちなみにこの折り鶴は、合流時に自動的にヒロに贈られます。
「リップクリーム」については、ヒロ視点で追いかけっこの迷路を抜けるとき、エリア下の道に落ちています。左に抜けてストーリーが進む前に確保しておきましょう。
以下は、3つのエンディングの感想です。タイトル名は伏せました。エンド内容のネタバレが含まれるのでご注意ください。
BAD ED
最初に見たエンディングはこのBAD EDでした。ヒロが黒幕だろうなーとずっと感じていたので、まずはアウトっぽい選択肢から選んでみました。
暗い中を進むうちに2人が子供時代の姿に戻る描写が細やかだなと思いました。「これからも一緒にいたい」という願いを、特にヒロの方は成長するにつれ気軽に口にできなくなっていました。だからヒロの願いがいびつな形で叶ったとき、2人は子供の頃の姿に戻ったのでしょう。
ただ逆に言えば、「高校生のヒロ」はマコに自分の気持ちを言えずじまいなんですよね。今のヒロは「マコといつまでも一緒にはいられない」という思いにとらわれ、子供時代に戻らないと素直な気持ちを伝えられないわけです。そう考えると、このエンディングはやはり後ろ向きな結末なのだろうと思います。2人が手を繋がないのも、すれ違いが解消されずに終わったことの表現なのかなと感じました。
NORMAL ED
キーアイテムが2つそろっていない場合、NORMAL EDになります。マコとヒロが分かたれるビターな内容の結末です。実は、3つの中で最後に見たエンディングでした。ウユニ塩湖を抜けるときに黒い金魚が現れた時点でハッとし、「早く忘れてね」を見てやっぱりヒロだったのか、と悲しい気持ちになりました。
一番切なかったくだりは、マコの志望する大学が明かされる場面でした。ヒロが二度と戻らないこのエンディングで、「ヒロとずっと一緒にいたい」というマコの望みが明示されるわけです。見ていてつらいものの、こういう構成ってけっこう好きです。
このエンドのタイトル名には、マコのヒロへの思いが込められているのだろうと思います。ヒロを失いながらも生きていこうとするマコの気丈さと、それでもヒロを忘れられない一途さが印象的なエンドでした。
TRUE ED
必要なアイテムが2つ揃っている場合、ウユニ塩湖を抜ける前にマコがアクションを起こします。その後現実世界で動けるようになり、精神世界に落ち込んだヒロを迎えに行くことができます。
TRUE EDは爽やかなハッピーエンドでした。マコの芯の強さがいかんなく発揮されたエンディングだと思います。ようやく素直な思いを伝え合った2人にホッとし、一面に咲き渡るネモフィラに癒されました。このエンドで2人の手が繋がれるのも芸コマだなーと思います。
ところで、花には詳しくないのでプレイ後にネモフィラを調べてみました。本当に空色の花弁をつける品種があるんですね。ネモフィラの花畑で有名な公園の風景写真を見てみたところ、青空と花々が溶け合ったような得も言われぬ美しさにびっくりしました。
空と湖面が溶け合ったように見えるウユニ塩湖との視覚的な共通性もあって、トゥルーエンドのシンボルがネモフィラになったのかなと感じました。あと、ネモフィラの花言葉もこのエンドの内容に似つかわしいなと思います。
先ほども書きましたが、青をテーマカラーにデザインされた水中ダンジョンなどには無条件で惹かれてしまいます。
フリゲで例を挙げると、『ロマンピースを探して』(RPG)の海中ダンジョンや神殿ダンジョン、『UTOPIA 幻想ホラーアドベンチャー』(探索ADV)のダンジョンなどが印象深いです。特に後者は、「病院×海中」をモチーフにデザインされた幻想的で美しいゲームであり、「図書館×水中」をコンセプトとする『ライブラリウム』と通じるものがあります。
≪関連記事:『ロマンピースを探して』 水彩画風イラストが印象的なファンタジーRPG 感想&攻略≫
『ライブラリウム』の青も美しかったです。独自性とこだわりを感じる作品でした。
※記事を書いた後で、同じ制作者様が描かれたゲームの前日譚(『きんぎょばちのセカイ』)も読ませていただきました。中学生の頃のマコとヒロが登場します。ゲームで見たあの話題はそういうことだったのかとか、中学生のマコは思春期でちょっと尖ってたんだなーとか、色々と発見がありました。違う角度から2人を眺められるという点でも面白いお話だったと思います。
※「人の複雑な心理」を描いた作品について、いくつか感想記事を書いています。
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